生活習慣病の一次予防のための地域特性に対応した効果的教育システムの開発 - マルチメディアを活用した栄養・運動・休養の実践支援に関する研究-(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900790A
報告書区分
総括
研究課題名
生活習慣病の一次予防のための地域特性に対応した効果的教育システムの開発 - マルチメディアを活用した栄養・運動・休養の実践支援に関する研究-(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
武藤 志真子(女子栄養大学)
研究分担者(所属機関)
  • 下光輝一(東京医科大学)
  • 仲眞美子((財)東京都健康推進財団 東京都健康づくり推進センター)
  • 松島康(医療法人浦川会 勝田病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域住民の食生活、生活活動量やストレス状況を把握し、自己の食生活、身体の活動状況およびストレスへの気づきを促し、食生活の改善方法、健康増進に必要で危険のない運動の種類や量を知り実行する方法およびストレス対処法の習得等をシステム化することは生活習慣病予防のための今日的な重要課題である。また、これらの気づきや実践をより効果的かつ継続的なものとするため時代に対応した視聴覚メディア活用型の教育媒体を開発することが望まれる。従来より、栄養や運動各々についてはコンピュータを活用した問診システムはあるが、地域の健診事業結果を活用した、栄養・運動・休養(ストレス)の総合生活習慣病問診システムは開発されていない。そこでこのシステムを開発し、その結果と連動した地域密着型の視聴覚メディアを活用した生活習慣病予防のための健康教育媒体を開発することを研究目的とする。
平成11年度の研究目的は、
1)糖尿病および動脈硬化促進症候群の実態について把握する。
2)上記の住民検診受診者を対象に連続して栄養問診表による調査を行い、同一人を追跡する。また、動脈硬化促進症候群と食事との関係につき解析し、食生活習慣の改善優先度を提示する。
3)昨年度作成した運動問診票を用いて、宮川村住民検診受診者と大都市(東京)の健康づくり推進センター利用者を対象に調査を行い運動の実態を把握し、運動問診システムの開発を完了する。
4)地域住民のストレス状態を把握するため、新たにストレス調査票を作成し、事前調査を実施して信頼性と妥当性を検討する。
5)運動についてマルチメディア情報を収集、蓄積する。すでに蓄積した食のマルチメディア情報を編集する。
研究方法
中山村地域(三重県多気郡宮川村)を対象地域とした。人口は約4200人、高齢化率36%と高齢化が進んでいる地域である。対象者は、宮川村において1999年5~6月に実施された地域住民健診を受診した690名である。
1)上記対象者に、通常の住民健診時血液検査以外に、中性脂肪、アミラーゼ、クレアチニン、ヘモグロビンA1c(HbA1c)、を追加した。
2)平成10年度に準じた半定量頻度法形式の栄養問診表および運動問診表を各人宛に郵送し、自記式で記入された問診表を検診受診時に回収した。評価結果と食事摂取および運動のアドバイスシートを啓発目的から各対象者に個人宛郵送した。大都市地域については東京都健康づくり推進センターの総合コースを利用した32名を対象に同様の運動問診調査を行った。
3)健診受診者に対して左右握力測定を行い、可能な例には上体屈曲テストを行って簡便な体力テストの方法を模索するとともに基礎体力の収集を行った。
4)地域住民、主婦、高齢者等のストレスに関する既存のストレス調査票について文献調査し、ストレス状態を把握するための質問項目および信頼性、妥当性を検討するための質問項目を加えた計124項目の質問紙を作成した。住民健診対象者の半数316名に対して上記質問票を返信用封筒同封の上、郵送した。
5)解析は次の通り。1)栄養問診結果につき経年比較を行い推移を検討し、改善、無変化、悪化群毎に食品群摂取状況を検討した。2)検査結果および現症より糖代謝異常の判定と合併症の組み合わせによる区分を行った。3)糖代謝異常と食品群別摂取量の適否につきCS分析を行い、食生活の改善優先項目を検討した。4)検査・現症とも全く異常がない「異常なし群」と合併症数により3区分した各「合併症群」別に食品群別摂取量の適否を集計し、χ2検定と調整残差法によるセルの検定を行った。5)上記の集計表に基づきオッズ比とその95%信頼区間を求めた。6)ストレス問診表の質問項目の信頼性についてはCronbachのα係数を計算し、構成概念妥当性の検討のため因子分析、基準関連妥当性の検討のため相関係数の計算を行った。また、ストレス反応とストレッサーの関連を重回帰分析により、ストレス反応高群の出現確率については、年齢と性を共変量とする多重ロジスティック解析を行った。ストレス反応の群分けは平均値+1標準偏差をもって2分割した。
