食中毒予防対策のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199900702A
報告書区分
総括
研究課題名
食中毒予防対策のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
玉木 武(社団法人 日本食品衛生協会)
研究分担者(所属機関)
  • 藤原 真一郎(国立公衆衛生院)
  • 小沼 博隆(国立医薬品衛生研究所)
  • 難波 吉雄(東京大学大学院医学系研究科)
  • 小早川 隆敏(東京女子医科大学)
  • 齋藤 行生((社)日本食品衛生協会食品衛生研究所)
  • 山本 茂貴(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
26,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
主任研究者 玉木 武:HACCP普及推進に関する研究及び小児食中毒に関する文献検索及び食中毒患者への対応に関する考察
わが国では、平成7年の食品衛生法改正によりHACCPシステムを組み込んだ総合衛生管理製造過程による食品の製造等の承認制度が導入され、現在、5つの食品が対象となっている。そこで、HACCP導入4年が経過したことを踏まえて、食中毒の発生を限りなく少なくすることを目的に食品営業の全分野に適用できるHACCPの具体的な手法等について、学識経験者、専門家で構成する「HACCP普及推進研究会」を組織した。また、HACCPの効果を検証する目的で、そのメリット、問題点等について、総合衛生管理製造過程による承認を受けた工場に対し、アンケ-ト調査を行った。また、小児食中毒に関する文献検索及び食中毒患者への対応に関する考察においては、飯倉洋治氏(昭和大学医学部教授)を研究協力者として、①小児での食中毒の特徴を解析するために、日本における小児での食中毒の発生状況とその対策に関して、過去10年間に発表された論文の検索を行い、②アレルギ-性疾患をもつ小児は非常に多く、増加傾向にある点を考慮し、腸内細菌叢に及ぼすアレルギ-性疾患の影響を乳児を中心に解析した。
分担研究者及び研究テーマ=分担研究1:藤原 真一郎(国立公衆衛生院)=HACCP導入モデル及びマニュアル作成に関する研究、分担研究2:小沼 博隆(国立医薬品衛生研究所)=調理施設と食品製造業における衛生管理に関する研究、分担研究3:難波 吉雄(東京大学大学院医学系研究科)=高齢者における食中毒の臨床的特徴とその対策に関する研究及び諸外国の食中毒事例における各国の行政対応に関する研究、分担研究4:小早川 隆敏(東京女子医科大学)=集団感染を起こし得る水系由来の下痢性疾患に対する総合的研究-その疫学と発生防止-、分担研究5:齋藤 行生((社)日本食品衛生協会食品衛生研究所)=中毒原因物質同時分析法のマニュアル作成、分担研究6:山本 茂貴(国立公衆衛生院)=食中毒等の経済的損失の評価に関する経済疫学的研究
分担研究1:わが国における食中毒発生の主要な原因施設である調理施設に対しては、これまでも食中毒防止対策が重点的に講じられてきたにもかかわらず、食中毒の発生は増加傾向にある。現在、各方面から調理施設に対してもHACCP導入を促進するべきとの指摘があるが、現状では種々の問題点が存在し、HACCPシステムが機能しないことが予想される。本研究は、調理施設にHACCPシステムを適用する際に営業者等を支援する有用な資料となるHACCP導入のモデル、マニュアル類を作成することを目的とし、本年度は、調理施設においてHACCP導入を促進するための基盤となる組織的な衛生管理を充実強化するための手法について調査検討した。
分担研究2:調理施設におけるドライシスムとは、調理環境を乾いた状態に、しかも室内の給排気と温度管理を適切に維持するシステムで、衛生面、作業者の健康面、作業の能率面等において有効なシステムであると考えられている。しかしながら、ドライシステムの導入による衛生面での効果、特に調理施設内の微生物検査に基づく有効性について調べた情報はないのが現状である。そこで今回は、ドライシステムの衛生面での有効性を調べることを目的として、ウエットシステム又はドライシステムを導入している関東地区の小学校給食を対象に微生物検査を中心とした調査を行った。
