医薬品適正使用のための情報提供のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199900762A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品適正使用のための情報提供のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 幹夫(東京薬科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究方法
結果と考察
研究結果の概要
医薬品の変化は医療の進歩に大きく貢献してきた。しかし一方では、近年のより明確で先鋭的な薬理作用をもつ医薬品の増加により、医薬品の適正な使い方が総体的に難しくなり、安全対策などの課題は複雑化し解決がより困難になってきている。これらの諸困難を克服し、医療の場で安全で有効な医薬品の使用を確保していくためには、厚生省、製薬企業から医療関係者さらには患者に至るまでの医薬品情報の在り方が適切でなければならない。膨大な時間と労力をかけて創出された医薬品情報ではあるが、それらが真に情報提供の対象者にとって必要なものとなっているか、また理解される内容あるいは形態になっているか、適切な時期に提供されているかについてはいまだに未解決な部分が多い。
そこで、前年度研究においては医薬品の適正使用を確保するために必要な医薬品情報の内容および提供方法の在り方について研究し、本年度(平成11年度)において前年度研究を継続し、特に提供された情報の利用のあり方についての検討を加えた。下記にⅠ~Ⅳの内容を記述する。
Ⅰ 医薬品情報の伝達及び提供のインターネット化(医薬品情報提供システム)に関する研究:大学、病院、保険薬局、製薬企業からの有識者によって構成されるワーキンググループを設置し、平成11年5月より提供が開始された「医薬品情報提供システム」について各医療機関における利用実態に関する意見を抽出後、システム改善の方向性や今後の利用可能性について検討した。Ⅱ 病院内における医薬品情報収集・伝達・提供に関する研究:厚生省医薬品適正使用推進モデル事業(平成7年度~9年度)について平成10年度に総括した報告に加えて、本年度は地域薬局との関連の一環として、院外処方せん発行時の処方支援、調剤、監査、患者指導のためのシロップ剤データベースを構築し、これを用いて、病院薬剤部から地域薬局への情報提供の方法について検討した。Ⅲ患者に対する医薬品情報提供のあり方に関する研究:本研究は、調剤および薬剤情報提供時に必要な患者情報の種類と入手方法に関する研究ニ患者向け医療用語に関する研究の2つの課題に分けて実施した。Ⅲ―1.調剤および薬剤情報提供時に必要な患者情報の種類と入手方法に関する研究:平成10年度のパイロット試験を基に、病院薬剤師および保険薬局薬剤師、さらに米国の薬剤師に対するアンケート調査行い検討した。Ⅲ―2. 患者向け医療用語に関する研究:重大な副作用の初期症状と、その他の副作用との用語の重複に関して、非ステロイド性解熱鎮痛消炎薬を対象に検討した。Ⅳ 一般用医薬品に関する情報提供:購買希望者の訴える症状別に一般用医薬品を選択するのに役立つシステムをコンピュータ上に構築する可能性について検討した。
結論
研究により得られた成果の今後の活用・提供
インターネットによる「医薬品情報提供システム」は、医師、薬剤師、医療関係職能団体、大学教育、卒後教育などにおいて広く利用されていた。インターネットであるという特性を活かすべく迅速性、正確性などにおいて改善点はいくつかあるものの提供開始初年度としては満足いくものであった。今後はこのシステムをベースに様々な活用法が開発されることが期待される。その中で、院内の医薬品情報提供体制の整備において医薬品情報データベースの構築と院内オンラインでの活用が重要であるが、その際に「医薬品情報提供システム」の情報が利用される可能性について今後検討する必要がある。患者に対する薬剤情報提供時には投薬歴、副作用歴、アレルギー歴、疾患名などが必要であるが、これらの情報に関して日本のみならず米国の薬剤師も、主として患者とのインタビューで得ていることが判明した。また、患者情報が不十分なためにトラブルが発生するケースもあった。患者情報が医療従事者間で適切に交換されるシステムを整備していくことは重要な課題である。
