食中毒原因究明方策に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900640A
報告書区分
総括
研究課題名
食中毒原因究明方策に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
三瀬 勝利(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 竹田美文(国立感染症研究所)
  • 柳川 洋(埼玉県立大学)
  • 熊谷 進(東京大学)
  • 小沼博隆(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 後藤 武(兵庫県健康福祉部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
38,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成8年度の腸管出血性大腸菌O157による食中毒の大量発生は食中毒の恐ろしさを再認識させる事件であり、食中毒等食品由来の健康被害対策は、国民の不安を解消し安全な生活の確保を図る上で 最も重要な課題の1つである。
食中毒の情報収集については、患者を診察した医師から保健所に届け出ることとなっているが、特定の給食施設等が介在しない散発的な発生や住民から保健所等へ寄せられる飲食に起因する様々な情報あるいは学会等で報告される報告事例については直接収集する体制にはなっていない。また、新たに開発された食品による健康被害等(例:クロレラ食品)の食中毒以外による食品由来の健康被害に関する報告も問題となっている。したがって、食品に由来する多種多様な健康被害発生情報を迅速に幅広く収集し、専門家による解析・評価を行うシステムの構築が不可欠である。以上のような観点から、本研究は、食品由来の健康被害の実態調査を行うとともに、適切かつ迅速に健康被害発生情報の収集・解析・評価を行うシステムを構築するための研究を行うものである。また、それに加えて各地方公共団体の食中毒発生時調査等の評価を行い、全国的な行政水準の向上を図る。
一方、最近における腸管出血性大腸菌O157やサルモネラ・エンテリティディスによる食中毒は、その疫学データからは発症菌量が極端に少ない場合が多いとされている。また、その原因食品は、生食用野菜、アップルジュース、オレンジジュ-スおよび水など、原因食品として今まであまり問題にされていなかった農産物が疑われ、欧米諸国ではその危険性が指摘されている。そこで、各種農産物の病原菌汚染実態を調べ、危険性のある農産物を明らかにするともに微生物学的リスクの評価方法を確立し、食品中の病原微生物に関する適正な基準・目標値を設定するための研究を行うものであり、もって、国民の不安を解消し安全な生活の確保を図るために必要な食中毒等食品由来の健康被害に関する高度な対策を科学的根拠に基づいて実施することを目的とする。
研究方法
未確認健康被害発生情報の収集評価に関する研究では、食品由来の健康被害の実態を明らかにするために、日常の診療業務の中で患者に接し、最も健康被害の正確な把握が可能と考えられる東京、名古屋、金沢、大阪の各国立病院の消化器内科医、小児科医等を対象に、平成11年1月1日より12月31日の間、調査票を用いた健康被害の実態調査を行った。
散発事例及び遡り調査、患者の把握方法に関する調査研究では、諸外国の食中毒サーベイランスの実態把握」、「アメリカ合衆国の散発発生食中毒事例の検討」、「わが国の散発的集団発生食中毒事例の検討」などを行い、マニュアルの実際への応用について検討し、その上で「食中毒散発発生の疫学調査研修プログラム」あり方について研究を実施した。
微生物危害のリスク評価に関する研究では、食中毒予防方策構築のために必要とされる微生物学的リスクアセスメントの手法を見いだすことを目的として、卵のサルモネラ汚染による食中毒をモデルとして、リスクアセスメントを行った。
微生物の汚染実態に関する研究では、農産物(生食用野菜)に極微量汚染していると思われる病原菌の汚染実態を明らかにすることを目的に、腸管出血性大腸菌O157、サルモネラ菌、ウエルシュ菌およびリステリア菌の汚染実態を調査した。
食品衛生行政の改善に関する研究では、食中毒の発生詳報を検証し、食中毒原因の究明状況を調査した。
結果と考察
