小児薬物療法における医薬品の適正使用の問題点の把握及び対策に関する研究

文献情報

文献番号
199900758A
報告書区分
総括
研究課題名
小児薬物療法における医薬品の適正使用の問題点の把握及び対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
大西 鐘壽(香川医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 松田一郎(江津湖療育園、日本小児科学会薬事委員会委員長)
  • 藤村正哲(大阪府母子保健センター副院長)
  • 辻本豪三(国立小児病院小児医療研究センター)
  • 森田修之(香川医科大学医学部附属病院薬剤部)
  • 伊藤進(香川医科大学医学部小児科学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,340,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
この課題は領域が非常に広範で、極めて難解で錯綜した問題を包含している。本邦のみならず、先進欧米諸国においても、製薬会社、医療行政、小児関連学会が三位一体となってこれに取り組み、莫大な資金のみならず、倫理的配慮さらに患児ないし両親の献身的な理解、これら無しには解決は不可能である。いずれも保険制度上の違いはあるが、長年に亘って本邦と先進欧米諸国が共通に抱えてきた課題である。最近、米国では国策として小児医療の改善を大きな柱として取り上げ、FDA、NIH、米国小児科学会、米国製薬工業協会(PhRMA)等が総力を結集してこの問題に真正面から取り組む行動が開始されている。また、小児のためのガイドライン作成がICHの場で検討されるようになり、新薬から小児での適応外使用医薬品を無くす努力がなされている。しかし、我が国の医療現場に目を向けると、そこまでの認識があるとは言い難い現状である。この実情を系統的且つ具体的に把握するために、本研究は本邦における小児のoff-label 医薬品の実態や処方の実態と添付文書の解析を行い、医薬品等とその使用される疾患との関係を明確にして、その解決のために多方面からの対策を立てることを目的とした。
研究方法
小児医薬品の適応外使用の実態を把握するために以下の方法で取り組んだ。
【小児科領域における非市販薬に関する調査と倫理的対応】この研究を行う目的で、全国医学部附属病院、医科大学附属病院、小児病院など138医療機関にアンケート調査した。今回は、そのインフォームド・コンセントの内容を調査することを目指した。実際に使用されたインフォームド・コンセントの患者名を伏せたコピーを収集し解析した。協力された医療機関は34医療機関であった。【新生児臨床ネットワークの設立と新生児臨床試験に関する研究】新生児医療専門家と臨床薬理専門家の共同研究組織として「新生児臨床薬理ネットワーク」を組織し、臨床試験を遂行する。全国の新生児医療機関の協力体制を得るため、日本未熟児新生児理事会において本ネットワークを学会活動として推進することに関する承認を得る。【小児薬物療法治験ガイドラインに関する国際動向の調査】リポーターはPhRMAのSpielberg氏で、その他、日本側は医薬品機構、厚生省、日本製薬協、EUはMedicines Control Agency、EFPIA、その他カナダ当局、世界大衆薬協会等のオブザーバーが参加し討議を重ね、小児の治験のための国際的治験ガイドラインを作成する。【小児薬物療法における処方実態調査と医薬品添付文書解析】4大学附属病院及び1総合病院の5施設において、18歳未満の入院及び外来患者について最近1年間の処方データを収集し、医薬品別・年齢群別に処方頻度および処方患者数を集計・処理した。次いで、小児に使用された全ての医薬品について、各添付文書中の小児への適用に関する記載内容を調査し、処方実態の調査結果と比較した。【臨床薬理学データからの小児薬用量の検討】 小児おける薬物動態学を検討する環境、日本未熟児新生児学会のPriority List で報告された医薬品の薬物動態を検討した文献の検索、及び採血件数を出来る限り減少させることのできる新生児期に使用される医薬品のpopulation pharmacokinetics を用いた文献の検索、について検討した。
