市町村における地域歯科保健推進に関する総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900787A
報告書区分
総括
研究課題名
市町村における地域歯科保健推進に関する総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
宮武 光吉(鶴見大学歯学部)
研究分担者(所属機関)
  • 丹羽源男(日本歯科大学歯学部)
  • 安井利一(明海大学歯学部)
  • 尾崎哲則(日本大学歯学部)
  • 新庄文明(大阪大学医学部)
  • 青山旬(国立公衆衛生院疫学部)
  • 長田斎(東京都衛生局医療計画部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成9年4月からの地域保健法全面施行により、歯科保健サービスは原則的に市町村において実施されている。
そこで、地域保健法施行前後の各市町村における歯科保健サービスの実施状況を調査し、評価することにより、住民のニーズ等に適応した生涯にわたる歯科保健サービスが展開されるには、どの様な対策が必要であり、また、どの様な条件を整備することが必要性かについて検討し、実際にその適合性をみることを目的として本研究を実施した。
研究方法
(1)市町村における平成6年度及び11年度の常勤歯科保健専門職員の配置状況について保健所を設置する市区、それ以外の市、町村の3群に分け集計し、比較検討を行った。
(2)18県の県庁を対象として、把握している市町村の母子および成人・老人歯科保健事業の平成10年度の実施状況を調査した。
調査項目は、1歳6か月児、3歳児、その他の乳幼児、妊婦、成人、老人保健法対象者に対する歯科健康診査、歯科保健指導、歯科健康教育、歯科予防処置等の歯科保健事業である。これらを、保健所設置市区、それ以外の市、町村別に実施率を算出し、平成5年の実施状況と比較した。また、3歳児については都道府県別に齲蝕の動向と予防処置の実施率の関連についても分析した。
(3)歯の健康づくり対策を推進するために、市町村における対策の根拠となる資料の中で、最近の住民の歯科保健行動等について、住民調査を行った。調査項目は、歯科受診状況、受診動機、歯科健康診査の利用状況、歯石除去の受診、口腔衛生指導を受けたかどうか等である。
(4)市町村での実施率が低く、単独で実施することが困難と考えられる心身障害(児)者に対する歯科保健事業を保健所が中心となって行った事例について調査を行った。
結果と考察
(1)市町村における常勤歯科保健専門職員は3群とも増加傾向を示したが、保健所の設置市区、それ以外の市、町村の順で配置率が低くなっていた。都道府県別にみると、その他の市では84.9%から0%まで、町村でも15.8%から0%までであった。近年、市町村において歯科専門職の歯科衛生士の配置率が増加している。しかし、我々はかつて歯科保健専門職の配置があるほど歯科保健事業が実施されていることを以前報告しており、今回の結果から、マンパワーの配置のない市町村での事業の展開法について検討する必要があると考えられた。たとえば、雇上歯科衛生士の確保困難な市町村に対しては、保健所の役割も含め、全県的に対応することができる体制を整備することが必要であろう。
(2)市町村における母子歯科保健は、母子保健法に法定化された1歳6か月児および3歳児の歯科健康診査は対象市町村すべてで実施されていた。また、これらの対象児を含む乳児への歯科予防処置については、いずれの群においても5年度より実施率が増加していた。妊婦の歯科健康診査についても同様に増加が見られた。成人・老人歯科健康診査においても、歯科健康診査の実施が増加していた。しかし、老人保健法における歯科保健教育の実施率は3群とも下がっていた。3歳児齲蝕については、平成5年度と10年度を比較すると、全ての都道府県で減少していたが、格差が認められた。さらに、平成10年度都道府県別の予防処置実施率を説明変数としての回帰分析では、有意な負の回帰が認められ、予防処置実施率の高い県では3歳児齲蝕が少ないことが認められた。母子歯科保健については市町村での実施が推進されていた。これは、前述のように歯科保健専門職種の配置とも一致している。しかし、成人・老人歯科保健については、歯科健康診査が増加しているが、歯科医師の配置は保健所を設置しない市と町村では進んでおらず、地元歯科医師会との連携がなされているとは考えられるが、詳細については、今後調査の必要がある。ただ、老人保健法対象者への歯科健康教育の実施が低くなっているのは、この世代では個別対応が重要であることを考えると、ニーズにあった事業展開がなされているのかもしれない。
(3)歯科受診については、過去1年以内の受診は男女、年代間で大きな違いは認められなかったが1-2年前では女性がやや多かった。悪くなるまで我慢して受診するものは男性の方が多かった。健診についても、女性の方が受診経験は多く、男女とも年代があがるにつれて受診率も増加していた。歯石除去は、男女とも20歳代では未受診者がやや多いがそれ以上の年代では差が認められず20%前後であり、女性の方がやや未受診の割合が少なかった。口腔衛生指導は女性の方が受けたことのある者の割合が高かった。これについても、都道府県の市町村指導の内容等を検討する必要がある。「健康日本21」の検討に使用可能な情報を収集してきたが、最新情報の少なかった項目について地域住民を対象とした調査を行い、その結果を目標設定に利用した。
(4)養護学校からの要請で心身障害児に対する歯科保健事業実施したことがきっかけとなり、在宅療養者に対する歯科保健の推進をある保健所が進めた。管轄地区の歯科医師会と連携をとり、関連職種への研修を実施したが、そのまえに、受診者へのニーズ調査を行い、その結果を踏まえた研修計画を立案し、マニュアルを作成した。また、受け皿としての歯科医師へのアンケートを実施し、受診可能な歯科診療所のマップを作成し、地域ぐるみで事業を継続することができた。
これらの結果をふまえ、次年度において、市町村を対象とした調査と、事業を積極的に推進している地域の調査を実施し、総合的に検討する予定である。
結論
市町村における歯科保健専門職種の配置や、母子、成人・老人歯科保健事業実施は、概ねこの5年で推進されていたが、市町村格差が以前よい大きくなっていることが確認された。今回、一部の事業であるが保健所を中心とした事業の展開も調査した。都道府県内において市町村が主体的に事業を実施しうる条件を整備し、体制を確立することが必要であり、そのために、保健所の役割を含めて全県的な視点に立って支援する必要性の高い町村への対策等を確立することが重要である。

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