分担研究3:高齢者の食中毒について、どのような特徴があるかを明らかにすることにより、高齢者の食中毒対応マニュアルの作成について検討した。又、諸外国の食中毒事例についてもその特徴、行政対応等を明らかとすることで我が国における新たな食中毒に対応するシステム構築を目指す。
分担研究4:本研究においては新たな水質問題の中で新興・再興感染症として集団感染を起こし得るクリプトスポリジウム、赤痢アメ-バ、ランブル鞭毛虫を対象としてまずその疫学的情況を明らかにするが、とりわけ国内外で近年集団発生を起こし公衆衛生学的かつ、新興感染症として問題になっているクリプトスポリジウムは、情報収集のみでなく国内居住者及び海外よりの帰国者に対する糞便検査、さらには国内の平均的住宅地域に供給される水道浄水及び原水に対する汚染検査も行い、その特徴を明らかにする。さらに新たな数種の薬剤を用いてクリプトスポリジウムのオ-シストに対する消毒効果及び赤痢アメ-バ症に対する免疫学的診断法としてdot-FLISA法の有用性も検討した。
分担研究5:過去に多くの食中毒が発生しており、多くの知見が諸所に蓄積されている。これらの知見を収集して整理し、見やすいように体裁を整えておけば、これらの知見は新たに食中毒の発生時に早期に原因を検索し、対策を講じるうえで有用と考えられる。
分担研究6:1996 年学校給食を原因として堺市で発生した腸管出血性大腸菌0157:H7による食中毒事件の患者数は、9,492人に及び3人が死亡した。この食中毒で死亡した1名の学童の両親が学校給食を提供した堺市に約7,800万円の損害賠償を求めて訴訟を起こしたが、この裁判では死亡した学童に対して約4,530万円の支払いが命じられ、食中毒の及ぼす経済的損失は社会的にも大きな関心がもたれた。このように食中毒や食品媒介感染症等の事件が発生した場合、食品業界をはじめ社会に与える経済的影響は極めて大きいが、多くの食中毒事件における経済的損失についての報告は少ない。これまでの食中毒統計では、患者数や発生件数は集計されているが、それらを基にして行政が対策の優先順位を決めるだけでは不十分であり、経済的損失をも考慮し、費用便益の考え方を導入した対策を進めなければ効率的な行政は行えないと考える。今回、小学校の給食を原因とした腸管出血性大腸菌0157事件における経済的損失について損失額の算出を行った。
研究方法
主任研究者:HACCP普及推進に関する研究については、HACCP普及推進研究会を4回開催し、(1)HACCP推進に関連する企業の業種名のリストアップとその役割(2)HACCP制度導入が衛生管理のうえで有効と考えられる企業種名(3)HACCP制度導入企業における衛生管理上のメリットと問題点(4)HACCP承認企業およびその関連団体に対する技術的フォロ-アップの必要性の是非とフォロ-アップの内容(5)クリティカルコントロ-ルにおける記録管理の手法の確立(6)外部、内部精度管理の方法とその実施のシステム(7)HACCPとGMP関連の諸問題(8)その他関連する問題を検討した。また、総合衛生管理製造過程による承認工場402施設を対象に別紙のアンケ-ト調査を行った。
小児食中毒に関する文献検索及び食中毒患者への対応に関する研究に関する考察については、①文献検索:小児食中毒をキ-ワ-ドに日本での発症例について論文になっているものを検索した。②正常乳児及びアレルギ-疾患児を対象とし、便に含まれる細菌を分離・培養した。分離された菌種、細菌数及び細菌の出現率を正常児、アレルギ-児において差が認められるかを検討した。
分担研究1:調理施設の現場調査及び経営者、管理者等との意見交換を通じて、特に、弁当製造又は当該製品の流通販売における現時点での衛生管理の実状を把握するとともに、調理施設において、HACCP導入に取り組む前提として必須と考えられる一般的衛生管理の基盤整備を当該施設自らが実施するための具体的方策について考察した。
