内分泌かく乱物質の小児、成人等の汚染実態および暴露に関する調査研究(生活安全総合研究事業報告書)

文献情報

文献番号
199900694A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱物質の小児、成人等の汚染実態および暴露に関する調査研究(生活安全総合研究事業報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
秦 順一(慶応義塾大学医学部病理学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺 昌(東京農業大学応用生物科学部)
  • 飯田隆雄(福岡県保健環境研究所)
  • 田辺信介(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
内分泌かく乱物質は、農薬やプラスチック、PCB等の生産過程や廃棄物の処理過程等で発生すると考えられているが、人体において、その影響がどの程度起こりえているのかを評価することが必要不可欠である。本研究は、1)成人および小児の各種臓器の暴露状況を把握し、2)特定の疾患や病態と蓄積の相関関係を得るための基礎デ-タとする、ことを目的としたものである。さらに我が国におけるバックグラウンド値を明らかにすることによって、人体影響デ-タを比較するためのデ-タベ-スが構築される。
研究方法
1)インフォ-ムドコンセントのもとに、剖検症例の主要臓器(項部脂肪組織(褐色脂肪に相当)、腋窩脂肪組織、腸間膜脂肪組織、腹壁脂肪組織、下垂体、脳(開頭症例のみ)、肝、脾、腎、膵、胃粘膜、上行結腸粘膜、乳腺、骨髄、)、血液、胆汁を採取しする。現在までに、135例の剖検例について、各種臓器・組織のファイリングを終了するとともに、臨床経過、臨床化学データ、病理解剖診断についてファイリングしている。2)臓器・組織に含有される内分泌かく乱物質(PCB,HCB,コプラナおよびモノオルトPCB、ダイオキシン類、ブチル化スズ化合物, HCH,DDT、重金属、微量元素 )を測定し、標準的なバックグランド暴露値を年齢、階級、性別に得る。測定は、脂質抽出、クリ-ンアップ後、高分解能ガスクロマトグラフ、二重収束型質量分析計あるいはGCMSで行う。(倫理面への配慮)剖検にあたって研究対象者に対する人権擁護上の配慮および研究方法による研究対者に対する利益・不利益等の説明を遺族に対して行い、インフォ-ムドコンセントを得て、遺族の同意の署名を剖検承諾書へ記入していただいている。
結果と考察
剖検症例の肝(22検体)および腸間膜脂肪(22検体)におけるmono-ortho PCB(8種類)とdi-ortho PCB(2種類)を測定したところ、脂肪重量あたりのmono-ortho PCB平均値はTEQ表記で、それぞれ31.0、43.0pg/gであり、肝は脂肪組織の約2/3であった。剖検症例の肝(22検体)および腸間膜脂肪(22検体)におけるmono-ortho PCB(8種類)とdi-ortho PCB(2種類)を測定したところ、脂肪重量あたりのmono-ortho PCB平均値はTEQ表記で、それぞれ31.0、43.0pg/gであり、肝は脂肪組織の約2/3であった。27症例の肝、胆汁および血液におけるダイオキシン、フラン類とコプラナPCB(non-ortho3種類)を測定したところ、平均TEQ値でそれぞれ肝(73.2, 46.6, 38.0)、胆汁(11.5, 18.0, 13.7)、血液(11.6, 18.1, 13.5)であった。胆汁におけるダイオキシン、フラン類、コプラナPCBの蓄積は、血液における蓄積と相関した。胆汁についてのダイオキシン異性体パターンでは、OCDDが一番高濃度でありPePB,HxCBがそれに続き、さらに1,2,3,6,7,8 HxCDD, TeCB , 2,3,4,7,8-PeCDD , 1,2,3,4,6,7,8HpCDDが高い傾向を示し、ダイオキシン類の体内循環に示唆をあたえる所見を得た。次に肝、胆汁および腸間膜脂肪組織(8症例)について、有機スズ化合物を測定したところ、モノブチルスズMBTおよびジブチルスズDBTは、肝臓湿重量あたりそれぞれ 6以下より28、6.5から71ng cation/gであり、トリブチルスズTBTはいずれも検出限界以下から3.4ng cation/gであった。胆汁では6~21, 1~13, 検出限界以下から3.0ng cation/gであった。また胆汁からは、tris(4-chlorophenyl) methane (TCPMe)が検出された(5~150ng/fatg)。
同一症例における血液、肝、胆汁における内分泌かく乱物質の濃度が測定できたことから、血液と胆汁での濃度がよく相関し、さらに肝では脂肪重量あたりの濃度が血液、胆汁よりも高い傾向が明らかとなった。この知見はヒトにおける内分泌かく乱物質の代謝経路について重要な示唆を与えるものである。またPCB、有機塩素系化合物、有機スズ化合物いずれもが、平均値の10倍程度の高濃度の蓄積を認めた膵臓癌症例が一例見いだされた。今後、このような高濃度の蓄積が見られた症例について、臨床化学、血液データや剖検診断との関連を詳細に検討していく予定である。
結論
日本人の各種臓器における内分泌かく乱物質の暴露状況を把握し、特定の疾患や病態と蓄積の相関関係を得るための基礎デ-タとすることを目的とし、インフォ-ムドコンセントのもとに、剖検症例の主要臓器、血液、胆汁を採取し、内分泌かく乱物質(PCB、ダイオキシン類、有機塩素系化合物と総スズ (有機体+無機体)、ブチルスズ3化合物)を測定した。同一症例における血液、肝、胆汁における内分泌かく乱物質の濃度をが測定したところ、血液と胆汁での濃度がよく相関し、さらに肝では脂肪重量あたりの濃度が血液、胆汁よりも高い傾向が明らかとなった。この知見はヒトにおける内分泌かく乱物質の代謝経路について重要な示唆を与えるものである。またPCBの体内蓄積量は、ダイオキシン類より数桁多く、PCB自体の直接的な人体への毒性だけでなく、ダイオキシン類等他の内分泌かく乱物質の人体への複合的な毒性を考える必要性が明らかとなった。

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