ごみ焼却施設周辺におけるダイオキシン汚染に起因する周産期の健康影響に関する疫学研究

文献情報

文献番号
199900668A
報告書区分
総括
研究課題名
ごみ焼却施設周辺におけるダイオキシン汚染に起因する周産期の健康影響に関する疫学研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
上畑 鉄之丞(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 丹後俊郎(国立公衆衛生院)
  • 簑輪眞澄(国立公衆衛生院)
  • 内山巌雄(国立公衆衛生院)
  • 田中 勝(国立公衆衛生院)
  • 国包章一(国立公衆衛生院)
  • 藤田利治(国立公衆衛生院)
  • 加藤則子(国立公衆衛生院)
  • 土井由利子(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今日焼却施設から排出されるダイオキシン類の及ぼす健康影響について国民の関心が高まりその的確な対策が急がれている。しかし,マスコミ等で様々な曝露状況,健康影響に関する報道が繰り返されているがダイオキシン類の測定の困難性から測定法上問題の多いデータが一人歩きして,見かけの影響,誤った解釈が国民を混乱に陥らせている可能性もある。さらに,これらの情報は精度高い疫学調査によるものではないため全国にある焼却施設周辺の実態が不明である点が混乱に拍車をかけている。本研究は、国民の間のいたずらな混乱・不安を解消するとともに、有効な施策のための的確な情報を提供するため、全国の中規模以上の焼却施設周辺における住民への健康影響、特に胎児期,新生児期などいわゆる妊娠及び周産期に発現する健康障害のリスクを疫学研究により解明することを目的とする。
研究方法
来年度以降に実現可能な研究プロトコールの策定年度として以下の4つの分担研究を行った。(1)「焼却施設の選定と健康影響評価の方法論に関する研究」(分担者 丹後俊郎、藤田利治、上畑鉄之丞)。基本的な作業仮説を(a)ダイオキシン類の曝露による健康影響があるとすれば、そのリスクはごみ焼却施設周辺に集積し、その大きさは焼却施設からの距離に反比例する、また、(b) 環境中に排出されたダイオキシン類濃度の高いごみ焼却施設ほどリスクが大きい、と設定しその仮説を充分な検出力をもって検出できるだけの調査対象地域の選定と検定方法の検討を実施した。(2)「ごみ焼却施設周辺のダイオキシン類のヒトへの曝露評価に関する研究」(分担者 内山巌雄)。母乳中のダイオキシン類等の濃度を測定・分析し、合わせて居住歴、食習慣を調査することにより、ダイオキシン類の都民への健康影響について把握する目的で行われた東京都の調査を再検討することにより,曝露評価に関する計画立案の問題点を整理することを試みた。(3)「ごみ焼却施設周辺のダイオキシン類の着地濃度と発がんリスクに関する研究」(分担者 田中勝、国包章一)。今回の研究班が調査対象としている全国73施設の焼却施設の平均的な煙源(焼却炉)からの距離とダイオキシン類の着地濃度との関係を検討するため、拡散計算を行い、焼却施設に由来するダイオキシン類の定量的なリスクアセスメントを行った。特に、拡散計算では全連続炉での平均的な煙突条件の場合の例として、煙突の高さ64m、排ガス温度 214度C、295トン/day の焼却炉を想定した。ただし、排出濃度は 0.1ng/Nm3(I-TEQ)とした。炉形式別のダイオキシンの発がんリスクの計算では、全連続炉、准連続炉およびバッチ炉の3つの炉形式別に煙源条件およびダイオキシンの排出強度を設定し、ダイオキシンの最大着地濃度および最大摂取量を試算して焼却施設由来のダイオキシンの発がんリスクについて検討を行った。(4)「保健所をベースにしたケースコントロール調査の方法に関する研究」(分担研究者 簑輪眞澄、加藤則子、土井由利子、上畑鉄之丞)。本研究では、全国の中規模以上の焼却施設周辺における住民への健康影響、特に胎児期,新生児期などいわゆる妊娠及び周産期に発現する健康障害のリスクを保健所をベースにしたアンケート調査(ケースコントロール調査)の方法を検討した。調査項目は,自然流産,先天異常であり,人口動態調査出生票から抽出された子の母親を調査母集団としたケースコントロール調査で実施する計画である。し
かし,ケースをどのように選択する方法の実現可能性に関して,幾つかの困難性に直面したため,いまだデザイン設計に到っていない。したがって,この研究については来年度に継続することとした。
結果と考察
