食肉・食鳥処理における微生物コントロールに関する研究

文献情報

文献番号
199900645A
報告書区分
総括
研究課題名
食肉・食鳥処理における微生物コントロールに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
品川 邦汎(岩手大学)
研究分担者(所属機関)
  • 山崎省二(国立公衆衛生院)
  • 木村豊彦(芝浦食肉衛生検査所)
  • 一条悟朗(茨城県県北食肉衛生検査所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国民の食生活の安全確保と国際的な食肉の衛生規制との調和を目的として、わが国のと畜場及び食鳥処理場で生産される食肉の微生物汚染実態を踏まえ、これらの汚染微生物を減少させるための具体的方策を見いだす基礎的な調査研究を行う必要がある。特に、サルモネラ、腸管出血性大腸菌およびカンピロバクター食中毒の汚染源として食肉・食鳥肉の関与が指摘されていることから、その病原菌汚染を防止する手法を確立することが緊急の課題である。このためには家畜・家禽の生産からと畜場・食鳥処理場、部分肉加工場(カット工場)、食肉センター(食肉加工・包装センター)および量販店(食肉販売店)まで一貫した衛生管理(HACCPシステム)を確立することが重要となる。
本研究は、と畜場でと殺・解体された食肉(枝肉)の消費者までの流通経路の実態と衛生に関する問題の抽出、と畜場で処理された食肉の病原菌の汚染実態の把握、と畜場における家畜疾病検査のための病原微生物の危害評価および家畜の生産段階での衛生的飼育管理のためのと畜の検査データの生産者への還元方式について調査・検討を行う。
研究方法
1. と畜場でと殺・解体された枝肉から食肉販売までの流通実態調査
対象と畜場として、大都市消費型として東京都芝浦と畜場、家畜生産型として岩手県紫波と畜場、およびこれらの中間型として群馬県中央と畜場と埼玉県大宮と畜場の計4 施設を選び、平成10年度に続いてと畜場を中心としてその上流(生産段階)・下流(流通)における食肉の衛生管理について、各段階における微生物学的汚染を調査した。
2. と畜場および食鳥処理場への搬入家畜・食鳥および処理された食肉の食中毒菌汚染調査
牛などが保有する食中毒菌(腸管出血性大腸菌、Salmonella Enteritidis等)の汚染実体とその危害評価を行う。腸管出血性大腸菌、Salmonella Enteritidisについては平成10年度に各食肉検査所における分離状況及び菌株保存状態の調査を行った。本年度はこれらの分離株について薬剤耐性菌の検出状況を調査した。また、日本全体の牛の腸管出血性大腸菌 O157保有状況をと畜場で調べた。
3. 食肉検査データの家畜・家禽の生育、生産段階への還元に関する研究
健康な家畜の生産のために、と畜場での疾病検査データの生産段階への還元について有効性を検証し、そのデータの項目、内容およびシステム等について検討した。
結果と考察
1. と畜場でと殺・解体された食肉の販売までの流通実態調査と畜場から部分肉処理場までの食肉(枝肉)の流通過程において、主に枝肉に接触する施設等の細菌検査及び取扱いの調査等を行い、衛生管理の問題点について検討した。
その結果、枝肉の搬入・搬出場所の床、コンベア、冷蔵庫の出入口等で細菌汚染が高く、特に木製のドア枠で細菌数が高かった。搬送車の荷室では、作業従事者が長靴のまま出入りすることがあり、その長靴底の細菌数が高く、また壁面よりも床のほうが細菌数が高かった。懸垂型搬送車よりも横積み型搬送車のほうが荷室の床面・壁面ともに細菌数が高い傾向が認められた。環境中の浮遊細菌数については、冷蔵庫に比較して、枝肉の搬入・搬出場、搬送車等で細菌数が高かった。作業従事者の手袋では、ゴム手袋に比較して軍手で著しく細菌数が高かった。
以上のことから、施設の改修、清掃・消毒の徹底、作業手順の改善等の必要性が示唆された。また、夏期の細菌汚染が多い時期にも調査する必要がある。
2. と畜場および食鳥処理場への搬入家畜・食鳥および処理された食肉の食中毒菌汚染調査
i. 家畜および食肉由来の腸管出血性大腸菌(STEC)O157 およびサルモネラの薬剤耐性
家畜における薬剤耐性菌の保菌状況および食肉等の汚染実態を把握するため、全国で分離されたSTEC O157およびサルモネラについて、家畜生産段階で使用されている薬剤を主体に感受性を調べた。平成8年から平成11年までに全国で分離されたSTEC O157 313株、サルモネラ 399株について試験を行った。薬剤感受性試験はNCCLS寒天平板希釈法により、各薬剤の最小発育阻止濃度(MIC)を求めた。対象薬剤は、ABPC(32 _g力価/ml以上を耐性とする)、CEZ(32 _g力価/ml)、SM(32 _g力価/ml)、KM(32 _g力価/ml)、GM(8 _g力価/ml)、OTC(32 _g力価/ml)、EM(設定せず)、NA(32 _g力価/ml)、NFLX(16 _g力価/ml)、CP(32 _g力価/ml)、FOM(32 _g力価/ml)の11薬剤を用いた。