in Vitro試験法を用いた化粧品の安全性評価法及びその国際的ハーモナイゼーションに関する研究

文献情報

文献番号
199900749A
報告書区分
総括
研究課題名
in Vitro試験法を用いた化粧品の安全性評価法及びその国際的ハーモナイゼーションに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
大野 泰雄(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
研究分担者(所属機関)
  • 高松 翼(日本化粧品工業連合会 安全性部会長)
  • 森本雍憲(城西大学薬学部)
  • 田中憲穂(食品薬品安全センター 秦野研究所)
  • 安藤正典(国立衛研 環境衛生化学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
A. 研究目的
動物を用いた安全性試験について、動物愛護団体等からの反対運動が活発に行われており、欧米では動物実験を行っている化粧品会社の製品の不買運動が行われたり、米国バークレー市のようにウサギを用いた眼粘膜刺激性試験を禁止するところもある。また、EUでは適切な代替法があればとの前提つきではあるが、2000年には化粧品に関する動物実験を禁止する予定で検討が進められてきた。OECDやEUでもin vitroの試験法を用いた眼刺激性試験、皮膚刺激性試験、皮膚光毒性試験、経皮吸収試験等のガイドラインやそのバリデーションのあり方、それを用いた評価スキームについて検討されてきた。
一方、わが国では厚生科学研究の基でin vitroの眼刺激性評価法についてはば広い研究が行われ、その結果を欧米に発信しているが、その他の試験法については、経験が浅いとともに情報も少ないことから、OECDやEUへの対応に苦慮している。
そこで、本研究では、OECD及びEUで検討の進んでいる上記試験項目について調査するとともに、文献的、実験的に検討することにより,その妥当性や問題点について検討する。また、眼刺激性試験については欧米に先駆け、大規模バリデーションの結果に基づき評価スキーム案が作成されたが、既知の限定された物質による予測でもあり、より多くの物質への適用により、その妥当性を確固たるものとする必要がある。そこで、実際の化粧品原料について行われたin vitro及びin vivo眼粘膜刺激性試験結果を収集し、データベース化をはかるとともに、その解析により、評価スキームの妥当性について再検討する。なお、本研究の成果は、医薬品等他の分野の安全性評価にも応用できるとともに、ごく近い将来において日米欧間の課題となることが予想されるin vitro試験法の利用に関するハーモナイゼーションに向けての基本的資料ともなる。
研究方法
B. 研究方法
B-1) 調査活動
文献的に調査するとともに、ポーランドで開催されたin vivo及びin vitro皮膚吸収性試験についてのOECDの会議、第三回国際代替法会議、COLIPAの会議に出席し、我が国の考えを述べるとともに、関連情報を収集した。また、OECDの動物実験代替法に関係するガイドライン案(Draft test guideline: in vitro skin corrosion testsおよび Draft test guideline: in vitro 3T3 NRU phototoxicity test)については、日本トキシコロジー学会、日本化粧品工業会、日本化学工業協会、日本製薬工業協会に意見を求め、得られたコメントについて検討し、まとめてOECDに送った。
B-2) 実験的検討
B-2-1)in vitro皮膚吸収試験(1)
OECDガイドラインに従って、試験を実施した。
雄性ヘアレスラットをウレタン麻酔下、腹部より皮膚を摘出した。摘出した皮膚は、真皮下の脂肪組織を丁寧に取り除いた後、2-チャンバー拡散セル(横型、容量:2.5 mL、有効透過面積:0.95 cm2)に挟んだ(Full thickness skin)。拡散セルのドナー側には、試験溶液を、レシーバー側には、レセプター溶液を入れ透過実験を行った(レセプター溶液:溶解度の高い薬物は1/30Mリン酸緩衝液(pH 7.4)、低い薬物は40%ポリエチレングリコール400溶液)。試験溶液には、最大使用濃度である10 mg/mLの溶液或いは懸濁液を用いた。試験温度は32℃を保持した。定量は高速液体クロマトグラフシステムにより行った。使用したシステムを以下に示す。また、ヘアレスラットの腹部より摘出した皮膚を粘着テープを用いて、計20回テープを剥ぎ角質層を剥離し (Stripped skin)、full thickness skinと同様に吸収性試験を行った。
暴露終了時にセルから皮膚を取り外し、使用したドナー溶液およびレセプター溶液をそれぞれ回収した。次に、各部位の皮膚を細かく切り、ホモジネートした。これを遠心分離後、上清を採取した。回収液および上清サンプル中の薬物量を解析した。
B-2-2) In vivo 単回静注投与試験
