難治性膵疾患に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900577A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性膵疾患に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小川 道雄(熊本大学医学部第二外科)
研究分担者(所属機関)
  • 跡見 裕(杏林大学医学部第一外科)
  • 大槻 眞(産業医科大学医学部第三内科)
  • 加嶋 敬(京都府立医科大学医学部第三内科)
  • 税所宏光(千葉大学医学部第一内科)
  • 須田耕一(順天堂大学医学部第一病理)
  • 早川哲夫(名古屋大学医学部第二内科)
  • 松野正紀(東北大学医学部第一外科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
26,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、難治性膵疾患として、重症急性膵炎、慢性膵炎、膵嚢胞線維症を対象とし、その実態を疫学的に調査し成因や実態を解明するとともに、それぞれの疾患における最も適切な診断法、治療法を確立することを目的とした。
研究方法
重症急性膵炎、慢性膵炎、膵嚢胞線維症を対象とし、成因、病態、治療に関する各個研究を行うとともに、13の共同研究をスタートした。
重症急性膵炎では、①症例対照研究、②画像診断法に関する検討、③重症急性膵炎の長期予後に関する調査、④急性膵炎動物モデルの病理組織像の比較検討、⑤動注療法のrandomized controlled trial、慢性膵炎では、①慢性膵炎の実態調査、②慢性膵炎の診断におけるMRCPの評価、③Stage分類の作成、④家族性膵炎、若年性膵炎の疫学調査、および原因遺伝子の解析、⑤いわゆる自己免疫性膵炎の実態調査、膵嚢胞線維症では、①全国調査、②CFTR遺伝子の解析、③Stage分類の作成、を共同研究のテーマとした。 
結果と考察
A.重症急性膵炎
①症例対照研究: 前班では慢性膵炎で症例対照研究を行い、喫煙と飲酒が慢性膵炎の強い危険因子であること、一般栄養素、特にカリウム、ビタミンA、ビタミンE、一価不飽和脂肪酸の摂取量が少ないほど慢性膵炎のリスクが増加することが明らかとなった。食生活、生活習慣、職業などの社会生活に関する諸因子の中で、重症急性膵炎の発症に及ぼす因子を明らかにするために、来年度急性膵炎の症例対照研究を行う。本年度は調査票の作成を行った。
②画像診断法に関する検討: 前班の調査では、現行のCT Grade分類は予後と相関していなかった。そこで急性膵炎の重症度診断におけるCT Grade分類の再検討、およびMRIの意義についての検討を計画している。
③長期予後に関する調査: 重症急性膵炎から回復した後、どういう経過をとるのかを1987年の全国調査対象例を追跡調査し、解析した。急性膵炎は、これまで死亡例を除くと後遺的変化を残さず完治することがほとんどであると認識されていたが、今回の集計では糖尿病や慢性膵炎確診に移行する率が高いことが確認された。また、長期観察にて膵癌の発生が高かった。
④急性膵炎動物モデルの病理組織像の比較検討: 各施設で用いられている実験モデルにどういう特徴があるのかを病理組織学的に解析した。急性膵炎は浮腫性と壊死性膵炎に大別され、前者3、後者6実験系であった。後者の壊死性膵炎は、壊死の分布により限局性とびまん性に亜分類された。限局性の壊死はさらに巣状、小葉性、および塊状の壊死に分けられた。びまん性は小壊死や類壊死が散在性に膵全体に認められた。これらの壊死は一般に炎症性反応が軽度で出血も著しくはなかった。脂肪壊死は約半数の実験系に認められた。
⑤動注療法のrandomized controlled trial: 特に壊死性膵炎に対して有効と考えられ、普及しつつある動注療法の有効性を科学的に検討するために、randomized controlled trialを計画した。本年度はプロトコールを作成し、来年度に調査を予定している。
B.慢性膵炎
①実態調査: 外科手術、内視鏡下治療、など、現在選択されている治療法の実態、およびペンタゾシン依存症など難治性の疼痛の実態を把握するため、慢性膵炎の実態調査を計画した。現在、症例数把握のための一次調査中である。
②診断におけるMRCPの評価: 日本膵臓学会慢性膵炎臨床診断基準委員会のMRCP所見による慢性膵炎の診断能に関する中間報告(膵臓 14: 520-521, 1999)を受けて、本研究班でも低侵襲検査であるMRCPの慢性膵炎の診断における有用性の検討を開始した。
③Stage分類の作成: 膵外分泌機能、膵管像、耐糖能、疼痛、合併症の5項目からなるStage分類を作成した。また、同Stage分類を用いて、班所属施設で経験した慢性膵炎確診例278症例を対象に症例調査を行った。その結果、本慢性膵炎Stage分類は、日常生活の障害度や栄養状態を反映しており、慢性膵炎の経過観察や治療法の評価に有用であることが確認された。
④家族性膵炎、若年性膵炎の疫学調査、および原因遺伝子の解析: 消化器疾患を扱っている全国主要医療機関の847診療科を対象に家族性膵炎、若年性膵炎の疫学調査を行った。1980年から1999年までに診療した、家族性膵炎54家系、86症例、および遺伝性膵炎16家系、28症例の報告があった。現在、二次調査中であり、症例解析を行うとともに、原因遺伝子の解析もすすめる予定である。
⑤いわゆる自己免疫性膵炎の実態調査: 質問表形式により「いわゆる自己免疫性膵炎」の実態調査を行い、39施設より115症例の報告があった。このうちステロイド剤が投与された症例は58例であったが、53例(91%)で臨床的効果を認めた。膵組織の得られた症例の病理学的所見を解析した結果、程度の差はあるもののリンパ球の浸潤を全例に認め、自己免疫性膵炎の組織学的特徴と考えられた。
C.膵嚢胞線維症
①全国調査: 総患者数、年間発症者数、予後など実態を把握するために小児科を対象として全国調査を開始した。現在、一次調査を終了し、二次調査を施行中である。
②CFTR遺伝子の解析: 上記全国調査で把握された症例を対象に、膵嚢胞線維症の原因遺伝子であるCFTR遺伝子の変異解析を行う。
③Stage分類の作成: 上記全国調査の結果を解析し、Stage分類を作成する予定である。
結論
重症急性膵炎、慢性膵炎、膵嚢胞線維症の三疾患を対象とし、成因、病態、治療に関する各個研究を行うとともに、重症急性膵炎に5プロジェクト、慢性膵炎に5プロジェクト、膵嚢胞線維症に3プロジェクト、計13の共同研究をスタートした。本年度は初年度であるが、すでにいくつかのプロジェクト(重症急性膵炎の長期予後に関する調査、急性膵炎動物モデルの病理組織像の比較検討、慢性膵炎Stage分類の作成、家族性膵炎・若年性膵炎の疫学調査および原因遺伝子の解析、いわゆる自己免疫性膵炎の実態調査、など)では有意義な解析結果が得られた。多施設の協力による地道な活動が、将来、必ず難治性膵疾患の克服につながるものと考える。

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