分担研究2:ウエットシステム又はドライシステムを導入している関東地区の小学校給食施設を対象に床、壁、作業台等のふき取り検査、床溜まり水等の採取検査、浮遊菌数、浮遊粒子数の測定、温湿度測定等の調査および高温・高湿度の環境に食品原材料や洗浄水が暴露されたときを想定した実験を行った。
分担研究3:厚生省食中毒統計を用いて、70歳以上の高齢者について原因物質、原因食品別等に検討を行った。
分担研究4:現時点での内外における疫学情報は、国立感染症研究所感染症情報センタ-の協力のもとに、WHO、CDC、ICDDR、B(バングラデシュ国際下痢疾患研究センタ-)その他インタ-ネットを用いて海外よりの情報と、また、厚生省への感染症発生動向調査による国内情報を得てその動態を総合的に解析する。糞便検査による疫学調査は、初年度国内の実態把握を行うべく、東京女子医大を訪れた患者の下利便及び軟便を用いて行った。2年以降は厚生省成田空港検疫所及び青年海外協力隊の協力のもとに帰国者の糞便を検査する予定である。原水及び水道浄水におけるクリプトスポリジウム汚染の検査は、奈良県衛生研究所の協力もとに原水浄水のうち濁度1以上の原水をスクリ-ニング検査として蛍光抗体法、精密検査としてPCR法を用いている。また、クリプトスポリジウムのオーシストに有効な消毒剤を検討する目的でアルコ-ル系、第四アンモニウム塩系、グリシン系、両性界面活性剤系、ピグアナイト系(2種)、アルデヒド系(2種)、塩素系(2種)フェノ-ル系10種薬剤を用いて感染ラットを検討している。さらに、dot-ERISA法の赤痢アメ-バ症に対する免疫診断法としての有用性に関する検討が行われた。術式は天野らの方法に準じて、ニトロセルロ-ス膜に、赤痢アメ-バ抗原に加えて特異性の検討のための肝蛭の抗原液及び反応陽性対象健康人血清を用いて行った。
分担研究5:国内外の総説及び学術論文等、諸所に存在する中毒情報を収集し、各中毒原因物質の特性を視覚的に把握できるように整理した。分析法については、簡便正確を心掛けた。従って、毒性の強い魚介類等を除く他の物質についてはことさら分析感度を高めることはしなかった。
分担研究6: 総医療費、学童に支払われた補償保険額、治療の際に要した交通費、給食停止による損失額(食材購入費、人件費、光熱・水道費等)、事件発生後の給食施設の改善費及び備品等の購入費、また事件発生時の患者診断・原因究明等の検査費用、原因究明班会議等について、関係機関からこれらの経済的損失に関する資料を入手した。
結果と考察
主任研究者:HACCP普及推進に関する研究については、基本的事項として(1)HACCPに関連する人たちは、HACCPに対する共通の概念の認識が必要である。(2)業種及び製造する製品によって条件に差があるため、HACCPのレベルの差というより、知識と条件に差がある。(3)HACCPは、企業がその必要性を調査検討し、その企業にあったHACCP手法を考え出し、承認を受けることにより承認内容の実行を厚生省に約束することであり、保健所の食品衛生監視員の行政指導下に置かれるものではない。(4)HACCPの対象分野は、食品営業の全分野に応用できるものとして実施していくべきものである。(5)HACCPに関する資料で有用性のある資料、コ-デックス関係、トレ-ニング関係、民間の認証制度関係、有識者の考えなどを広く公開していく必要がある。検討した事項としては、(1)米国では、リテ-ルマ-ケットや小売業までタ-ゲットしたガイドラインを用意しており全業種をHACCP対象と視野に入れている。from Farm to Tableの観点から、わが国においてもすべての食品企業にHACCPを導入すべきと考える。(2)クリティカルコントロ-ルにおける記録管理の手法については、まず記録から始めようという考えにたって進められており、その重要性を再認識するとともにその記録のあり方については、業種ごとに異なる部分があるので、各々の業種ごとに、記録内容について精査検討する必要がある。