地域における喫煙習慣への総合的介入とその評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900800A
報告書区分
総括
研究課題名
地域における喫煙習慣への総合的介入とその評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
大島 明(大阪府立成人病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 中村正和(大阪がん予防検診センター)
  • 川畑徹朗(神戸大学)
  • 大和 浩(産業医科大学産業生態科学研究所)
  • 福島俊也(大阪府保健衛生部)
  • 梅本愛子(大阪府池田保健所)
  • 喜多義邦(滋賀医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
喫煙は予防しうる最大の疾病・早死の原因との認識のもとに、欧米先進国では種々の喫煙対策が実施され成果を上げているにもかかわらず、わが国での取り組みは欧米先進国に比べては著しく立遅れており、このため成人男性の喫煙率は60%弱と欧米先進国の約2倍の異常な高さにとどまっている。1995年3月に厚生省保健医療局長の私的諮問機関である「たばこ行動計画検討会」が、今後の喫煙対策について、「防煙」、「分煙」、「禁煙サポート」の3つの分野で取り組みの方向を示したことを契機に、ようやく変化の兆しが現れ始めた。さらに1997年7月、公衆衛生審議会では、わが国のがん・循環器疾患などのいわゆる成人病の予防対策の重点を生活習慣の改善による1次予防に置くべきだとの認識を示し、成人病は生活習慣病と呼称を変更されるようになった。多くの生活習慣の中でも喫煙習慣については、「たばこ対策をさらに積極的に推進するべきである」と特筆されている。さらに、健康日本21計画(案)が1999年8月に示され、たばこ部会の成人喫煙率半減という思い切った目標が示される中で、多くの府県・市町村がようやくたばこ対策に関心を示すようになった。しかし、地域において具体的に、何をどのように行うべきかについては必ずしも明かではない。本プロジェクトのまず第1の目的は、わが国の疾病・早死の単一で最大、かつ予防可能な原因である喫煙習慣に対して、地域ぐるみの対策を展開して介入し、このような取り組みが実行可能であり、また、成果を上げうることを調査研究として示すことである。あわせて、このプロジェクトを進めるなかで、喫煙習慣を社会の問題としてとらえて社会全体で解決し、たばこを吸わないのが当たり前という社会的規範を作りあげていくことを、中・長期的な目標とする。
研究方法
喫煙習慣への介入の内容としては、一般住民への啓発・普及(広報、セルフヘルプ教材の作成・配布、禁煙コンテストの実施など)に加えて、禁煙サポート(検診の場における禁煙指導、医療機関の場における禁煙指導、禁煙教室など)、防煙(学校教育における喫煙防止教育、地域・家庭で取り組む喫煙防止キャンペ-ンなど)、分煙(職場や公共の場所における分煙の推進など)、の3つが当面実施可能なものとしてあげることができる。ただし、介入の内容については、地域の実情にあわせ地域で主体的に選択することができるようにし、できるだけ地域の主体性を尊重することとする。そして、介入の評価は、府県レベルまたは保健所管轄地域レベルでおこない、評価指標は地域内における禁煙サポート、防煙、分煙の各取り組みの実施状況やこれらの取り組みに対する地域の関係機関の意識の変化とする。なお、地域ぐるみで禁煙サポートが展開された場合には、地域住民を対象に対策前後で調査をおこない、喫煙状況の変化を調べる。今年度も、昨年度に引き続き、府県レベルの先進事例を収集して情報提供をおこなうとともに、府県レベルでの喫煙対策の普及方法を検討するための講演会とワークショップを開催した。一方、モデル府県とした大阪府では、1999年5月「大阪府たばこ対策行動計画」を取りまとめ、保健所を地域におけるたばこ対策の拠点と位置付けるとともに、医療機関におけるたばこ対策の実態調査を実施した。また、大阪府豊能町(大阪府池田保健所管内)をモデル地域として、ランダムサンプルの成人男女に対し、喫煙の実態・意識調査を実施した。
