脊柱靱帯骨化症に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900582A
報告書区分
総括
研究課題名
脊柱靱帯骨化症に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
原田 征行(弘前大学医学部整形外科)
研究分担者(所属機関)
  • 猪子英俊(東海大学分子生命科学2)
  • 今給黎篤弘(東京医科大学整形外科)
  • 河合伸也(山口大学整形外科)
  • 中村耕三(東京大学整形外科)
  • 馬場久敏(福井医科大学整形外科)
  • 松永俊二(鹿児島大学整形外科)
  • 三木哲郎(愛媛大学老年医学)
  • 守屋秀繁(千葉大学整形外科)
  • 米延策雄(大阪大学整形外科)
  • 井ノ上逸朗(群馬大学生体調節研究所遺伝情報分野)
  • 井形高明(徳島大学整形外科)
  • 岩田久(名古屋大学整形外科)
  • 植山和正(弘前大学整形外科)
  • 遠藤正彦(弘前大学第一生科学)
  • 岡島行一(東邦大学整形外科)
  • 金田清志(北海道大学整形外科)
  • 木村友厚(富山医科薬科大学整形外科)
  • 四宮謙一(東京医科歯科大学整形外科)
  • 神宮司誠也(九州大学整形外科)
  • 滝川正春(岡山大学歯学部口腔生化学)
  • 玉置哲也(和歌山県立医科大学整形外科)
  • 中原進之介(国立岡山病院整形外科)
  • 中村孝志(京都大学整形外科)
  • 飛騨一利(北海道大学脳神経外科)
  • 藤村祥一(慶應義塾大学整形外科)
  • 藤原奈佳子(名古屋市立大学看護学部)
  • 藤井克之(東京慈恵会医科大学整形外科)
  • 元村成(弘前大学薬理学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脊柱靭帯骨化症の発症原因は不明である。脊柱靭帯の異常骨化の原因を追及するために種々のアプローチで検討してきた。日本人、アジア系人種に多く見られることから、遺伝子解析を行い多因子遺伝形式であることが判明していることから原因遺伝子の同定を行う。異常骨化における骨形成因子について、全身的要因、局所的要因について明らかにする。
実験動物、靱帯細胞培養などの手法を用いて細胞生物学的、分子細胞学的に各種骨形成サイトカイン、蛋白、軟骨基質の分析、細胞へメカニカルストレスと骨形成能を検討する事を目的とした。臨床的検討では、骨化によって慢性圧迫を受けた脊髄変形と、機能回復について脊髄可塑性について検討する。臨床症状をJOAスコアに基づき5段階に分析したが、更に実状に見合った評価法を確立し、Evidence Based Medicineの臨床評価を行うことを目的とした。治療後、及び経過観察中も含めて、患者の高齢化と患者のQOL, AOLの向上、改善を図る。班員、協力員及び全国の脊椎外科医の協力でOPLL患者の全国的調査を行う。また患者・家族の会とも密接な関係を持ちながら社会資源利用状況調査と生涯の適正な評価・支援体制を確立する。これまで中国の疫学調査を行ってきたが、中国全土に亘る発生状況を調査する。
研究方法
研究内容により、遺伝子解析、骨形成因子、軟骨基質、細胞とメカニカルストレス、脊髄の可塑性について、QOL,AOL調査及び疫学調査の研究グループで、班員、協力員をそれぞれのグループに配属し情報交換、サンプルの融通などで共同研究体制で行ってきた。グループ研究テーマ以外でもそれぞれの研究テーマについて研究を進めた。その成果は分科会、総会で発表した。遺伝子解析は井上を中心に、原因遺伝子分析を行った。他因子遺伝子形式とされているが、これまでに第6染色体上のコラーゲン11A2とその近傍にRetinoinn X Receptorβ(RXR-b)を同定した。更に第21染色体p22.1領域に強い連鎖を見いだして分析した。ゲノム全域を網羅する遺伝カーカーを使い連鎖解析をおこなった。骨形成因子の全身因子、局所因子について、動物実験、靱帯培養細胞について、各種サイトカインの添加、あるいは遺伝子発現について検討した。全身的要因として特に中村(耕)はインスリンの作用について検討しその他、レプチン、ビタミンAと靭帯骨化について検討した。局所因子とした、BMP, TGF-b,b-FGF, lGF-1などの骨形成サイトカインについて添加実験、及び遺伝子発現を検討した。靱帯培養細胞の手法が確立され、細胞生物学的、分子細胞学的研究が行われた。また局所的因子として靱帯付着部での骨化形態を原田、中村〔孝)は局所にかかるメカニカルストレスとの関係について検討した。