我が国における麻疹対策プログラムの作成に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900496A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国における麻疹対策プログラムの作成に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
蟻田 功(財団法人 国際保健医療交流センター)
研究分担者(所属機関)
  • 田代眞人(国立感染症研究所)
  • 高島義裕(国立国際医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
麻疹は、天然痘、ポリオに続く第3の根絶対象疾患と考えられており、世界各地で麻疹制圧、さらには根絶へ向けた準備が進められている。日本の麻疹対策は、このような世界麻疹対策と分離して独自に考える事は好ましくなく、世界麻疹対策の一環として考えるべきである。その点から、日本の麻疹対策の現況、そしてその改善策、更に日本がどのように麻疹根絶の世界戦略に貢献できるかについて、具体的な提案を行う。
研究方法
日本における麻疹対策の現況を分析する。また、現在行われている世界各地の麻疹対策事業の現況を把握する。その結果を天然痘根絶成功及びポリオ根絶の経験と照らし合わせて、麻疹のグローバルな根絶の成功の生物学的及び社会的条件を検討する。以上の作業の結果として、現在、日本の麻疹対策でいかにあるべきかを提案する。
結果と考察
麻疹制圧または根絶事業が各大陸また複数の個々の国々で行われており、その進捗状況はさまざまである。南北アメリカでは1991年より麻疹根絶プログラムを開始し、急速な伝播頻度の減少を見つつあるが、その長期的効果については、麻疹の高度な伝播力(90%)を考慮に入れて、更に観察が必要である。フィリピンでは1998年に麻疹発生を10年間で0にすることを目標としたフィリピン麻疹制圧計画(PMEC)を開始し、定期予防接種率の向上、生後9ヶ月から14才までの小児に対して予防接種の全国一斉投与、高リスク集団に対して予防接種の追加一斉投与、麻疹サーベイランスの改善を図っている。しかし、地域的麻疹制圧に関するWHO決議と地域戦略のない状況で開始されたPMECの前途は平坦でないものと思われる。WHO西太平洋地域では、すでにモンゴル、太平洋島嶼国、オーストラリア、ニュージーランドが麻疹制圧事業に着手しており、2000年にはカンボジア、ラオス、パプア・ニューギニア、ベトナム、マレーシアがそれぞれ麻疹ワクチンの全国一斉投与を計画しているという。早急に短期性、広域性、同期性、徹底性に配慮した地域レベルでの麻疹制圧計画の策定が不可欠である。日本では、過去10年間、麻疹患者数は減少しているが、U.S.やイギリスのように制圧されたとは言い難い。以前のような麻疹の大きな流行は起こらなくなっているが、そのためにワクチン非接種者は免疫を持たないまま成人になる可能性が増加しており、またワクチン接種者でも必要な免疫ブースターがかからず、加齢と共に免疫レベルが更に低下し、secondary vaccine failureとなる可能性が高まっている。このような状況が続くと、近い将来、重篤な成人麻疹、妊婦麻疹、更には新生児麻疹の増加が危惧される。これに対処するためには、ワクチン接種率を高めて麻疹の流行そのものを根絶する努力を進めると共に、適当な年齢層に対して免疫ブースターを目的としたワクチンの追加接種が必要であろう。更に、麻疹ウイルスの遺伝子変異に基づく抗原性・性状の変化が明らかになってきており、現行の麻疹ワクチンの有効性についても再検討が必要である。麻疹の高い感染力を考慮すると、麻疹根絶は各国、各大陸の共同作業なしでは輸入例による再流行の繰り返しとなるだろう。麻疹の伝播を遮断するには極めて高い予防接種率が要求されるが、人口密度の高い地域ではきわめて困難と思われる。そのため、天然痘、ポリオ根絶以上のダイナミックなフィールドの対策が必要となる。また、天然痘、ポリオ根絶計画の開始時には既に先進国では常在流行がなかったが、麻疹に関しては先進国においてもいまだ麻疹発生が0になった国はない。以上のことから、麻疹は対策抵抗性が高いことが分り、その対策には5000-6000億ドル以上
の先進国の投資が必要になるかもしれない。失敗すれば、大きな資源のロスとなるため、数学モデルによる費用効果、検討等を早急に行うことを提案する。以上、グローバル麻疹根絶の発足は、事前の慎重な戦略の検討と法定が必要である。日本国内の対策としては、まずサーベイランスの強化、予防接種率の向上を提案する。また、ワクチンの改良や迅速診断法の開発を行う。これはグローバルな貢献ともなるだろう。
結論
ポリオ根絶の動向から考慮して、日本が慌ててグローバル麻疹根絶に参加する必要はないだろう。あと2年間は、日本国内の麻疹対策の強化、特にサーベイランスの強化を行ってはどうだろうか。併せて、麻疹根絶のGlobal feasibilityについて熟考することを提案する。日本の今後の成果を参考として、注意深い戦略が必要である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-