内分泌かく乱物質に関する生体試料(さい帯血等)の分析法の開発とその実試料分析結果に基づくヒト健康影響についての研究

文献情報

文献番号
199900695A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱物質に関する生体試料(さい帯血等)の分析法の開発とその実試料分析結果に基づくヒト健康影響についての研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
牧野 恒久(東海大学)
研究分担者(所属機関)
  • 中澤裕之(星薬科大学)
  • 塩田邦郎(東京大学)
  • 織田肇(大阪公衆衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では以下の項目を目的とした。 1. 生体試料中のフタル酸及びアジピン酸エステル類測定法の開発と測定  2. ビスフェノ-ルA(BPA)の健康影響に関する調査研究①エチル誘導体化GC-MS法を用いた調査② BPAの高感度分析法の開発と応用  3. 環境中の内分泌かく乱物質の胎児・胎盤における遺伝子発現調節と酵素的修飾についての研究  4. 内分泌かく乱物質の培養細胞レベルでの作用解明とそれを応用した簡便で高精度のアッセイ系確立  5. ヒト尿・血液中のベンゾ[アルファ]ピレン(BaP)及びその代謝物の分析法開発  6.ポリ臭素化ジフェニルエーテルのルーチン分析法開発と生物試料の分析  7.成人血及びさい帯血中のクロルデン関連物質およびヘキサクロロベンゼンの分析  8. LC/MSによる食品及び生体試料中の植物エストロゲンの分析  9.毛髪及び血液中のブチルスズ化合物の分析  10.クロロベンゼン類及びパラベン類の分析法開発と実試料の分析
研究方法
それぞれの目的別に以下の方法で実施した。 1. GS-MS法を採用した測定法を確立する。  2.①前年度報告したエチル誘導体化GC-MS法で、生体試料中のBPA濃度を測定する。②前処理に固相抽出法を用いたGC-MS法による高感度分析法を開発する。DIB誘導体化後に蛍光検出と化学発光検出で定量する2つのシステムも検討する。  3.①胎盤で受容体が発現しているレチノイン酸(RA)の、株化栄養膜幹細胞(TS細胞)の分化に及ぼす影響を解析する。 PL-1および4311遺伝子をプローブとした解析を行う。ダイオキシン等の生体内受容体であるAhRの、TS細胞における発現を解析し、cDNAのクローニングを行う。②ラット肝臓でのBPA の代謝を分析する。ヒト肝臓での内分泌かく乱物質グルクロン酸抱合活性を解析する。ヒトcDNA から、UGT2B 分子種をクローニングする。  4.①H295R細胞に被験物質と(Bu)2cAMPを添加し、分泌されたステロイドをRIAにより測定する。細胞毒性と細胞数も検討する。 ②MCF-7、T47Dの2種類の乳癌細胞によるアッセイ系を確立し、被験物質の影響を解析する。  5.アルキルアミド型逆相カラムにODSカラムとベーター-シクロデキストリン固定化カラムを組み合わせ、BaPの12異性体を分離可能な分析システムを開発し、健常人の代謝を解析する。  6.GC/MSによるPBDEの高感度迅速分析法を確立し、試料(魚7種と保存母乳脂肪)を測定する。  7.成人154名(18~64才)からの提供血液と、母体血、腹水及びさい帯血の保存品24検体を、昨年度報告と同様に分析する。得られた化学物質の血中濃度とアンケート調査の項目との関連について統計的に解析する。  8.LC/MSを用いて植物エストロゲンを測定し分析する。試料として、市販の大豆加工品と豆類及びトータルダイエット試料を用いる。さらに生体試料(尿・血液)についても分析する。   9. 内標準物質として安定同位体標識標準品を使用し、GC/MSによる選択イオン検出法(SIM)によるトリブチルスズ化合物(TBT)及びその分解、代謝物の測定法を確立する。これを用いて毛髪及び血液を対象とした分析法を行い、人体暴露量を調査する。  10.クロロベンゼン類およびパラベン類の迅速で高感度な分析方法をGC/MS法にて開発し、体内での代謝、排泄について調査する。HCBについてはGC/ECDを使用する。パラベン類を模擬飲料としてボランティアの生体内での挙動を解析する。栄養ドリンク剤のパラベン含量を調査する。HCBの一日摂取量をトータルダイエット法により推定する。市販の活性炭充填チューブを使用して、室内濃度を調査する。
結果と考察
1. 開発した
