臨床応用に向けたハイブリッド型リポソームの確立とサルを用いた実証研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900354A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床応用に向けたハイブリッド型リポソームの確立とサルを用いた実証研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
金田 安史(大阪大学医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 本多三男(国立感染症研究所)
  • 居石克夫(九州大学医学系研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
55,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は我々が開発に携わってきたハイブリッド型リポソームであるHVJーリポソームを効率と安全性の面からさらに改良し、その有効性と安全性の検討をサルを用いて行い、ヒトの遺伝子治療に応用することをめざした。
研究方法
HVJーリポソームのヒト遺伝子治療への応用を考え、今年度は以下の研究を進めた。1つは、導入遺伝子発現の増強のために前年度開発したEpstein-Barrウイルスの潜伏感染装置をもったレプリコンベクターを改良し、oriPをもつ治療用遺伝子発現ベクター(この場合はルシフェラーゼ遺伝子をマーカーとして用いた)とEBNA-1の強発現ベクターとの共導入系を開発した。2つ目はHVJーリポソームを、よりシンプルで長期保存が可能なベクター系に改良するために、不活性化したHVJ粒子に、凍結・融解によって遺伝子を封入し細胞内導入可能なら棚ベクターを開発した。次にHVJーリポソームのサル筋肉内、脳内での安全性(病理変化、遺伝子局在)と有効性(遺伝子発現)の検討を行った。また静脈内投与の実験も行い安全性を評価した。具体的には年齢3から5歳の雄カニクイザル10匹を用いた。試験群構成は、被験物質投与群2群(HVJ-liposome投与群に3匹、HVJ-liposome+pcDNA3投与群に5匹)と対照群1群(生理的食塩水投与群に2匹)の10頭を用いた。各群には、以下の被験物質10ml を各頭30分間かけて、経静脈的に投与した。すなわち、HVJ-liposome群はウイルスの融合蛋白質を有した直径400nmの脂肪球の懸濁液10ml (6.11x1011 particles) を、HVJ-liposome+pcDNA3群はウイルスの融合蛋白質を有した直径400nmの脂肪球の懸濁液(pcDNA3約120_gを封入してある)10ml (約6x1011 particles) を、対照群は生理的食塩水10mlを投与した。観察、測定および検査項目は以下の通りである; 一般状態の観察、体重測定、血圧測定、心電図検査、尿検査、血液学的検査、血液生化学的検査、骨髄検査、剖検および器官重量の測定、病理組織学的検査。サルの実験は環境バイリス研究所で、そのガイドラインに沿って施行されたが、試験期間中は定期的な食餌投与、自由な飲水、至適な範囲に維持された温度・湿度下で飼育され、深麻酔下で放血により犠牲死させた。
またモデル実験系を用いたHVJ-リポソームによる遺伝子治療法の開発も行った。
動物実験については大阪大学医学部の動物実験施設で決められた規約を遵守した。またサルを用いた実験は筑波霊長類センターをはじめとする国内数カ所で行いそれぞれの規約を遵守した。
結果と考察
1)導入遺伝子増強系の開発:Epstein-Barr VirusのEBNA-1とoriPの配列をもつEBVレプリコンベクターは長期遺伝子発現が可能であったが、 この長期化はoriP配列を介した核マトリックスへの結合による。核マトリックスは遺伝子の転写の場でもあるので、EBNA-1強発現ベクターを共導入すればさらにoriPを介した転写の増強がおこることを考え、oriPをもつルシフェラーゼ遺伝子発現ベクターとEBNA-1の強発現ベクター共導入を行ったところ培養細胞において、oriP依存性に導入遺伝子発現を約30倍増強することが可能であった。これは主として転写の増強によっている。そこでヒトインスリン遺伝子をporiP-CMVにクローニングし、 pcEBNA-1とともにモル比1:6でマウス骨格筋にHVJ-AVE liposomeを用いて導入し1週間毎にマウス血中のヒトインスリン値を測定したところ、ヒトインスリンをマウス骨格筋に導入することにより4週間以上にわたってマウス血中で高く維持された。またporiP-CMVluciferaseをマウス肝臓に同様の方法で導入し、ルシフェラーゼ遺伝子発現が減弱した15日後にpcEBNA-1をマウス肝臓に導入することにより、肝臓においてporiP-CMVluciferaseの発現が減弱した時点でpcEBNA-1のみ導入するとルシフェラーゼ遺伝子発現の再活性化が起こった。
