新課題医療廃棄物の処理システムの構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900659A
報告書区分
総括
研究課題名
新課題医療廃棄物の処理システムの構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
松島 肇(浜松医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 配島由二(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 保科定頼(東京慈恵会医科大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新課題医療廃棄物には、毎日、多量に排出される有害性廃棄物である消毒剤、遺伝子増幅(PCR)などで多量に複製されたDNAを含み、発がん性・遺伝毒性などの可能性のある廃棄物(PCR廃棄物)、狂牛病、クロイツフェルト・ヤコブ病などの原因物質と考えられているプリオン蛋白汚染物などの細胞毒性廃棄物があり、それらの処理方法の構築は緊急の課題である。そこで、細胞毒性廃棄物の安全な処理法の確立を目指し、消毒剤は、医療機関などで多用されている活性汚泥法による毒性評価を通して、その適用を探る。PCR廃棄物は酸化剤など、およびプリオン蛋白汚染廃棄物はアルカリ化剤などによる不活化法を確立して、それらの実用化処理装置を模索する。医療機関に対する細胞毒性廃棄物の処理に関するアンケート調査結果から、それらの実態と問題点を具体的に提示する。最終的には、それらの適正な処理システムを構築することを目的としている。
平成11年度は、活性汚泥に対して毒性の強いトリクロサン(TCS)、クロルヘキシジン(CH)などの医療系廃水中の分析法を確立することとした。PCR廃棄物については、医療機関での実態調査と実験室内汚染の疫学的調査を行った。プリオン蛋白汚染廃棄物については、欧米におけるガイダンスを中心とした文献調査、および医療機関におけるプリオン病である伝達性海綿状脳症(TSE)患者およびTSE廃棄物の実態調査を実施した。
研究方法
医療系廃水中の消毒剤TCS、ヘキサクロロフェン(HCP)の分析法については、固相抽出、誘導体化後、ガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)によるセレクティドイオンモニタリング(SIM)で定量する方法の確立を試みた。医療系廃水中のCHについても固相抽出、誘導体化、オンカラムメチレーション後、SIMによる定量法の確立を試みた。そして、それらの分析法を医療系廃水中の消毒剤濃度の定量に適用した。
PCR廃棄物の疫学的調査は、全国の医療機関でDNA診断が行われている施設を中心にアンケートを項目立てして作成し郵送した。実験室内汚染の調査は2種の16Sリボソームユニバーサルプライマーを使用して、細菌DNAの存在を検出しバンドを確認した。塵埃、無機汚泥、有機汚泥、スメアーテストを行い、これらの物質に含まれるポリメラーゼ阻害物質の除去に関する方法を確立することを試みた。
プリオン蛋白汚染廃棄物については、世界保健機構、英国の危険病原体に関する諮問委員会およびTSE諮問委員会により作成されたガイダンスの文献調査を行い、TSE疾患の伝播、TSE病原体の体内分布、医療機関におけるTSE患者およびTSE廃棄物の取扱いなど、医療廃棄物処理に関連する現在の知見を取りまとめた。日本国内の医療機関におけるTSE患者およびTSE廃棄物の取扱いに関する実態調査を行った。
結果と考察
