我が国における施設内感染等のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199900479A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国における施設内感染等のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
堀田 国元(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 砂川慶介(北里大学)
  • 島崎修次(杏林大学)
  • 稲松孝思(東京都老人医療センター)
  • 児玉和夫(心身障害児総合医療療育センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療施設等における薬剤耐性菌対策推進のため、1)抗菌薬使用の現状調査および医療機関内の科別の感染症の現状とその対策に関する調査研究を行い、それを基に科別の院内感染防止マニュアルをまとめた(分担研究者 砂川慶介)、また 2)医療機関(分担研究者 堀田国元/島崎修次)、障害児施設(分担研究者 児玉和夫)、老人養護施設(分担研究者 稲松孝思)における薬剤耐性菌対策としての機能水(強酸性電解水)の有効利用に関して、物性や殺菌力・機構などの基礎礎研究、手指、環境、医療機器(内視鏡、血液透析機)などの洗浄消毒についての研究・調査を行い、その成果を基に有効利用法についてまとめ、各施設における実効性、有用性について検証した。
研究方法
抗菌薬使用の現状調査及び医療機関内の科別の現状とその対策についての研究として、1)新興再興感染症の現状調査、2)我が国の抗菌薬の使用実態、3)全国の分離菌状況、4)耐性菌の現状及び問題点、5)科別および宿主別の感染症の現状調査とその対策、について調査・検討を行った。それらの結果を踏まえて「科別の院内感染防止対策マニュアル」の作成を最終のまとめとして行った。一方、機能水(強酸性電解水)については、1)物理化学的性状、2)有機物やアミノ酸に対する影響、3)殺菌力の指標としての有効塩素のモニター法、4)医療用具や医療現場における殺菌消毒効果、について調査検証するとともに、5)全国の医療施設従事者を対象にしたアンケート調査によって明らかとなった強酸性電解水の使用実態、評価点と問題点などを踏まえて、「強酸性電解水の基本的評価と医療施設等における有効利用」の作成を行った。
結果と考察
抗菌薬の使用に関しては、MRSA出現の原因とされている第三世代セフェムセフェムを始めとするβーラクタム薬が減少し、マクロライドやニューキノロンの増加傾向が認められ、アミノ配糖体やバンコマイシンは横這いであった。耐性菌の分離状況は、MRSAの分離が依然として多く(保菌状態が多い)、科別に独自の傾向がみられるが、バンコマイシンやアルベカシンに対する耐性菌の分離率は増加していない。薬剤耐性の緑膿菌の分離も多く、肺炎球菌やインフルエンザ菌の薬剤耐性化も進んでいる。こうした状況に加えて免疫能が低下した患者が増えつつある現在、各科において新興再興感染症菌や耐性菌には十分な注意が必要であり、早期診断と抗菌薬の適正使用が望まれる。これらを踏まえて、科別の院内感染防止マニュアルをまとめた。
強酸性電解水は、多剤耐性のMRSAや腸球菌、緑膿菌に著効を示し、次亜塩素酸の他、OHラジカルや過酸化水素が殺菌要因で、常用消毒薬と比べて使用濃度(=製造濃度)が低く、低毒性で耐性菌がでにくいという特徴が明らかになった。しかし、不安定で有機物に弱いという弱点があるため、使用現場に生成器を設置して随時作成し、新鮮な内に(有効塩素濃度をチェックして)流水洗浄するように使用することにより消毒の実効をあげるという技術的特徴も明らかになった。これらを基に、手指、環境、内視鏡および人工透析機の洗浄消毒のための基本的使用法をまとめた。使用対象、使用方法および場合を考慮して使用すれば、強酸性電解水は洗浄消毒の実効を上げるポテンシャルを十分もっており、基本的衛生レベルが向上しつつある今日、正しい知識と使用方法の普及を図るならば、医療施設等において耐性菌対策の一翼を担えるものと思われる。一方、各施設における適用外使用の実効性に関しては、MRSAなどの除菌効果が認められたものの試験例数が少なく、結論を出すのは尚早と考えられた。
結論
各医療施設における耐性菌の現状は、科別の独自性が認められるもののMRSAが全体的に多く、緑膿菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌にも注意を払う必要がある。抗菌薬の使用は、セフェムなどβ-ラクタム剤の使用が減少傾向にあるものの依然として多く、キノロンやマクロライドが増加傾向にあり、耐性菌と併せて動向を見守っていく必要がある。3年間に亘る調査研究をもとに「科別の院内感染防止マニュアル」を作成したが、各医療施設における感染防止対策に有効に資することができると確信する。
強酸性電解水は、その抗菌スペクトルの広さや作用、低毒性などから、正しい知識に基づく使用対象の選択や使用方法によって医療施設等における消毒の実効性をあげるポテンシャルを持っており、さらに、理論的にも実際的にも耐性菌がでにくいという利点を持っている。これらを踏まえて最終的にまとめた「強酸性電解水の基礎的評価と医療施設等における有効利用」はガイドラインとして貢献するものと思われる。

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