STEC O157は、75株が薬剤耐性を示し、SM、OTCの2剤耐性が33株と最も多く、ついでABCP、SM、OTCの3剤耐性が12株であった。単剤耐性ではSM(10株)、FOM(8株)が見られた。GM、CEZ、NFLX に耐性を示す菌株は認められなかった。他方、サルモネラは約80 %の菌株が耐性であった。SM、KMの2剤耐性を示すものが73株、SM、KM、OTCの3剤耐性が78株であり、さらに4剤、5剤耐性株も存在することから、多剤耐性化も進行していると考えられた。CZEおよびNFLXに耐性を示す菌株は認められなかった。さらに、サルモネラの薬剤耐性傾向は分離された動物、菌の血清型によって異なる傾向が見られた。
ii. わが国における牛の腸管出血性大腸菌O157保菌
わが国における牛の腸管出血性大腸菌(STEC) O157の保菌状況を明らかにするため、と畜場に搬入された牛の糞便よりSTEC O157の検出を試みた。1999年8月より12月までに、全国4カ所 (神奈川、新潟、群馬、大阪市) の食肉衛生検査所において、搬入牛536頭を調査した。これらの対象牛は211農場で、ほぼ全国的に飼育されていたものであった。牛品種は、黒毛和種95頭、ホルスタイン128頭、F1種 (黒毛和種 x ホルスタイン) 313頭であった。STEC O157の検出は、選択増菌培養後、イムノマグネティックビーズ法により行った。STEC O157は536頭中35頭 (6.5 %) から検出された。牛種別では、ホルスタイン種 1.8 % に対し、 黒毛和種 (13.5 %, p<0.01)とF1種 (6.1 %, p<0.05) では有意に高い検出率を示した。さらに農場別では、211農場中25農場(11.8 %)が陽性を示し、農場によっては37.5 % (9/24頭), 33.0 %(2/6頭)と、高い検出率を示すものも見られた。分離菌35株のH血清型および志賀毒素 (Stx) 型は、O157:H7 Stx2型が21株と最も多く、ついでO157:H7 Stx1/2型が12株で、そのほかにO157:H7 Stx1型とO157:H- Stx1/2型が各々1株であった。以上これらの結果は、今日のわが国における牛のSTEC O157保有状況を示すものであると考えられる。
3. 食肉検査データの家畜・家禽の生育、生産段階への還元に関する研究
食肉検査所で得られるデータの効果的な生産農場へのフィードバックの方策を検討することを目的として、生産者にとって有効なと畜検査データ還元の方法、および生産段階における疾病および飼育管理方法等に係わる基礎データの収集方法、さらにデータ還元後の評価について検討した。その結果、フィードバックされたと畜検査データの活用により、生産者自らが疾病に対する認識を深め、疾病対策として飼養管理の改善や疾病予防対策に取り組んだ結果、牛の肝臓疾患が減少した事例、豚の肺炎不活化ワクチンの接種回数の変更による効果が確認され、また豚の寄生虫による肝臓疾患が減少した事例等が認められた。しかしながら、フィードバックデータの有効利用例は認められたが、これらの有効性を定量的に評価するには至っておらず、汎用性のあるフィードバックデータの項目を精選するためにもフィードバックの有効性を定量的に評価する方策を検討することが必要であると考えられた。
結論
本調査・研究成果から、安全で衛生的な食肉を生産し、消費者に供給するためには、と畜場で解体された食肉(枝肉)の流通実態を把握し、各流通工程における衛生管理点を明らかにし、管理マニュアル等を作成することが重要である。特に、流通過程における衛生管理の実態はこれまで十分に把握されておらず、今回得られた調査結果は管理マニュアル策定のために貴重な情報になる。また、今日、家畜・家禽生産段階では、食中毒菌(O157、サルモネラ等)の保有率は高く、処理場では汚染防止を十分に行うための衛生的解体処理が必要である。今回の調査でわが国の牛の6.5 % が腸管出血性大腸菌O157を保有していることが明らかとなり、また農場別でも特に保有率が高い施設が存在することが明らかとなった。また、過去に家畜および食肉から分離されている病原微生物の薬剤耐性プロファイルを今回作成することができた。特にサルモネラは約80 %が何らかの薬剤に耐性となってきており、今後飼育段階において注意深い薬剤取り扱いが必要である。
さらに、と畜検査データ(疾病状況)の生産段階へのフィードバックの有効利用について、従来行われているフィードバックの有効性をある程度評価することができた。今後、より定量的・客観的な評価法について検討し、さらにフィードバックすべき有効なデータを絞り込むことにより、汎用性のあるデータフィードバック指針を作成する必要がある。

公開日・更新日

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