フタル酸とアジピン酸の測定法は、前処理操作が簡便で迅速、定量操作過程へのエステル類の混入が少ないという利点があった。  2.①BPAの分析の結果、産科からの母乳、さい帯血、母体血中のBPAはNDであった。婦人科グループでは、30例中1例で腹水中BPAが1.7 ng/mlと検出されたが、操作ブランクが真の値よりも小さく、測定値が真の値よりも大きく算出された可能性が示唆された。その他の腹水及び血液での測定値は、全てNDであった。②BPAの検出方法として、BPAを臭化ペンタフロロベンジル(PFBBr)によりアルキル化し、生体成分に対して影響が少ないGC/MSのネガティブモードで検出を行った。本法は、定量範囲が0.01~100ng/mLと広範囲で相関係数も0.998と良好であった。③BPAの検出下限は、HPLC-蛍光法では0.05 ppb、過シュウ酸エステル化学発光法では0.38 ppb であった。  3.①RA存在下ではDNA含量の高い細胞が多くをしめた。細胞特異的遺伝子である4311およびCea4の発現はRA添加により減少していた。 RAの腹腔内投与で、PL-1陽性細胞数は増加し、4311陽性細胞数は減少した。 AhRの発現は、TS細胞の分化に伴い一過的に上昇する。今回単離されたマウスAhR遺伝子は、新しいものであった。②ラット肝門脈に注入したBPAは、ほとんど胆汁にグルクロン酸抱合体(G体)として排泄された。静脈もG体として排泄されたが、投与量が多い場合には未反応のBPA が微量検出された。ヒト肝でも、BPA 、ノニルフェノール、オクチルフェノール、植物由来エストロゲンのG体化が検出された。ヒトUDP-グルクロン酸転移酵素の分子種UGT2B4、 UGT2B7、 UGT2B10 のcDNA をクローニングした。  4.①ヒト培養細胞で被験物質のステロイドホルモン産生に及ぼす影響を評価する系を確立した。これを用い農薬DDTとその代謝物、ジコホル、クロルデン、ヘキサクロルベンゼン、各種パラヒドロキシ安息香酸エステル類、植物エストロゲン(ダイゼイン、ゲニステインとその配糖体のダイジン、ゲニスチン)の影響を検討し、 コルチゾール産生を抑制するいくつかの化学物質を特定した。この方法により、環境由来の化学物質のヒトにおけるリスクを評価できる。②従来のE-screen-assayを、より簡便でかつ精度の高いアッセイ系として確立した。同じ乳癌細胞であるT47Dを使用した検出系も確立し、高分子素材由来の化学物質について評価を行った。  5. BaPの12異性体の分離分析法を開発し、尿中から代謝物を同定した。尿中に排泄される3-OH-BaPは、エストロゲンレセプターに対してBPAに匹敵する結合能を有する。  6. GC/MSによるPBDEの高感度迅速分析法を確立し、瀬戸内海の食用魚の汚染実態を明らかにした。保存ヒト母乳抽出脂肪の予備分析で、試料量1g以下で分析可能なため、貴重な保存試料を大量使用することなく、過去に遡ってその経年変化が追跡できることを示した。  7. ヒト血清試料から、trans-ノナクロル(93.5%)、HCB(89.6%)、cis-ノナクロル(44.2%)が検出された。ごく少数にオキシクロルデンやtrans-クロルデンも検出された。trans-ノナクロル濃度は、年齢及び魚介類の摂取頻度との関連性が、HCB濃度は年齢との関連性が示唆された。母体血(9)、腹水(5)、さい帯血(10)を用いた調査では、trans-ノナクロルが23検体から、HCBが20検体から、cis-ノナクロルが4検体から検出された。  8.大豆中に多く含まれるイソフラボンのLC/MSを用いた高感度且つ特異的な分析法の開発し、日本人が摂取する一日量を約35 mgと推定した。尿中からDaidzein、 Genistein、 Glyciteinが比較的高濃度で、血清の一部からはDaidzein、Genisteinが極微量(1ppb以下)検出された。  9.TBT関連物質測定法を確立し、毛髪からモノブチルスズ化合物(MBT)を検出した。  10.①パラベン類を模擬飲料として20分以内に血液にパラベンが検出された。代謝物のパラヒドロキシ安息香酸(PHBA)の体内動態も解明した。食品に分類されない栄養ドリンク剤がパラベンの摂取源である。②HCBの一日摂取量は65μg/日(トータルダイエット法)、113μg/日(陰膳法)と推定量された。HCBの摂取源は魚介製品がである。③血中パラジクロロ
ベンゼンは防虫剤から室内空気経由であり、室内濃度から血液濃度を推定する回帰式が得られた。
結論
今回開発に成功した種々のアッセイ法を用いて、内分泌かく乱物質のヒト健康影響についての検討を多角的に実施する基盤が整備された。しかし、まださらに検討をすすめるべき点も一部残されている。

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