難治性の肝疾患に関する研究

文献情報

文献番号
199900574A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性の肝疾患に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
戸田 剛太郎(東京慈恵会医科大学内科学講座第一)
研究分担者(所属機関)
  • 井上恭一(関西医科大学第三内科)
  • 小俣政男(東京大学大学院医学系研究科消化器内科学)
  • 川崎誠冶(信州大学医学部第一外科)
  • 田中紘一(京都大学大学院医学研究科移植免疫学講座)
  • 藤原研司(埼玉医科大学第三内科)
  • 矢野右人(国立長崎病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治性の肝疾患である、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、劇症肝炎の病態及びわが国での疫学を明らかにし、その診断・治療を確立する。また、最終的な治療となる肝移植について、生体肝移植症例数が多いわが国の実情を勘案した肝移植適応基準を確定する。
研究方法
アンケート方式による症例登録、および国立病院ネットワークによる症例登録により患者の実態把握を行うとともに、その病態解析、治療反応性等を明らかにする。集積された成績を基に、多変量解析による予後規定因子、重症化因子を解析し、診断・治療指針を明らかにする。また、得られた重症化予測式、予後予測式を用いて、急性肝炎の重症化予後についてはprospective studyを継続する。治療については、新たな治療法である自己免疫性肝炎に対するウルソデオキシコール酸、原発性胆汁性肝硬変に対するbezafibrate、B型劇症肝炎に対するラミブジンの効果を検討する。PBC、劇症肝炎に対する肝移植適応基準、重症化予測式を各疾患の病態を考慮した上で明らかにする。新しい診断・治療に結びつく病態解析をモデル動物や臨床症例の最近の知見を基にした検討により推進する。
結果と考察
1.自己免疫性肝炎:集積された590症例について予後・予後規定因子の解析を行った。カプランマイヤー法による生存率の検討ではわが国の自己免疫性肝炎の10年生存率は90%と良好であった。予後規定因子としては、初期診断及び治療の遅れが最も大きな因子であり、特に急性発症症例では、典型例で認められる臨床的特徴が欠如していることより、これらの診断に有用な臨床指標の確立が必要である。また、劇症肝炎の成因に自己免疫性肝炎が関わっている可能性が指摘された。自己免疫性肝炎には副腎皮質ステロイドが著効を示すが、その投与に当たっては副作用が問題となっている。ウルソデオキシコール酸の自己免疫性肝炎に対する有効性が示されてきており、これを明らかにするための検討を次年度に班全体で行うことが承認された。また、治療反応性にHLA-DR4の遺伝子型が関わることが明らかにされた。病態解析に有用な動物モデルの確立が報告され、これらを用いた免疫調節による新たな治療法開発が今後期待される。2.原発性胆汁性肝硬変:本研究班で継続されている4361例におよぶ集積症例について、無症候性症例の予後規定因子を多変量解析により検討した。無症候性原発性胆汁性肝硬変の予後判別には血清ビリルビン値、アルブミン値、総コレステロール値、組織学的病期、ウルソデオキシコール酸投与の有無が有意の因子であることが明らかとなった。新たな治療薬としてbezafibrateの有効性が2施設でのpilot studyにより明らかとなった。次年度よりその有用性の確認を班全体で推進する予定である。原発性胆汁性肝硬変の病態の検討として、樹状細胞の機能不全、肉芽腫形成に外来物由来ペプチドが関与する事実、本疾患に特異性の高い抗ミトコンドリア抗体の対応抗原であるピルビン酸脱水素酵素より作成された抗原ペプチドに特異的に反応するT細胞クローンの樹立などが明らかとなった。これら解析を基にしたより詳細な病態解析と治療法開発が次年度への課題である。3.劇症肝炎:本年度は劇症肝炎93例(急性型46例、亜急性型47例)、LOHF11例が登録された。成因としてB型肝炎ウイルス感染の関与が44.4%を占め、ついで非A非B型が40.7%であり、自己免疫性肝炎が疑われた非A非B型7例の予後は10%と特に不良であった。急性肝炎の劇症化予測を
明らかにすることを目的としたprospective studyが継続され、急性肝炎重症例中は劇症化は約30%に認められた。本調査を基に作成された劇症化予知式は従来の式に比しspecificityが改善した。今後治療効果を含めたより実際的な予知式確立に向けての検討が必要である。B型肝炎ウイルス感染に対してはラミブジンが、また生体部分肝移植も劇症肝炎の新たな治療法として行われている。両治療法とも現時点では施行例が少ないが、今後その適応などについて班全体で検討する必要がある。特に日本急性肝不全研究会の肝移植適応基準(1996)では急性型でその有用性が低いことが指摘された。病態に関する検討では血漿オステオポンチン濃度が新たな劇症肝炎急性型の予知因子として有用であることが示された。サイトカインの検討では一定の見解を得るには至っていないが、動物モデルではIL-10による肝細胞障害抑制が示されており、新たな免疫調節治療の可能性として今後更に研究を継続する。4.新治療:肝移植の成績が良好であることが示され、特に成人劇症肝炎対する移植では急性型、亜急性型に関わらず70~80%の救命率が示された。この救命率は肝移植を施行しない場合の従来の救命率(急性型:40%、亜急性型:15%)に比し極めて高率である。わが国での移植例の多くは生体肝移植である事実から、肝移植に際しての適応基準は脳死移植ガイドラインと同一に扱わない必要も指摘され、予後予測を含めたわが国に適した基準設定に関する詳細な検討が今後必要である。小児劇症肝炎では特に乳児例で肝性昏睡評価が困難であり、また中枢神経合併症に対する対応が予後改善上重要であることが明らかとなった。小児例に対する人工肝補助装置についても成人例とは異なった仕様が必要である。原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎に対する肝移植もわが国では生体肝移植が中心となっており、適応判定をより明確にすることが重要であり、また、移植施行までのブリッジ医療の重要性が確認された。新たな抗ウイルス薬、特にB型肝炎ウイルスに対する各種逆転写酵素阻害薬の効果判定に有用なin vitro測定法が開発と、人工肝による肝補助の臨床応用に向けての基礎的研究が示され、今後の発展が期待される。
結論
難治性の肝疾患である、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、劇症肝炎の病態、治療に関する知見が集積された。また、新たな治療法が提示されこれらの臨床応用に必要な検討を当班で継続して行うことが確認された。あらたな治療法として確立された肝移植については、わが国の現状を勘案しての適応基準、判定に必要な各疾患別の予後予知式の作成が必要である。いずれの疾患についても今後の症例集積と解析が重要であり、国立病院ネットワークを含めた症例集積を継続する。

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