水道水を介して感染するクリプトスポリジウム及び類似の原虫性疾患の監視と制御に関する研究

文献情報

文献番号
199900461A
報告書区分
総括
研究課題名
水道水を介して感染するクリプトスポリジウム及び類似の原虫性疾患の監視と制御に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
国包 章一(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 荒木国興(国立公衆衛生院)
  • 井関基弘(大阪市立大学)
  • 遠藤卓郎(国立感染症研究所)
  • 金子光美(摂南大学)
  • 黒木俊郎(神奈川県衛生研究所)
  • 笹井和美(大阪府立大学)
  • 西尾 治(国立公衆衛生院)
  • 平田 強(麻布大学)
  • 眞柄泰基(北海道大学)
  • 山崎省二(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
クリプトスポリジウム等の原虫による水系汚染が世界的な問題となっている中で、原虫の迅速で的確な検査法が確立されていないため、水道システムにおける検査や制御に困難を来している現状にある。本研究においては、現在用いられている膜ろ過-アセトン法に代わるオーシストの迅速で高い回収率をもった分離・濃縮法の開発、蛍光抗体法に代わる検査法の開発等、クリプトスポリジウム等の原虫検査法の開発・改良を行う。また、水系及びヒトを含む宿主動物における汚染状況を調査して実態を正確に把握するとともに、水道水の常時管理を可能とするために、クリプトスポリジウム等の代替指標を開発し、モニタリングシステムの構築を目指す。
研究方法
検査法の開発に関して、1)クリプトスポリジウム症の実験動物モデルとして、無菌ヌードマウスの適性につき検討した。2)原虫検査用の糞便試料及び糞便塗抹標本の保存性につき検討した。3)原虫濃縮法としての免疫磁気分離用混合ビーズの実用性につき評価した。4)中空糸限外ろ過(UF)膜モジュールを用いた大容量水試料中の原虫の効率的な濃縮法につき検討した。5)直接蛍光抗体法によるクリプトスポリジウムオーシスト検出の可能性につき検討した。6)二重染色法の適用、並びに、フローサイトメーターの活用によるクリプトスポリジウムオーシスト検出精度の向上につき検討した。7)PCR法を応用したヒト及び各種動物由来のクリプトスポリジウム検出法につき検討した。8)鳥類のクリプトスポリジウム鑑別用単クローン抗体につき検討した。汚染状況の調査及びモニタリングシステムの開発に関しては、1)野生動物及び家畜のクリプトスポリジウム感染状況につき調査した。2)相模川水系におけるクリプトスポリジウムオーシスト及びジアルジアシスト等による汚染状況につき調査し、ウェルシュ菌芽胞等の代替指標による監視の有効性につき回帰分析により検討した。3)浄水場の原水及び浄水中におけるクリプトスポリジウムオーシスト及びジアルジアシストの存在状況につき調査するとともに、これらの処理による除去率につき検討した。4)室内実験により、クリプトスポリジウムオーシストの凝集沈澱等による除去特性を、人工微粒子や藻類の除去特性と比較検討した。
結果と考察
検査法の開発に関して、1)ウシ由来クリプトスポリジウムの実験動物モデルとして、無菌ヌードマウスが適していることを明らかにし、その好適感染増殖部位が大腸(盲腸・結腸)であることを確認した。2)アルカリペプトン液による糞便試料の保存が原虫の検出に当たって影響を及ぼさないこと、糞便塗抹標本が染色時の陽性対照として長期間使用できることを確認した。3)ジアルジア/クリプトスポリジウム免疫磁気分離用混合ビーズの実用性を明らかにした。4)中空糸限外ろ過(UF)膜モジュールを用いた、クリプトスポリジウムオーシスト及びジアルジアシストの効率的な濃縮方法を新たに開発した。この方法によれば、簡易な操作で大量の試料水(浄水では数百~数千リットル)を濃縮することができ、しかも、従来法と同等か、それ以上の回収率が得られることを明らかした。5)クリプトスポリジウムオーシストを検出するための直接蛍光抗体法用試薬を新たに開発した。この試薬では非特異反応が認められたが、試料を前処理すればある程度まで抑えられることが明らかになった。6)二重染色法を用いることによってクリ
プトスポリジウムオーシストの検出精度の著しい向上が図れること、さらに、二重染色法とフローサイトメーターによる測定を組み合わせることによって、検査の自動化が期待できることを明らかにした。また、DAPI染色での染色率向上に、通電もしくはアセトンによる前処理が有効であることを明らかにした。7)ヒト及び各種動物由来のクリプトスポリジウムを検出するためのPCR法を確立した。また、PCR産物の確認試験として、簡便なマイクロプレートハイブリダイゼーション法とプローブを開発し、その検査法も併せて確立した。これらにより、ヒト、ウシ、ブタ及びマウス由来のクリプトスポリジウムの遺伝子配列には3種類があること、並びに、この手法が感染経路の解明等に寄与し得ることを明らかにした。8)鳥類のクリプトスポリジウム鑑別用単クローン抗体を作製するための基礎的準備が終了した。汚染状況の調査及びモニタリングシステムの開発に関しては、1)クマネズミ、ドブネズミ、ウシ、イヌ、ネコからクリプトスポリジウムが検出された。2)クリプトスポリジウムオーシスト及びジアルジアシストにつき、相模川水系の13地点において1年間にわたって月1回前後の頻度で調査したところ、いずれの調査地点でもこれらが検出された。さらに、これらの検出結果と、同時に測定した推定ウェルシュ菌芽胞、大腸菌、大腸菌群、好気性芽胞及び濁度との相関関係を調べたところ、クリプトスポリジウムオーシスト及びジアルジアシストのいずれについても推定ウェルシュ菌芽胞との相関が最も高かった。3)ある浄水場の原水及び浄水中のクリプトスポリジウムオーシスト及びジアルジアシストにつき、1年間にわたって月1回の頻度で計13回調査したところ、原水ではそれぞれ13試料及び12試料が陽性であった。また、浄水(2系統)では計26試料中それぞれ9試料及び3試料が陽性であった。凝集沈殿+急速砂ろ過によるこれらの除去率は、おおむね2~3log10の範囲にあった。4)クリプトスポリジウムオーシストのほか、その代替指標として開発された微粒子及び水道原水中に存在する数種の藻類を用いて、凝集沈殿及び凝集ろ過に関する一連の実験を行い、浄水処理過程におけるクリプトスポリジウム除去指標として、Selenastrum capricornatumやある特定のモデル粒子が有効であることを明らかにした。
結論
クリプトスポリジウム等の検査法の開発・改良を行うとともに、汚染状況の調査を実施した。検査法の開発では、実験動物モデルにおける好適感染増殖部位、糞便試料の保存方法、免疫磁気分離用混合ビーズの実用性、中空糸膜モジュールを用いた濃縮方法、直接蛍光抗体法の実用性、DAPI染色における前処理法、PCR法による検出法の適用性、遺伝子配列の解析、鳥類のクリプトスポリジウム鑑別法等について検討し、多くの点につき満足な成果が得られた。これらの成果に基づき、現行検査法の改良に活用できる内容に関して取りまとめた。本研究成果を生かした新しい検査法を採用することにより、検査精度の大幅な向上が図れるものと期待される。また、汚染状況の調査では、各種動物の感染状況の調査、相模川水系における汚染実態調査、浄水処理による除去特性の検討等を行い、クリプトスポリジウム等による野生動物や水の汚染実態の解明、並びに、代替指標の開発に貢献し得る成果が得られた。これらの成果を活用することにより、クリプトスポリジウム等による感染リスクの適切な評価及び管理が可能になるものと期待される。

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