新開発食品等の安全性の確保に関する研究

文献情報

文献番号
199900651A
報告書区分
総括
研究課題名
新開発食品等の安全性の確保に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
池上 幸江(大妻女子大学)
研究分担者(所属機関)
  • 山田和彦(国立健康・栄養研究所)
  • 松村康弘(国立健康・栄養研究所)
  • 西宗高弘(武蔵が丘短期大学)
  • 中村優美子(国立医薬品・食品衛生研究所)
  • 志村二三夫(十文字短期大学)
  • 篠塚和正(武庫川女子大学)
  • 扇間昌規(武庫川女子大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣病の広がりや高齢者の増加は国民の間に健康への関心を高めている。とくに日常的な食生活改善の重要性が指摘されたり、様々な健康情報が交錯する中で、国民の間には健康に何らかの利点を持つ食品に対する関心が高まっている。諸外国を含めて、食品等に含まれる成分の機能性に関する研究も活発になっており、こうした研究成果も新規の食品開発を促進している。他方、食品産業技術の向上により、これまでとは異なる食経験のない食品素材の開発も活発である。これらの食品や食品素材はともすればその有用性が強調されて、安全性のチェックが十分でない場合もある。本研究では、健康食品や新しい食品素材等の安全性確保を目的として、様々な角度から検討をすすめることとした。
研究方法
本研究では、8つのテーマに従ってこうした新開発食品による安全上の問題について検討した。本研究は、実態調査、実験的検討、および文献的調査から構成した。実態調査では、販売実態、健康被害実態、あるいは利用実態について検討した。その結果を踏まえて、文献的な調査を行い、安全性について研究すべき対象を絞った。現状において問題となると考えられる食品素材や食品成分については、動物実験的な手法によって安全性の検討を行った。
現在、厚生省ではいわゆる栄養補助食品や健康食品については、表示制度を整備することにしている。そこで、市販のいわゆる健康食品について、その表示内容を検討した。さらに、いわゆる栄養補助食品や健康食品の利用実態に関する調査を実施た。
昨年度の研究調査の結果から、現在問題とすべき新開発食品がほぼ明らかになったので、こうした食品や成分について、安全性について個々に文献的な調査を踏まえて、実験的手法による研究を進めた。今年度は、低カロリー食品素材の消化管機能や大腸における化学発癌への影響を検討した。他方薬効的な効果を期待させる成分として、茶ポリフェノールやタンニン酸、セイヨウオトギリソウ、メラトニン、イチョウ葉エキスについて実験動物による検討を行った。茶ポリフェノールやタンニン酸では、その抗酸化作用とキレート作用に伴う脂質代謝やミネラルの吸収性に関する検討、セイヨウオトギリソウとメラトニンでは中枢神経系に対する作用を中心に検討し、イチョウ葉エキスでは循環器系に対する作用を中心に検討した。
米国やわが国でみられる健康食品等でみられる健康被害の一部は医薬品との併用によるのではないかと思われるものもある。そこで、食品と医薬品の相互作用に関する文献的な調査を行った。
結果と考察
本研究では、次の8つのテーマに沿って研究を行った。
1.健康食品等の販売実態に関する研究:いわゆる健康食品等の表示については、栄養調整食品と云われるグループの食品ではほぼ栄養表示基準制度に合致していたが、その他の栄養補助食品や健康食品では栄養表示基準制度に合わない表示がかなりあった。また、一般食品への適応を前提とした本制度には健康食品にはかみ合わない部分もあり、今後の詳細な検討が必要であることがわかった。2.いわゆる栄養補助食品・健康食品等の使用状況およびその効果に関する研究:いわゆる栄養補助食品や健康食品の利用実態の調査としては、女子大学生についての集計が終了した。その結果は当然のことながら、健康に対する意識の高いグループにおいて、これら食品の利用度が高いことが分かった。3.低カロリー脂肪食品素材の消化管に及ぼす影響:低カロリー食品素材として脂肪系のソルベステリンと糖質系のタガトースを対象に消化管に対する影響をみた。ソルベステリンでは、脂溶性ビタミンであるビタミンAの吸収を阻害すること、タガトースではその利用性が低いために多量の摂取は下痢を誘発することを明らかにした。4.低カロリー食品素材の化学発癌に対する影響について:ソルベステリンは血清脂質の低下をもたらすが、大腸における化学発癌を促進した。その機構にはβーグルクロニダーゼの活性上昇は伴わず、水溶性食物繊維のグアガムとは異なることが分かった。5.フラボノイド化合物の生体内抗酸化能及び脂質代謝を指標とした安全性評価に関する研究:茶ポリフェノールやタンニン酸は最近抗癌・抗変異原性作用や抗酸化作用が期待されているが、脂質代謝やミネラルの吸収への影響は比較的低いことが分かった。6.中性神経機能を指向する新開発食品等の安全性に関する研究:メラトニンの動物実験による検討では、微量の投与によっても体重増加抑制や性成熟の遅れがみられた。また、セイヨウオトギリソウについての中枢神経系の影響は弱いが、実験動物の種類によって作用が異なることが分かった。7.循環器系をターゲットとした新開発食品等の安全性に関する研究:イチョウ葉エキスは、欧米では医薬品として利用されているが、わが国や米国では健康食品として利用されているものである。イチョウ葉エキスについて循環器系組織への影響を in vitro、in vivoから検討したが、in vitroでの影響が強く観察された。動物へのイチョウ葉エキスの投与は、肝臓重量の増加や薬物代謝酵素への影響がみられた。8.各種新開発食品等の安全性に関する文献的調査:これまでは、文献的な調査は個別の食品や成分について行ってきた。今年度は健康食品などの健康被害が食品単独によるものか、同時に摂取している医薬品との相互作用によるものかが判然としない。そこで、食品と医薬品の相互作用に関するデータを収集した。アルコール、グレープフルーツジュース、ビタミン類などと医薬品の相互作用に関する研究が行われている。さらに、ワーファリンについては、食品成分との相互作用が強い。しかし、健康食品と医薬品の相互作用に関する研究は少ないことが分かった。
以上のように昨年度までの成果も含んで、新しい食品素材や健康食品についてかなり幅広いデータが収集されてきた。その結果、その有効性が明確ではないにもかかわらず、消費者を惑わすような宣伝や表示によって利用が広がっている。これらの中には他国では医薬品として利用されるようなものもあり、これらでは安全上も問題のあるものも多い。消費者が安心して、賢く利用できるようにしていくことが必要である。
結論
近年の生活習慣病の広がりや、高齢社会への急速な移行は、国民の間に健康への関心を高めている。健康上の利点を標榜する食品への関心はとくに高く、様々な商品が販売されている。現在厚生省ではこうした食品については、表示制度の整備によって対応することを考えている。本研究の成果は、表示を考える場合の有効な資料となる。今年度は市販食品の表示の実態や利用状況について調査し、表示内容に問題のあることを明らかにした。また、現状の栄養表示基準制度をいわゆる栄養補助食品や健康食品に当てはめる場合の問題も明らかにした。他方、薬効を期待させるような食品成分では、茶ポリフェノール、タンニン酸、メラトニン、セイヨウオトギリソウ、イチョウ葉エキスについて実験的な手法で検討し、メラトニンやイチョウ葉エキスでは安全性に疑義のあることを示した。また、食品と医薬品の相互作用に関する文献調査から、健康食品による健康被害には医薬品との相互作用のあることも示唆した。他方新しい食品素材である低カロリー食品素材では、多量摂取による消化管への影響を示した。

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