(3)食品衛生法において政令指定業種となっている34業種については、都道府県知事からの営業許可によって所定の衛生レベルにあることが担保されているので、そのままの状態でHACCPプランを実施できる状態とみなしてよいと考える。(4)34業種以外の製造業種においては、現状でもHACCPをスタ-トできるが、その際、施設面での管理の行き届かない部分のあるおそれがあり、そのような場合にはソフト面での一層の管理を行わなくてはならず、HACCPプランは、より広範囲なものになる可能性がある。(5)HACCP導入にあたって施設設備面を現状より改善したいと計画している工場においては、法20条の規定による施設基準の内容をより一層充実するよう自らの施設を整備・改善することである。それによってHACCPプランがより効率的に実施できる。さらに高度なレベルを追求したり、国際的同等性を求めたい場合は、弁当・そうざいの衛生規範に掲げる基準、EUの衛生基準、米国GMP規則、コ-デックス食品衛生一般基準などがある。(6)工場の施設設備の改善は、顧客ニ-ズを始め、社会責任等に基づき、その企業としての長期計画や収益性を勘案して、経営者が主体的に判断して、取り組むものである。(7)HACCPプラン、一般的衛生管理の両方に示された「食品の衛生的な取り扱い」のための管理事項を適切に組み合わせて実施することにより、また、自主管理により「食品衛生法第19条の18第2項の規定に掲げる基準に基づき各営業者が基準を定めるにあたって参照すべき管理運営基準準則」を満足させ、食品営業者の自己責任を果たすことができるものと考えられる。(8)政府以外が行う認証制度及び教育が今後の問題である。(9)総合衛生管理製造過程の承認企業におけるメリットと問題点についてのアンケ-ト調査結果は次のとおりである。①メリット:製品に対するクレームの減少、製品の知名度が上がった、取引先が増加した、製品の品質がよくなり品質期限が延びた、製品のロスが少なくなった、ラインの効率が上がった、従業員の衛生管理に対する意識が向上した、原材料生産者・流通業者・小売店への指導内容が変わった、従業員の協力体制が確立した。②問題点:製品コストが上がった、製造時間が延びた、設備投資による収益が圧迫した、人員の増加が必要になった。
また、小児食中毒に関する文献検索及び食中毒患者への対応に関する考察では、①文献検索 過去10年間の論文では、病原微生物としては腸管出血性大腸菌0157、天然物質としては、銀杏による食中毒が最も多く報告された。食中毒原因物質としての銀杏の危険性が明らかとなった。
②正常乳児27人、アレルギ-乳児19人を検討した。好気性菌5種類(Enterobacteria、Enterococci、Staphylococci、Pseudomonas、Corynebacteria)、嫌気性菌7種類(Bacteroides、Bifidobactera、Lactobacilli、Eubactreria、peptococci、Veillonella、Clostridia)真菌1種類(Yeast)を同定した。正常乳児とアレルギー児との間において、Staphylococciについてその菌数に有意差を認めた。また、正常乳児とアレルギ-児との間でLactobacilli、Eubactreria及びYeastの3種類の菌数、Bifidobacteraの出現率についてアレルギ-児において低い傾向を認めた。人において正常乳児とアレルギ-児との間で腸内細菌叢の差を認めており、アレルギ-の発症と腸内細菌叢の構成の変化の間に何らかの関与があるのではないかと考えられた。                                         分担研究1:調理施設における一般的衛生管理の基盤整備にあたっては、当該施設において、どの程度の衛生管理水準を目標とするのか、自ら決定して、それらを安定して確実に達成しうる衛生管理システムを構築しなければならない。すなわち、これらの一般的衛生管理事項は、当該施設の経営者の方針、構造設備、使用する原材料、製造加工方法、従事者の能力等に応じた固有のものであるとともにフレキシブルなものであり、一般的衛生管理事項とそれらを実施するためのプログラムは、当該施設の実状に適応したものを自ら決定し、作成し、実施しなければならない。