保健所における母子保健活動のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900786A
報告書区分
総括
研究課題名
保健所における母子保健活動のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
宮里 和子(北里大学)
研究分担者(所属機関)
  • 福島富士子(国立公衆衛生院)
  • 藤内修二(大分県佐伯保健所)
  • 尾崎米厚(国立公衆衛生院)
  • 柴田真理子(東京都立保健科学大学)
  • 森田孝恵(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
母子保健活動は従来の保健所の重要な活動分野であり特に保健婦などの看護職種の業務量の中で占める割合は大変高い業務であったが、地域保健法によると保健所の役割は一定程度示されてはいるが母子保健において保健所がとるべき具体的役割は不明確で、現場では最もとまどっている分野である。保健所の役割について検討することは今後、直接保健サービスが市町村へ委譲されるであろう精神保健分野、難病分野のありかたを考える上でも参考となる。全国の都道府県型保健所で行われている母子保健活動の実態を詳細に明らかにし、昨年度の検討結果と今年度の母子保健専門家へのグループインタビューの結果を整理した。これからの母子保健活動のありかたおよび保健所の役割と照らし合わせ、現状と望ましい姿とのギャップを明らかにし、それらを埋める方法について検討する。
研究方法
1.都道府県型保健所に対する母子保健活動の実態に関する全国調査
全国の都道府県型保健所を対象に、保健所における母子保健活動と市町村支援実態に関する郵送調査を実施した。調査内容は、昨年度の葉書郵送調査による調査結果と本年度に実施した母子保健活動専門家に対するグループインタビューの結果を参考に決定した。
2.これからの保健所の母子保健活動に関するグループインタビュー         
今後の保健所における母子保健活動について、今後どのような理念の基に、どのような活動が必要となるかを話し合いから導き出すために、現在地域において母子保健活動に携わる専門職9人に研究班会議において、グループインタビューを行った。その後グループインタビューで出た意見を班員によってKJ法に準じた方法で整理した。
3.母子保健活動における保健所の市町村支援に関する検討
母子保健活動における保健所の市町村支援のあり方を検討するため、S保健所管内町村母子保健担当者及び課長・他県の実践者の意見、文献的検討から子育て支援体制を目指した母子保健活動をとらえる項目を整理した。その項目に基づいて、町村の概況と町村支援状況の記録から6町村の母子保健活動の現状を分析した。
結果と考察
1.都道府県型保健所に対する母子保健活動の実態に関する全国調査
母性保健では、思春期保健および妊産婦対策が中心であった。乳幼児保健では、何らかの障害をもった子どもや親への支援が中心であるが、市町村の乳幼児健康診査の支援も高率で行っていた。地域活動では自主グループ活動および健康診査などの精度管理を実施しているところが多かった。市町村支援の実態を見ると、母子保健計画の関連した支援や情報提供に関する支援は多かったが、システム作りに関する支援を実施している保健所は少なかった。またマンパワー支援を実施している保健所の割合も低かった。保健所の母子保健担当者による保健所の母子保健活動の課題はマンパワー、統計分析の不十分さ、予算、専門的技術・知識の不足等であり、もっと積極的に母子保健活動に関わりたいとの意識のあらわれと取れる回答が多かった。これからの保健所機能に関連した事業に対する意識をみると、ニーズがあると回答した者が多かった項目は、さまざまな障害をもった子どもへの支援策、こころの問題、研修、評価、情報等に関するものであった。是非実施したいと回答した者が多かった項目は、ニーズがあるかの問いで回答の割合が高い項目と良く一致した。実施可能であると回答した者の割合が高い項目は、ニーズがあるかの問いで回答の割合が高い項目も含まれるがその他の項目も含まれていた。必ずしもニーズがあると感じている事業が実施可能ではないことを物語っている。
2.これからの母子保健活動のあり方に関するグループインタビュー
母子保健活動はそのゴールとして1)いのちを守ること2)リプロダクティブ・ヘルス&ライツ3)こころの健康の3つがあり、ヘルスプロモーション、地方自治の基に、具体的な母子保健の目標を達成するための5条件がすべてのライフステージにおいて満たされる必要があることがあげられた。またジェンダーフリーの視点が今後重要な意味を持つと考えられた。次に保健所の役割として1)関連機関を含むシステムの構築2)市町村のシンクタンク機能として母子保健に関する情報の収集、提供、3)クオリティーコントロール機能として活動の評価が上げられた。
3.母子保健活動における保健所の市町村支援に関する検討
小規模町村には幅広い専門職の人材が不足していること、乳幼児検診の事後フォロー体制が確立されていないこと、子育てサポートシステムについては関係機関との連携に向けて活動を始めている状況であることが明らかになった。保健所は、地域子育てサポートシステムに関係する機関相互の情報交換の場を積極的に活用し、広域的な視点で関わる必要があること、また療育を必要とする児への支援体制確立へ向けて、医療機関、療育機関などの関係機関と連携をとり、地域の中で日常的なケアシステムの構築を目指して活動する必要があることが明らかになった。そして、これまで保健所と直接的な関わりが少ない町村については、状況を把握することが難しく明確な課題が明らかになりにくいと考えられていたが今回の調査により直接市町村の保健事業に関わることが少なくても地域全体をトータルに見ることができ、効果的な支援ができるのではないかと考えられた。
結論
直接サービスが市町村へ委譲されても都道府県型保健所の母子保健活動はますます重要でやらねばならないことはいくらでもでてきている。新しい考え方を導入した保健所での母子保健活動の先駆的事例の普遍的整理と目指すべき姿が具現化された先駆的事例づくりが大切である。

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