医薬品の適正使用における病院薬剤師の役割

文献情報

文献番号
199900761A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品の適正使用における病院薬剤師の役割
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
鍋島 俊隆(名古屋大学大学院医学研究科医療薬学・医学部附属病院薬剤部)
研究分担者(所属機関)
  • 宮崎 勝巳(北海道医学部附属病院薬剤部)
  • 岩本 喜久生(島根医科大学医学部附属病院薬剤部)
  • 大石 了三(九州大学医学部附属病院薬剤部)
  • 水柿 道直(東北大学医学部附属病院薬剤部)
  • 谷川原 祐介(慶應義塾大学病院薬剤部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、(1)医薬品の適正使用とファーマシューティカルケアに関する医療先進国から薬剤師や医療薬学担当教官を招聘し、国内の基幹病院において実務や情報提供の在り方について指導を受けるとともに、医療薬学研修のために病院薬剤師を米国に派遣することにより、我が国の病院薬剤師の業務の手本となるべき国公私立大学附属病院薬剤部の形成を目指すものである。さらに、(2)患者のQOLを向上させ、医薬品の適正使用を図るために、医薬品の副作用の対策、発現機序、医薬品の吸収・排泄機構および相互作用に関する基礎研究を行う。
研究方法
病院薬剤師の臨床活動のレベルアップのための臨床研究
(外国人臨床薬剤師、研究者の招聘と基幹大学病院薬剤部の形成推進事業)
(1)(財)日本公定書協会が実施する平成11年度医薬安全総合研究推進事業の外国人研究者招へい事業により8名の外国人薬剤師および研究者を招聘した。招聘した外国人による講演会・セミナーなどの開催を日本病院薬剤師会に委託し、下記のように基幹大学病院薬剤部の形成推進事業を実施した。
全国を北海道・東北、関東、東海・関西および中国・九州の4地区に分け、各地区の基幹病院(招聘担当代表者:北海道大学医学部附属病院/宮崎勝巳、東北大学医学部附属病院/水柿道直、慶應義塾大学病院薬剤部/谷川原祐介、埼玉医科大学総合医療センター/木村昌行、名古屋大学医学部附属病院薬剤部/鍋島俊隆、愛知医科大学附属病院薬剤部/岡田 啓、島根医科大学医学部附属病院薬剤部/岩本喜久生、九州大学医学部附属病院薬剤部/大石了三)へ8名の招聘研究者をそれぞれ派遣した。
(2)(財)日本公定書協会が実施する平成11年度医薬安全総合研究推進事業の日本人研究者派遣事業により、医療薬学研修のため、島根医科大学医学部附属病院の一川暢宏を平成11年9月27日から平成11年12月27日の間カリフォルニア大学サンフランシスコ校薬学部、東北大学医学部附属病院の菱沼隆則を平成11年 9月28日から平成11年12月27日までの間ノースカロライナ大学コースタル健康教育センター、名古屋大学医学部附属病院の葛谷孝文を平成11年10月 1日から平成11年12月31日の間ヴァンダービルト大学メディカルセンター、岡山大学医学部附属病院の谷口律子を平成 12年1月3日から平成12年3月 31日の間サンホード大学マクフォルター薬学部にそれぞれ派遣した。
医薬品の適正使用に関する基礎研究
行動薬理学的試験方法、医薬品の吸収・動態、ガスクロマトクロマトグラフィーを用いたプロスタグランジン/ロイコトリエンの定量方法、スペルミン取り込みの実験方法を用いる。
結果と考察
本研究は、ファーマシューティカルケアの向上と病院薬剤師の業務の手本となるべき国公私立大学附属病院薬剤部の形成を目指した国内初の大規模な研究事業である。第2年度の研究として(1)米国で臨床薬剤師として実務を担当している薬剤師や医療薬学担当教官を合わせて8名招聘し、米国での臨床薬剤師の業務の紹介および日本における病棟活動の指導を受けること、(2)米国へ若手薬剤師を派遣し、日本におけるファーマシューティカルケアの指導者の育成を計画した。
外国人臨床薬剤師、研究者の招聘による研究では、各大学病院における病棟での直接的指導や症例検討会など実際的なプログラムを取り入れた。その結果、これまでの一方向的な講演会や講習会とは異なり、招聘した外国人薬剤師から臨床活動における具体的な提案や問題提起がなされ、薬剤師が直面する問題解決に大いに役立った。さらに、これらの指導や講演を通して、病院薬剤師としての職能の自覚と意識改革がすすんだことから第2年度の研究目標は十分に達成されたものと考えられる。この外国人招聘事業および若手薬剤師派遣事業をさらに継続することにより、本研究の最終的な目標である病院薬剤師の業務の手本となるべき国公私立大学附属病院薬剤部の中核の形成が可能であると考えられる。さらに、本研究は、我が国におけるファーマシューティカルケアの格段の向上および国民の医療・福祉に大きく貢献できるものと期待される。
一方、我が国は、急速な少子・高齢化に伴い超高齢化社会を迎えようとしており、人口の高齢化に伴い種々の疾患が増加している。このような状況の下、現代医療の最も大きな柱の一つである薬物療法において、医薬品の適正な使用を図ることは、医療費を削減し、将来にわたり安定した医療・福祉政策を展開するために必要不可欠である。本年度の外国人臨床薬剤師、研究者の指導および米国へ派遣した若手薬剤師からの研修報告により、薬剤師の役割をさらに拡大することが医薬品の適正使用と医療費の削減につながる可能性が示唆された。すなわち、病院薬剤師が医師、看護婦および患者とのコニュニケーションの重要性を再認識し、より積極的に病棟活動を展開することが、より質の高い医療の提供と医療費の抑制への貢献につながると思われる。薬剤師の職能の拡大と医薬品の適正使用および医療費の問題については、今後も継続して検討すべき課題と考えられる。
医薬品の適正使用に関する基礎研究においては、薬物依存の神経機構の解明や予防薬の開発、薬物の吸収・分布・代謝・排泄の分子メカニズムの解明、医薬品の適正使用および副作用・相互作用の防止につながるような研究成果が得られた。今後は、これら基礎研究の成果を臨床活動にフィードバックすることが重要であると考えられる。
結論
ファーマシューティカルケアの向上と病院薬剤師の業務の手本となるべき国公私立大学附属病院薬剤部の形成を目指して、米国で臨床薬剤師として実務を担当している薬剤師や医療薬学担当教官を8名招聘し、病棟活動の指導を受けた。さらに、米国へ若手薬剤師4名を派遣し、日本におけるファーマシューティカルケアの指導者の育成を計画した。この招聘事業をさらに継続することにより、病院薬剤師の業務の手本となるべき国公私立大学附属病院薬剤部の中核の形成が可能であると考えられる。さらに、我が国におけるファーマシューティカルケアの格段の向上と医療・福祉に大きく貢献できるものと期待される。

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