多発性硬化症の病態機構と新しい治療法開発に関する研究

文献情報

文献番号
199900394A
報告書区分
総括
研究課題名
多発性硬化症の病態機構と新しい治療法開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
山村 隆(国立精神・神経センター神経研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 吉良 潤一(九州大学脳研神経内科)
  • 橋本 修治(天理よろづ相談所病院神経内科)
  • 寺尾 恵治(国立感染研・筑波霊長類センター)
  • 田平 武(国立精神・神経センター疾病研究第六部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々はこれまでにNK細胞やVa14 NKT細胞が実験的自己免疫性脳炎(EAE)において抑制的に働く調節細胞であることを明らかにしてきた。CD1d分子に拘束されたNK T細胞は、マウスではVa14-Ja281、ヒトではVa24-JaQ TCR invariant鎖を発現する。今回SSCP法を用いて多発性硬化症 (MS)および慢性炎症性脱髄性ポリニューロパチー(CIDP)の末梢血および病変サンプルにおけるNKT細胞の変化について検討を加えた。また平行してMS患者におけるNK細胞の表面抗原発現やCD8 T細胞のサイトカイン産生プロフィルにつき検討した。カニクイザルのEAEおよびEANモデルを確立し、感受性のある固体と疾患抵抗性を示す固体の相違点を、各種パラメーターにつき解析した。
研究方法
Va24-JaQ NKT細胞の検出にはRT-PCR-SSCP法を用いた。Va24特異的プライマーおよびCa特異的プライマーにより、まずVa24陽性TCR産物を増幅したあとSSCPゲルに展開し、Va24-JaQ invariant鎖特異的なプローブでNKT細胞Va24-JaQ invariant鎖の発現を確認した。NK細胞表面抗原発現はフローサイトメトリーにより評価した。サイトカイン産生プロフィルはPMAとionomycinで刺激後、細胞内IFN-gおよびIL-4をモノクローナル抗体で染色後、フローサイトメトリーにより評価した。
結果と考察
1)MS寛解期のPBMCではVa24-JaQ TCRは検出できず、MS末梢血におけるNKT細胞の著明な減少が確認された。他方、増悪期のMSでは26例中7例(26.9%)に検出され、NKT細胞の減少は永続的なものではないことが示唆された。他の神経疾患20例中18例のPBMCでVa24-JaQ TCRが検出され、CIDPでは全例がVa24-JaQ TCR陽性であった。したがって末梢血におけるNKT細胞の減少はMSの免疫学的標識の一つとして認識されるべきものであることが明確になった。
2)MSの剖検脳では、検索した25サンプルのうちVa24-JaQ invariant鎖を検出できたのは1サンプルのみであった。一方、CIDPの生検神経標本10サンプルのうち6例でVa24-JaQ invariant鎖を検出できた。一方、対照の生検神経標本11例ではinvariant鎖を検出できなかった。以上の結果は、CIDPの末梢神経においてNKT細胞浸潤が頻繁に見られることを意味する。炎症病変局所におけるNKT細胞浸潤が証明されたのは本報告がはじめてである。NKT細胞減少のメカニズムは依然として明確ではないが、末梢神経疾患(CIDP)と中枢神経疾患(MS)における大きな相違は、NKT細胞減少における臓器(組織)特異的因子の関与を示唆する。    
3)国立精神・神経センターと天理病院でMS患者末梢血NK細胞のCD95抗原陽性率を経時的に解析し、CD95陽性率と病状に逆相関のあることを発見した。
4)寺尾はカニクイザルのEAE、EANの誘導法を確立し、疾患抵抗性を示す個体ではCD16陽性NK細胞の著しい増加が見られることなどを観察した。
4)吉良はアジア型MSにおいてTc1優位の状態であることを示した。
結論
末梢血におけるNKT細胞の著明な減少はMSの免疫病態を特徴づけるものであり、CIDPなどMS以外の炎症性神経疾患では見られない。一方、MS病変 ではNKT細胞が検出されることは稀であるが、CIDPではかなり頻繁である(60%)。このようにMSとCIDPはNKT細胞の存在様態において大きく異なる疾患である。MSの臨床病態とNK細胞の表面抗原発現の相関は今後の重要な研究テーマである。

公開日・更新日

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