2)長期保存型新規ベクターの開発:従来のHVJ-リポソームは長期保存ができず要事調整であること、リポソームの調整に技術が要することなどの欠点があった。そこで、紫外線で不活性化したHVJを封入したい目的の遺伝子と混合し凍結融解を繰り返すだけで、少なくとも10kbのプラスミドDNAが封入されること、凍結融解後のベクターを用いてヒトや齧歯類由来の培養細胞に対して細胞毒性がほとんど認められない条件で用いた場合、HVJ-liposomeの約5倍の効率で遺伝子発現(ルシフェラーゼ)を誘導できることを発見した。遺伝子発現を指標に凍結融解の条件、用いる緩衝液の組成、加えるHVJ及びDNAの量を検討し至適条件を確立した。特に凍結融解は15回まで可能でしかも遺伝子発現効率は回数に伴って上昇し、このことは凍結した状態での長期保存が可能であることを示している。またリポソーム作成が不要である点も汎用性を高めるであろうと考えられる。生体組織での遺伝子導入と発現効率を今後検討しなければならないが、本質的に機能に関わる分子はHVJ-liposomeと変わらないことから、HVJ-liposomeに匹敵する効果が十分期待できる。精製HVJを得ることは容易であり、それさえ準備できれば従来法をしのぐ効率をもつベクターが手軽に短時間に調整でき、また長期保存が可能であり、極めて実用性の高いものと判断された。
3)サルでの安全性と有効性の検討:ニホンザルの脳室内にLacZ遺伝子を封入したHVJ-liposomeを導入すると主として海馬の神経細胞に少なくとも1ヶ月の遺伝子発現が認められた。また髄液腔内への注入では脈絡叢、小脳、延髄、海馬に著明な遺伝子発現(各領域の50%以上の神経細胞)を認めた。線条体への直接注入では注入部位より半径約10mmの範囲まで遺伝子発現が認められた。次にカニクイザル(雄雌各3匹)の骨格筋にHVJ-liposomeでHGF遺伝子を連続導入した。HVJの抗体価は上昇したが、連続投与により4週間のHGF持続発現を認めた。しかし、病理変化、血液学的異常は認めず、導入遺伝子は注入部の骨格筋、肝臓、脾臓に主としてPCRにより検出されたが、生殖腺や脳への移行はなかった。ニホンザルの移植心に冠状動脈よりE2Fデコイを導入し、レシピエントのサルの腹部に移植したが、新生内膜の抑制がみられ、慢性拒絶の原因となる動脈炎を抑制した。4bpのミスマッチデコイでは抑制を認めなかった。サル各臓器における野生型HVJの出現をHVJのF蛋白のメッセージをRT-PCRで検出することにより評価したが、FのmRNAは検出されず、ウイルスの不活性化が証明された。ヒト遺伝子治療においては局所投与に限る予定であるが、ベクターが血管内の漏出したときの危険性を想定して、局所投与で用いた量の4-15倍のHVJ-liposomeをサルの伏在静脈から静注して投与4週間での急性毒性の検討を行った。血液化学的検査、血液像、尿検査、血圧、心電図、骨髄像とも生理食塩水注入群と比較し有為な異常は認めなかった。病理組織学的検査では、検索した大脳、小脳、脊髄、心臓、肺、肝臓、脾臓、腎臓、精巣、大動脈、腸間膜リンパ節および眼球には特記すべき変化は認められなかった。導入遺伝子は1日後に肝臓、脾臓、肺に認められたが生殖腺や脳内への移行などは無かった。HVJのF蛋白のmRNAをRT-PCRによって各臓器において検出を試みたが、どの臓器にも認められず、不活性化が完全におこなわれていたことが示された。遅延型皮膚反応も検出されなかった。
5)モデル動物による遺伝子治療実験:新たな癌遺伝子ワクチン、エイズワクチンの開発、放射線との併用による自殺遺伝子治療法の開発、HGF遺伝子による肝硬変、心筋梗塞、動脈硬化の遺伝子治療、NFkBデコイによる慢性関節リューマチの治療法を開発した。特にHGF遺伝子による閉塞性動脈硬化症の遺伝子治療はヒトへの応用が間近になっている。我々は肝細胞増殖因子(HGF)がVEGF, FGF-4よりも強い血管内皮増殖作用をもつことを見出し、HGFによる虚血性疾患治療の道を開いた。ラットの下肢虚血モデルを作成し、これにHGF遺伝子を導入すると、著明な血管新生がおこることがレーザードップラー血流計や血管造影により確認されている。そこで大阪大学ではHGF遺伝子の直接注入によるASOのヒト遺伝子治療プロトコールを提出し、学内の審議を終了した。将来はこの導入法により有効なHVJ-liposomeを応用していくことが期待される。
結論
HVJ-リポソームは改良が進み、その安全性・有効性もサルにおいて実証された。臨床応用可能な段階に到達したといえる。

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