東京地下鉄サリン事件被災者の慢性期における身体的、精神医学的影響に関する患者対照研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900829A
報告書区分
総括
研究課題名
東京地下鉄サリン事件被災者の慢性期における身体的、精神医学的影響に関する患者対照研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
前川 和彦(東京大学医学部救急医学)
研究分担者(所属機関)
  • 南正康(日本医科大学衛生学)
  • 小川康恭(国立産業医学総合研究所)
  • 飛鳥井望(東京都精神医学総合研究所)
  • 大前和幸(慶應義塾大学衛生学)
  • 山口達夫(聖路加国際病院眼科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東京地下鉄サリン事件発生から3~4年余りが経過した時点での、サリンによる慢性的な身体的、精神医学的影響を、適切な調査対象を選び、患者対照研究(Case control study)によって明らかにすること。
研究方法
現在までに、(株)花王、東京消防庁、警視庁の社員及び職員でサリンに曝露し、研究協力を承諾した63名(全て男性)、及び性、年齢、職場を一致させた健康対照群59名を研究調査の対象とした。それぞれの職場に出向き、以下のような諸検査を実施した。精神科医による面談、中枢神経系機能の評価法として、computer-aided神経行動検査、重心動揺検査(平衡機能検査)、聴性脳幹誘発反応、自律神経機能の評価法として心電図RR間隔変動、手指皮膚温、末梢神経機能の評価法としてアキレス腱反射潜時、振動感覚閾値など。また、視力、眼圧、細隙灯顕微鏡検査、眼底検査、調節力、網膜電図、視野検査などの眼科学的検査を聖路加国際病院眼科で行った。曝露の程度の指標として、曝露直後の血清コリンエステラーゼ値/調査時点での血清コリンエステラーゼ値、を用いた。
結果と考察
これまでの検討項目の中で、曝露群と対照群との間に統計学的に有意な差があり、且つ、曝露の指標と量影響関係にあるものは、聴覚脳幹誘発反応潜時、神経行動学的検査の数列記憶(逆唱)などであった。警視庁職員に限ると、自記式出来事インパクト尺度の合計点の平均値は曝露群で有意に高く、この時点でも心的外傷ストレスの影響が窺われた。診断面接では、曝露群56名中、PTSD4名、partial PTSD2名を認めた。しかし他の諸検査、即ちアキレス腱反射潜時、手指皮膚温、他の神経行動検査、平衡機能、振動感覚閾値、心電図RR間隔解析などにおいては両群間に有意差はなかった。また眼科学的な詳細の検討でも両群間に有意差を認めなかった。神経毒サリンのヒトに及ぼす慢性的影響は不明である。現在までの検討から、サリンは高次中枢神経系機能に何らかの慢性的影響を及ぼす可能性があることが示唆された。
結論
東京地下鉄サリン事件後3~4年を経た時点での調査では、サリンの曝露が高次中枢神経系機能に何らかの影響を与えている可能性がある。今後は、調査対象をさらに増やして、より確実な結論を出す必要がある。

公開日・更新日

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