雄性ヘアレスラットをウレタン麻酔し、試験溶液を一方の頸静脈へ投与し、対側の頸静脈より経時的に採血(0.25mL/回)した。血漿中濃度は、除蛋白後、内部標準物質を加え高速液体クロマトグラフシステムにより測定した。データ解析は、実測データを線形1?ャRンパートメントモデルあるいは、線形2?ャRンパートメントモデルの数学的モデルにあてはめ、非線形最小二乗法プログラム(MULTI)により薬物動態学的パラメータを得た。
B-2-3) 代謝活性試験
雄性ヘアレスラットにウレタン麻酔し、腹部より皮膚(有効透過面積:0.95 cm2)を摘出した。摘出した皮膚をホモジネートし、その代謝活性を測定した。
B-2-4)in vitro皮膚吸収試験(1)
OECD法に従い、メチルパラベン(MP)およびエチルパラベン(EP)のin vitroでの吸収性を検討した。皮膚はエーテル麻酔で屠殺したモルモットの腹部の毛を電気バリカンで除いた後,剥離した。皮下脂肪を除き,凍結保存し,必要なときに解凍して用いた。剥離皮膚を縦型のFranz型拡散セル(staticセル系、有効透過面積0.246cm2)に表皮をdonor側に向けて装着した。donor側にMPあるいはEP溶液1.0mLを加え、receptor側に20%PG溶液を加え、32℃で2?bW時間後にreceptor側の溶液0.2mLを分取した。この液20μLを用いてHPLC法にて測定を行った。
B-2-5) 光毒性試験
培養細胞にはCHL/IU細胞を用いた。均一な照射面積を得られる範囲が光源によって異なるため、SOL500の場合は35mmディッシュ、SUNTEST CPSの場合は60mmディッシュにそれぞれ8×103および2×104細胞を植え込んだ。3日後にアール平衡塩類溶液(EBSS)に置換し、照射を行った。照射の翌日に細胞を剥離し、コールターカウンターを用いて細胞数を計測した。SUNTEST CPSを用いる場合は培養細胞に対する熱の影響を考慮し、赤外線反射フィルターを装着し、さらに同種の試験に使用されている特殊UVフィルターを装着して行った。SOL500は、ランプ前面にH1フィルターを装着して照射を行った。まず、種々の線量の照射によって、光のみの細胞毒性作用を検討し、さらに適切と考えられた照射条件による、モデル光毒性物質(8-MOP, CPZ, OFLX, B[a]P)の検出力の検討を行った。SUNTEST CPSを用いた他の研究機関の試験結果と、これまでにSOL500を用いて得られている結果と比較した。
結果と考察
C. 研究結果と考察
C-1)海外における代替法の現状の調査に関する検討
C-1-1) OECD皮膚吸収性試験ガイドライン作成会議
1996年に回覧されたin vitroおよびin vivo皮膚吸収試験に関するguideline案についてカナダと米国はin vitro法のvalidationが十分でないとして受け入れなかったことから、それについてのfollow upとして開催されたOECD皮膚吸収ガイドライン作成会議 (6,14-6,15ポーランド)に出席した。会議では前回の会議後に組織された関連文献についてのreview panelの報告を基にin vivo法とin vitro法との関連性を中心に検討した。その結果、全体としてin vitro試験法は吸収を過大評価し、その結果を利用した安全性評価上は保守的なものとなるとされたが、化学物質の使用目的や状況により必ずしも全ての状況において保守的な評価となるわけではない、また、in vitro法の施設内外の再現性やin vivoの予測性について明確に結論するには十分なデータが無いとされた。しかし、十分な時間と経費が無いこと及びECETOCのガイダンスがあり、企業は既に広く利用していることから、更なるバリデーションの必要性はないとされた。今後データベースを作成し、予知性について検討すること、また、脂溶性や分子量の範囲において、いくつかの適切な対照物質を用いて評価することが必要であるとされた。結論として、今回の会議の議論を踏まえてin vitroとin vivoのguidelineの修正作業を行うこととされた。
C-1-2) 国際代替法会議
第3回国際動物実験代替法会議(イタリア、ボローニア)において、動物実験と代替法についての「ボロニア宣言(添付資料1)」が採択された。これはRusselとBurchが1954年に提案した3Rを再確認するとともに、それを更に促進するためにのものである。それを以下に要約した。①全ての国が全ての研究・試験・教育に3Rの原則を積極的に組み入れるための法的な枠組みを作るべきである。②いずれの動物実験においても、関係する科学者や行政官の全てに教育や訓練を行う公式あるいは非公式の機構が無くてはならない。③全ての動物実験は事前に専門家により科学および倫理の両面について、独立した審査を受けなくてはならない。④動物実験の結果得られる利益と想定される動物の苦痛の両方を評価し、計ることが審査委員会の重要な機能の一部である。⑤どのような状況においても許されるべきでない動物の苦痛のレベルについての国際的な合意があるべきである。⑥科学的に現実的なしかしより厳しい実験動物に対する規制を避けるために動物実験を他の国に依頼することを受け入れるべきではない。
一方、臨床試験の倫理に関するヘルシンキ宣言を3Rを踏まえた形に文章表現を変えるべきとの提案について、決議はされなかったが、大部分の参加者の賛成を得た。