研究の実施経過
①医薬品情報の伝達及び提供のインターネット化に関する研究:平成10年度に提供形態および内容について検討を加えてコンピュータネットワークを利用した「医薬品情報提供システム」は、平成11年5月より稼動し、当初は「医療用医薬品添付文書情報」、「厚生省から出された安全性情報(医薬品等安全性情報、使用上の注意の改訂情報等)」、「製薬企業から出された安全性情報(緊急安全性情報)」、「副作用が疑われる症例報告に関する情報」の4項目でスタートした。その後、11月中旬には「新薬の承認に関する情報」が加えられた。これらについて、本年度ワーキンググループを組織して利用実態を把握した結果、病院、保険薬局、職能団体、大学のいづれにおいても広く利用されていることが確認された。しかし、添付文書情報の録品目数の充実、改訂添付文書の簡便な抽出、安全性情報の添付文書改訂との連動、プレスリリースとの同調、副作用が疑われる症例報告に関する情報の重要度別収載および詳細情報の適切な提示、などについて改善が望まれるとの指摘があった。さらに、本システムの利用をさらに促進するため、医療機関への積極的な広報、医学・薬学教育への組み入れなどを働きかける必要性も強調された。本システムはリスクマネジメントに活用されることが1つの重要な課題であり、このためにはシステム内の情報の正確性、迅速性を確保することが必要という指摘もあった。平成12年初頭からは「医薬品等の回収に関する情報」も提供を開始しているが、本年度の研究対象からは除外した。
②病院内におけるにおける医薬品情報収集・伝達・提供に関する研究:平成10年度に総括した厚生省医薬品適正使用推進モデル事業(平成7年度~9年度)の中で、医薬品適正使用の推進には医薬品情報データベースの構築などによる医薬品情報の充実が必要であるとの指摘がなされた。これについてシロップ剤医薬品情報データベースを構築した。
③-1.調剤および薬剤情報提供時に必要な患者情報の種類と入手方法に関する研究:平成10年度のパイロット試験をもとに調整したアンケート用紙を、本年度は準ランダムに選択した保険薬局1072、病院薬剤部938、診療所薬局109、米国薬剤師250を対象に配布し調査した。アンケート回収率はそれぞれ33.8%、50.3%、41.3%および52.8%であった。医療機関の種類によらず、日本および米国のいずれでも90%以上が患者への医薬品情報提供を実施しており、そのうちの50%が患者情報の不足により情報提供時に何らかの不都合を経験していた。情報提供を制限している主な項目としては、患者の疾患に関する情報不足と、十分な時間がないという点であった。患者情報の入手は日本および米国ともに患者との面談により行われており、これに必要な時間は5-10分、その記録を残すためにさらに10-30分程度必要としていた。これらの時間を節約したり、患者とのトラブルを防ぐためには、患者情報が文書またはコードとして医師あるいは医療機関から提供されることが望ましい。③-2. 患者向け医療用語に関する研究:重大な副作用の初期症状とその他の副作用の症状との重複について、非ステロイド性解熱鎮痛消炎薬14薬剤を例に検討した結果、悪心・嘔吐、食欲不振、胃腸障害、浮腫、倦怠感、発疹、痒みなどに重複が多い傾向にあった。これらの症状は重大な副作用として患者に伝えても実際には重大な副作用の初期症状ではないこともあり、患者に不安を与えたり、自己モニタリング時に誤解を生じさせる可能性も否定できないことが示唆された④一般用医薬品に関する情報提供:一般用医薬品のうち使用希望の多い、胃腸薬を選び、大手2社の34品目について症状別項目にパラメーターを決めて強度を付け、更に個人別の特徴を加えることにより、最適な製剤を選択できる「一般用医薬品症状別検索モデルシステム」を完成した。ここで完成したモデルについては保険薬局での試用を依頼し、さらに適応性、利便性の厚情を図るほか、入力データの範囲を拡大する作業を続行中である。 このシステムの活用により、具体的な一般用医薬品の医薬品情報利用の範囲が拡大されることが予想される。

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