成人T細胞白血病(ATL)の発症予防と治療に関する総合的研究

文献情報

文献番号
199900475A
報告書区分
総括
研究課題名
成人T細胞白血病(ATL)の発症予防と治療に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
園田 俊郎(鹿児島大学医学部ウイルス学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 秋葉澄伯(鹿児島大学医学部公衆衛生学講座)
  • 東郷正美(鹿児島県衛生研究所)
  • 永田行博(鹿児島大学医学部産婦人科学講座)
  • 納 光弘(鹿児島大学医学部第三内科学講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HTLV-Iは1980年初頭に南九州とカリブ海のT細胞白血病患者から発見されたヒトレトロウイルスである。このウイルスは血液、母乳、精液を介して感染し終生のウイルスキャリアをつくる。そして長い潜伏期間ののちに成人T細胞白血病(ATL)や脊髄症(HAM/TSP)などの難治性疾患を多発させる。鹿児島県地方には10万人以上のHTLV-IキャリアがおりATLやHAM/TSP患者を多発させている。鹿児島県では1997年度から「ATL制圧10カ年計画」を策定し母子感染や水平感染によるHTLV-I感染予防と健康管理体制の充実強化を県行政、大学、医師会が一体となって推進しているが、本研究はHTLV-I感染症の予防、診断、治療、疫学に関する当地区の保健対策、疾病予防の指針を提供するものである。
本研究課題は(1)ATLの疫学研究:鹿児島のHTLV-I高浸淫地域でHTLV-Iキャリア、ATL患者と関連疾患の発生状況、予後に関する疫学調査を行いATL発症の環境宿主要因を解析する。(2)HTLV-I陽性者からの献血の制限、母乳哺育のコントロールによる新規HTLV-I感染者の予防、緑茶飲用によるHTLV-I感染T細胞の増殖抑制、アポトーシス誘導によるATLの発症予防の効果を検討する。(3)ATLの発症予防ワクチン、新規治療法の開発:HTLV-Iペプチドワクチンの開発、HTLV-I感染T細胞の増殖を抑制する新規薬剤の検索、同種骨髄移植によるATLの治療研究を行うことを目的とする。
研究方法
結果と考察
平成11年度では、以下の研究成果があげられた。
1.  HTLV-I母子感染の防止
① 平成11年度末の鹿児島県の妊婦のHTLV-I抗体保有率は1.8%であり、過去5年間の平均保有率(3~5%)から漸減傾向がみられた。
② 1986年から1999年10月までのHTLV-I母子感染率は、長期母乳哺育群20.0%に比して、人工乳哺育群で4.7%、短期母乳群で3.0%であった。この結果は短期母乳哺育と断乳の効果が反映したものと思われる。
2. ATLの発症要因の解析
① 過去10年間の鹿児島県で発生したATL患者は約1200名と推定されている。
② このうちATL患者422名が登録され、性別、年齢、居住地、生活習慣、病型、病悩期間の疫学情報が収集された。
③ 平均年齢は64.8歳、男女比は2.0、大隅、北薩地区で多発、喫煙歴との有意相関、急性型ATLが多い。死亡までの病悩期間2~5年であった。
④ この疫学所見は田島らの全国調査の結果とほぼ同じであったが、急性型ATLの多発と男性優位の発症、喫煙との関係は注目され、ATLの予防対策に当面の指針を与えるものである。
3. ATLのハイリスク検査
ATLの免疫動態に関係する指標としてHLA (human leukocyte antigen)の多型が有用であることが明らかにされつつある。鹿児島県のATL患者103名のHLAタイプをHAM患者、HTLV-Iキャリア、一般集団と比較したところ、HLA-A*26とそれに連鎖するアレル(B*4002,B*4006, B*4801)が有意に増加していた。ATLのハイリスクをHLA検査で特定できる見込みとなった。他のHLAアレル(A*24, B*07, B*52)はHAMに好発するがATLにはなりにくいことがわかった。ここに、ATLとHAMが遺伝的に振り分けられることが再確認された。
4. ATLの予防・治療研究
ATLの治療は抗白血病剤による化学療法が主体であったが、今回、骨髄移植とバイオ新薬による治療と予防が有望となった。
① ATL患者9例で同種骨髄移植がおこなわれ、6/9例で無病状態が4.1~29.6ヶ月経過している。従来の治療成績に比べ驚異的な成績である。
② バイオ新薬の応用では、緑茶ポリフェノール成分のHTLV-I抑制効果がin vitroでみられている。この成績にもとづいて緑茶飲用によるHTLV-Iキャリアの血中HTLV-Iウイルスの変動、減少効果をしらべる介入試験が平成12年度に計画されている。
③ 新規化学療法剤の研究ではCyclosporin Aと抗がん剤VP-16との併用でHTLV-I抑制効果がみられた。
結論
以上、本研究班では当初計画の80-90%が達成され、HTLV-Iの感染防止とATLならびに関連疾患の発症予防と治療を実地に展開できる局面になった。
平成12年度研究では、①母子感染防止の徹底、②ATLの発症要因の解析、③ATL発症予防のための緑茶飲用介入試験、④骨髄移植、新規化学療法剤によるATLの治療研究を推進する。

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