廃棄物ライフサイクルにおける有害化学物質のリスクアセスメント手法の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900708A
報告書区分
総括
研究課題名
廃棄物ライフサイクルにおける有害化学物質のリスクアセスメント手法の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
田中 勝(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 井上雄三
  • 山田正人
  • 市川 勇(以上国立公衆衛生院)
  • 木苗直秀(静岡県立大学)
  • 小野芳朗(岡山大学)
  • 吉野秀吉(神奈川県環境科学センター)
  • 小田美光(大阪公衆衛生研究所)
  • 天沼喜美子(国立環境研究所 科学技術振興重点研究支援協力員)
  • 酒井康行(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.有害物質の環境移行評価手法の開発:US-EPAの有害化学物質のリスク管理のための優先順位付け手法を例にしてわが国における有害化学物質の生産量とフロー及び蓄積量を把握・管理するためにどの化学物質から行ったらよいかという、優先順位付けの手法を明らかにするとともに、開発したSFAを考慮した有害物質の環境移行モデルの検証と修正を行う。2.有害物質の毒性評価手法の開発:細菌試験系の適用性、標準化、簡易化に関する検討、魚類を用いた最終処分場浸出水モニタリング系の開発及び試験結果の評価手法の検討を行う。
研究方法
1.有害物質の環境移行評価手法の開発:US-EPAのchemical ranking report(Project Number 92U-7200-001)を中心に、優先順位付け手法に関する文献調査を行い、優先順位付け手法の構造を明らかにし、わが国における利用できる情報を整理する。また、環境移行モデルによる鉛の各コンパートメントへの分配・蓄積は、当該コンパートメントからの分配係数によって著しく影響を受ける。そこでここではSFAによって得られた結果を既存のデータに基づき評価し、係数の選定によって対応できるのか、それともモデル自体の改良が必要かどうかを評価する。 2.有害物質の毒性評価手法の開発:(1)細菌試験系の適用性、標準化、簡易化に関する検討;Ames試験はサルモネラ菌を用いた復帰変異原性試験である。菌株は、塩基対置換型TA98、フレームシフト型TA100株を用い、試料への曝露はプレート法で行い、焼却灰および浸出水試料の抽出・濃縮が試験系に与える影響を調べた。umu試験は大腸菌のSOS修復を利用した試験系である。MRL試験もumu試験同様、大腸菌のSOS修復を利用した試験系である。今回はマイクロプレート法の適用への試験手順の改善をのため、オリジナルの試験操作を変更し、S9無添加の試験系を用い、陽性対照として用いられるMitomycin CおよびNitroquinoline 1-oxideについて応答特性を調べた。(2)魚類を用いた最終処分場浸出水モニタリング系の開発;浸出水排出口に魚類を直接飼育して試験を行う際のいくつかの問題について検討した。浸出水試料には一般廃棄物の焼却残渣を受け入れている処分場より、浸出水処理施設の消毒過程直前の処理水を用いた。試験物質としてはMethylmethanesulfonate、Trp-P-2、1,2-Benzopyreneを用いた。 (3)トランスジェニックゼブラフィッシュ系の開発;曝露後は、飼育水で洗浄し、数日間飼育して変異を定着させた。(4)動物細胞を用いた試験による評価;河川水試料ならびに浸出水試料を用いて、試験結果より、毒性に関与する化学物質を推定する手法について検討した。浸出水では、未処理浸出水を用い、オゾン処理、活性炭吸着処理を行ったもの、またゲルカラムを用い分子量分画を行ったものについて、ヒト正常細胞であるTIG-1を用いたAP法にて細胞生存率試験を行った。
結果と考察
1.有害物質の環境移行評価手法の開発:廃棄物管理における有害化学物質の対策を行うために、化学物質に優先順位を付ける方法について検討した結果、わが国にはこのような手法がないことが明らかにされた。そこでこのような手法について調査したところ、US-EPAが開発していたので、この報告書を詳細に検討した。この優先順位付けの特徴は、①PBT Characteristics、②Environmental Presence、③Quantity / Prevalence、④RCRA Programmatic Concernの4つの基準を提案して、これらを156種類の