主任研究者である大野は日本における動物実験代替法の受け入れ状況について招待講演を行った。また、英国のHealth & Safety Executive (HSE)のDr Evans、ZEBETのDr Liebsch、FDAのDr Wilcox及びDr Sailstadがそれぞれの行政機関における代替法についての取り組み状況について報告した。
眼および皮膚刺激性試験のセッションにおいては、英国のDr BothamがECVAMは1998年にhuman skin model (Episkin)とrat skin transcutaneous electrical resistance (TER)法について皮膚腐食性を評価する方法として適切であることを示すバリデーション結果を得、OECDでは皮膚腐食性を生きた動物使用を削減するガイドラインを起草していると報告した。ECVAM は皮膚刺激性試験代替法の検討を行い、Episkin, Epiderm, Prediskinおよび非還流ブタ皮膚試験についてプレバリデーションをおこなっており、2000年の4月に終了する予定である。P&GのDr Stizelは企業がなるべく動物を用いないで安全性を評価する方向に進んでいることを考慮し、行政機関も代替法や構造活性相関、ヒトでの使用経験等の動物を用いない安全性試験結果をどのように新規の化学製品の安全性評価に組み込むことができるか理解する必要があると強調した。資生堂のDr Katoは日本においてなされた二つの眼刺激性試験バリデーションの結果について報告した。また、細胞毒性試験と鶏卵を用いた試験など、いくつかの方法が被験物質の特性を良く理解して利用するならば有用であると報告した。また、ヒト皮膚繊維芽細胞とコラーゲンで構築した試験と組み合わせることにより不溶性物質を含めた検体について眼刺激性と皮膚刺激性を評価できることを示した。P&GのDr Brunerは牛角膜混濁・透過性試験を用いて、既存の原料の組み合わせの影響を評価し、単独での試験では刺激性について問題無いとして配合された成分の内に思いがけなく、他の成分との混合により強い刺激性の原因となる物質が存在することを示した。
C-1-3) 動物実験代替法についての米国の状況
米国は1998年にInteragency Coordianting Committee on the Validation of Alternative Methods (ICCVAM)に皮膚腐食性試験法としてのCorrositexRについての評価委員会を設定した。討議の結果、動物愛護の点で問題は無いこと、及びDepartment of Transport(DOT)で必要とされる状況においては有用であるとされた1-1)。なお、DOTが適当とする被験物質の範囲とICCVAMの専門家が適当と評価した物質の範囲との間で若干食い違いが有るように思われた。また、陰性の場合には皮膚刺激性試験により確認の必要があるが、false positiveを許容するならば陽性の場合は動物試験は不要とされた。
完全な代替法ではないが、感作性試験法としてのLocal Lymph Node Assayも妥当な方法としてのICCVAMで認知された。また、カリフォルニア州など一部の州法で動物実験禁止を提起するものが認められているが、法成立には至っていない。
C-1-4) EUにおける化粧品指令第6次改正の追跡調査
C-1-4-1) 昨年度調査結果概要
実験動物を用いて安全性を評価した化粧品原料および最終製品の販売を1998年1月1日より禁止することを定めたEU COSMETIC DIRECTIVE第6次改正2-1)のArticle 4.1.iの施行を、2000年6月30日まで延期することが、EU議会により1997年4月17日に決定された2-2)。この決定内容は、2000年1月1日までに再検討されることが付記されており、以来、European Centre for the Validation of Alternative Methods (ECVAM)やCOLIPAが中心となって代替試験法の再検討、開発が進められてきた。その結果、皮膚腐食性試験に関してはEPISKIN法2-3)及びRAT SKIN TRANSCUTANEOUS ELECTRICAL RESISTANCE (TER) 法2-4)が1998年4月3日に、また光毒性試験に関しては3T3 NRU PT 法2-5)が1998年5月20日に、ECVAMのScientific Advisory Committee (ESAC)によって科学的に確立された代替試験法として認められた。この認知は試験が多くのバリデーションガイドラインに基づいて実施されていることが条件として挙げられている2-6?bP0)。これらの研究開発動向を前提に、第7次改正案として、最終製品の試験禁止、原料についての試験項目ごとの対応が検討されていた。
C-1-4-2)第2回COLIPA代替法シンポジウム
