特定疾患対策の地域支援ネットワークの構築に関する研究

文献情報

文献番号
199900595A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患対策の地域支援ネットワークの構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
木村 格(国立療養所山形病院)
研究分担者(所属機関)
  • 木村 格(国立療養所山形病院)
  • 佐藤 猛(国立精神神経センター国府台病院)
  • 平井俊策(東京都立神経病院)
  • 長谷川一子(北里大医学部)
  • 田代邦雄(北海道大医学部)
  • 糸山泰人(東北大学医学部)
  • 中村重信(広島大学医学部)
  • 吉良潤一(九州大学医学部)
  • 島 功二(国立療養札幌南病院)
  • 加藤丈夫(山形大医学部)
  • 吉野 英(国立精神神経センター国府台病院)
  • 今井尚志(国立療養所千葉東病院医長)
  • 中島 卓(国立療養所犀潟病院)
  • 姜  進(国立療養所療刀根山病院)
  • 葛原茂樹(三重大学医学部)
  • 高橋桂一(国立療養所兵庫中央病院)
  • 阿部康二(岡山大学医学部)
  • 難波玲子(国立療養所南岡山病院)
  • 畑中良夫(国立療養所高松病院)
  • 渋谷統壽(国立療養所川棚病院)
  • 福永秀敏(国立療養所南九州病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成11年度の達成目標は下記の6点に絞り、研究を推進した。(1)地域格差を解消し、患者が必要とする専門医療サービスがいつでも、どこでも、またいつまでも受けられることを実現する。(2)都道府県を1つの単位にして、各地域保健所を核とする難病医療・生活支援ネットワークを構築し、そこでのネットワークを運用する上での阻害要因を明らかにした上で、それをそれぞれの都道府県毎に解決を計る。全国的に共通する問題については、制度上の改革を含めて政策提言として提出する。(3)患者及び家族、難病患者の支援団体など、地域支援ネットワークの利用者の立場からのシステムとネットワークの効果と問題について検証し、今後のシステム構築に資する。(4)特定疾患、中でも、社会的制約で希望する人工呼吸器装着ができずに終末期を迎える重度神経難病患者の緩和ケア療法については、我が国を含め国際的に標準となるマニュアルができていない。全国で標準となる指針を作成し、その普及を計る。(5)大規模災害を想定した災害時難病医療相互支援体制をいつかの地域でモデル事業として企画し、災害時の地域間相互支援システムを構築し、それをシュミレーションする。(6)広域モデルとしての北海道、大都会モデルとして首都圏、小規模モデル県として山形-宮城、福岡を選び、そこでの成果を全国的に展開する戦略をまとめる。
研究方法
全国を対象とする平成11年度事業「重症難病患者入院施設確保事業」の進捗状況と、ALS全国医療情報ネットワーク構築及び運営についての調査は参加全施設責任者に対して、それぞれ文書による調査を行い、解析する。研究班員所属の都道府県でそれぞれの課題を解決するためのモデル事業を展開し、そこでの成果を全国に普及するための具体的な方策を求める。
結果と考察
(1)全国広域での支援ネットワーク構築に関する成果:平成11年度「重症難病患者入院施設確保事業」進捗状況を調査。難病医療連絡会議設置、拠点-協力病院の指定は本年度末までに両者とも70%で完了、難病専門員設置、相談窓口開設等の実務事業の実施率は各々36%、53%とまだ低く、本研究班が積極的に介入し、 都道府県の担当課と地域医療提供サイドとの連絡調整の場を設定する等の各地域での問題解決とシステム導入による実際の効果の検証が必要。ALS全国医療情報ネットワーク事業の進展:現在までに難病センターを介するインターネット上で、各都道府県代表病院(責任者)86施設、協力病院264の計350の施設名とその担当医名を公開し、ネットワークへの利用アクセス数が増加。ネットワーク参加全施設担当者を対象に、システム構造と運用、地域支援ネットワークとの連携についてアンケート調査を実施し、今後のシステム開発と整備に活用した。(2)首都圏での支援ネットワーク構築の成果:第一回の東京都ALS懇話会開催:首都圏など大都会での大学と地区基幹専門医療施設間の連携問題を解決するために、本研究班が積極的に介入