結果と考察
本プロジェクトで用いるのための禁
煙サポートや喫煙防止教育などの教材やプログラムについては、主として本研究班に参加している研究者によって、既に開発済みである。また、職場や公共の場所における分煙については労働省、人事院、厚生省からガイドラインや指針が公表されており、分煙の具体的方法も既に示されている。これらを現実の地域において地域の実情にあわせどのように展開するかが今回のプロジェクトのポイントである。そこで、これまでの国内外での地域ぐるみの喫煙対策の取り組みの実態やモデル事例を把握するとともに、今後の調査研究の進め方を検討するため、全国の府県の関係者や大阪府の保健所、市町村の関係者に呼びかけ、99年3月12,13日に実施した「地域における喫煙対策推進のための講演会」とワークショップ「地域における喫煙対策の進め方」に引き続き、2000年3月14日に第2回「地域における喫煙対策推進のための講演会とワークショップ」を開催した。全国から約70人の参加があり、防煙、分煙、禁煙サポートのプログラムを開発した本研究班の班員、研究協力者も参加して、討議に参加した。これらの講演会・ワークショップに参加した府県から、今後、調査研究への参加を募り、上記3分野の中から市町村や保健所の関係者により選択された分野について地域ぐるみの取り組みを展開し、その効果を調べる予定である。一方、モデル府県とした大阪府では、1999年5月「大阪府たばこ対策行動計画」を取りまとめた。ここでは、2007年に成人男性および女性の喫煙率をそれぞれ30%、5%に減少させる(1997年値:男性53%、女性5%)との目標が確認されて明示され、保健所がたばこ対策の地域拠点となることが示された。1999年に行われた医療機関におけるたばこ対策の実態調査によると、施設での分煙対策を実施していると回答したものは、病院では79.1%、医師会会員診療所では92.7%であったが、実施している分煙対策の内容においては不十分なものも多く見られた。禁煙サポートを実施しているとしたものは、病院では29.9%、医師会会員診療所では53.0%であった。これを受けて、大阪府では、いきいき府民健康づくり推進委員会たばこ部会を2000年1月に開催して、「医療機関における分煙禁煙ガイドライン」(仮称)を作成することとし、その作業に着手した。モデル地域とした豊能町では、禁煙サポートを中心に取り組みを展開することとした。また、大阪府では、保健所が喫煙対策のコーデイネーターとなり手順を踏んで、順次禁煙サポート、分煙、防煙の取り組みを実施して行くこと、池田保健所と豊能町とによる地域ぐるみの取り組みをモデル的試行と位置づけること、が確認され、1999年3月30日に豊能町喫煙問題検討委員会(豊能町、豊能町教育委員会、豊能町内医療機関、池田保健所などから構成)を立ち上げ、9月には町民の実態・意識調査を実施し、ベースラインにおける喫煙状況と意識に関して調査した。
結論
これまでの国内外での地域ぐるみの喫煙対策の取り組みの実態やモデル事例を把握するとともに、今後の調査研究の進め方を検討するため、全国の府県の関係者や大阪府の保健所、市町村の関係者に呼びかけ、2000年3月14日に昨年に引き続き第2回「地域における喫煙対策推進のための講演会とワークショップ」を実施した。一方、モデル府県とした大阪府と豊能町における取り組みを関係者との協議のもとに実施した。上記の取り組みは、たばこ対策に関する環境が整っていない現在のわが国においても手順を踏めば実行可能なことである。逆に、これらの取り組みを進めて、成人の喫煙率を減少させ、成人男性の喫煙率を50%割れに持ち込めばたばこ税の値上げやたばこ広告の全面禁止などの政策の実現に結びつけることもできる。2000年3月健康日本21の喫煙率半減の目標は、残念ながら、撤回されることとなったが、府県や市町村における地道な取り組みを拡大し、発展させることにより健康日本21の新規蒔き直しにつなぐことが可能となる。

公開日・更新日

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