特発性大腿骨頭壊死症の予防を目的とした疫学的病態生理学的遺伝学的総合研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900583A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性大腿骨頭壊死症の予防を目的とした疫学的病態生理学的遺伝学的総合研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
高岡 邦夫(信州大学医学部整形外科)
研究分担者(所属機関)
  • 二ノ宮節夫(埼玉医科大学整形外科)
  • 長沢浩平(佐賀医科大学内科)
  • 居石克夫(九州大学医学部病理学)
  • 松本忠美(金沢医科大学整形外科)
  • 廣田良夫(大阪市立大学医学部公衆衛生学)
  • 野口康男(九州大学医学部整形外科)
  • 久保俊一(京都府立医科大学整形外科)
  • 津田裕士(順天堂大学医学部膠原病内科)
  • 大園健二(大阪大学医学部整形外科)
  • 中島滋郎(大阪大学医学部小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特発性大腿骨頭壊死症は壮年期成人に好発し、その罹患によって股関節が破壊され起立歩行障害によりQOLが著しく侵される疾患である。最近の調査によれば、本疾患の年間新規罹患者数は7000人と推計され、年々増加傾向にある。本疾患の病因は必ずしも明かではないが、背景危険因子として副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)投与歴やアルコール愛飲歴などが知られているが、本疾患の発症に至る病態の詳細はいまだ明らかではない。特にステロイド剤使用後の本疾患患者が次第に増加し、大腿骨頭壊死症患者の半数を占めている現状は問題である。ステロイド剤はその確実な薬効ゆえに膠原病、アレルギー疾患をはじめ、多くの疾患の治療に広く使われているが副作用も多く、大腿骨頭壊死症も重大な副作用とみなされている。しかしステロイド剤が本疾患を誘発する機序は不明であり、したがってその予防措置がとれないのが現状である。骨の微小循環障害に起因する阻血性骨壊死が本疾患の本態とされるが、ステロイド剤が骨微小循環にどのような機序で障害をきたすかがいまだに明解でない。最近わが国でも移植医療が注目されるようななったが、臓器移植後に汎用されるステロイド剤や免疫抑制剤による大腿骨頭壊死症の発生も危惧される。臓器移植にともなう本疾患の発生状況の監視と予防法の開発がとなるこ急務である。そのため本研究班では、すでに普及している腎移植に限らず、骨髄移植、肝移植、心移植患者での本疾患の発生についても調査を要すると考える。一方で不幸にして本疾患に罹患した患者については、正確に診断し有効かつ能率的に治療を進めるための診断基準と適切な治療指針が必要であり、その確立も本研究班の大きな使命である。このような現状認識のもとに、平成11年度からの厚生省特定疾患対策研究事業―骨関節系調査研究班―特発性大腿骨頭壊死症調査研究分科会を新しく組織した。要約すれば本研究班の目的を以下のごとくにである。
1) わが国での特発性大腿骨頭壊死症の発生状況の患者数把握と年次推移の調査監視
2) 疫学調査のよる罹患危険因子の同定およびその危険因子回避へ向けてのの啓発
3) 診断基準の確立と効果的な治療指針の確立と普及
4) 病因病態解明とその結果を基礎とした予防法の開発。特にステロイド剤の骨循環への作用の解明
研究方法
研究方法および結果=これらの目的達成にむかって、当面の具体的な問題点を効果的に解決するために多くの専門家の協力を得て班構成を試みた。具体的な研究課題に取り組むために、班に以下の5作業グループ(遺伝子解析、病態解析、疫学調査、診断治療ガイドライン、臓器移植の骨頭壊死調査)を組織し共同研究を開始した。各グループが分担する課題、達成目標と本年度の活動状況を以下に概略する。各研究グループの研究内容の詳細は本報告書の以下に掲載されている。
A.大腿骨頭壊死症発症素因の遺伝子解析:
大量のステロイド剤を投与された患者でも全てに本疾患が発生するのではない。例えば大量のステロイド剤が投与されたSLE患者の10%前後に本疾患が発生する。これはステロイドに対する感受性についての個体差がある可能性を示唆する。本疾患患者ではステロイド感受性亢進状態にある可能性があり、それを遺伝子レベルで検索をおこなった。その目的はステロイド剤投与前に遺伝子検索によってステロイド感受性亢進を予知することによって本疾患罹患傾向を認知し、ステロイド剤投与量を少なくして本疾患の発症を防止することである。まずステロイドに対する感受性を高めるとされるステロイド核内受容体の遺伝子多型について検索を開始した。今年度は受容体の点変異(N363S)について検索した。しかしこの多型は罹患患者、正常者ともに見られず、日本人にはきわめて低頻度であり本疾患の遺伝的素因ではないことが判明した。その後ステロイド感受性を高める別の遺伝子多型であるBcl-1消化断片の多型について検索している。(高岡、中島)