第2回COLIPA動物実験代替法シンポジウムが、99年3月 にベルギー、ブラッセルにおいて開催された。シンポジウムの基調は、その直前までEUにおいて議論されていたEU化粧品指令第7次改正案を頭に置いた形で、以下のようにまとめられる。①95年開催の第1回シンポジウムに比較して格段の進歩が見られた。②最終製品試験については、動物試験を必要としなくなった。③原料試験についても、一部の試験法(光毒性、皮膚腐食性)がバリデートされてきた。④ヒトによる試験には倫理面の問題もあり、安全確認のための試験として位置付ける。⑤中小企業のためのガイダンス、トレーニング等の検討が進行中である。⑥法的な受容、国際的な受け入れが重要である。
既にCOLIPAを中心に進められてきた化粧品指令第7次改正草案を全面的に支持する形でまとめられていたし、中小企業への対策、法的な受容、国際的な対応など、一歩進んだ議論へと展開しており、その意味では全般的に世界をリードしている状況が伺われた。しかし、関連官庁からの講演者によるRegulatory Round Tableにおいては、それほど活発な議論には至らなかった。Commissionレベルでの政治的な問題から、シンポジウム寸前に草案の議会提出、会員各国への送付が中止されたこと、併せて草案内容の変更指示も出されていることなどがその原因と考えられた。その延長上で、Validationはある意味で容易で、行政による受容(Regulatory Acceptance)に最も重要と強調されていた。また、国際的な受容、Harmonizationの問題も指摘されていた。EU加盟各国間の協調は勿論、OECDとの協調にも言及され、その検討の進展状況を巡ってOECD代表との応酬が認められた場面もあった。
Prof. Kemper (SCCNFP議長)は消費者の安全と動物福祉の両者を満足させると言うジレンマが強調された上で、最近の活動として、Notes of Guidance for Testing of Cosmetic Ingredients for Their Safety Evaluationの第2版が出来上がり、Commissionでの総合検討に移っていることを挙げた。第7次改正については、あまり触れられず、草案が廃案になったとのうわさもあると言った程度に止められた。いずれにしても独立性と透明性の確保が強調した。
代替法開発における研究プログラムを担当するDGXIIの局長(Dr. Gerold)は1998年から2002年の研究開発プログラム(5次フレームワークプログラム)について触れ、Quality of Life & Management of Living Resources、The Cell Factory等のプロジェクトを紹介した。眼刺激性試験に関する研究プログラムは、業界からの申請が近々出されることになっていると報告した。4次フレームワークプログラムでは22プロジェクト(139研究機関)が動き、内50%がアカデミア、34%が研究機関、残りが大きな業界プログラムに分割され、in Vitro研究では8.6Mecuを使用した。動物使用数は97年統計において、年間10万匹の内、化粧品は35000匹であり、0.35%に相当することを示した。
L*orealライフサイエンス研究所長のDr. Leclaireは業界代表として考え方及び進行状況のまとめを報告した。92年にSCAATが設立され、眼刺激性、感作性、経皮吸収、腐食性、光毒性のタスクフォースが各々検討を行なってきたし、バリデーションに向けても、プレバリデーションから本バリデーションへの流れ、あるいは予知モデルの設定とそれによるバリデーションなどの考え方を打ち出してきた。一方、全身毒性に関する代替法の検討は化学品業界の担当であると強調していた。95年第1回シンポジウムからの大きな動きとして、最終製品については、DGIII局との中小企業対象のガイドライン作成検討が終了すれば、禁止を受け入れられる所まで来たことがまず挙げられた。原料の試験については、短期的に解決できるものとしてOECDにおいても検討されている光毒性、経皮吸収、腐食性、限定された眼刺激性が、中期的には一次刺激性、長期的な課題として感作性及び眼刺激性の全面代替が挙げられた。全般的な話として、99年1月SCCNFPはヒト試験を代替法としては考慮しない可能性を示唆する結論を出していることが報告された。感作性は、ICCVAMでLLNA法が採択されているし、ECVAM/COLIPAでもZENECAが中心となってプレバリデーションが行なわれていると報告された。
光毒性に関しては、ZEBET のSpielman 博士がまとめた。ECVAMにおけるバリデーションが終了し、DGIII、DGXXIV(SCCNFP)、DGXIIなどの関連規制局が中心となり、法規制への取り込みを検討しているし、OECDの方でも最初の代替法として最終検討段階に入っている。米国においては、ICCVAMにおいて検討が行なわれている。方法は3T3細胞を用いるNRUアッセイである。これに関してはCOLIPAより、試験法プロトコール、アッセイに用いるコンピューターソフトウェア、OECDガイドライン草案、バリデーション関連論文、紫外線吸収剤についての試験結果などの情報パックが会員に配布されている。
眼刺激性については、L*oreal のdeSilva博士が既に行なわれてきたバリデーションは成功に至らなかったとの前提で、1997年末のワークショップ開催からの経緯が説明された。これに端を発した研究プログラム、即ち現在の方法では検出することの出来ない痛み、損傷からの回復過程、あるいは眼刺激性そのものの機構などの長期的研究を先に挙げたDGXIIの5次フレームワークプログラムの中で検討することを報告した。