結果と考案=ICHやアメリカ小児科学会薬事委員会から出された医薬品の臨床試験に関するガイドラインを参考にして、インフォームドコンセントに際しての、説明事項や確認事項を19項目選び出し、それらについてどの程度言及されているかを調べた。言及率が高かった項目をみると、親権者または後見人の署名、予想される効果、予想される副作用、使用目的、使用方法、説明医師の署名、同意しても中止を申し出られる事、同意しなくても不利益を受けないこと、などで62~100%であった。一方、言及率の低いのは、本人または親権者の判断で服薬中止の場合の報告、薬の費用、被害賠償、未成年者本人の承諾の確認、自由意思で服薬することの確認、医師の判断による中止の可能性、責任医師の確認、予想されない副作用への対応、などで6~32%であった。19項目中、60%以上の項目について言及していた医療機関は10機関であった。中には手術・麻酔の承諾書を代用して使用している所もあった。各機関での対応にはかなりのバラツキが見られた。新生児臨床薬理ネットワークにより、ドキサプラムの臨床薬理学的研究に関する薬物動態研究、インドメタシンの臨床薬理学的研究及び新生児に対する抗生物質(MRSAに対するTeicoplaninの臨床試験)に調整医師として参加する計画を進めた。小児に対する国際治験ガイトライン名はClinical investigation of medicinal product in pediatric population である。内容はIntroductionの部分が目的と一般的原則に、ガイトライン本文が臨床試験の開始時期、試験の種類、年齢区分、倫理の各項に分かれている。本ガイドラインのゴールは小児の臨床試験の枠組みを調和することによって、国際的な小児の医薬品開発を促進するものである。本ガイドラインは倫理的な問題を含めて、小児の臨床試験を促進することを目的に作成されたもので、小児臨床試験の開始のタイミング、PK/PDを含めた試験の種類を述べているが、個々の詳細については、各極の当局や学会がさらなるガイドラインを作成するべきであるとしている。5施設に於ける小児科における処方頻度は全診療科の約68%であり、小児への処方医薬品数は採用品目数の65%に達していた。このことは、小児薬物療法において現在直面している適応外使用の問題が小児科医だけの問題ではないこと、成人と同様に多種多様な医薬品が小児にも必要であることを示している。使用医薬品の38%が添付文書に、小児に対し「安全性が確立していない」と記載され、多用されているにも拘らず「使用経験がない」「使用経験が少ない」と記載されているものが多数認められた。また、「禁忌」「原則禁忌」「使用しないことが望ましい」と記載されている医薬品が少なからず使用されており、使用規制を知りながら治療上の有益性を優先し処方しているものと推察された。小児における薬物動態学を検討する環境については、多くの制約がある。小児を扱う医療関係者、患者やその家族が薬物動態学検討の意義を理解する必要があった。日本未熟児新生児学会のリストの13品目について検索し、ニトログリセリンとプロスタグランディンE1・CDを除いて薬物動態学のデータは存在した。テオフィリンとカフェインは、そのデータから得られた結果より用法・用量が設定されていた。 新生児期の薬物動態解析にpopulation pharmocokinetics を使用した文献が、42編15品目見出された。その解析により、生後日齢や体重を加味した投与量の設定が可能になると考えられた。
結果と考察
結論
1)小児での医薬品を適切に使用するために、非市販薬の使用に於けるそのガイドラインを検討し、その普及を図るべきである。2)新生児臨床ネットワークを設立し、組織体制と課題、研究計画作成などを検討し、薬物動態研究の体制を補うための臨床薬理学者や薬学者の研究協力を得て、人的資源のネットワークの見通しが得られた。今後、具体的に臨床現場での新生児適応外使用医薬品の解決に向けて活動する。3)ステップ3のために小児の国際治験ガイドラインに対する意見を聴取している。既に、このガイドラインは1999年11月にワシントン会議でステップ2にサインアップした。そのステップ2の日本語訳を作成し、ホームページ(http://pharmac.nch.go.jp/child.html)で広く情報公開と意見徴集を行っている。4)医薬品添付文書には小児への適用に関する情報が極めて少ない現実が明らかとなった。添付文書に「安全性は確立していない」と記載されている医薬品を使用することが「適用外使用」か否かの明確な回答が必要であると思われた。小児薬物療法における医薬品の適正使用を推進するためにも、臨床効果や安全性に関する多くのエビデンスが集積されたものについては、使用規制の緩和、開発治験に対する優遇措置、製造承認審査の簡素化・迅速化などが望まれ、小児に関する添付文書記載内容の見直し、内容の充実を図ることが必要であると考えられた。5)新生児期の薬物動態データは、各種の薬物において存在する。それらのデータを評価し臨床において活用することが大切である。同時に、現在臨床で使用されている薬物についてもその動態データを増加させる必要があり、製薬企業や行政レベルでの援助も必要と考えられた。

公開日・更新日

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