霊長類を介する人獣共通感染症の制御に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900485A
報告書区分
総括
研究課題名
霊長類を介する人獣共通感染症の制御に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
山田 章雄(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 吉川泰弘(東京大学)
  • 神山恒夫(国立感染症研究所)
  • 向井鐐三郎(国立感染症研究所)
  • 森川 茂(国立感染症研究所)
  • 藤本浩二(予防衛生協会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
実験用霊長類はヒトに近縁であるが故に様々な医学生理学実験に供されている。しかし、ヒトに近縁であることは一方で、ヒトに感染する病原体を保有している危険性を潜在的に有していることを意味している。中でもエボラ、マールブルグ病に代表されるフィロウイルスやアルファヘルペスウイルスであるBウイルスはヒトに極めて重篤な疾患を引き起こすことから、厳重な対策を講じる必要がある。しかしながら、これらのウイルスの取り扱いはその危険性から、特に大量に扱う場合にはP4施設でのみ行うことが国際的コンセンサスである。従って、日本国内で、抗原を調整し、診断体制を整えることは現状では不可能である。そこで本研究では、これらのウイルスによるサル類の感染の実態を把握するために、血清学的検出法並びにゲノムあるいは抗原検出法を、感染性ウイルスを扱うことなしに実現することを目的とした。
研究方法
cDNAからフィロウイルス及びBウイルス蛋白を発現させ、前者については抗原捕獲ELISAシステムの構築を行うとともに、IgMELISA法の開発を行った。後者では発現抗原を用いて、ELISAあるいはドットブロット法の開発を行なった。また、Bウイルス特異的なPCRのための条件検討を行なうとともに、既に確立した方法で臨床材料の検討を行なった。
結果と考察
フィロウイルスに関してはエボラ、マールブルグウイルスのNP遺伝子を発現させ、、これらの抗原に対するモノクローナル抗体を作出し、抗原捕獲ELISAシステムを構築した。抗原検出感度は約20ngであり、フィリピン熱帯医学研究所との共同で、エボラレストンの検出にも応用可能であることを明らかにした。感染初期の確定診断のために、IgM捕捉ELISAの開発を試み、実用に耐えうる系を確立できた。
Bウイルスでは、ウイルスゲノムの特異的検出のため、現在知られているHSV並びに他のアルファヘルペスウイルスの塩基配列を解析し、できるだけBウイルス特異的なプライマーの設定を試みた。その結果、3種類のプライマーセットが、Bウイルス特異的にゲノムDNAを増幅することが明らかとなった。また、霊長類センターで飼育されているカニクイザル三叉神経節からゲノム検出を試みたとこら、1頭からゲノム断片が検出できた。塩基配列を決定したところ、これまでに報告されている、カニクイザル由来のBウイルスと非常に近縁であることが明らかとなった。また、臨床的にBウイルス感染が疑われた例の、水泡内容物についてもPCRでのゲノム検出を試みたところ、ゲノム断片が検出されたが、塩基配列を決定したところ、HSV-1と非常に近い配列であったことから、この例はHSV-1感染であろうと考えられた。一方、血清学的方法に関してはアフリカミドリザル由来のアルファヘルペスウイルスSA-8感染細胞から調整した抗原を用い、ELISAシステムを構築したところ、少なくともカニクイザルにおけるBウイルス感染の摘発には実用的であることが示された。更にBウイルスgDならびにgB蛋白をcDNAから発現させることに成功し、これを抗原として放射免疫沈降反応を行うと、特異的にBウイルスに対する抗体を検出できた。しかし、発現細胞をアセトン処理した後の蛍光抗体法や、ウエスタンブロッティングでは非特異反応を認めたため、細胞膜貫通部分を除去して、蛋白が培養上精中に分泌されるように遺伝子を改変したところ、分泌蛋白を用いた、非特異反応の少ないドットブロット並びにELISAシステムの構築ができた。
原虫感染症に関してはバベシア原虫感染の血清学的検出法を確立し、ヒト血清について調べたところ、日本人にも低率ではあるが、本原虫感染が認められることが明らかになった。
結論
実験用霊長類におけるフィロウイルス並びにBウイルス感染の摘発を効率よく行うために、新たな抗体検出法及び抗原あるいはウイルスゲノムの検出法の開発を行い、充分実用に耐え得る方法の確立に成功した。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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