薬用生物資源の分布調査とその活用に関する研究(総括報告書)

文献情報

文献番号
199900364A
報告書区分
総括
研究課題名
薬用生物資源の分布調査とその活用に関する研究(総括報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
佐竹 元吉(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤勝実(京都薬科大学)
  • 神田博史(広島大学)
  • 田中俊弘(岐阜薬科大)
  • 正山征洋(九州大学)
  • 金井弘夫(東洋工業専門学校)
  • 岡田 稔((株)ツムラ・中央研究所)
  • 古谷 力(岡山理科大学)
  • 平岡 昇(新潟薬科大学)
  • 畠山好雄(国立衛研・筑波薬用植物栽培試験場)
  • 香月茂樹(国立衛研・種子島薬用植物栽培試験場)
  • 飯田 修(国立衛研・伊豆薬用植物栽培試験場)
  • 酒井英二(国立衛研・和歌山薬用植物栽培試験場)
  • 吉田尚利(北海道大学)
  • 本多義昭(京都大学)
  • 御影雅幸(金沢大学)
  • 高鳥浩介(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 関田節子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生薬を始めとして薬用生物資源は、多くの国で伝統医療及び医薬品等の原料に用いられている。1988年以来チェンマイ宣言、地球サミット、リオ宣言、アジェンダ21(地球再生のための行動計画)等の国際会議で、薬用生物資源の保存、保護及び研究開発の重要性が指摘されている。また、医療における重要性から、日本、アメリカ及びヨーロッパの薬局方に薬用植物(生薬)が収載がされている。特に近年アメリカにおいて、薬用植物利用の気運が高まり、世界各国から薬用生物遺伝資源の導入を図っており、日本の資源にも高い関心を持っている。このような状況において自国の生物資源を調査研究することは急務である。これらの世界各国で人の健康増進のために利用されている薬用生物資源の多くのものは、従来より野生のものを採集して利用されていたが、乱獲や自然環境の悪化などにより絶滅の危機に瀕しているものも多い。気候風土に順じて日本の生物資源は多様性に富んでおり、約7,000種の維管束植物に恵まれているが、開発や環境破壊によりその約5分の1が絶滅あるいは減少しつつある。このようなことから、わが国あるいは諸外国において絶滅の危機に瀕している薬用生物資源の分布状況等を明らかにし、これらの効果的な保存方法を確立することが大切である。また、保護の目的で、本来の植生を考えず外来植物を繁殖させたり、自然指向によるブームが枯渇を招来させていることから、本研究班に集積する知識や情報を、都道府県や大学等の薬用植物園が各地域の薬用植物の観察、栽培指導を行う際の重要な情報発生源とすることは薬用植物の有効利用に不可欠である。これらの研究を通して、薬用生物が医療に用いられるための資源の確保の方策を探る。
研究方法
次の3つの研究グループに分けて実施した。
1.国内の薬用資源植物の調査研究
①昨データのインプットと地図プロットを行った。②標本調査による薬用植物の増減解析た。
③視認調査:北海道のトウキ、新潟県の薬用植物、奄美群島、八重山諸島の薬用植について現地調査を行い、地図にプロットすると共に、遺伝子解析や成分分析により分類、同定を行った。
④オオバコ、ハシリドコロ、キハダ、ホソバヤマジソ、トウガラシの成分と変異に関して検討した。シナニッケイの沖縄県での栽培結果を品質面で検討した。
⑤北海道内のトウキの変異についてさく葉標本の採集情報から北海道内にはトウキの31カ所の自生地が判明した。この情報をもとに,自生地調査を北海道内全域で行った。この試料をダイレクトシークエンスを行った結果、トウキ類植物間での多型性は認められなかったこのことから、これらは当初予想したよりもはるかに遺伝的に近縁であると考えられた。またさらにRAPD 分析をあわせて行った。各種ニンジンの分類をELISA法により簡便で確実な鑑定法を開発した。
⑥植物の保存法としてシュート培養法を検討し、栽培化の可能生をみいだした。
⑦薬用植物観察会を開催し、一般の植物愛好家を対象に講演会と植物観察会の指導を行った。
2.国外の薬用資源植物の調査研究
ベトナム産桂皮の調査を行った。西ネパールの暖温帯域に位置するパンチェシ山,シクリス山およびタマギ村周辺で採集された548点の植物を同定整理し,中国伝統医学ならびにインド伝統医学で薬用として利用可能な植物資源を検討した。
3.薬用微生物資源の分布・分類及び生理活性物質に関する研究
幻覚性キノコ(マジックマッシュルーム)の起源種の同定、分類を目的として、子実体を形成させ、含有成分の分離、精製を行った。植物由来Trichodema を分離し、人工培地で植物由来10株を継代管理することによる、生物性状の変化を3年間にわたり観察し一定期間継代維持したTrichodema について、表面性状及び胞子生産性等について観察した。