しかしながら、実際には、調理施設における一般的衛生管理の実態がHACCP導入に進むために十分ではないとその管理責任者等が認識している場合、具体的にどのような手順で問題解決又は衛生管理内容の改善を進めていくべきなのか、この点に調理施設の現場における逡巡や疑問点が集中していると考えられた。この問題を解決するため、衛生ソフト面を再構築する観点から、一般的衛生管理を自ら改善する手法とステップについて考察した。
分担研究2:①冬場における調査では、気温が低かったこと、調査時に十分な洗浄が行われていたことなどにより、K、Y小学校とも全体に大腸菌群、大腸菌、黄色ブドウ球菌、サルモネラ等はほとんど検出されず、顕著な差を認めることはできなかった。しかし、夏場における床面の微生物汚染調査では、、Y、K両小学校の床面の菌数は、高い場所が多く、大部分が104~107/100cm2と冬場の床面に比べて10倍~100倍高く認められた。特にウエットシステムを採用しているK小学校では、夏場の床面の菌数は、15カ所中7カ所が107/100cm2以上を示し、そのうち2カ所は108/100cm2以上を示した。
②夏場における壁面(床上0cm、50cm、100cm)の微生物汚染調査では、Y、K両小学校の壁面の菌数は冬場に比べて高い場所が多くみられた。特にウェツトシステムを採用しているK小学校では、床上0cm:104~106/100cm2、床上50cm:101~104/100cm2と床上100cm:<101~101/100cm2と床上0cmと100cmの差が10万倍以上に認められた。
③腸管出血性大腸菌0157:H7やサルモネラなどが属するグラム陰性桿菌の汚染菌数を調べたところ、ドライシステムの運用を試みているY小学校の給食施設床面の菌数は、101~103/100cm2に対し、ウエットシステムを採用しているK小学校の給食施設床面の菌数は、102~106/100cm2と10倍から100倍多く認められた。
④調理施設内の浮遊菌数及び浮遊粒子数を調べたところ、両施設とも一般細菌数:100㍑当たり5~26個、大腸菌群数:100㍑ 当たり0~1個と変わりなかった。しかし、浮遊粒子数は、ドライシステムの運用を試みているY小学校の給食施設では、1立方フィ-ト(/FT3)当たり20,000程度に対し、ウエットシステムを採用しているK小学校では、1立方フィ-ト(/FT3)当たり214,800~348,240とやや高めであった。
⑤ウエットシステムの調理施設内環境は、ドライシステムに比べて湿度が高い。そこで、高温・高湿度の環境に食品原材料や洗浄水が暴露された時を想定した実験を試みた。
その結果、豚肉ドリップの10℃放置では、湿度60%放置ならびに90%放置ともにドリップ中の微生物は48時間まで変化がみられなかった。しかし30℃放置では、湿度60%放置では、48時間までの菌数の変化はみられなかったが、湿度90%放置では、0時間に比べ24時間後に1,000倍以上に増加した。又、野菜洗い液の10℃・湿度60%放置では、洗い液中の微生物は、48時間まで変化がみられないかまたは減少傾向がみられた。しかし、10℃・湿度90%放置では、24時間後に100倍、48時間後に1,000倍以上に増加した。さらに30℃放置では、30℃・湿度60%放置では、洗い液中の微生物は48時間まで変化がみられなかったが、30℃・湿温90%放置では、0時間に比べ24時間後に10,000倍、48時間後に100,000倍以上に増加した。以上の結果から、調理施設におけるドライシステムの有効性が認められた。