(1)「焼却施設の選定と健康影響評価の方法論に関する研究」。全国の焼却施設1854(平成6年度調査)の中から、厚生省が平成9年4月にホームページで公表した「ごみ焼却施設排ガス中のダイオキシン類濃度について」の中で、緊急対策の判断規準として採用された「排煙1立方メートル当たり80ng-TEQ」を越えた施設72施設をまず検討の対象とした。社会問題となった一施設をあえて除く理由もないことから対象施設に含めることにし、結局、73施設を調査対象地域と決定した。したがって、調査対象地域は、後で述べるように焼却施設から半径10kmの園内に、または、その境界に位置する総計488の市区町村を調査対象地域とすることとした。調査対象者・調査項目としては、該当するごみ焼却施設の操業開始後に、焼却施設を中心として半径 10km 以内の同心円内に、または、その境界に位置する市区町村に居住して、平成8年から平成10年までに当該市区町村に出生届・死産届けを提出した女性を対象に「死産率、低体重児の出生率、女児出生率、乳児死亡率,先天異常による死産・乳児死亡率」のリスクを調べることとした。リスクの評価方法としては、最近進歩が著しい GIS(Geographical Information System)を利用して住所地の電子化を行い、調査対象となる母親の住所、ごみ焼却施設の地理的位置をxy平面座標にプロットし、住所とごみ焼却施設との距離を計算する。さらに、調査対象地域を、ごみ焼却施設からの距離で 1km 毎に11区域に分ける。最後の区域は [10,-) とする。それぞれの距離圏内で O/E 比の推定値と 95% 信頼区間を計算する。 ごみ焼却施設周辺におけるリスクの集積性(距離減衰)の検定はStoneの検定とTangoの検定を適用することとした。(2)「ごみ焼却施設周辺のダイオキシン類のヒトへの曝露評価に関する研究」。対象者の居住年数の平均値は4.6年、同一地区内の居住年数は13.0年であった。母乳中ダイオキシン類の平均濃度は16.0pgTEQ/g fat で地区別で有意差はなかった。初産婦(18.8 6.6 pgTEQ/g fat)の濃度は経産婦(13.3 5.9pgTEQ/g fat)濃度より有意に高かった。居住値から最も近い一般廃棄物焼却施設からの距離と初産婦、経産婦の濃度との関に相関は見られなかった。動物性脂肪摂取量(肉類、乳製品、魚介類に含まれる脂肪)と濃度の関係について、一部の食品で有意な関連が見られたが、高い相関係数を示すものはなかった。その他、濃度との関連が考えられる因子(身長、体重、喫煙、受動喫煙等)では有意な相関のみられるものはなかった。多変量解析の結果では、初産婦が経産婦より高く、年齢が高いほど、廃棄物焼却施設からの距離は有意ではないものの距離が遠いほど濃度が低い傾向が認められた。また、経産婦については、乳肉類からの1日あたりの脂肪摂取量が多い者、第1子が混合栄養の者、第1子を出産してからの期間が長い者、第1子の授乳期間が短い者で、濃度が高い傾向が見られ、ダイオキシン類の体内動態からは合理的な結果と考えられた。(3)「ごみ焼却施設周辺のダイオキシン類の着地濃度と発がんリスクに関する研究」。全連続炉、准連続炉、およびバッチ炉の炉形式別に施設周辺の最大着地濃度、最大摂取量、発がん増加数、を試算した。その結果、最大着地濃度の最大はバッチ炉0.49 pgTEQ/m3、最小は全連続炉の 0.008pgTEQ/m3 で、平均は 0.17 pgTEQ/m3 であった。 また、日本全国における焼却施設由来のダイオキシン類による生涯発がん増加数は全連続炉 405 施設全体で 5.9人 、准連続炉 309 施設全体で 1.8人、バッチ炉 999 施設全体で 6.2 人であり、全人口1億4,000万人に対し、14 人となった。また、各施設周辺の集団に対する生涯発がん増加数(生涯を70年と仮定)の分布を炉形式別にみると、全連続炉で 0.0026 - 0.20 人、准連続炉で 0.00045 - 0.034 人、バッチ炉で 0.000083 - 0.078 人となっており、全施設平均で 0.0008 人となった。これらの研究結果
を踏まえ、現在、策定されたプロトコールにしたがって人口動態調査票の目的外使用を申請中であり、許可が下りしだい来年度に調査を実施する予定である。ただ、保健所をベースにしたケースコントロール調査のプロトコールに関しては、その実現可能性の検討も含めて来年度も継続して検討する予定である。
結論
焼却施設周辺の環境中のダイオキシン濃度レベルとそのリスク、また、人の血中濃度レベルを推定する調査の結果、そのレベルとリスクの大きさは極めて低いものであったが、いずれも、廃棄物焼却施設からの距離が遠いほど濃度、リスクが低い傾向が認められた。これらのデータを基に、焼却施設周辺におけるダイオキシンに起因する周産期における健康リスクを検出できる大規模でかつ実現可能な疫学調査のプロトコールを策定した。

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