し、神経難病を中心に特定疾患を対象とする協力体制が構築された。東京都衛生局を核として、人工呼吸器を装着する重度難病患者の長期入院施設の確保、在宅療養患者への支援システムの構築、必要な情報公開等、利用者の期待に沿った実践的な支援ネットワークの構築をすすめる。首都圏など大都会においても、特定疾患など難病の早期確定診断と専門治療供給システムの不備が実践調査の中で指摘。広域の地域毎に医師会かかりつけ医を含む病院の専門医・訪問看護婦、保健婦・ヘルパー・リハビリ・スタッフ・薬剤師など、チームを構成した地域支援ネットワーク構築の重要性が再確認された。(3)地域特性を考慮した地域支援ネットワークの構築の成果:北海道難病支援ネットワーク設立:北海道大学など3大学と関連国公立病院間の医療ネットワークを基盤とする北海道ALSネットワーク会議を設立、北海道の広域を7地区に分けて具体的な支援企画と実践計画が策定された。特に、道南と道東地域においては難病患者の分布と必要な医療供給についての現状分析がなされ、支援ネットワーク構築の基礎資料とした。長期療養環境の選択肢の拡大:比較的長期入院施設確保事業が完了し、地域支援ネットワークが実際に効果をあげている山形-宮城では、長期療養の質の向上を目的に、長期療養形態の新たな選択肢としてケアハウス(あるいはナーシングホーム)の設立可能性について調査し、近い将来の実現に向けて具体的な企画をした。地元医師会との連携の促進:神経難病基幹病院医療相談室での分析から、人工呼吸器を装着した重症神経難病患者の在宅療養には地元医師会との連携が重要であり、密接な連携によって長期入院形態から在宅での長期療養に移行することが可能であることが実証された。また在宅での介護要員支援とともに、必要とする医療・介護情報を適格に提供するシステム構築の必要性がまとめられた。長期療養の場として追加認定された身体障害者療護施設への重症難病患者入所について8ヶ所の施設について実地調査。専門医療と看護体制不足、専門医療機関との連携欠如が指摘され、医療整備とともに入所審査に際して医学的判断が必須であり、常に専門医療機関との有機的連携が必要となる。各都道府県を1つの単位に、支援ネットワークの対象となる重症神経難病患者の地域的分布および全例登録・追跡システムを利用した現状把握から、地域で必要な医療サービスの量と、その供給体制での問題点を指摘し、今後の解決についての具体的な解決策が提示された。(4)療養の質を規定する諸環境要因についての研究:支援ネットワークに参加する各職種、スタッフが共通の意識の上に立って、患者に対して適切に病名告知や情報公開をすることが生活の質と生きがいを改善することが検証された。適切な時期に適切に病名告知がなされ、十分なインフォームド・コンセントが実施されるために規範的なマニュアルの作成が重要であり、その急務性が指摘された。介護保険法施行による在宅神経難病患者の療養生活への影響についての研究:人工呼吸器を装着して入院療養中の重度神経難病患者を対象に、介護保険導入後の療養生活への影響について検証し、今後の介護保険のあり方について明らかにした。医療・福祉情報入手媒体についての実情調査と今後の方向:入院中の難病患者がどこから必要な情報を 得ているかの調査から、インターネットなどマスメデアを介する新しい手段が益々利用されており、今後早急に整備する必要性が指摘された。重症神経難病患者が人工呼吸器などによる延命を希望しない場合の終末期緩和ケアのあり方について調査した。全国の神経内科を有する国立病院療養所に対するアンケート調査で現状を検討した結果、治療方針決定ガイドライン策定が必要であることが指摘。看護専門職あるいは将来の看護職予備軍である看護学生に対して難病医療と難病看護教育の重要性が指摘され、看護学校あるいは看護大学での実務専門家による教育特に、臨床の早期被爆(early exposure)の重要性が報告された。神経難病患者の在宅療養での最大の問題である介護力不足に関連して、介護者の一日の活動量を
客観的に数量化し、分析できるアクチグラム法の開発とその臨床応用について報告され、介護についてより科学的なアプローチが可能になった。
結論
本研究事業申請時に6つの達成課題を設けて研究事業を遂行。都道府県の難病患者地域支援ネットワークの構築完了率は約70%であったが、相談窓口事業開設や難病専門員設置等の実質的活動は50-40%であり、医療サイドと県担当者との連携の場の設定等全国で事業を徹底するための効果的な方策が強く望まれる。本研究班の設置を契機に全国の地域で難病患者の療養環境整備、情報公開、地域支援ネットワーク構築は確実に進んでおり、難病患者が必要な医療と生活支援サービスをどこでも、いつでも、またいつまでも受けられる時代が近いことが期待できる。

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