病者用食品及び有用性評価に関する基礎的調査研究

文献情報

文献番号
199900646A
報告書区分
総括
研究課題名
病者用食品及び有用性評価に関する基礎的調査研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
上野川 修一(東京大学大学院農学生命科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 河野陽一(千葉大学医学部)
  • 石川博通(慶應義塾大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病者用食品は、厚生省によって許可された特定の疾患を持つ人を治療するためにデザインされた食品群である。本研究は病者用食品について、これまで許可され実際に使用されているもの、さらに将来の開発を急がれているものについて調査・考察するとともに、特に現在その開発が最も期待される病者用食品については、実際にその評価法、開発に関する研究を実行することを目的とした。本年度の研究においては次の5研究項目を中心に展開した。
(1)国内外における病者用食品の現状と、将来病者用食品として申請が予想される免疫関連病者用食品の研究開発に注目しその評価系を把握することを目的とし、調査研究を行った。
(2)免疫機能向上食品の開発および評価法を確立するための基礎研究として、フラクトオリゴ糖(FOS)の腸管免疫応答増強機能を評価し、これにより増殖するBifidobacterium由来成分を腸管由来各種リンパ球に作用させて検討した。
(3)免疫機能向上食品をはじめとした免疫関連病者用食品についてその有効性を評価するための方法を確立するための基礎研究として、T細胞抗原レセプターを発現するトランスジェニックマウス(TCR tg)およびその細胞(特に腸管組織由来)を使用した方法について検討した。
(4)免疫関連病者用食品の開発および評価法を確立するための基礎研究として、新しく発見した腸管リンパ組織クリプトパッチ(CP)におけるリンパ球発達分化機構について解析した。
(5)免疫関連病者用食品の評価法を確立するための臨床研究として、食物アレルゲン刺激による末梢血T細胞上のホーミングレセプター発現について検討した。
研究方法
1.病者用食品の現状及び評価方法についての調査研究
国内外における病者用食品の現状、またアレルギー疾患を想定した評価系について医学情報雑誌、MEDLINE、インターネット等により関連論文を検索した。
2.FOSおよび Bifidobacterium由来水溶性多糖の腸管免疫系に対する免疫増強効果の検討
FOSを含む飼料をマウスに摂取させ、腸管免疫応答増強機能についてIgA産生を指標に検討した。また、Bifidobacterium由来成分を培養中で腸管由来各種リンパ球に作用させて増殖応答を調べた。
3.TCR tgを用いた腸管免疫応答の解析
TCR tgマウスにおいて異なる量の経口抗原により誘導されるパイエル板細胞・脾臓細胞のサイトカイン分泌応答、血中・糞中の抗体応答について検討した。さらにTCR tg由来パイエル板細胞のサイトカイン分泌能を解析した。
4.腸管免疫細胞を利用した免疫関連病者用食品の評価法の開発のための基礎研究
T細胞抗原レセプターや各種サイトカイン遺伝子をgene targetingの手法で破壊したミュータントマウスの腸管リンパ組織(主としてCPや上皮細胞間T細胞、すなわちIEL)の発達分化を調べた。
5.T細胞上ホーミングレセプター発現を指標とする食物アレルゲン性の評価に関する研究
食物アレルギー患者の末梢血単核球をアレルゲンで刺激とともに培養し、フローサイトメトリーによりT細胞上のαEβ7インテグリンおよびCLAの発現を解析した。
結果と考察
1.病者用食品の現状及び評価方法についての調査研究
わが国の病者用食品の開発は、許可基準型と比較して厳密な臨床試験が要求される個別評価型の開発が遅れており、どのような評価基準を定めるのかについて明確な規定を設定する必要性が考えられた。一方、現在、国内外で様々なアレルギー疾患動物モデルが樹立されており、最近では優れた食品アレルギーモデルも作成されつつあることから、食品アレルギーに対応した病者用食品の開発にも有用性が期待される。今後、このような免疫関連病者用食品の研究開発には、動物実験モデルにおいて確認した有効性を迅速にヒトでの臨床試験と併せて評価するシステムを整備していく必要があると考えられた。
