デングウイルス及び日本脳炎ウイルスに対する新型ワクチンの開発に関する研究

文献情報

文献番号
199900482A
報告書区分
総括
研究課題名
デングウイルス及び日本脳炎ウイルスに対する新型ワクチンの開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
倉根 一郎(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小西英二(神戸大学医学部)
  • 山岡政興(兵庫県立衛生研究所)
  • 山田章雄(国立感染症研究所)
  • 中山幹男(国立感染症研究所)
  • 山田堅一郎(国立感染症研究所)
  • 高崎智彦(国立感染症研究所)
  • 向井鐐三郎(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
28,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
当研究はデング熱・デング出血熱と日本脳炎の防御対策を主題としたものである。これらのウイルスに対して最も有効な防御対策はワクチンの開発である。日本においては海外旅行者におけるデングウイルス感染症が大きな問題である。日本脳炎は致死率の高さから日本においても再度大きな問題となり得る疾患である。当研究の目的はデングウイルスや日本脳炎ウイルスに対する新しいタイプのワクチンの開発である。(1)デングウイルスや日本脳炎ウイルスに対する防御免疫の解明、(2)遺伝子組み換えによるワクチン、特にDNA ワクチンの開発、(3)日本脳炎ウイルスワクチンやデングワクチンのデング出血熱病態形成への影響の解明。デングウイルスに対するワクチンは現在実用化されたものがなくワクチン開発は日本のみならず世界的に強く望まれている。当研究により、デングウイルスや日本脳炎ウイルスに対して高い防御免疫誘導能を持ち、副作用がなく安全で安価なワクチンの開発を可能にする。さらに本研究で開発するワクチン作製法は、他のウイルスに対する新型ワクチン開発のモデルとなり得るものであり、国民の保健・医療・福祉の向上に大きく貢献する。 
研究方法
デングウイルス NS3 遺伝子 DNAの増幅はすでにクローン化されているデングウイルス 2 型ニューギニアC株の NS3 領域を含むプラスミド PLZNS3をテンプレートとした。デングウイルスNS5 遺伝子 DNA の増幅はすでにクローン化されているデングウイルス 2 型ニューギニアC株のNS5領域を含むプラスミド pcMVNS5をテンプレートとした。作製したプラスミドは、コンピテント細胞に大腸菌 DH5を用いてトランスフォームさせた後、常法にしたがってコロニーを2 回単離し、2xYT 培地で増殖させた。日本脳炎ウイルス遺伝子組込みプラスミドの作製は中山株のC、NS2a、NS3遺伝子を、それらの遺伝子を含むクローン化cDNAを鋳型として、Taq DNA ポリメラーゼを用いてPCRにより増幅した。日本脳炎NS1発現プラスミドの構築のためNS1-NS2a蛋白コード領域の遺伝子を含むクローン化cDNAを鋳型とし、上記の4種の遺伝子をPCRにより増幅した。ユビキチン組込みプラスミドベクターはpGEM3をベースにして、発現量を高めるためにサイトメガロウイルスの強力プロモーターやウシ成長ホルモン由来のポリA配列付加シグナルをすでに組込んだプラスミドに、BALB/cマウスのユビキチン遺伝子を組込んだ。ユビキチン遺伝子は、BALB/cマウスの脾臓細胞から抽出したゲノムDNAを鋳型にして、PCRによりクローン化したものである。これらの免疫原をマウスの尾根部に5週令から2週間隔で3回筋肉内接種した。また、3x106PFU/one shotのNGC株あるいはPBSをプラスミドと同様に3回マウス尾根部に筋肉内接種した。日本脳炎プラスミドDNAによるマウスの免疫は精製DNAをPBSに希釈して、6週齢から7週齢の雄BALB/cマウスに筋肉内接種した。マウスに初回免疫後、グループごとに採血した2週目および4週目のプール血清について、デングウイルスNS3に対する免疫をデングウイルス2型NGC株のNS3の持続発現細胞を用いて測定した。この細胞は、ほぼ80%がNS3を発現する。防御免疫の誘導はマウスにそれぞれ3回免疫後、2週間目に、デングウイルス2型を脳内に接種して攻撃した。攻撃後14日間マウスの生死と病気の進行状況を観察した。
結果と考察
(1)初回免疫後2週目に抗NS3抗体は認められなかったが、4週目に20倍の抗NS3抗体の誘導が認められた。次に、5週令のB