分担研究3;全食中毒患者における70才以上の患者のしめる割合では、平成8年以降、全食中毒患者における70才以上の患者のしめる割合は、増加傾向を示した。70才以上の食中毒患者の原因物質別に見た場合、70才以上の患者全体に比して細菌によるものが多くウイルスによるものの割合は少なかった。なお、平成10年における原因細菌別食中毒患者数割合では、全体では、上位より腸炎ビブリオ、サルモネラ菌属、その他病原性大腸菌、ウエルシュ菌、カンピロバクタ-、ブドウ球菌の順であったが、70才以上では、腸炎ビブリオ、サルモネラ菌、ウエルシュ菌、ぶどう球菌、その他の病原性大腸菌、その他の順であった。70才以上の食中毒患者の原因別食品別に見た場合、70才以上の患者では魚介類の割合が高く、菓子類の割合が低い傾向が見られた。これらのことから、高齢者の食中毒患者では、原因物質、原因食品等において、一般とは違う傾向を有する可能性が示唆された。これらの傾向が、高齢者の特徴かどうを判断するためには、年次による変化を観察する必要があると思われる。また、併せて諸外国における高齢者の食中毒患者の特徴も検討し、わが国の状況と比較することも必要と考えられた。
分担研究4:クリプトスポリジウム症に関する国際的な疫学情報として、集団発生は、1984年より1999年の間28回知られ、国別には米国13回、英国11回、それぞれ2回は日本、オ-ストラリアで総罹患数は約45万人である。国内的には、ジアルジアに関しては平成11年4月より平成12年3月20日現在まで、届け出数は60例である。クリプトスポリジウム症に関しては平成11年4月より平成12年3月20日現在まで、届け出数は、7例である。バングラデシュ国際下痢センタ-(International Centre for DiarrrhoeaI Disease Research BangIadesh:ICDDR、B)において下痢性疾患におけるクリプトスポリジウムの関与を調べる研究が行われ下痢を訴える1,382人の3%にオ-シストが認められたが、下痢の症状を有さない235人には認められなかった。さらに下痢性疾患におけるアメ-バ赤痢の関与を調べる目的で、2,036人の小児を対象とした研究も行われた。下痢を有する小児1,049人、症状のない987人おいて、検鏡にてEntamoeba Histolytica/Disparを拾い上げ、Enntamoeba HistoIytica抗原の確認をキットを用いて行った結果、有症状小児の4%が 原虫陽性だったのに対し、無症状の小児では1%が陽性であった。国内の実態調査把握に関しては本年度東京女子医科大学中央検査部臨床検査科において618例の糞便検査を行い、赤痢アメ-バ5例、ランブル繊毛中3例が検出された。クリプトスポリジウムは、115例の下痢便、軟便検体に対し検査を行ったが、全例陰性であった。奈良県衛生研究所の協力を得て、水道洗浄水及び原水におけるクリプトスポリジウムの調査を行った。対象は浄水及び原水のうち、濁度0,1度以上の原水を対象とした。平成11年度は16地点を対象に調査を行った。その結果大和川水系の葛城川で浄水の原水中にクリプトスポリジウムの汚染を検出した。しかしながらその浄水中からは本原虫は検出されず、また同浄水使用住民からのクリプトスポリジウム由来の下痢症は発生は報告されなかった。
分担研研究5.過去において食中毒の原因となった物質、あるいはその懸念のある物質を選択し、原因物質の迅速な同定を目指して情報の収集整理しカ-ド化を試みた。まず、大項目として次の4テ-マに分類した。
(1)農薬等の化学物質の分析 (2)有害金属の同時分析法 (3)キノコ毒性分の分 析法 (4)食中毒に関与する魚介類の種類とその分析法
上記テ-マに含まれる100種の有害物質について、化学特性、毒性特性及び分析法を中心に整理した。
分担研究6.総医療費は6,599,797円、補償保険金額は、5,984,100円、治療のための交通費は152,110円で、医療関連費用の合計は、12,736,007円であった。食材購入にかかる損失は16,040,470円、給食停止期間に給食関係職員に支払われた人件費は12,867,848円、事業主負担共済等費は1,450,117円であった。給食停止期間で給食施設での使用が予想されたLPガス料金は452,982円、電気料金は91,628円、水道料は306,347円であった。また、洗剤等雑品費は、257,037円であった。施設改善費用(備品費を含む)は12,414,903円であった。検査費用は、3,926,918円、会議費等は1,589,800円であった。以上を合計して損失額の総計は、62,134,000円であった。                                                              