2.FOSおよび Bifidobacterium由来水溶性多糖の腸管免疫系に対する免疫増強効果の検討
FOS摂食群において、糞便中の総IgA量がコントロール食群に比べて有意な増加が認められた。また、 Bifidobacterium菌体成分は腸管免疫系のパイエル板細胞、IELに対して免疫賦活活性を示した。以上の結果は、免疫機能向上病者用食品の開発と評価の基礎となるものである。
3.T細胞抗原レセプタートランスジェニックマウスを用いた腸管免疫応答の解析
TCR tgマウスにおいて投与量依存的に脾臓細胞、パイエル板細胞のIL-4、IL-5分泌能が亢進し、血中においてIgG1・IgA抗体応答、糞便中へIgA抗体分泌が誘導された。また、パイエル板細胞においてIgA産生応答に関与する2つのサイトカイン、IL-5およびIL-6の産生が高いことが示され、パイエル板細胞のIgA産生への関与の示唆を強めると共にそれらのサイトカインは異なる制御を受けていることを明らかにした。すなわちパイエル板における高いIL-5分泌には抗原提示細胞が関与し、一方、パイエル板における高いIL-6分泌はT細胞が重要であることが示された。本研究の実験系により食品、食品成分の腸管免疫応答に対する影響を観察することが可能となり、免疫関連病者用食品の評価系の開発に有用と考えられる。
4.腸管免疫細胞を利用した免疫関連病者用食品の評価法の開発のための基礎研究
胸腺非依存性IELの発達分化が、腸管上皮細胞が産生するサイトカイン、主としてIL-7、の存在下に骨髄由来幹細胞→CD11c+樹状ストローマ集積→同集積でのc-kit+ CD3- IEL前駆細胞の発達分化→c-kit+-CD3-IELの出現→成熟c-kit+-CD3+IELへの最終発達分化と進行することが明らかとなった。腸管免疫関連病者におけるCPやIELを解析し、その機能を研究することによって、これら疾患の病者用食品の開発とその評価法の確立につながることが期待される。
5.T細胞上ホーミングレセプター発現を指標とする食物アレルゲン性の評価に関する研究
食物アレルゲン摂取でアトピー性皮膚炎が惹起される患者では、当該アレルゲン刺激で末梢血T細胞上のCLA発現が認められた。同様に食物アレルゲン摂取で下痢を惹起する患者では当該アレルゲン刺激で末梢血T細胞上のαEβ7インテグリン発現が認められた。食物アレルゲン刺激によるCLAおよびαEβ7インテグリン発現は、当該アレルゲンに対する耐性が獲得されて摂取できるようになると消失した。食物アレルゲン刺激による末梢血T細胞上のCLAおよびαEβ7インテグリン発現誘導の有無は免疫関連病者用食品のアレルゲン性評価に有用と考えられる。
結論
1.病者用食品の現状について調査した結果、食品の有効性を評価するうえで、どのような評価基準が要求されるのかを明確にする必要が考えられた。また近年食品アレルギーモデルとして優れた動物実験系が樹立されつつあることから、ヒトでの臨床試験と併せた評価システムを整備していくことが望まれる。
2.FOSの摂取によりマウス腸管免疫系においてIgA産生が誘導された。また、FOS摂取によりBifidobacteriumが増加するが、この菌体成分は腸管免疫系のパイエル板細胞、IELに対して免疫賦活活性を示した。以上の結果は、免疫機能向上病者用食品の開発と評価の基礎となるものである。
3. TCR tgマウスに異なる量の経口抗原を投与した場合の免疫応答について明らかにし、TCR tg由来パイエル板細胞を用いてパイエル板細胞のサイトカイン分泌特性について明らかにした。本研究の実験系は免疫関連病者用食品の評価系の開発に有用と考えられる。
4.新しく発見した腸管リンパ組織CPにおけるIEL発達分化機構について明らかにした。腸管免疫関連病者におけるCPやIELを解析し、その機能を研究することによって、これら疾患の病者用食品の開発とその評価法の確立につながることが期待される。
5.食物アレルギー症状とT細胞上ホーミングレセプター発現の相関について明らかにした。食物アレルゲン刺激による末梢血T細胞上のCLAおよびαEβ7インテグリン発現誘導の有無は免疫関連病者用食品のアレルゲン性評価に有用と考えられる。

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