特定疾患治療研究事業未対象疾患の疫学像(患者数、患者の分布、年齢、生命予後、日常生活障害度)を把握するための調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900599A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患治療研究事業未対象疾患の疫学像(患者数、患者の分布、年齢、生命予後、日常生活障害度)を把握するための調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
大野 良之(名古屋大学大学院医学研究科予防医学)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本修二(東京大学大学院医学研究科疫学・予防保健学)
  • 永井正規(埼玉医科大学公衆衛生学)
  • 川村孝(京都大学保健管理センター)
  • 玉腰暁子(名古屋大学大学院医学研究科医学推計・判断学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
32,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、特定疾患調査研究対象疾患でありながら実態が十分把握されていない難病に焦点を当て、その受療患者数や基本的疫学像・臨床像を全国レベルで把握することによって今後の難病対策の基礎資料を作成することを目的とする。
研究方法
特定疾患調査研究対象疾患118疾患の中から、すでに治療研究対象になっている43疾患(受給対象疾患名としては41疾患)を除き、さらに受給疾患以外で1993年度以降特定疾患に関する疫学研究班による全国疫学調査が行われた、あるいは行う予定の30疾患を除外した45疾患70病態を調査対象とした。
はじめに、特定疾患ごとに組織された調査研究班(以下「臨床班」)の協力を得て、既存の調査研究や症例報告から対象疾患の症例数の概算と診断基準の確認を行った。その結果に基づき、疫学調査実施の適否を審査して調査疾患(34疾患59病態)を抽出した。
調査は、1)厚生省の病院リストから病床規模に応じて所定の割合で抽出した全国の医療機関(23,401施設)に、初診・再診合わせて98年1年間に受療した男女別患者数を尋ねる「患者数調査」と、2)臨床班が推薦した症例集積性が高いと予想される全国の特定の医療機関(1,404施設)に、性、生年月、初診年月、最終受診年月、推定発症年月、受療状況、医療費の公費負担状況、身体障害者手帳の有無、臨床経過、死亡時の死因と年月、生存時の日常生活活動度(ADL)、の共通の疫学像11項目、および主要な症状、検査値、合併症の有無、臨床経過など、疾患特異的な臨床医学的特性(5項目以内)を問う「疫学・臨床像調査」――からなる。
調査疾患ごとに以下の解析を行った。「患者数調査」では、従来の全国疫学調査に準じた方法で抽出率および返送率を勘案して患者数の推計を行い、その95%信頼区間も算出した。「疫学・臨床像調査」では、性・年齢をはじめ受療状況や日常生活活動度など各種の疫学的あるいは疾患ごとに特異的な臨床医学的指標の分布について解析した。
なお、調査は医療機関に対して実施し、患者情報は個人名を除いて収集した。
結果と考察
患者数調査の回収調査票は14,267通で、回収率は61.0%であった。診療科別では皮膚科の74.5%が最も高く、内科(内分泌・循環器複合)の48.2%が最も低かった。
特定疾患として登録されている疾患名の単位では原発性高脂血症が最多(推計値の合計83,270人)で、中枢性摂食異常症(同23,200人)、メニエール病(推計値18,000人)、プロラクチン分泌異常症(推計値の合計13,360人)が次ぐ。原発性高脂血症の中では、原発性高コレステロール血症が70,000人(そのうち特発性が51,000人)ときわめて多く、中枢性摂食異常症の中では神経性食欲不振症が12,500人、プロラクチン分泌異常症の中ではプロラクチン分泌過剰症が12,400人と多数を占めた。反対に、ビタミンD受容機構異常症は推計患者数が40人と最少で、甲状腺ホルモン不応症が同50人、進行性多巣性白質脳症とファブリー病がともに150人と少数であった。原発性高脂血症の中でも、アポリポ蛋白CII欠損症(推計値22人)や家族性リポ蛋白リパーゼ欠損症(同75人)は稀発性であった。
疫学・林創造調査の回収調査票は897通で、回収率は63.9%であった。
内因性高トリグリセライド血症(原発性高脂血症)や球脊髄筋萎縮症、ペルオキシソーム病、レーベル病(難治性視神経症)のように男性に著しく多い疾患と、中枢性摂食異常症、硬化性萎縮性苔癬のようにほとんどが女性に生ずる疾患があった。
一般的に患者は高齢者に多いが、中枢性摂食異常症、プロラクチンやゴナドトロピンの分泌異常症のように若年者に多いもの、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、遅発性内リンパ水腫、難治性ネフローゼ症候群のように比較的均一な年齢分布を示すものがあった。
ギランバレー症候群、正常圧水頭症、急性進行性糸球体腎炎のように、最近の発症者が多くを占めるものと、ペルオキシソーム病、ファブリー病、球脊髄筋萎縮症のように1990年以前に発症したものが多い疾患があった。
通院治療をしている疾患が多いが、ギランバレー症候群のように半数以上が入院治療を受けているものもあった。一般的に神経疾患は入院率が高い傾向がある。
医療費の公費負担を受けていないものが大半を占めていた。線状体黒質変性症など脊髄性進行性筋萎縮症、進行性核上性麻痺などでは、他の特定疾患の公費負担を受けている患者が少なくなかった。
身体障害者手帳を持たないものが多いが、ペルオキシソーム病、ライソゾーム病、脊髄性進行性筋萎縮症などの神経難病では保有するものが6割程度あるいはそれ以上を占めた。
臨床経過は、ギランバレー症候群や血栓性血小板減少性紫斑病のように7~9割近くが改善したもの、線状体黒質変性症や進行性多巣性白質脳症のように7割が悪化・死亡したものなど多彩であった。
内分泌疾患は大部分が日常生活に制限がなく、逆に神経疾患では全面的に介助を要するものが多く、半数以上に達するもの(進行性多巣性白質脳症)があった。ペルオキシソーム病やライソゾーム病、血液系の疾患も軽度の制限があるものが少なくなかった。
結論
今回の調査と従来の調査を合わせ、調査研究対象の全難病の患者数および基本的疫学像が初めて明らかとなった。これらは行政や臨床における難病対策に貢献するものと思われる。

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