皮膚腐食性及び一次刺激性についてはUnileverのFentemがプレバリデーションに入っていること、腐食性試験法としてECVAMがバリデートしたラット皮膚TER法の他、Skin2 ZK1350(米国)及びEpiSkin(仏)を用いて、R34、35表示が必要な刺激性物質60種について検討を開始したと報告した。その他、OECDでは腐食性表示に関わるOECD Advisory Group of Harmonizationが段階的(Tier方式)なアプローチを開始しており、98年12月にSAR、pH、Epiderm、EpiSkin、PrediSkinなどのin vitro試験1乃至2種、Non-perfused Pig Ear試験を検討している。ここでは、20物質、3物質/研究機関程度の規模となっている。同時にヒト試験の標準化も検討されていることを報告した。
感作性についてはUnilever のBaskettar博士が報告した。構造相関プログラムのDEREKと経皮吸収ファクターを考慮することにより、かなり近いところまで大きな障害を予想できるとの見解を示した。即ち、化学的な反応性と経皮吸収により、化学構造に対して警告を発することが可能である。最終的にはヒトに対する危険性評価を実施することになるが、ベンチマーク(標準物質)の使用の可能性を示唆した。
経皮吸収についてはBeiersdorf のDiembeck博士がOECDガイドラインの動きがあるが、米国、カナダあるいはノルウェーを説得するためのデータベース確立が課題となっている。意見の食い違いもあり、4-5月には外部の評価パネル検討会、6月には拡大運営委員会が予定されており、これらが終了すれば、受け入れにかなり近い状態になると予測を示した。
ヒト試験についてはFriedrich大学のElsner教授(SCCNFP委員)が98年11月SCCNFPは、ヒト試験は動物試験の代替法として考慮しない旨のガイドラインを出したことを報告した。即ち、ヒト試験は確認のための試験であって、それ自体が安全性の評価に用いられるべきものではないと言う考え方が出されている。試験法としては、ROAT(Repeated Open Application Test)が考えられているし、これらに関してはEEMCO/ECVAMの報告があると報告した。最終製品安全性試験における代替法の使用については、いくつかの例が示されたが、1)原料データからの予測、2)物理化学的な性質からの検討、3)被曝量、頻度からの検討、4)参照同類製品(陰性と陽性)を用いての代替法試験、5)ヒトによる確認試験と言う流れが一般的であり、特に多くの製品についてのデータベースの重要性が示されていた。また、眼刺激性についてはBCOPとHET-CAMの組み合わせが使用されていた。データベースには1000製品程度のデータが保存されているとし、これらの試験フロー及びデータベースにより、動物を用いた試験フローと同等の確信が得られるようになったと述べられた。
C-1-4-3) EU第24局における検討状況の調査
前項で述べたCOLIPAシンポジウムにおいて、EUの今後の動向が明らかとされなかったことから、調査方向をEU第24局のScientific Committee On Cosmetic Products and Non-Food Productsに切換えた。主としてホームページに掲載されている同委員会の結論、意見あるいは会議記録等から検討を行った。最も鍵となる資料は、99年1月20日で採択された *Notes of Guidance for Testing of Cosmetic Ingredients for Their Safety Evaluation*改定第3版(添付資料2)であり、関連する付属資料として次のものが挙げられる。
Annex 2: The use of methods alternative to animal studies in the safety evaluation of cosmetic ingredients and combinations of ingredients
Annex 3: Guidelines for in vitro assessment of the phototoxic potential of UV-filters
Annex 7: Guidelines for the safety assessment of the finished cosmetic product
Annex 9: In vitro methods to assess skin corrosivity
Annex 10: In vitro methods to assess percutaneous absorption及びBasic criteria for in vitro assessment Annex 11: guidelines on the use of human volunteers in the testing of potentially cutaneous irritant cosmetic ingredients
