実験動物の胚・精子の保存方法及びそれらの品質保証技術開発等に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900362A
報告書区分
総括
研究課題名
実験動物の胚・精子の保存方法及びそれらの品質保証技術開発等に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
浅野 敏彦(国立感染症研究所動物管理室)
研究分担者(所属機関)
  • 横山峯介(三菱生命科学研究所)
  • 葛西孫三郎(高知大学農学部)
  • 高橋明男(国立精神・神経センター)
  • 笠井憲雪(東北大学医学部)
  • 小倉淳郎(国立感染研獣医科学部)
  • 松田潤一郎(国立感染研獣医科学部)
  • 鈴木 治(国立感染研獣医科学部)
  • 山田靖子(国立感染研動物管理室)
  • 加藤秀樹(浜松医科大学医学部)
  • 勝木元也(東京大学医科学研究所)
  • 中潟直巳(熊本大学動物資源研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生科学研究基盤整備の一環として、疾患モデル動物等実験動物のRRB設立に向け、胚、精子の保存方法の開発並びに標準的な操作手順書の作成及びそれらの品質保証技術開発を行うことを目的とした。
研究方法
研究報告=1 胚凍結保存に関する研究
マウス胚の凍結保存技術、並びに凍結保存された胚を融解し、生体に移植・産仔を得る技術はほぼ確立されている。しかし、系統によっては凍結過程で胚が障害を受け易く、各種凍結保護材による傷害の程度を、経時的に観察し傷害要因の判別を試みた。
ラットは胚凍結保存技術に関してはマウスほど進展していない。ホルモンを用いた過排卵誘起反応は系統あるいは日齢による差が大きい。また、疾患モデルラットにあっては、採卵が困難な場合が多い。そこで、体外受精方法の確立と卵巣移植技術を応用することを考え、まずマウスを用いた。体外受精方法の確立に関しては、精巣上体尾部より採取した精子を106個/mlに調整し、5時間培養し受精能獲得を行い、定法により採取した未受精卵を加えて体外受精を行った。卵巣移植に関しては、ネフローゼモデルマウスであるICGN系卵巣をICR系の卵巣嚢内に移植し、その後、雄マウスと交配させ産仔を得て、自然交配群との間で比較検討を行った。
現時点まで、モルモットに過排卵を誘した報告はない。自然排卵される卵の数が極めて少ないために、凍結保存を試みることは困難である。従って、モルモットに過排卵誘起技術の開発を行った。各種ホルモン剤を投与し、その後雄と交配させ黄体数並びに胚の状態を観察した。また、胚移植技術の開発を目指して、自然排卵により得られた8細胞期または胚盤胞を、各種未経産雌の子宮に移植し、妊娠・分娩を観察した。
スナネズミの過排卵誘起:各種性腺刺激ホルモンを投与し、採卵された卵子と胚の数を調べた。
胚移植:マウスと同様なレシピエント動物に、各段階の胚を卵管あるいは子宮に移植し、妊娠・分娩を観察した。胚の急速凍結保存:マウスと同じに行った。精子の凍結保存:マウスと同じに行った。体外受精:精子の受精能獲得は、透明帯除去ハムスター卵子との媒精により、精子侵入を観察することで調べた。さらにマウスに準じた卵子細胞質内精子注入法(ICSI)による体外受精法も試みた。
ゴールデンハムスター胚の凍結保存に関する研究、排卵日の午前中にPMSGを10-25IU投与し、3日後に雄と同居させた。膣栓を確認した動物から採卵し、修正HECM-3培養液で7.5%CO2、37.5℃にて培養した。この培養胚を急速凍結保存した。凍結保護材としてはエチレングリコールおよびDMSOを用いた。
マストミス胚の凍結保存に関する研究、マウスと同様に急速凍結を試みた。融解後に子宮あるいは卵管に移植した。
2 遺伝子改変マウスの保存および遺伝的背景均一化に関する研究
遺伝子改変マウスの胚バンクシステムに関する研究:体外受精により2細胞期胚を作製し、急速凍結保存した。融解後、移植し生存率ならびに産仔をチェックした。
遺伝的背景均一化に関する研究: 凍結精子を用いた体外受精法により戻し交配を行い、自然交配による戻し交配法との比較検討を行った。
3 胚の品質保証に関する研究
微生物学的モニタリング: 微小な胚のモニタリング方法として、RT-PCR法を用いる方法が可能かどうかを試みた。材料としてMHV汚染コロニーから得られた糞塊を用い、MHV遺伝子の検出を試みた。
遺伝的モニタリング: 5種類のマイクロサテライトマーカーを選択し、1種類のマイクロサテライトマーカーをPCR法で検出するのに、いくつの胚が必要かを検討した。
4 実験動物胚の採取と保管
国立精神・神経センターと国立感染症研究所で、疾患モデルマウス並びに近交系マウス胚を採取し、液体窒素中に保存した。
結果と考察
研究1 胚凍結保存に関する研究
