母子健康手帳の評価とさらなる活用に関する研究

文献情報

文献番号
199900321A
報告書区分
総括
研究課題名
母子健康手帳の評価とさらなる活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
日暮 眞(東京家政大学)
研究分担者(所属機関)
  • 巷野悟郎(こどもの城)
  • 中村安秀(大阪大学)
  • 藤本眞一(広島女子大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
7,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
母子健康手帳は、戦時中の妊産婦手帳創設の時以来、母子の疾患の予防や健康の保持増進に大きな役割を果たしてきたが、その時々における活用の状態や効果に関わる実績についてはこれまでに研究がなく、それぞれの当時の記録もほとんど残されていない。また、数回にわたる改正に際しての研究報告はあるが、その改正による効果の判断についての研究はなく、経緯についての客観的記録も乏しい。このように、母子健康手帳についての評価は高いが、現時点で実証し、記録に留めておかないと資料が散逸してしまう怖れが大きい。
また今後、母子健康手帳を改正する際、これまでの改正効果を判断しながら現行の手帳の評価をしておくことが必要であり、さらにそれに基づいて使い勝手のよい有効な手帳に改良していくことが必要である。そこで本研究班では、以下の2課題を研究計画に設定し、調査研究を実施した。すなわち、(1)母子健康手帳の変遷に対する歴史的レビュー,(2)現行母子健康手帳の評価とさらなる活用に関し、国際的視点も交えての研究について実施した。なお、厚生省の実施したSIDS予防キャンペーンの保護者への普及状況についても、(2)の調査にあわせて行った。
研究方法
(1)第二次大戦直後の「母子健康手帳」創設期の関係者よりの聞き取り、個人的に保管している資料を中心に座談会を開き、その記録を中心にまとめた。
(2)わが国で50年以上使用されている母子健康手帳を保健医療提供側および利用者の立場から評価することにより、21世紀にふさわしい「母子健康手帳」のあり方について検討するために、以下の項目について調査方法や具体的な調査票のモデル案を策定した。
1.母子健康手帳の利用度調査(書込率・持参率・紛失率など)
2.母子健康手帳の周知度(内容の理解・読了経験など)
3.母子健康手帳に対する意識(母子健康手帳への満足度・不満な点など)
本分担研究は、直接住民を対象としていないため、特に倫理的問題は生じない。しかし質問票の作成にあたっては、プライバシー保護など倫理面には十分な配慮を行った。
調査対象は、平成11年11~12月において、横浜市,新潟県,岐阜県,静岡県,広島県及び広島市内231の市町村・区において1歳6か月児健康診査を受診する保護者のうち、この調査に同意する者とした。具体的には、保護者へのアンケート形式とし、母子健康手帳に関する事項やSIDSに関する保護者の意識と厚生省キャンペーン後の育児環境の変化に関する事項について記入を求めた。記入方法については、健康診査受診勧奨通知を事前に連絡する市町村においては、健康診査連絡に同封し、回答の上健康診査時に封に入れて持参したものを回収した。健康診査通知を連絡しない市町村においては、健康診査の待ち時間の間に記入を求め、その場で封筒に入れ、回収した。
結果と考察
1.母子健康手帳の変遷に対する歴史的レビューに関する研究
本研究は、昭和23年に制定され今日に至っている「母子健康手帳」の起源を探求した。しかし、すでに半世紀を経て記録は少なく、母子衛生課当時の関係者の記憶や、また個人的に保管している書類などを参考にして本研究を行った。なかでも、初代母子衛生課長で「母子手帳」の生みの親である瀬木三雄の著書は貴重で、晩年瀬木の下でともに研究した依田の資料、瀬木の後輩で「母子手帳」の研究をしている本多の資料などを参考とし、更に当時の母子衛生課職員の座談会を中心としてまとめた。当時は、連合国軍(GHQ)に占領されていたから、母子手帳の作成にあたっては常にGHQからの指示があった。それに対して瀬木は、常に学者として毅然とした態度で望み、わが国の中心的な産婦人科医と小児科医の意見を取り入れて、世界に類を見ない「母子手帳」を作った。戦争中には物資の配給のよりどころとなった「妊産婦手帳」に始まった「母子手帳」は、戦後の混乱期に妊娠中の生活や育児に自信と希望を与えるのに大きく貢献した。なお、当時作成した映画「母子手帳」のフィルムを入手できたことは幸いで、これによって戦後の時代の母子の様子を知ることができる。
2.現行母子健康手帳の評価・利用状況,SIDSに関する調査
母子健康手帳の既読率・記入率とも、日本の識字率の高さに合わせていずれも9割5分以上の高率であった。医療機関へ手帳を持参する率は、約2/3であったが、今後医療サービス提供にあたって手帳利用の促進を図るとすれば、何らかの工夫が必要であろう。手帳の紛失経験は、1%未満と予想以上に低かったが、逆に言えばそれだけ大切に保管され、利用されていないとも解釈できる。手帳で役に立った部分としては予防接種の項が8割以上と際立って大きかったが、予防接種に関しての記録として活用するならば、小学校入学以降の6歳以上の部分との連携が必要不可欠であり、学校保健分野との連携・調整が重要な課題となる。手帳の利用しやすさでは、使いやすいとした比率が上回っているといっても、どちらとも言えないが最も多いことを十分に認識し、今後予定される利用者の立場にたった改訂が望まれる。具体的な改訂希望では、少子化・高齢化・核家族化時代を反映してか、子育てに関する情報や父親の育児に関する事項の記載を求めるものが多かった。手帳の記載内容については、妊娠・出産・育児の時期を通じて少しずつ記入されている割合が減少していく傾向が観察された。また母親自身の歯科保健に対する意識が低く、今後特に啓発していく必要性があると考えられる。
SIDSのリスク・ファクターに関しては、日本では特にうつぶせ寝があまり普及しておらず、あおむけ寝が2/3をしめており、母乳栄養も2/5であった。喫煙については、父母揃っての喫煙者は2/5であった。SIDSの知識は、9割以上の保護者が認識しており、関心が高いことを示している。また、4/5の保護者がリスク・ファクターについて知識を得たことがあると回答しており、厚生省キャンペーンを展開し始めた時期に、およそ半数の保護者が何らかの形で情報を得ていることから、厚生省キャンペーンは、一応の効果があったと言えよう。しかし情報入手方法として、マス・メディア関連が多く、特にテレビでの情報入手が多かった。その一方で、市町村や保健所からの情報入手が著しく低かったことは、その機関の母子保健サービス提供上の役割について、今後十分に検討する必要があろう。また、保護者がSIDSのリスク・ファクターを知った後に育児方法を変えた事項で最も高かったものは喫煙環境であった。
結論

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