Annex 12: Guidelines on the use of human volunteers in compatibility testing of finished cosmetic products
既に第7次改正に予測されていた光毒性、皮膚腐食性、経皮吸収性(代替法の使用に関しての基本的な考え方を含む。)の代替法試験が付属資料中に規定されている他、ヒト試験の倫理的な問題をも規定する付属資料が皮膚腐食性との関連で添付されており、OECDで検討され、日本からも倫理的な問題、実用上の問題などを既に提起しているヒトを用いる腐食性試験法に対する批判にも対処がなされたものと考えられる。
もう一つの鍵となる文書が、第6次改正に定める年度ごとの代替法開発の進捗状況を示す報告書であるが、98年度報告書の公開が遅れていたものの、これに相当すると考えられる文書が、同様に6月23日付けで採択されている。内容的には、上記と同様に既に情報を得ている第7次改正の方向を支持するものと考えられた。
一方、第24局は、EU政府の改組と同時にHealth and Consumer Protectionとして改組され、 同時に化粧品に関する法規制を担当する第3局もEnterpriseとして改組された。このような政治的な動きが中心となり、検討は第7次改正案に沿った方向で進めらてはいるものの、実際に第6次改正の執行期限前に第7次改正を発効させることは困難な状況にあると判断される。従って、最も妥当な推測は、現第6次改正の再度の延期ではあるが、具体的な方策を示さないままの再度の延期にもEU新政府の抵抗があることから、事態は混沌としたまま今日を迎えている。
第6次改正の追跡調査の結果は、上述の如く最終的な方向を見出せないまま今年度末を迎えた。EUの動向には、米国も注目しており、99年度末に行われた欧米間のビジネスダイアログ(Transatlantic Business Dialogue、TABD)においても、要注意課題としての提起がなされており、早期警告システムの対象となっている2-11)。代替法は、科学的な議論から、現在WTOを含めた政治的な議論への展開を示していることから、今後は既に妥当との判断がEU内でなされている光毒性、皮膚腐食性、経皮吸収性代替法を中心にOECDでの検討状況を更に注目していく必要があろう。ECVAMでは、既に皮膚刺激性試験のPre‐validation研究2-12)が2000年3月末終了を目標に進行中であり、この面でもフォローが必要である。また、EU各国の動きでは、仏にて眼刺激性ポテンシャルの試験法としてのCytotoxicity after diffusion on an Agarose gelとウサギ角膜繊維芽細胞薄層(NR)が99年12月30日に公示されたことを付け加えておく。
C-3) OECD経皮吸収試験法の実験的検討(1)
C-3-1) In vitro 経皮吸収試験
ヘアレスラット摘出皮膚(full thickness skin)および角質層剥離皮膚(stripped skin)を用い、薬物の皮膚透過について検討したところ、どの薬物も数時間のラグタイム後は、直線的な皮膚透過プロファイルを示した。Full thickness skinに比べstripped skinの方が透過速度、透過量とも多かった。
C-3-2) In vivo 静注単回投与試験
各薬物をヘアレスラットに単回急速静注したときの血中濃度プロファイルを測定した。いずれの薬物も消失が速く1時間後には、血中濃度が0に近づいた。4-ヒドロキシ安息香酸ブチルの体内消失は、時間に対しての対数値が直線的な減少を示したことから、線形1?ャRンパートメントモデルで現されると考えられた。他の薬物は、投与初期には速やかに消失し、その後、緩やかに消失する二相性の消失パターンを示したので、線形2?ャRンパートメントモデルで表されると考えられた。
C-3-3)血中濃度推移の予測
上記in vitroおよびin vivo試験結果に基づいて行った血中濃度推移のシミュレーション結果は皮膚損傷が大きいほど吸収速度が大きく、高い血中濃度に達する結果となった。また、脂溶性が増すごとに、皮膚が損傷した場合の吸収の変化が小さくなるという傾向が見られた。
C-3-4)代謝活性試験
ベンゾフェノンについて、代謝活性試験を行ったが、皮膚ホモジネートによる代謝による基質の減少は見られなかった。
C-3-5)物質収支および浸透量の算出
透過物質の物質収支について、水溶性の高い安息香酸ナトリウムおよび脂溶性の高い2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノンについて実験を行った。投与量、ドナー残存量、皮膚中残存量、レセプター回収量、総量、回収率を示したところ、水溶性薬物(安息香酸ナトリウム)では、総量が17%と低かった。この理由として、実験技術のため、または皮膚中で代謝されたために低い値となったのではないかと思われる。また、浸透量を算出すると約11%で、透過しにくいと考えられる。一方、脂溶性に高い薬物(ベンゾフェノン)は、投与量に対する回収率が約90%と高く、浸透量が1%にも満たないことから、ほとんど透過されないと考えられた。