6)自覚症状に対応した体操やストレッチング運動のやり方、筋力トレーニングの方法につき実践運動指導者の協力を得てデジタルカメラで撮影し、マルチメディア情報を蓄積した。また、平成10年度にすでに蓄積済みの郷土料理、特産品、自宅での食事(3日間)の撮影、地域の景観や施設および行事のマルチメディア情報を編集し、Adobe PageMillによりホームページを作成した。
結果と考察
栄養問診調査は、2点から検討した。1つは昨年度より継続して行った対象者を追跡し、食事への意識改革の効果の有無の検討。第2点は本年度追加したHbA1cの結果による糖尿病および動脈硬化促進症候群の実態と栄養問診結果との関連から、これまで表面化していない栄養上の問題点を把握し、改善の優先順位の決定。
追跡調査の結果では、ランク不変が最も多かったが、ランクの悪化・改善とも1ランクが多く、2ランク以上の悪化は少ないことから、問診票の再現性・信頼性が伺われる。昨年度ランクが悪かった対象者ほど改善傾向がみられる、男性に比較して女性はB、Cランクは不変が多く、D、Eランクは改善が多い。すなわち男性は女性に比して食生活への意識がやや低く、書面によるアドバイスだけでは意識を改革することは難しいことを示唆する。一方改善群、無変化群の摂取率変化パターンは類似の傾向を示し、どのグループでも糖分摂取による熱量は低下傾向にあり、甘さを押さえてエネルギー摂取を控える努力が伺える。また無変化群でも前年に比し脂質類は控え、野菜摂取が増加する傾向が見られた。すなわち栄養問診表により食事に関する意識は喚起され、広報による教育も効果をあげているものの、「食事に気を付ける=甘さを控える」という栄養意識から抜け出せていない面も伺わせた。従って、本研究の最終年度に向け、料理やメニューを視覚的に表示して改善点を具体的に示す教育媒体を完成させたいと考えている。
糖尿病および動脈硬化促進症候群の実態については、30%が糖尿病の疑いを捨てきれない集団であり、糖尿病の疑いなしで検査値異常も現症もない異常項目なし群は62名で全対象者の約10%に過ぎない。3~4項目の異常項目があるものが約4分の1を占める。また、4項目以上の合併症をもつ者もおり、これらの者に対してはアドバイス表を追加し、マルチメディア教育媒体を用いた具体的指導を行いたい。
糖代謝異常に高血圧症が合併している例が多いが、糖代謝異常および合併症のいずれから見ても減塩が改善の優先順位第1位である。中山村地域であったため、伝統的に魚介類も塩魚が多く、煮物や味飯など塩分が多くなりがちである。塩分計と舌を使った調味パーセント教育も必要である。
豆・豆製品(豆腐類)や海藻類を増やすことが次の改善課題である。これらの優先課題をみるといずれも新しい型の日本食をいかに生活に定着させるかの問題に帰着するようである。
運動については、宮川地区は林業が盛んなため、かなり重労働をしている者もおり、男女とも50代の握力平均は、全国の20歳並であった。生活活動と腰痛体操やストレッチングなど生活の中の運動およびスポーツの相互の関連や健康との関連などの認識に関する教育が必要である。運動施設も少ないため、器具を使った運動は実際的ではなく、マイペースでやりたいとの希望も多いことから、自覚症状に応じた自分で出来る体操とウォーキングを中心として運動を指導していく方針である。
ストレス調査については、新ストレス調査票の信頼性をα信頼性係数を用いて検討した結果、身体的ストレス反応0.80、心理的ストレス反応0.91、社会的支援0.75と高かった。また、因子分析の結果からほとんどの項目は尺度と因子が一致しており、ほぼ尺度構成に対応した因子構造であることが確認され、基準関連妥当性では高い相関係数を示した。ストレス関連性についても心理的ストレス反応は日常苛立ち事と、身体的ストレス反応は生活出来事および日常苛立ち事と強く関係していることが認められた。以上より、今年度新たに開発したストレス調査票は地域に住まう中高年を対象とした調査においてストレスの把握に適していること明らかとなり有用な調査票となりうる可能性が示唆された。次年度は、この結果に基づき、短時間で容易に回答できるよう、因子負荷量の低い項目や、回答頻度の低い項目を整理し、できるだけ項目数をしぼり、休養面から総合的教育システムに組み込むことが可能な質問紙を完成させ、更に、それを現場で応用しその実行可能性、有用性を検討する予定である。
結論
栄養問診とアドバイス票送付、および広報活動により栄養改善意識は喚起されており、糖分摂取、脂質摂取は押さえられ、野菜摂取は増える傾向にある。30%が糖尿病の疑いを持つ集団であり、3~4項目の検査異常項目があるものが25%、1~2項目の異常があるものが約60%を占める。減塩を第一課題とし、新しい型の日本食を生活に定着させるような教育媒体を作成する意義は大きいことが確認された。また、運動は自覚症状に応じた自分で出来る体操とウォーキングを中心とした指導媒体を作成する。さらに、新たに作成したストレス調査票は信頼性、妥当性が高く、また、ストレス関連性の高いことが認められた。

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