副腎白質ジストロフィーの治療法開発のための臨床的及び基礎的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900597A
報告書区分
総括
研究課題名
副腎白質ジストロフィーの治療法開発のための臨床的及び基礎的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
辻 省次(新潟大学脳研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木康之(岐阜大学医学部)
  • 山田猛(九州大学医学部附属脳神経病研究施設)
  • 加藤俊一(東海大学医学部)
  • 今中常雄(富山医科薬科大学薬学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究においては、副腎白質ジストロフィー( Adrenoleukodystrophy, ALD )に対する有効な治療法を確立することを目的として次の課題を設定して研究を行った。すなわち、1. ALDの疫学・自然歴に関する調査を行う、2. lovastatinを用いた国際共同治験を実施する、3. 骨髄移植の有効性についての評価を行う、4. ALD蛋白の機能と病態機序の解析を行う、というものである。
研究方法
ALDの自然歴に関する研究 今年度は、本研究班で計画している自然歴に関する疫学調査の準備段階として、15例の小児型および思春期型ALD(骨髄移植例を除き、Lorenzo油投与例を含む)について、発病年齢,症状の発現時期をKaplan-Meier法にて解析した。ALDの国際共同治験に関する検討Johns Hopkins大学Kennedy Krieger Institute を中心に計画が進められているlovastatinの国際共同治験計画に、辻が参画し、計画の立案と、わが国において実施する際の問題点、検討課題についての検討を行った。ALD蛋白欠損マウスの極長鎖脂肪酸蓄積に対するロバスタチンの効果に関する研究ヒトで報告されたlovastatinによる極長鎖脂肪酸の低下作用について雄のALD蛋白欠損マウスを離乳後(生後3週間)、0.1%ロバスタチンを混ぜた餌により4~8週間飼育し、血中脂質、極長鎖脂肪酸の分析を行った。ペルオキシソーム膜ABCタンパク質の構造と機能に関する研究CHO細胞に,ペルオキシソームの重要な膜タンパクであるPMP70を発現させ、C16:0、 C24:0のβ酸化活性への影響、coimmunoprecipitaionによるPMP70、 ALDタンパクの相互作用の解析、PMP70、 ALDタンパクのATPに対する親和性について検討を行った。副腎白質ジストロフィーに対する骨髄移植の臨床的検討東海大学において1996年から1999年までに骨髄移植または臍帯血移植を実施した副腎白質ジストロフィーの6症例について臨床経過と効果について検討した。さらに、1981年から1999年の期間に世界43施設において実施された126例の副腎白質ジストロフィーにおける造血幹細胞移植の成績について、ミネソタ大学のPetersらを中心に、わが国からも東海大学(加藤俊一)、名古屋赤十字病院(加藤剛二)が参加して解析が行われた。
ワークショップ「副腎白質ジストロフィーに対する骨髄移植」の開催我国でこれまでにALDに対して造血肝細胞移植が行われた全例について、担当医に直接参加をいただきワークショップを開催し、その臨床効果についての詳細な検討を行った。また、このワークショップに、ALDの造血肝細胞移植について最も経験の豊かなMinnesota大学のDr. Charles Petersの参加を求め、これまでの経験例 (126例)の報告をいただくとともに、わが国の造血肝細胞移植例についての意見の交流を行った。また、このワークショップにおいては、ムコ多糖症などのライソソーム疾患に対する造血肝細胞移植についても検討を合わせて行った。
結果と考察
ALDの自然歴に関する研究 15例の小児型および思春期型ALDの発病年齢、症状の発現時期をKaplan-Meier法にて解析した。15例の発病年齢は平均8.5才で、初発症状は視力低下が7例と最も多く、各症状の平均出現月数は性格変化3.5か月、聴力低下4.7か月、知能低下4.8か月、視力低下5.2か月、言語障害7.3か月、歩行障害8.5か月、燕下障害16.8か月、起座不能17.7か月であった。各症状の出現時期をKaplan-Meier法で解析したところ、知能低下が最も急速確実に進行し、出現時期に有意差を認めたのは知能低下と臥床、知能低下と燕下障害、歩行障害と臥床であった。ALDの国際共同治験(Multicenter Therapeutic Trials of X-linked Adrenoleukodystrophy) 実施に向けての検討 本年度、Multicenter Therapeutic Trials of X-linked Adrenoleukodystrophyをわが国で実施する場合の諸問題について検討を行った。この治験計画のプロトコールは妥当なものであり、わが国においても、参加、実施が可能であると考えられる。国際共同治験を実施する上での問題点として、1. 