C-3-6) 考察
経皮吸収試験法ガイドライン(案)で問題となった点は、(1)膜厚調製、(2)放射標識体の使用、(3)Terminal procedures、(4)皮膚の水和とcell viabilityである。(1)は、ガイドラインでは、酵素的熱的又は、化学的に剥離した表皮、又はダーマトームで厚さ(200~400 mm)を調節したsplit thickness skinを調製する。原則的にfull thickness skinの使用は認めないとある。しかし、高度な研究機関以外の実験室、一般的な医療施設などでは、膜厚を200~400 mmに調製することは難しいと考えられる。また、ヒトでの結果を動物実験の結果から外挿、予測しなければならない日本では、特にマウスやラットなどの小動物を使用する場合の膜厚調製は、さらに難しいと考えられる。さらに、調整が可能である場合でも、膜厚調製時に損傷を与える可能性があるので、かなりの熟練した技術が必要であると思われる。(2)の放射標識体を用いることは、代謝物等を測定、定量するのに非常に有効な方法であるが、放射活性物質を取り扱える施設は限られ、実験室や医療機関では、簡単に取り扱うことが困難である。また、確実に代謝部位に放射活性物質を標識する事も難しいと考えられる。(3)Terminal proceduresは、暴露終了時(実験終了時)に皮膚中濃度を測定する時、暴露したエリアとセルのふちの部分に挟まれたエリアとに分け、さらに角質層、表皮および真皮に分けて分析すると記載されている。しかし、(1)にも記述したように、皮膚を薄く切り分けることは非常に困難である。また、角質層と表皮もしくは表皮と真皮を正確に分けなければ、試験物質の透過性の評価に大きな影響を与える可能性もある。(4)の皮膚の水和とcell viabilityについて、経皮吸収試験を行う場合、試験物質の代謝に関係する酵素活性がその実験系で十分維持できることを証明するデータの著積または提示を行い、さらに摘出皮膚のviabilityの定義を示す必要がある。もし、用いる摘出皮膚で代謝されるような試験物質の吸収実験を行う前に、代謝活性およびviabilityをチェックすることになると、かなりの時間をそれに費やすことになるので、実験をスタートするときにはその保証には、疑問符がつくことになるであろう。一方、ガイドライン(案)中のTest preparation applicationの項では、皮膚の水和を十分に行うこととなっている。この理由は、皮膚水和の程度により、連続的に変化する透過速度を一定にするためである。しかし、皮膚水和がどれくらいの期間で平衡に達するかを明らかにした報告がなく、過去の研究から、ガイドライン(案)では、24時間以上もしくは適切な時間、水和させることになっている。24時間以上水和させると皮膚代謝およびcell viabilityに関する記述としては、大いに矛盾する。従って、試験物質によってどちらを優先するか、もしくは両方を満たすような新たな試験を設けることが必要である。
なお、Skin membraneの部分がOECDガイドライン(案)では、ダーマトームで厚さ(200?0400μm)に調製したsplit thickness skinを用い、原則的に、full thickness skinを実験に用いないとなっているが、今回は、full thickness skinを実験に用いた。Skin integrityは、OECDガイドライン(案)では、浸透特性が既知の標準物質(例えば、トリチウム水)の浸透性を測定して調べることができるとなっているが、放射性同位体を用いる実験であるため、実施しなかった。また、Skin metabolismは、モルモットの腹部剥離皮膚を使用前まで凍結保存し、使用時に解凍して用いたため、皮膚代謝の実験を行っていない。Terminal proceduresは、実験終了後、皮膚中に残存する物質を測定する必要があり、今回の実験では実施しなかった。
C-4) OECD経皮吸収試験法の実験的検討(2)
1996年の第2次OECDガイドライン(案)を用いて、防腐剤の一種であるメチルパラベン(MP)およびエチルパラベン(EP)の経皮吸収的な評価をするため、in vitro経皮吸収試験を縦型のFranz型拡散セルを用いて検討し、以下の結果を得た。
MP及びEP溶液(0.5mg/mL)およびMP及びEP含有化粧水1.0mLを縦型のFranz型拡散セルのdonor側に入れ、2?、8時間後にreceptor側に透過するMP及びEP量を測定した。それらの結果をTable 1に示した。化粧水AあるいはBを用いたときのMPの吸収のcontrolに対するFlux(%)は、それぞれ、65.6 %および16.4%であった。EPの吸収のcontrolに対するFlux(%)は、それぞれ、71.9%および17.3%であった。MP及びEPのいづれも化粧水の添加により、明らかに皮膚透過が抑えられることが分かった。また、抑制の程度は化粧水により大きく異なった。