結論
主任研究者:HACCP普及推進に関する研究 食品営業の全分野に適用できるHACCPの具体的手法およびHACCP導入の効果を検証するために、メリット、問題点を広く業界関係者に伝える必要がある。小児食中毒に関する文献検索及び食中毒患者への対応に関する考察については、①文献検索:過去10年間の日本での小児での食中毒の論文発表の中で、病原性大腸菌によるものと、銀杏によるものが多い。②人において正常乳児とアレルギ-との間で腸内細菌叢の差をみとめた。
分担研究1.調理施設におけるHACCPモデル、マニュアル類作成のため、弁当製造施設を対象として、一定の献立と調理方法、定刻の製品出荷を前提とした衛生管理の手法について関係営業者等の協力を得ながら調査を実施した。その結果、現状では直ちにHACCP導入を図ることは困難であっても、調理施設自らが衛生管理体制の充実強化と管理内容の改善を図るため、段階的に取り組むべき普遍的なステップないしは手段が存在すると考えられた。
分担研究2.国内において従来一般的に行われてきた、調理施設のウエットシステムによる運用をドライシステム化することの有効性を調べることを目的として、小学校のウェツト及びドライシステムを採用している調理施設について、主に微生物学的衛生状態の調査を行った。また、豚肉ドリップ及び野菜洗い液を用いて、乾燥による細菌の消長試験を行い、以下の結論を得た。
①細菌数は、一般細菌、大腸菌群、グラム陰性菌ともにウエットシステムの方が菌数は高かった。特にグラム陰性菌については、約100倍の差があった。また、大腸菌群はドライシステムでは、ほとんど検出されなかったのに対し、ウエットシステムでは、検査対象中約60%から検出され、ドライシステムの有効性が認められた。
②温湿度変化、浮遊菌数及び浮遊粒子数は、開放系では、主に外気の影響を、密閉系では空調設備の影響を受けていると考えられた。空調設備も含めたドライシステムでは、より制御された環境が維持されていることが示唆された。
③豚肉ドリップ及び野菜洗い液を用いた乾燥による細菌の消長試験結果からは、30℃放置条件においても、短時間での乾燥が行われば、菌の増殖をおさえることができると考えられた。また、高湿度の状態で24時間放置された場合は、菌の著しい増殖が認められた。以上の結果から、調理施設におけるドライシステムの有効性が認められた。
分担研究3.高齢者の食中毒においては、原因物質、原因食品等の面において様々な特徴を有する可能性が示唆された。
分担研究4.初年度において行われた国内外の主としてクリプトスポリジウム等水系由来の流行を起こし得る感染症の疫学調査の結果を受け、次年度は、成田空港検疫所、青年海外協力隊の協力のもとにこれらの疾患の水平移動を調査する。また、水道浄水及び原水に関するクリプトスポリジウムの調査も拡大して実施予定である。さらにクリプトスポリジウムのオ-シストに対する有効消毒剤の検討は引き続き実施する。
分担研究5.(1)農薬等の化学物質の分析 (2)有害金属の同時分析法 (3)キノコ毒成分の分析法 (4)食中毒に関与する魚介類の種類とその分析法のうち(1)から(3)までは、カ-ド化の目的までは達成できなかったが、そのための必要十分な基礎資料は整えることができた。本研究において、化学物質による食中毒情報の集約化と見やすい配列の工夫は一応達成されたが、今後さらに工夫を重ねてよりよいカ-ドを作り上げることが望まれる。
分担研究6.今回の損失額は、約6,000万円とさほど大きくなかったが、死者の出ている場合はさらに増えることが予想された。今後、死者のある場合についても検討する必要があると考えられた。

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