マウス胚は凍結・融解過程における各種の障害を人工的に与えて、胚を観察すると傷害特有の形態を示した。例えば、細胞外氷晶に圧迫された胚は、回収直後は透明帯が伸張して歪んでいた。凍結融解した胚は、処理過程で受ける障害により形態が異なるため、融解後の胚を観察することにより、凍結融解方法の改善が可能となった。
疾患モデル動物では、その疾患により、産仔を得ることが困難となる。卵巣が正常であれば、その卵巣を正常動物に移植することにより、卵を得ることが出来、疾患モデル動物の胚保存にも有意義である。そこで、ICGNマウスの卵巣を、ICRマウスの卵巣嚢に移植した後、雄ICGNマウスと交配させ産仔を得た。この成績をICGNマウスの繁殖成績と比較したところ、産仔数、離乳率共に好成績であった。このことは、ある種の疾患モデル動物の胚採取、または系統維持に卵巣移植法は有意義であることが判った。
ラットの卵子や精子はマウスのそれと比較して弱く、受精能獲得に長時間を要する。WIとSDの2系統のラットに過排卵処理を施し、採卵するといずれも平均22個の卵を得た。体外受精を行った場合、平均31%の卵が受精した。バラツキが大きく、安定した体外受精成績は得られなかった。受精条件のさらなる検討が必要である。
自然交配によりマストミス胚を得て、ガラス化法により凍結・融解を行ったところ、形態学的に正常な胚が高い割合で存在していた。この正常胚を培養に供したところ、桑実期胚あるいは胚盤胞期に達した。凍結融解した2細胞期胚および胚盤胞をマストミス卵管あるいは子宮に移植したところ、移植胚の約半数が産仔として分娩された。従って、マウスとほぼ同様のガラス化法を用いて、2ステップ法を応用することでマストミスは効率よく保存できることが判った。今後は、過排卵誘起と体外受精の方法を検討する必要がある。
シリアンハムスター胚は、8細胞期以降で耐凍性が高まることは過去の成績から判っていたので、これらの胚を用いて凍結を試みたが、いずれの耐凍剤を用いても、融解後培養すると発生を停止してしまった。発生停止の原因は、凍結時の傷害や耐凍剤の毒性ではなく、融解時の傷害であろうと推測している。
スナネズミに関しては、過排卵誘起、人工授精、精子の凍結保存、胚のガラス化保存、胚移植、体外受精について調べてきた。卵細胞質内精子注入法(ICSI)を用いて、体外受精を試みた。また、ICSI操作後、偽妊娠雌の卵管内に移植したのち回収して、胚の発育状況を観察した。移植胚(57個)のうち15個が回収され、7個が桑実胚~胚盤胞へと発育していた。体外受精法の開発・改良を進めていく必要がある。モルモットではインヒビンで免疫したモルモットは、黄体数、採取胚数、正常胚数は共に有意に高く、インヒビンはモルモットの過排卵法として有効であることが判った。得られた胚を、移植することで、産仔を得ることが出来た。効率はまだ低く改良する点は残されている。モルモットのFSHリセプターの核酸配列を決定し、他の種と比較したところ、マウスやラットよりヒトに対する相同性が高いことが判った。
胚バンクシステムとしては、過排卵卵子を用いて、体外受精を行い、2細胞期胚をガラス化法により凍結保存する方法を開発した。この方法では、均一な胚を数多く得ることができ、省力化にもなっており、胚バンクに有効なシステムであることが判った。
精子の保存とその利用に関しては、凍結保存精子の受精成績は系統間で差があるが、凍結精子を用いた体外受精を行い、胚移植による個体への発生はいずれの系統でも良好な成績であった(50%以上)。遺伝子改変動物作出にあっては、作出された遺伝子改変動物の遺伝的背景の均一化は重要な手段である。従来の戻し交配法では遺伝的背景の均一化に凍結保存精子を用いることで、約一年で8世代の戻し交配を行うことができた。
2 品質保証に関する研究
微生物学的モニタリング方法は、RT-PCR法を用いることで、胚の汚染検出が可能である ことが判った。凍結保存された胚の直接的な汚染検査が可能であることが示唆された。
遺伝学的モニタリング方法は、8細胞期の胚1~2個あれば、5種類のマーカーの検査が可能であり、このことは15系統の近交系を識別出来ることを示している。
結論
マウスの胚凍結保存に関しては、システムはほぼ完成した。但し、系統によるわずかな修正が出来るようになれば、さらによい成績が得られるであろう。マウス以外の実験動物に関しては、凍結胚で産仔が得られたのは、ラット、スナネズミ、採取胚を移植して産仔が得られたのはモルモットである。また、胚を移植して、移植胚の発育が確認されたのはマストミスである。一方、ハムスターに関しては、依然として困難な局面にある。
品質保証に関しては、高感度モニタリングシステムの開発はほぼ完成し、今後はこれらの応用面での開発が必要になってくる。

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