接触及び血液由来感染症の防御対策に関する研究

文献情報

文献番号
199900474A
報告書区分
総括
研究課題名
接触及び血液由来感染症の防御対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小室 勝利(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木哲朗(国立感染症研究所)
  • 田代真人(国立感染症研究所)
  • 渡辺治雄(国立感染症研究所)
  • 荒川宜親(国立感染症研究所)
  • 岡田義昭(国立感染症研究所)
  • 水澤左衛子(国立感染症研究所)
  • 岩崎琢也(国立感染症研究所)
  • 阿部賢治(国立感染症研究所)
  • 池田久實(北海道赤十字血液センタ-)
  • 佐藤博行(福岡赤十字血液センタ-)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
接触感染症(STD)及び輸血後感染症の防御対策に役立てることを目的に、現在問題の多い、又は治療の進歩に伴い新たに問題となり得るウイルス、細菌に対する診断法(特に核酸増幅法:NAT法)の開発、改良、そのための標準品の整備、管理交付体制の確立、臨床的有用性の検討、現在不活化処理の行われていない血液成分製剤の安全性向上のためのウイルス、細菌の除去不活化法の開発を行う。
研究方法
接触及び血液由来感染症の防御対策に役立てるため、現在問題となっている、又将来取り組む必要のある感染症として、HCV,HGV,TTV等の肝炎ウイルス、B19パルボウイルス、ヘルペスウイルス群、エルシニア菌を主に、高感度診断法(NAT法)の開発、改良、標準となるベクター及び陽性血漿標準品の整備を行うとともに、現在ウイルス、細菌の除去不活化の実施されていない血液成分製剤の除去、不活化法の開発研究を行った。                                       
結果と考察
本年度は以下の結果を得た。
1)HCV,HIV,HBV検出のためのNAT法に使用する国際標準品作製グル-プに参加し、その作製を終了した。
2)TTVゲノム上の非翻訳領域内にプロモーター活性を証明し、その全塩基配列を決定した。
3)HGVの塩基配列分析による分子疫学的調査から、新たなHGV株を分離し、その全塩基配列を決定した。
4)ヒトCMVのPCR法を用いた定量測定系の開発を行った。real-time PCR法及びnested PCR法が応用可能であり、臨床材料による比較を行った。
5)B19パルボウイルスの経時的、地理的流行調査を、PCR法によるサブタイプ決定法により実施した。流行を境にして、大部分を占めるサブタイプが入れ替わっていることが証明された。開発したベクターによるPCR法の有用性が確認された。
6)赤血球系統の培養細胞にB19パルボウイルスを感染させ、培養細胞内のB19-RNAをRT-PCR法により測定する方法が、ウイルスの感染性を評価する高感度な方法であることが証明された。
7)血液製剤中からエルシニア菌を除去するため、採血後の保存条件、白血球除去フィルターの有効性を確認した。
8)血液成分製剤汚染の原因となり、近年問題となっている細菌の同定と、その分析法につき検討し、その対策について考察した。特に緑膿菌、エルシニア菌等については、耐性菌の出現が多数報告さてれおり、その対策には充分注意をはらう必要がある。
9)血漿分画製剤製造用の原料血漿中に含まれるウイルス抗体価の年代別比較を行い、その有効性の検討を行った。
10)メチレンブルー又はジメチルメチレンブルーと光照射を併用する光不活化法が人工酸素運搬体中のウイルス不活化に極めて有効であることを証明した。粘膜接触感染症(STD)と輸血後感染症には、レトロウイルス、肝炎ウイルス等、共通したウイルスが関係している。HIV,HTLV,HBV,HCVについては、抗原抗体検査による輸血血液のスクリーニングが行われ、多くの成果を上げているが、ヘルペスウイルス群、パルボウイルスには、現在でも満足できるスクリーニング法がとられておらず、さらにHGV,TTV等の新しいウイルスの登場、エルシニア菌による敗血症の発症等、解決しなければならない問題も多い。
一方、従来の様に、血漿中のウイルス、細菌の存否を検査するだけでは、充分に効果を発揮し得ない、細胞内局在性ウイルスの存在、血清反応では検出できないウイルスサブタイプの存在等、技術的に残されている点も多くみられる。
本研究班では、これら問題に対処することを目的に新興再興感染症として、HCV,HGV,TTV,HCMV,HHV6~8, B19パルボウイルス、エルシニア菌を主にとりあげ、高感度検出法(核酸増幅法)の開発、改良と標準化、やむを得ず、ウイルス、細菌の混入している血液を輸血する際、如何にこれら危険因子を除去するかについて検討を続けた。
3年間の研でHCV,HGV,TTV,HHV-6,HHV-8,B19パルボウイルス、エルシニア菌については、核酸増幅法に用いるプライマーの作製、評価、標準化がある程度進み、臨床材料を用いた検討に入ることが可能となった。又、血液製剤の安全性向上対策についても、種々のウイルス除去不活化法の検討等、近々、日本に於いて取り入れられるであろう方法の評価に貢献できたと考えられる。
1999年日本に於いてもHCVスクリーニングに核酸増幅法が導入され始めた。新鮮凍結血漿へのウイルス不活化法の導入も予定されている。
本研究班のこれまでの成果をさらに発展させ、応用範囲を広げることができる様にしたい。尚、HCV,HGV,TTV,HHV-6,HHV-8,B19パルボウイルス、エルシニア菌の検出のための核酸増幅法に用いるプライマーについては国立感染症研究所に問い合わせをすれば、供給等、可能と考えられる。
結論
接触及び血液由来感染症の防御対策に役立てるため、新たに問題となっている感染症および、将来対策をとる必要のあると考えられる感染症として、HCV,HGV,TTV,B19パルボウイルス、ヘルペスウイルス群、エルシニア菌を主に、高感度検出法(NAT法)の開発、改良、標準となるベクターおよび陽性血漿標準品の整備をおこなうとともに、検査をすりぬけた感染症対策として、血液成分製剤からのウイルス、細菌除去法の研究を行った。
核酸増幅法(NAT法)に用いるベクターの開発、改良については、ほぼその目的を達し、標準品の整備をはじめ、臨床応用に供し得る段階となり、WHOの行う標準品作成作業にも参加し、貢献することができた。血中ウイルス、細菌除去、不活化法の研究も進み、本研究班で得た成果は、近々実施されるであろう新鮮凍結血漿のウイルス不活化法に対し多くの参考となると考えられる。
本研究班でとりあげたウイルスについては、近年、変異株の出現、新たな病原性の発見、耐性株の出現等、新たな問題を投げかけている。特に、変異株の出現と、それに伴う病原性の変化、及びヘルペスウイルス群の様に、未だ病原性の明確でないものについては、引き続き、検索を続けることが必要と考えられる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-