これまで細胞の形態、変化が検討されてきたが、細胞基質についての研究が遅れていた事から、藤井、原田は軟骨細胞基質におけるプロテオグリカンの加齢変化、コラーゲンについて解析した。慢性圧迫を脊髄の変形と脊髄機能について、馬場、米は脊髄の可塑性の動物実験、免疫組織学的検討を行った。原田は脊髄保護作用を有するとされる、脊髄液中のヒアルロンサンの変化について検討した。脊髄症の機能評価はこれまでJOAスコアで評価されてきたが、必ずしも的確な評価方では無いことから、河合、藤村、藤原を中心に班員、協力員、及び全国の脊椎外科の協力を得て主治医及びOPLL患者のアンケート調査を行った。また患者。家族の会とも密接な関係を取りながら、疾患の啓蒙・医療相談・研究班の研究成果などを公表する事で、社会資源の利用状況調査と障害の評価・支援体制を確立しようとした。中国内の疫学調査は、原田、植山が中国内医師の協力と理解でこれまで7年間に亘り、中国内、北の長春から内モンゴル、赤峰、北京、海南島で調査を行ってきた。8年目の1999年昆明の調査でほぼ中国全域に亘るピンポイント調査が完成した。
結果と考察
これまで原因遺伝子として第6染色体上にコラーゲン11A2とその近傍にビタミンA受容体であるRetinoic acid X Receptor-β(RXR-β)遺伝子を同定した。第6染色体MHC領域のマイクロサテライトマーカーによる原因遺伝子の検索を行った。また第21染色体上にも強い連鎖反応がみられ他の遺伝子を分析中である。
IRS-1マウス(インスリン受容体マウス)による実験で骨代謝回転維持に重要な役割があることが判明した。
全身的因子としてインスリンの作用が骨化とは密接な関連が推察された。
靱帯培養細胞から各種サイトカインの骨形成能が証明された。サイトカインの遺伝子発現から骨化形態を研究した。軟骨細胞層にCTGF-b(Connective Tissue TGF-β)を検出したことから、靭帯骨化は内軟骨性骨化形態を取ることが証明された。
軟骨基質の分析でプロテオグリカンの加齢的変化から、新しいデコリンを抽出した。デコリンは細胞の増殖・分化・脱分化、あるいは基質合成に対するシグナルが、基質蛋白との接触によって調節を受けるという、いわゆるcell-matrix interactionが骨化のトリガーとなることが示唆された。新しいデコリンの分子構造を解析中である。
メカニカルストレスが細胞に与える影響は、正常靱帯と骨化靱帯培養細胞では進展刺激で骨形成遺伝子発現が異なった。このことから進展刺激が骨化形成に何らかの関係があると推察された。脊髄可塑性について、慢性圧迫された脊髄灰白質内で、軸索再生、修復機転の発生が示唆された。
頸椎OPLL患者の全国調査から患者のQOL, AOLを如何に向上、維持するかが課題である。高齢化するOPLL患者の増加に対し、脊髄症評価の見直しを検討中でEvidence Based Medicineに基づいた評価で、社会資源利用状況に反映する。
中国での疫学調査では開始して8年後の本年で中国全体の地域性のピックアップ調査を完了した。即ち東北部の長春、内モンゴルの赤峰、ウランホット、中心部に近い北京、南部の海南島、西方の昆明で、漢民族を中心に各民族を調査した。中国全体の発生率は本邦とほぼ同様であった、中国内ではモンゴル民族に多く、地域性では東北で多く南方では少ない傾向であった。
結論
本研究班の最も大きな目標であった原因遺伝子解析は進行している。第6染色体上のコラーゲン11A2とその近傍にビタミンA受容体遺伝子RXR-βを同定した。しかしさらに第21染色上でも強い連鎖反応みているので、関連遺伝子として検索を進める。骨形成因子とその遺伝子発現については各種サイトカインの発現、タンパクの作用、全身的因子などの関与が明らかとなった。細胞基質の解析が進み、加齢に伴う変化と骨化は密接な関連があることが証明された。細胞とメカニカルストレスは全く新しい文屋の研究であり、培養細胞を使用して積極的に研究を進めたが、これまでには明らかな骨化との関係は見いだせなかった。脊髄機能回復機序について脊髄可塑性の基礎的研究が進展しつつある。臨床的研究は患者のQOL, AOL向上を目指し、治療法の開発、治療成績の新しい評価法を作成中である。これらの成果を元にEvidence Based Medicineに基づいた社会資源の効果的な再利用を図る。年度計画は着実に実行され成果をあげた。

公開日・更新日

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