未確認健康被害発生情報の収集評価に関する研究では、各施設とも、病原菌を検出した症例のほとんどについて食品衛生法に基づく保健所への届け出を行ってないことが明らかになった。未確認健康被害発生情報の収集という点において、従来の食品衛生法による届け出が何故行われないのかの解析を今後行うことが必要である。また、平成11年4月からの感染症新法による届け出の有無についても今後検討し、未確認健康被害発生の実態を把握することも急務である。
散発事例及び遡り調査、患者の把握方法に関する調査研究では、内外の食中毒散発事例に関する調査資料を収集し比較検討した結果、散発発生食中毒の把握には、全数届出システムと定点サーベイランスのそれぞれの長所を組み合わせたシステムが望ましく、情報の質について定期的に評価を行うことが重要であることを明らかにした。
微生物危害のリスク評価に関する研究では、食中毒予防方策構築のために必要とされる微生物学的リスクアセスメントの手法を見いだすことを目的として、卵のサルモネラ汚染による食中毒をモデルとして、鶏卵のサルモネラ・エンテリティディス(SE)汚染率と細菌数の動態を調べたところ、SE汚染率は0.030%、鶏卵1個当たりの菌数は354個と算出された。
微生物の汚染実態に関する研究では、農産物(生食用野菜)に極微量汚染していると思われる病原菌の汚染実態を明らかにすることを目的に、野菜類の洗浄水中および有機肥料の腸管出血性大腸菌O157、サルモネラ菌、ウエルシュ菌およびリステリア菌を調査した。その結果、洗浄水からサルモネラ菌、ウエルシュ菌およびリステリア菌を検出した。有機肥料からは腸管出血性大腸菌O157は検出されなかったが、サルモネラ菌とリステリア菌を検出した。
食品衛生行政の改善に関する研究では、食中毒発生詳報に基づく食中毒原因の究明状況に関する調査研究を行い、食中毒発生詳報の提出率が低いこと、原因献立又は食品が特定されていない事例が半数以上あり、調査不足であること、必要な病因物質の検索が行われていない事例があること、探知の迅速化について医師、学校関係者及び患者関係者に早期の通報の必要性を周知する必要があること、喫食調査は一般に全数調査により実施されているが、患者数が多数に上る際には抽出調査行うことが可能であり調査方法の検討が必要であること、及び遡り調査の実施が定着していないことが判明した。さらに病原大腸菌及びカンピロバクター食中毒は食品からの菌の検出が困難であることから疫学調査を入念に実施するとともに、新たな試験法の開発が必要であること、遡り調査の内容、受診者数、入院者数、平均潜伏時間等、疫学上重要な情報が食中毒発生詳報の記載事項となっていないものがあるので、これらの情報を記載内容に追加するべきであることが確認された。
結論
未確認健康被害発生情報の収集評価に関する研究では、未確認健康被害発生情報の収集評価に関する研究では、各施設とも、病原菌を検出した症例のほとんどについて食品衛生法に基づく保健所への届け出を行ってないことが明らかになった。
散発事例及び遡り調査、患者の把握方法に関する調査研究では、散発発生食中毒の把握には、全数届出システムと定点サーベイランスのそれぞれの長所を組み合わせたシステムが望ましく、その実現には医療機関の協力、疫学専門家の配置、遺伝子解析など分子疫学的方法の導入,感染症対策行政と食品衛生行政の連携の確立が不可欠であることを示した。
微生物危害のリスク評価に関する研究では、卵のサルモネラ汚染による食中毒をモデルとして、統計計算した結果、全卵中のSE汚染率は0.030%と算出、また汚染卵1個当たりの菌数は354個とされた。
微生物の汚染実態に関する研究では、野菜類の洗浄水中および有機肥料からサルモネラ菌、ウエルシュ菌およびリステリア菌を検出した。有機肥料からは腸管出血性大腸菌O157は検出されなかったが、サルモネラ菌とリステリア菌を検出した。
食品衛生行政の改善に関する研究では、食中毒発生詳報に基づく食中毒原因の究明状況に関する調査研究を行い、食中毒発生詳報の提出率が低いこと、必要な病因物質の検索が行われていない事例があること、探知の迅速化について医師、学校関係者及び患者関係者に早期の通報の必要性を周知する必要があること、さらに遡り調査の内容、受診者数、入院者数、平均潜伏時間等、疫学上重要な情報が食中毒発生詳報の記載事項となっていないものがあるので、これらの情報を記載内容に追加するべきであることが確認された。

公開日・更新日

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