神経心理学的検査の標準化の問題 (cross-cultural differenceをどう克服するか)、2. 神経心理学的検査を実施するためのわが国のインフラの整備、3. DICOM非対応のMRI装置で撮影されたMRI画像をどのような形でDICOMフォーマット化し、centralized masked readingを実施するかという点が検討課題であることが明らかとなり、次年度においてこれらの点を重点的に検討することにする。ALD蛋白欠損マウスの極長鎖脂肪酸蓄積に対するロバスタチンの効果に関する研究 雄のALD蛋白欠損マウスを離乳後(生後3週間)、0.1%ロバスタチンを混ぜた餌により4~8週間飼育した。 C26:0量、C26:0/C22:0比のいずれについても、血漿及び脳脊髄を含めた臓器中で有意な減少を認めなかった。ロバスタチンは少なくともマウスでは組織中の極長鎖脂肪酸の蓄積を改善せずロバスタチンの有効性については臨床治験が必要である。ペルオキシソーム膜ABCタンパク質の構造と機能に関する研究 PMP70の構造と機能、細胞内における役割、ALDPとの相互作用について解析した。その結果、PMP70は長鎖脂肪酸CoAに特異性をもつ輸送担体であること、機能ドメインとしてEAA like motif、Walker A、B motif が重要であること、ATPase活性をもつことが明らかになった。 また細胞内におけるPMP70の過剰発現は、ALDPの関与が推定される極長鎖脂肪酸β酸化を抑制すること、PMP70とALDPのヘテロダイマー形成は、ALDPのATPに対する親和性を変化させることが見いだされた。副腎白質ジストロフィーに対する骨髄移植の臨床的検討 東海大学において1996年から1999年までに骨髄移植または臍帯血移植を実施した副腎白質ジストロフィーの6症例について臨床経過と効果について検討した。6例の移植時年齢は5~10歳で、神経学的な進行状況は発病前の無症状の症例から晩期の症例まであり、移植後の臨床効果は移植時のIQと相関していた。病初期で移植を実施できた症例ほど精神神経症状の改善が認められ、MRI上でも白質病変の進行の停止が確認できた。以上の結果より、小児脳型副腎白質ジストロフィーにおいては症状の発現初期またはMRI上での以上出現後早期の造血幹細胞移植の実施が望まれる。ワークショップ「副腎白質ジストロフィーに対する骨髄移植」の開催 ALDに対して,これまでにわが国で実施された造血肝細胞移植例として18例の報告があった。このう
ち、14例が発症ALD男児に対して行われ、4例が発症前男児に対して行われたものであった。発症ALD男児に対して行われた移植例は、発症時年齢(5.6~10才、平均7.4才)、移植時年齢(6.4~11.8才,平均8.4才)、移植後観察期間(2~72ヶ月、平均22.8ヶ月)であった。移植後の予後としては、明らかに進行が停止した例が1例、移植後症状の進行は認められたもののその後進行が停止したと考えられ、ある程度の臨床効果があるのではないかと考えられた例が2例であった。移植の効果があったと考えられる例は、発症後10ヶ月で比較的神経症状の軽いときに移植が実施されていた。骨髄移植時の前処置中に神経症状の悪化が認められた例があり、骨髄移植に際しての前処置の問題点については次年度さらに検討を加える予定である。発症前男児に対して行われた例については、移植時年齢(1.8~9.5才、平均6.1才)で、移植後観察期間が(21~134ヶ月、平均65.5ヶ月)であるが、この間においては神経症状の出現は認めていない。ALDの発症年齢については多彩であり、発症年齢を予測できないことから、これらの移植例についてはさらなる観察を続けることと、本研究班で次年度の活動として計画しているALDの詳細な自然歴との比較などを行いながら、その効果についての検討を加えていく必要がある。
結論
ALDの自然歴については、本年度15例の小児型、思春期型についての予備的検討を行った。次年度に全国の疫学調査により、ALDの自然歴に関する詳細な解析を計画している。この全国疫学調査については、既に本年度一次調査票の発送を行い、現在回収、分析中である。 平成12年度においてはkの一次調査結果に基づき二次調査を実施し、自然歴に関する詳細な解析を行う予定である。ALDの国際共同治験 (Multicenter Therapeutic Trials of X-linked Adrenoleukodystrophy) 実施に向けての検討を行い、神経心理学的検査、DICOM非対応のMRI装置で撮影されたMRI画像をいかにしてDICOMフォーマット化するかなどの課題について、次年度詳細に検討する予定である。ALDにおける極長鎖脂肪酸代謝異常について、ALD遺伝子欠損マウス、ペルオキシソームタンパクの機能に関する研究をさらに次年度以降進める。ALDに対する造血肝細胞移植の臨床効果については本年度にワークショップを開催し18例の移植例についての詳細な臨床報告をいただいた。本年度は中間報告としてこのワークショップの成果をまとめ、次年度さらに詳細な検討を加えて、最終報告としてまとめる予定である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-