医療系廃水中のTCSおよびHCPの分析法については、試料100mlに1規定水酸化ナトリウム溶液を加えてpH11.0ー13.0に調節して正確に20mlを取り、エキストレルートカラムに添加して、酢酸エチル40mlで溶離してTCS、HCPなどを抽出した。抽出液を減圧下で蒸発乾固して、トリメチルシリル(TMS)化剤を加えて室温で1分間攪拌して、それらのTMS誘導体とした後、SIM(EI20eV)で定量する方法を確立した。医療系廃水中のCHの分析法についても、TCSなどとほぼ同様に固相抽出した後、溶出液を減圧下で0.1ml程度に濃縮し、無水トリフルオロ酢酸0.2mlを加えて、室温で2分間攪拌してCHトリアジン誘導体とした後、窒素ガス気流下で蒸発乾固した。これに、0.2モルトリメチルアニリニウムヒドロキサイドのメタノール溶液を加えて溶解し、GCカラム内でオンカラムメチレーションしてCHトリアジンメチル誘導体とした後、SIM(EI70eV)で定量した。本法を浜松医科大学の医療系廃水に適用した結果、TCSでは0.43ー8.01μg/l、HCPはいずれも不検出(0.10μg/l未満)であり、CHは0.10ー1.94mg/lであった。本分析結果は、最高で最大無作用濃度の十分の一程度であり、好気性微生物処理法の活性汚泥に対して著しく阻害作用を与えないものと推察した。
PCR廃棄物の疫学的調査の結果、定期的に遺伝子操作で加工されたDNAが廃棄され、その種類と量がおおむね把握された。実験室内汚染調査は2種のプライマーのもつ特性によって環境由来のDNA汚染を調べ、汚染DNAが迷入した場所を特定することが可能となり、それは広域に渡っていた。また、塵埃、汚泥中からユニバーサルプライマーを用いてDNAの回収が可能であった。ポリメラーゼ阻害除去に関して種々の処理と高速遠心の組み合わせでPCR反応が可能であった。これらによって生じるPCR廃棄物は意味のある塩基配列を持っていることが多く、処理には感染性廃棄物容器への封じこめと中間処理、さまざまな処理法での分解、作業中には手袋着用など、適正な処理が必要と考えられる。また、ペプチド核酸は、DNA分解酵素、蛋白分解酵素で消化されないので、PCR廃棄物と同様な廃棄物処理の必要性が示唆された。
TSE廃棄物に関する文献調査の結果、各種の公的なガイダンスに従った場合、医療廃棄物分野においては、高リスク廃棄物であっても焼却処理を施すのであれば現行と同じ方法により、各種のTSE廃棄物を取り扱って差し支えなく、焼却が適用できない場合でも、適切な方法で洗浄および中間処理を行うことを除けば、通常の医療廃棄物を取り扱う以上の特別な処置を必要としないことが明らかになった。日本国内の医療機関での実態調査では、各医療機関におけるTSE疾患に関する認識、対応策や実際の対処方法のレベルは多種多様であることが判明した。回答の得られた医療機関の中には、TSE廃棄物を不適切な方法で処理しているケースや感染制御上、明らかに過剰防衛処理を施しているケースがあるなど改善されるべき幾つかの問題点が存在することが明らかになった。平成10年度の本研究において、簡便かつ安全なTSE廃棄物処理装置の検索を行い、加圧型アルカリ加水分解装置(WR2)がその第一候補として挙げた。現在Institute for Animal Health(英国)のDavid Taylor博士らのグループとの共同研究によりTSE病原体に対する不活化効率をin vitroおよびin vivo試験により検討しており、その結果に興味が持たれる。
結論
医療系廃水中のTCS、CHなどの分析法については、固相抽出、誘導体化、SIMなどで定量する方法を確立した。本法を医療系廃水に適用した結果、TCSでは0.43ー8.01μg/l、CHでは0.10ー1.94mg/lであり、最高でも最大無作用濃度の十分の一程度であるので、活性汚泥処理法に対して著しく阻害作用を与えることはないものと推察した。
PCR廃棄物の疫学的調査では、増幅DNA廃棄物の封じこめが充分に行われていないことが明らかになった。また、ユニバーサルプライマーによる実験室内のDNA汚染が観察され、それらが作業者に曝露されることには問題が多い。今後、遺伝子増幅操作に限らず、遺伝子操作を行ったDNA、RNAについても廃棄の問題を検討する必要がある。
TSE廃棄物の文献調査で、高リスク廃棄物であっても焼却処理などの適切な方法で中間処理すれば問題がないことが明らかになった。国内の医療機関での実態調査で、TSE疾患に関する認識、対応策や実際の対処方法のレベルは多種多様であった。加圧型アルカリ加水分解装置によるTSE廃棄物の不活化効率については、現在、英国の研究者と共同研究中である。

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