化合物に対してある適当な境界値を3~4つ付けて0,1,2,3というような離散的な点数付けを行い、これらを足し合わせて合計が最高100点となるようにアルゴリズムを作ったことにある。このアルゴリズムによって156種類の化合物の順位が付けられるとともに、これらの基準値を一つ一つ落とした場合の順位の変動特性を調べて、本手法の有効性が検証された。その結果、総スコアは2-methoxy-5-nitrobenzenamineの8.3から鉛の94.4である。また、昨年構築したサブスタンスフロー解析SFAの検証を行った結果、産業廃棄物最終処分場への著しい鉛の蓄積が起こり、これが実際の現象と異なることから、モデルの修正の必要性が明らかにされた。そこで分配係数を変化させたときの分配量の変動を検討したが、実際の現象を表すまでには至っておらず、モデルのさらなる修正の必要性が明らかにされた。 2.有害物質の毒性評価手法の開発:(1)細菌試験系の適用性、標準化、簡易化;Ames試験については焼却灰の溶媒抽出液をカラムクロマトグラフィーで分画したり、有機溶媒による連続抽出を用いて精製しても抽出原液より変異原性の検出感度が高くなることはなかった。浸出水中の変異原性物質を8種類の吸着樹脂で濃縮したところ、ブルーキチンやPorapak Rdx等の選択的に物質を捕集できる樹脂で不明確な変異原性が認められたにすぎず、浸出水の最適な濃縮樹脂を特定することはできなかった。また、複数のPAHsをAmes試験に供した場合、変異原性強度に対する相乗作用は認められず、ほとんどが各単体の変異原性強度を加算した相加作用であること、またPAHsや飛灰の変異原性は、太陽光による影響はほとんど認められず、特に焼却灰では太陽光に対して安定であることがわかった。umu試験については、親株ではS9非存在下で1,4-Dichlorobenzene、2,4,6-Trichloro-phenolの遺伝子毒性が検出されたが、GST高産生株では今回用いた化合物の遺伝子毒性を検出できず、有機塩素系化合物の遺伝子毒性の検出に適当でないことがわかった。MRL試験については、マイクロプレート法で現在のところリファレンス物質に対して試験管法の1/2程度の感度が得られている。ここでは、エンドポイントを測定する反応基質が、近接する他のウエルの発光量に影響することがわかった。また、文献レビューより、開発中また実用化段階にある試験技術を調べ、いくつか自動簡易化の方向性を示した。(2)魚類を用いた最終処分場浸出水モニタリング系の開発;コメットを用いた魚類小核試験では、金魚を試験魚類として用いる場合、飼育する水の電気伝導度を900 mS/m以下にする必要があること、また、リファレンス物質の腹腔内投与にすることによって現場で感度を補正できる可能性が示された。和金を用いた魚類小核試験と魚類コメットアッセイでは、コメットアッセイを行う場合、試料への暴露時間は3時間、末梢血で検定する場合、電気泳動は30V、24分、DNA unwinding時間は15分が最適であることを明らかにした。実際にごみ焼却施設や最終処分場の放流水に金魚を暴露しながら飼育したところ、コメットアッセイでは6日目、小核試験では9日目にいずれも最大誘発頻度を示すことがわかった。トランスジェニックゼブラフィッシュでは、トランスジェニック魚の胚を、benzo[a]pyrene、 2-amino-3,8-dimethylimidazo[4,5-f]quinoxalineに曝露し、濃度依存性、再現性について検討した結果、両者とも、濃度依存性があること、突然変異頻度を有意に上昇させることが明らかになった。さらに、B[a]Pによって生じた突然変異の一部について、塩基配列を決定した。(3)試験結果の評価手法の検討;物細胞を用いた試験では確立したプロトコールにそって,河川水に対する試験系の応答曲線を、化学分析値、化学品に対する試験系の応答曲線と比較、解析したところ、当該河川水における毒性支配物質の候補として、アニリンを挙げることが出来た。また、国内埋立地浸出水についてオゾン処理による毒性削減効果を評価したところ,残存毒性は原水よりも高くなる一方であり,活性炭処理による毒性低減もわずかであった。数世代ラットを用いた生殖機能の評価では、
1世代目のラットでは、血液中の男性ホルモン以外の性ホルモン濃度の減少傾向が示された。
結論
1.有害物質の環境移行評価手法の開発:UE-EPAの化学物質優先順位付けモデル-Chemical ranking methodが、廃棄物管理における有害化学物質の対策の優先順付けに非常に有効であることが判明した。また、優先順位付けの一つの基準となるEnvironmental presenceに関するわが国の出現特性を最終処分場の浸出水及び放流水について示した。一方、モデルの改良に関する検討では、実際の産業廃棄物最終処分場への鉛の調査からは計算値のような蓄積の傾向は示されず、モデルの改良の必要性が明らかとなった。 2.有害物質の毒性評価手法の開発:手法に細かい問題点はいくつか指摘されているものの、ほとんどの手法の標準化が進んでおり、現場での試験の検証を通して、試験結果の大きさと対策レベルの対応付け、また、応答に関与する毒性物質の絞込むロジックを組み上げ、現場管理ツールとしての手法を簡易化、システム化することが今後の課題となる。

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