医療用具・医用材料の有効性・安全性・品質評価に関する研究

文献情報

文献番号
199900737A
報告書区分
総括
研究課題名
医療用具・医用材料の有効性・安全性・品質評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
土屋 利江(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 土屋利江(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 井上博之((財)食品農医薬品安全性評価センター)
  • 配島由二(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療用具・医療材料の有効性・安全性・品質評価に関して、多面的な研究が必要である。緊急性の特に高い三つのサブテーマについて四つの目的で研究を行った。第1の目的は、ポリウレタンのソフトセグメント部分構造が2(PEO1000),4(PTMO1000),6(PHMO1000)と規則的に変化させたポリウレタン材料を調製し、発癌性に関するin vitro評価を行い、新しいタイプの低発癌性で生体適合性の良いポリウレタン材料の候補を見出す事である。第2の目的は、これまでの研究から、発癌性が低いと期待される硫酸化ポリウレタンについて、昨年度合成した硫酸化ポリウレタンに比べて、強度が強い硫酸化ポリウレタンを合成するために、ハードセグメント分率が50%のポリウレタンを用いて、硫酸化の置換率の異なるポリウレタンの合成法を検討することである。第3の目的は、硫酸化ポリウレタンについて、ラットでの長期実験を行い、in vitroとin vivoとの相関性を明らかにすることである。第4の目的は、近年急速に進展してきた組織工学を利用した医療技術の発展に寄与することを目的とし、各種天然医用材料の生体影響、特に、発熱を惹起する要因とそのメカニズムの解明を試みることである。平成11年度は、コラーゲン製医療用具により惹起される発熱と代表的な発熱性物質であるエンドトキシンとの相関性について、化学的・生物学的方法により検討する。
研究方法
第1の方法は、ハードセグメントの分率が45%のP2(MDI/PEO1000/BD), P4(MDI/PTMO1000/BD)およびP6(MDI/PHMO1000/BD)のポリウレタン、および、それぞれを構成するソフトセグメントポリオール、合成に使用した触媒について、V79代謝協同阻害試験を用いて、ギャップ結合細胞間連絡阻害活性の有無について試験した。第2の方法は、50%ハードセグメント分率ポリエーテル型ポリウレタンのウレタン結合のプロトンに、プロパンスルトンを置換する方法で、置換率の異なる硫酸化ポリウレタンを合成する方法を用いた。
第3の方法は、ウィスター雄ラットに、ポリウレタンフィルム、10%硫酸化ポリウレタンフィルム、20%硫酸化ポリウレタンフィルムの3種類の材料をラット背部皮下に埋植し、2年間の飼育観察を行い、発癌活性を確認する。
第4の方法は、医療用コラーゲン製品について、ウサギによる発熱性試験、化学分析(脂肪酸分析、2-ケト-3-デオキシオクトン酸分析)エンドトキシン、β-グルカンおよびペプチドグルカンの定量、炎症性サイトカイン産生誘導活性を測定し、発熱と化学分析、生物活性との関係を明らかにする。また、エンドトキシンインヒビターおよび炎症性サイトカイン産生阻害剤を用いて、その抑制効果を確認する。
結果と考察
第1の研究は、、P2およびP6はV79代謝協同阻害活性は陰性であった。P2およびP6を構成するソフトセグメントポリオールおよび合成に使用した触媒は、いずれもV79代謝協同阻害活性は陰性であった。P4は代謝協同阻害活性陽性で、その構成ポリオールであるPTMO1000も強い代謝協同阻害活性を示した。このように、炭素数が2,3,4,6のアルキルエーテルの繰り返し構造からなるポリオール(いずれも平均分子量が1000のもの)では、炭素数3のpolypropylene glycol 1000が擬陽性(1濃度でのみ有意に代謝協同阻害活性を示すもの)を示し、炭素数4のPTMO1000が明らかな陽性を示したものの、炭素数2のPEO1000や炭素数6のPTMO1000はV79代謝協同阻害作用を示さず、阻害作用と化学構造に一定の関係があることを明らかにした。