これらの実験はOECDガイドライン(案)に記載された何項目かを満たさない方法での結果であるが、一応の傾向を掴むことができた。即ち、donor側にcontrolとして20%PG溶液に溶解した0.5mg/mLのMP溶液1mLを用いた実験では、時間の経過と共にreceptor側に透過するMPの量は直線的に増加した。また、今回の検討結果より、試験物質のdonor側のvehicleへの溶解性を考慮することが、in vitro経皮吸収試験を実施する場合の大きな要因であることが示唆された。
C-5) 光毒性試験結果について
Fig. 1にSUNTESTとSOL500の光毒性作用の比較結果を示した。この結果から、キセノンランプを用いた場合、同一のUVA線量を用いても、強い細胞毒性作用が認められることが明らかになった。また、この結果を基にして、キセノンアークランプを光源とした化学物質の光毒性評価試験のための線量として、0.35mW/cm2にて19.05分照射による、0.4J/cm2を設定した。
次に、モデル光毒性物質(8-MOP, CPZ, OFLX, B[a]P)の検出力の結果をTable 2に示した。キセノンランプを装着しているSUNTESTとメタルハライドランプのSOL500では、それぞれのモデル化学物質で得られたIC50値は、B[a]Pを除く3種の物質において、SOL500の方が低濃度であった。特にOFLXの場合は、SOL500照射下では極めて低い濃度(約64000倍)で毒性が現れた。その要因として、OFLXのUV吸収波長と両光源の波長特性の差が考えられた。
SOL500とSUNTESTを比較した場合、光のみの毒性作用はキセノンアークランプを用いたSUNTEST CPSが強かったが、光毒性物質の検出感度は4物質中3物質において、SOL500が優れていた。これは、キセノンアークランプの方が、生物に対する影響が大きいUVBが強いため、照射に強いUVA線量を用いることができず、UVAに吸収を持つ化学物質の光毒性が低下する可能性が考えられる。反対に、UVBを効率よく吸収する分子では、UVB量が大きいSUNTESTの方で光毒性が強く出る可能性も考えられるので、今回、それに該当したB[a]Pについて、吸収スペクトルと光毒性発現について調べる必要があると考えられる
結論
D. 結論
1) 第三回国際代替法会議において動物実験と代替法についてのボロニア宣言が出された。
2) 欧米の行政機関においては、新たに開発された動物実験代替法を科学的に適切に評価し、可能なものについては取り入れていこうという作業が具体的に実施されており、米国では皮膚腐食性試験としてCorrositexRを一部の行政目的には妥当として認めた。
3) OECDはin vitro皮膚腐食性試験、光毒性試験、及び皮膚吸収性試験についてガイドライン案を作成し、各国に送付した。
4) EUにおいては、化粧品分野においては、EU化粧品指令第6次改正に定められる猶予期限(2000,1,1)と動物試験の禁止期限(2000,6,30)がせまり、最終製品に対する試験禁止と原料試験に対するECVAMを中心とする個別対応が、昨年度末時点の方向として示されていた。しかし、EUが抱える種々の政治的な問題から、依然検討保留の状態が続いている。現時点では、第7次改正では時間的な問題から、対処が困難な状況となっており、再度の延期が最も妥当な対処として予測される。また、EUの化粧品原料安全性評価ガイダンス改定第3版において、光毒性、皮膚腐食性、経皮吸収性の3試験法が付属資料に追加されたこと、更に皮膚腐食性との関連においてヒト試験に対する考え方が示されたことが確認できた。
5) OECDのガイドラインに厳密に従ったin vitro皮膚吸収性試験は行えなえず、その適用には柔軟性が必要と思われる。今回得られた結果からは、化粧品や添加物の経皮吸収性については、OECD in vitro経皮吸収試験法ガイドライン(案)により評価できると考えられたが、化粧品や添加物の安全性の評価のためには、1)より多くの物質の静注後の体内動態解析および静注による最大無作用量などのデータの蓄積も必要である、2)皮内滞留性、蓄積性を簡便に類推できる評価法の検討および試験法のバリデーションの観点から、考察に挙げたような項目の改善、簡便化を図り、どのような施設においても行えるようにする必要がある、更に、3)損傷皮膚を用いた経皮吸収性の変化、および適用する処方による経皮吸収性の変化などの予測・検討を行っていく必要がある、と考えられた。
6) 細胞を用いる光毒性試験の代替法は、EU/COLIPA主催で実施された評価試験でin vivo光毒性の結果と良い相関を示すこと、アッセイ法が簡便で、同一プロトコールで実施した場合ほとんどの機関で同様の結果が得られたことから、光毒性物質の予知の面からは、動物実験の代替法として高く推奨できる方法である。しかしながら、光毒性として検出される物質の毒性発現の機構は、化学物質によつて多様である事から、より精度の高いプロトコールを完成させる為に、今後さらに検討する必要がある。また、光源の種類によって、光の細胞毒性作用が異なることが示された。また、化学物質の種類によっては、光源により検出力に差があり、最適な光源が異なることが示唆された。

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