alb/cマウスに100 ugのpcD2NS3を2週間隔で3回免疫後、2週目にNGC株と同じデングウイルス2型のトリニダットTR1751株で攻撃した。デングウイルスNS3遺伝子組込みDNAワクチンによる防御は認められなかった。(2)デング DNA ワクチンの候補として市販の pcDNA3 ベクターにデングウイルス 2 型ニューギニア C 株の非構造タンパクNS5 遺伝子約2700bp を組み込んだ pcD2NS5 を作製した。発現量を高める工夫をした。pcD2NS5 のデングウイルス遺伝子カセットが正しく組み込まれていることを、シークエンシングによって確認した。(3)CTLエピトープが存在するEの遺伝子とユビキチン遺伝子を組込んだpUJEE1及びE1遺伝子を含むがユビキチン遺伝子を含まないpJEE1を用い、ユビキチンのCTL誘導促進効果を調べた。2回免疫後には、pUJEE1及びpJEE1接種マウスにおいて高い特異CTL活性が認められた。この結果から、EにおけるCTLエピトープの存在が確認された。また、ユビキチンによりCTL誘導が促進された。pUBIQ免疫マウスはウイルス接種後14日までに全て死亡し、平均生存日数は、8.3日だった。pUJEE1は1匹のみ21日間生存し、平均生存日数は11.3日であり、pJEE1は2匹が観察期間生存し、平均生存日数は14.3日間であった。以上の結果により、Eに存在するCTLエピトープは3回免疫により防御的に働くことが示唆されたが、ユビキチンの促進効果は確認できなかった。各グループ2匹のBALB/cマウスをpUBIQ 、pUJEC、pUJENS2aまたはpUJENS3により2回または3回免疫し、CTLの誘導を調べた。この実験からCTLエピトープはC、NS2a、NS3のいずれにも存在することが明らかにされた。C、NS2aまたはNS3により誘導されたCTLの防御効果を調べたがC、NS2a、NS3により誘導されたCTLはマウスを防御しなかった。(4)CHO-K1細胞にpJEss15NS1またはpJEss20NS1をトランスフェクトし24時間後にHMAFを用いて免疫染色した結果、発現がそれぞれ約3%または約7%の細胞に見られた。次に限界希釈法により発現細胞株のクローニングを行った。その結果、1回のクローニングにより、発現率は70~80%に上昇した。(5)NS1連続発現細胞を用いて感度高くNS1抗体価が測定できるかどうかを調べるために、NS1遺伝子組込みワクシニアウイルス感染HeLa細胞を抗原とした測定系と比較した。NS1連続発現細胞を抗原とした測定法は、ワクシニアウイルス感染細胞を抗原としたNS1抗体測定法と同等またはそれ以上の感度であることが示された。デングウイルスと同じフラビウイルス属に分類される JEV の prM/E 遺伝子カセットを用いた DNA ワクチンの防御免疫誘導能をマウスモデルを用いて解析してきた研究から、日本脳炎に対する防御には中和抗体が重要であることが示されたが、それと同時に日本脳炎ウイルス特異的キラー T 細胞が誘導されることも明らかになった。デングウイルスに対するワクチンにおいては、液性免疫と同時に細胞性免疫を誘導することが必要とされ、デングウイルス感染においては 非構造タンパクであるNS3 T 細胞が認識するエピトープを多く持つことが報告されている。本年の研究でNS3を組込んだプラスミドについてマウスで検討したところ、NS3遺伝子のマウスにおける免疫原性が明らかにされた。しかし、NS3免疫マウスに明確な防御免疫を見出せなかった。ユビキチンによるCTL誘導促進効果が2回免疫後にわずかに認められたが、防御におけるユビキチンの効果は確認できなかった。他のウイルスにおいてはCTL誘導及び防御共に増強効果が報告されているので、実験系の工夫により効果が明確に見られる可能性がある。E蛋白に存在するCTLエピトープは、攻撃後のマウスの平均生存日数を増加させた。このCTLエピトープは防御的に働くことを示唆する。
結論
(1)デングウイルス 2 型の非構造タンパクNS3 遺伝を組み込んだDNAワクチンにより血清中にNS3に対する抗体の誘導を確認できた。しかし、防御効果を認めなかった。さらにデングウイルスNS5 遺伝子を組み込んだDNAワクチンを作製した。(2)日本脳炎に対する防御CTLエピトープの検索を行った。E蛋白に存在するCTLエピトープを用いて、ユビキチンのCTL誘導促進効果をわずかなが
ら認めたが、防御効果の増大は認められなかった。C、NS2aまたはNS3組込みプラスミドにより免疫したマウスにおいてCTL活性が検出された。(3)日本脳炎ウイルス非構造蛋白NS1を発現する持続発現細胞クローンを得た。この細胞を用いてヒト血清または血漿中のNS1抗体価を測定した。この測定系は、現行ワクチンの防御機構解明や新型ワクチンの開発に有用である。(4)これまでに作製した日本脳炎ウイルスpreM,Eを含むDNAワクチンの防御免疫誘導能の、カニクイザルを用いての検討を開始した。

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