炭素数2,3および6のポリオールでは細胞間連絡を阻害せず、炭素数4のPTMO1000のみが特異的に細胞間連絡を阻害する理由は明らかではない。しかし、細胞膜中にあるギャップ結合連絡を構成しているコネキシン蛋白との相互作用がPTMO1000が有する物理化学的性質において最も阻害的に作用しやすい結果をもたらすためであろう。PEO1000やpolypropylene glycol 1000では、極性が高く、かつ、負に荷電したエーテル性酸素の荷電密度が高いため、細胞膜との相互作用が生じにくく、ギャップ結合連絡機能が妨げられなかったものと考えられる。PHMO1000では、ヘキサメチレン基ゆえに、PTMO1000よりも脂溶性が高く、溶液状態では解けにくくなるために、ギャップ結合連絡機能に及ぼす影響を検出しにくい可能性がある。第2の研究は、ハードセグメント分率50%のポリエーテル型ポリウレタンのウレタン結合部位のNに、6.2%、13.2%および24.4%の予測した置換率でプロパンスルホン酸基を置換する事ができた。ポリウレタンはポリエーテル型であるが、ウレタン結合に隣接したメチレン基が最も生体内で酸化されやすいと考えられているが、陰イオン性のプロパンスルホン酸基をウレタン結合部位に導入することにより、そのような酸化分解が抑制される事が期待される。また、ポリウレタンの硫酸化率と血小板の粘着量とは、逆相関し、硫酸化率が高い程、抗血栓性も優れていることが報告されている。合成した硫酸化ポリウレタンでの低発癌性を動物実験で検証できれば、生体適合性に優れたポリウレタン材料用具の開発および市場化を促進する可能性がある。第3の研究は、未修飾ポリウレタンおよび2段階の置換率で硫酸化したポリウレタンについて、ラットでの埋植試験を開始した。術後の経過は良好であり、いずれの群にも一般状態に異常を示す動物は認められていない。第4の研究は、エンドトキシンに普遍的に存在する成分である2-ケト-3-デオキシオクトン酸が、コラーゲン製品から抽出した一部の試料中に存在する事をGC-MSで確認した。試験に使用したコラーゲン製品10製品の中で、2製品の抽出液は、ウサギでの発熱性物質試験陽性であり、それぞれ製品1g中に242 EUと2,200 EUのエンドトキシンに相当する発熱性物質が含まれている事が明らかになった。発熱陽性のコラーゲン製品抽出液では、炎症性サイトカインであるIL-6のヒト単球様細胞株MM6-CA8からの産生が誘導された。また、同抽出液をエンドトキシン吸着除去カラムで処理すると、サイトカイン産生誘導活性および発熱活性が消失する事も確認した。発熱陽性のコラーゲン製品の場合、ヒト単球様細胞に対するIL-6産生誘導活性は、中和型インヒビターであるCAP-18では阻害効果に限界があるが、強力なインヒビターであるB-464は、いずれの製品抽出液についても、IL-6産生誘導活性を完全に阻害した。これらの成績から、抽出液中のIL-6産生誘
導物質はエンドトキシンであること、すなわち両コラーゲン製品中に存在する発熱性物質は混入しているエンドトキシンであることがほぼ確実になった。 エンドトキシンが多く検出された製品は抽出により融解しており、融解により内在するエンドトキシンの抽出効率が上昇した可能性も考えられる。体内に埋入されてしまうタイプのコラーゲン製品については、製品内部のエンドトキシンも検出可能な抽出法を今後検討する必要が考えられる。
結論
ソフトセグメントの炭素数が異なるポリアルキルエーテルポリウレタンについて、V79代謝協同阻害試験を実施した。その結果、ソフトセグメントがPEO1000およびPHMO1000からなるポリウレタンは、細胞間連絡を阻害せず、これらのポリオール単独でも細胞間連絡を阻害しないことが明らかになった。しかし、PTMO1000からなるポリウレタンはV79代謝協同阻害活性を示し、PTMO1000単独でも細胞間連絡を強力に阻害することが明らかになった。ハードセグメント分率50%のポリエーテルウレタンに、3段階の置換率でプロパンスルホン酸基をウレタン結合窒素に導入した。天然由来医用材料の安全性を調査するために、コラーゲン製医療用具の使用により惹起される発熱の要因とメカニズムの解明をおこない、製品により惹起される発熱は、汚染したエンドトキシンに由来することを明らかにした。

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