フタル酸エステル及びフェノール類の食品汚染実態及び摂取量に関する調査研究

文献情報

文献番号
199900696A
報告書区分
総括
研究課題名
フタル酸エステル及びフェノール類の食品汚染実態及び摂取量に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
外海 泰秀(国立医薬品食品衛生研究所大阪支所)
研究分担者(所属機関)
  • 今中雅章(岡山県環境保健センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
18,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、いわゆる内分泌かく乱化学物質には社会的に大きな関心が寄せられ、平成10年度からは内分泌かく乱作用が疑われている67物質について環境調査が始められている。人体への摂取は主に食物経由であると考えられるため、食品中に存在する微量の化学物質を効率的に検出できる技術の開発及び実態調査が求められている。
フタル酸エステル類はポリ塩化ビニル(PVC)の可塑剤として広く使用されて来たため、自然環境を汚染しその結果として各種食品をも汚染していることが知られている。しかし、我が国の食品が実際にどの程度の汚染レベルにあるのか、現在の摂取量がどの程度なのかは全く把握されていない。
また、ビスフェノールA、ノニルフェノール等のフェノール系化合物は界面活性剤、高分子素材の原料、農薬等多方面に使用され、食品を直接的・間接的に汚染している可能性が心配される。しかし、今までビスフェノールAをポリカーボネート樹脂からの溶出物として分析した例は報告されているが、フェノール系化合物を総合的に分析した例はほとんど見られない。本年度は、ビスフェノールAのGC/MSによる高感度分析法を確立しながら併せて各種食品中の残留レベルを明らかにした。
研究方法
フタル酸エステル類:アセトニトリル抽出、アセトニトリル/ヘキサン分配による脱脂、フロリジル+PSAカラムによるクリーンアップ、GC/MS(SIM)測定する高感度一斉分析法の設定を行った。また、ブランク値及び検出限界値の低減化と分析値再現性の向上を検討した。本法を用いて市販弁当(いわゆるコンビニ弁当)、食堂定食、レトルトパウチ食品などの汚染実態調査及び病院給食を試料とした摂取量調査を行った。
ビスフェノールA:アセトンまたはメタノール抽出、有機溶媒再抽出、PSAまたはC18カラムクリーンアップ、ヘプタフルオロ酪酸誘導体化、GC/MS測定する高感度分析法の設定を行った。また、ブランク値及び検出限界値の低減化と分析値再現性の向上を検討した。本法を用いて各種食品計222検体を分析し、ビスフェノールAの実態調査を行った。
結果と考察
フタル酸エステル類は広汎に存在する汚染物質であり、実験環境にも存在することから、試験液調製操作中の混入をいかに低減するかを当初の課題として分析法の開発に取り組んだ。その結果、最も汚染度の高いもについても概ね5 - 20 ppbの検出下限を達成することに成功した。
この分析法を用いて、いわゆるコンビニ弁当及びレトルトパウチ食品からEUの耐容一日摂取量(TDI : 0.037 mg/kg/day)を超えるフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)が検出された。また、大阪、愛知及び新潟の3府県内各1ヶ所の病院で提供された、のべ21日分の給食試料の中で、1病院の2日分がDEHP摂取量においてEUのTDIを超えていた。
工場への立ち入り調査等を通じて研究を進めた結果、調理加工時に使用されるPVC製手袋及び製造工程におけるPVC製配管が汚染の主原因と判明した。本研究班の調査結果に基づき、食品衛生調査会毒性・器具容器包装合同部会が開催され、日本におけるDEHPのTDIが40 - 140 μg/kg/dayと決められた。その結果、調理用PVC製手袋の使用自粛が関連団体に通知された。
フェノール系化合物のうちノニルフェノール等のアルキルフェノール類については、平成10年度厚生科学研究においてGC/MSによる一斉分析法を確立し、各種の食品を分析して食品中濃度を明らかにした。しかし、ビスフェノールAは他のアルキルフェノール類との同時分析が困難であったため、調査対象としなかった。
本年度はビスフェノーAのGC/MSによる高感度微量分析法を開発するとともに、加工食品から生鮮食品にわたる各種食品中のビスフェノールA含有量を調査した。その結果、缶詰についてはその内容を問わず、調査した全ての検体からTr - 602 ng/gのビスフェノールAを検出した。その他の加工食品では、レトルトパウチ食品(トマトペースト)1検体から86 ng/g、フリーズドライスープ(豚汁)1検体から11 ng/gのビスフェノールAを検出した。生鮮食品の汚染濃度は低かった。
汚染食品の原因は、食用缶の内面塗装に使用されるエポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂由来のビスフェノールAが、加熱殺菌や保存時に溶出した可能性が高い。従って、次年度では高濃度汚染食品についてその原因の究明をさらに詳細に行い、早急に汚染防止対策を検討する必要がある。また、フェノール類について日常食からの一日摂取量調査を行う必要がある。さらに、器具・容器包装からの汚染が予想以上に大きい実態が判明したため、新たな課題として器具・容器包装からの溶出試験を行うこととした。
結論
フタル酸エステル類についての当研究班の調査結果を受けて、平成12年6月14日に食品衛生調査会毒性・器具容器包装合同部会が開催された。DEHPの我が国におけるTDIが決定され、調理用PVC製手袋の使用自粛が通知された。また、手袋について溶出試験等の規格基準も今後検討されることとなった。このように調理用手袋問題については一応の解決を見たが、PVC製配管についてはまだ未解決の部分が残されていると思われる。今後は他の幅広い食品についても高濃度の汚染がないか調査研究を行う必要がある。また、一般家庭の調理環境により近い方法における一日摂取量調査を行う。
フェノール類についてはビスフェノールAの汚染実態を広範囲の食品について調査した。今後は、その汚染経路の解明などについても検討が必要である。また、ビスフェノールAを含むフェノール類の日常食からの一日摂取量調査を行う予定である。一方、器具・容器包装のうちフタル酸エステル類、フェノール類等を含有する製品について溶出試験を実施し、その溶出傾向を明らかにすることにより、これらの化合物による食品汚染実態との関連性を調べる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-