B.病態解析:
骨の循環障害が本疾患の直接的な病態とされるが、ステロイドが骨の血流に及ぼす作用について研究を行った。まず骨髄内微小血管の薬剤による収縮弛緩をex vivoで直接観察できる実験モデルを開発した。この系でステロイドや他の薬剤の血管運動に対する作用の観察が可能となり、本格的にステロイドの血管への作用を観察している。(大橋ら)
血管運動機能に対するステロイドの臨床的研究も行った。血管内皮依存性血管拡張反応がステロイド剤内服によって阻害されることが明かになった。この反応には活性酸素、酸化窒素の血管内皮での合成系が関与しているらしいことも明らかにされた。これはこれまでに知られていない事実であり、今後の本疾患の病態解明へ向けた研究発展の大きな手がかりになると期待される。(松本俊夫)
虚血状態の組織での細胞レベル(特に血管内皮)での防御反応(血管弛緩反応)とその反応に対するステロイドの作用についての研究も開始された。特にHypoxia に反応して血管内皮で発現される転写因子であるHIF-1の発現および作用に対するステロイドの効果について検索が進行中である。(田中良哉)
本疾患での骨内微小循環障害に血管内皮での酸活性素や酸化窒素の産生異常が関与してるらしいことは動物モデルでも示された。酸化窒素合成酵素の阻害によって骨壊死が生じやすくなるとの結果がえられた。(野口)
ステロイド剤投与のよる脂質代謝や血液凝固能の変化と骨壊死発生との関連についても研究がおこなわれた。血液凝固能抑制によって骨壊死発生が防止できないとの結果であった。(長沢,居石)
C.疫学調査:
班員が属する13医療施設での定点モニタリングを行った。1994年に本研究班でおこなった全国アンケ-ト調査の回答で得られた患者実数の1/4がこの定点モニタリングで得られた。約半数の患者で膠原病などでステロイド剤による治療が行われていた。それらの患者の股関節に対する治療法についても情報が得られた。
D.診断治療ガイドライン:
本疾患に特異的な手術法としてわが国で開発された大腿骨頭回転骨切り術がある。しかしこの術式の対象となる患者は限られているだけでなく手術手技に習熟を要する。この手術をより標準化し成功率を高める努力が行われている。(渥美、野口)
大腿骨頭壊死症の治療は大腿骨頭回転骨切り術、人工骨頭置換術、人工関節置換術などの外科的治療が一般におこなわれている。それらの治療についてのcritical path の作成も試みた。(仏淵)大腿骨頭への血流障害を早期に検出する為の新しい診断法として3D骨シンチグラフィーの導入を試みた。(久保)さらに、従来本研究班で作成しきた本疾患の診断基準、病型分類、病期分類の有用性を検証するための予見的調査を開始した。それを基に本疾患の適切な治療ガイドラインを作成する予定である。
E.臓器移植後の特発性大腿骨頭壊死症:
わが国では腎移植、骨髄移植はかなり普及しているが肝移植、心移植などはこれまでまれであったが、脳死患者からの移植が行われる様になりこれから増加するものと予想される。これらの臓器移植後にはステロイド剤を含めた種々の免疫抑制剤が投与される。その結果大腿骨頭壊死が生ずるこが知られている。腎移植の場合には移植患者の5%前後に骨頭壊死が生じている。したがって他の臓器移植においても骨頭壊死症が起こる可能性が高い。しかしわが国では心移植(渡航移植も含む)肝移植患者について骨頭壊死症発症頻度についての調査がなされていない。そこで本研究班では腎移植以外の臓器移植をうけた患者についての調査をおこない、発生頻度調査および早期発見、早期治療を行いたいと考えている。本年度はその患者に関するdata baseを作成に監視体制を構築するために作業を開始した。骨髄移植については既に6%に大腿骨頭壊死症の発症を確認した。将来はその予防の為の処置について研究を進めたいと考えている。
以上本年度の研究進行状況の概略を述べた。本疾患の克服には多くの問題があるが、研究者の協力によって解決の努力を続けるける所存である。

結果と考察
結論

公開日・更新日

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