結果と考察
1.国内の薬用資源植物の調査研究
①分布図へのプロットする際に分布点の以上や分布位置不明が数多く発見され、原因の一部は標本ラベルの不正確さにあったが、一部は地名の誤採録を見出し、データファイルの訂正を行った。
②調査した96種のうち、13種については標本数が50未満であった。標本数50以上であった83種について、ほぼ確実に生育量が減少ししていると考えられた種は14種であり、絶滅危惧種であるミシマサイコ・ムラサキの両種が含まれていた。今回調査した種のほとんどは生育量が減少していると推定される。
③分布
多くの自生トウキ類植物を確認し、これらの植物は葉の外部形態適特徴から、(Ⅰ)海岸型、(Ⅱ)内陸型、(Ⅲ)高山型、(Ⅳ)蛇紋岩石地型だった。最北の分布地とされている利尻島のミヤマトウキの記録は現地確認でホソバノヨロイグサを誤認であった。
新潟県、福島県、山形県、沖縄県八重山の野生薬用植物の中で生存が確認された約50種であった。奄美群島で確認できた植物は、裸子植物 6科11種、双子葉植物72科206種、単子葉植物 20科68種、シダ植物9科10種であった。
④成分の変異の多様性
オオバコ 属は直根の無い種とある種は前者がPlantamajoside、後者がacteosideを主に含む。ハシリドコロの根茎はアルカロイド含量は野生品より栽培種がやや低くなる。 キハダの樹皮にはberberineが主成分として含まれ,東北産や朝鮮半島産はアルカロイドの総量としては少ないが,palmatineの割合が高い。ホソバヤマジソの主成分はThymolであり,国内の植物が中国のものより含有量は多い。トウガラシ果実の形態と成分は相関が見られない。シナニッケイの沖縄での栽培品は局方の規定値に適合した。
⑤北海道内のトウキの変異とDNAの特徴はRAPD分析の結果から、「海岸型」のものが、「日本海側型」と「太平洋側型」とに分かれた。「内陸型」は総じて「海岸型」と同様なバンドパターンを示した。また、栽培ホッカイトウキと栽培ヤマトトウキは明らかな多型を示し区別性のあることが認められた。「蛇紋岩地型」も識別できた。ニンジンの成分分析法でELISA法を確立した。
⑥2年間冷蔵したオオバナオケラ、ハシリドコロ、エゾエンゴサク培養シュートからの再生植物が栽培段階となった。
⑦北海道、から沖縄わまで、8ヶ所で、薬用植物の視認調査と知識の啓蒙のための観察会とシンポジュウムを地方行政機関、薬剤師会、植物同好会と開催した。
2.国外の薬用資源植物の調査研究 
ベトナムでは、1995年に調査したときに比べ、扱い量は減少している様子であった。生薬類の多くは中国からの輸入品で占められている。様々なグレードの桂皮が選別、箱詰めされており、この選別階級はベトナム国が定める基準によるものであった。ネパールで種レベルまで同定できた植物は250数種であった。
3.薬用微生物資源の分布・分類及び生理活性物質に関する研究
マジックマシュルームの培養収穫した子実体の鑑定を行った結果、シビレタケ属(Psilocybe)菌であることが判明した。Trichodema 10株の集落性状は初代分離時すでに差異が認められが、集落変化は比較的短年で確認され、粉状から綿状へと変わりつつ多く綿状集落となってきた。また胞子産性能は著しく強かったが、3~4年になるにつれ、明らかに低下してきた。
結論
薬用植物又は薬用微生物資源の絶滅の危機種や減少種に調査研究している例はほとんどない状況である。本研究で実施している約100種類の薬用植物の過去の標本調査ならびに現在の分布状態に関する調査研究はこれまでに全くなされていなかった。国外の薬用植物は世界的規模で利用されているカンゾウ、ダイオウ等は資源の枯渇が懸念されているが、年次毎の収穫量以外の調査は行われていない。また、伝統薬として使われている民間薬に関してはその知識と資源が消滅する恐れがあり、早急な調査、研究が必要である。このようなことから、わが国あるいは諸外国における薬用生物資源の分布状況等を明らかにし、絶滅の危機に瀕している資源の効果的な保護と保存の方法を確立することを目的とした。この研究により得られた成果は研究者間に公開し、減少および絶滅危機種についての保守をはかる。また、乱獲を予防した対策を講じた上で、主任研究者の所属する研究機関のホームページに記載する。薬用植物種の保存に対する技術開発は、研究終了後も個々の研究者のテーマとして継続することになるであろう。一方保護の名目で、本来の植生を考えず外来植物を繁殖させたり、自然指向によるブームが枯渇を招来させていることから、本研究班に集積する知識や情報を、都道府県や大学などの薬用植物園が各地域の薬用植物の観察、栽培指導を行う際に発信する。

公開日・更新日

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