生涯を通じた女性の健康づくりに関する研究

文献情報

文献番号
199900297A
報告書区分
総括
研究課題名
生涯を通じた女性の健康づくりに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
樋口 恵子(東京家政大学教授)
研究分担者(所属機関)
  • 北村邦夫(社団法人日本家族計画協会クリニック)
  • 樋口恵子(東京家政大学教授)
  • 戒能民江(お茶の水大学教授)
  • 村松泰子(東京学芸大学教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「生涯を通じた女性の健康づくり」をテーマとしてNGOの役割と行政施策への期待を探るものである。3年計画の2年次の各研究班の目的を以下に列挙した。
(1) 思春期総合保健対策に関する研究(北村班):リプロダクティブ・ヘルスに係る問題の多くは思春期に起こると言われている。これは、思春期が知りたいと願う情報を入手し、リプロダクティブ・ヘルス・サービスを享受する手段を持ち合わせていない結果である。このような反省の上に、思春期への支援のための具体的なシステムを構築することが本研究の主目的である。
(2) 中高年女性の総合的健康対策に関する研究(樋口班):加速化するわが国の高齢化に対して、個として、社会として、国家としてどう対処していくべきかは、今日的重要課題の一つである。本研究班では、生涯における主として女性のQOLを高めるために、自助努力すべき個の課題と社会や国家としての支援策を明らかにすることを目的とする。
(3) 女性に対する暴力と健康に関する研究(戒能班):従来ほとんど解明されてこなかった、DVの女性や子供の生涯にわたる健康への影響と医療機関をはじめとする社会的対応の現状を明らかにして、医療機関を中心としたDV被害者の健康を守るための対応のための基礎的な材料を用意することが本研究班の目的である。さらに、WHO企画の調査として実施することで、国際社会における日本研究の成果を反映させることができる。
(4) メディア情報が女性の健康に及ぼす影響に関する研究(村松班):メディア情報が女性のリプロダクティブへルスに影響を及ぼしていることは周知のことであるが、今回は、「思春期女子に対する成人男性の視線と行動に関する研究」と「中高年女性のメディアからの健康情報取り込み行動に関する研究」を実施し、人々がそれらをどのように意味づけし受け止めているかを明らかにした。
研究方法
(1) 北村班:本研究班では、産婦人科、泌尿器科、精神科において、思春期の子どもたちと関わっている専門家集団に協力を依頼し「思春期相談マニュアル」の作成を完成させた。今日EBM(Evidence Based Medicine)が強調されているが、従来とかくありがちであった相談員の経験や感性に依存する相談活動から、証拠に基づく相談対応ができるようなマニュアルができたことには大きな意味がある。さらに日本家族計画協会主催の思春期保健セミナーを修了し思春期保健相談員として認定された者のうち、現在の勤務先が判明している2,648名に調査票を送付し、思春期を対象とした相談活動を実施している、あるいは実施予定の有無について調査した。805名より回答を得た(回収率30.4%)がこのうち231名が相談活動を実施している、あるいは実施予定としているが、公表を可としたものに加え、研究者の判断で76施設を選定し、『思春期のための施設ガイドブックー思春期相談施設編』をまとめた。
(2) 樋口班:以下の4点の研究を進めた。①平成9年度研究報告書に記載されたのと同じ調査票を韓国語に翻訳し、韓国女性開発院に依頼して面接調査を実施、1999年10~11月522名から回答を得た。調査対象者の抽出方法は、日本において実施されたのとほぼ同様の手法で行った。②高年期の国際比較に関してインドのウベロイ博士(デリー大学教授)からヒヤリングした。国により文化により、同じアジアにおいても更年期に関する認識の格差を知ることができた。③80歳代女性の有識者・吉沢久子氏からの健康歴ヒヤリングと助言を受け、その結果にもとづいて調査票を作成し、80歳代元気高齢女性調査を郵送、面接調査によって実施した。
(3) 戒能班:①1999年に実施された総理府初の「男女間における暴力」全国実態調査をレビューし、調査結果の分析と調査設計と方法の問題点について検討した。②WHO企画の多国間研究の一環である、WHOの開発したコア調査票によるプリテストを実施し、次年度に予定されている本調査に備えた。③医療機関へのインタビューを行い、医療機関のDV対応の現状と課題を明らかにした。
(4) 村松班:①思春期女子に対する研究は、杉並区・浜松市の両地区で無作為抽出した高校就学年齢の女子各1000名を対象とした質問紙調査を郵送法で実施(99年11~12月)、計1101名の有効回答を得た。②中高年女性に対する研究では、中高年女性が不特定多数向けのメディア情報をどのように取り込んでいるかを探るため、浜松市の40~69歳の女性20人を無作為に抽出し、モニター法により2週間分のテレビ視聴番組・食品購買行動・健康のための行動について詳細な記録をとり、この方法の有効性を検証した。
結果と考察
(1) 北村班:思春期から寄せられる様々な質問に科学的に応えるべくまとめられた質疑応答例は合計174項目。そのうち「女の子の性の悩み」編は87項目、「男の子の性の悩み」編は35項目、「思春期の心の悩み」編は52項目にも及んでいる。また、学校などを除く公的な施設で、思春期保健相談員を置きながら相談活動を実施し、公表を可とする施設は76施設に過ぎず、相談員の資格が有効に活用されていない現状が明らかとなった。
(2) 樋口班:①韓国における「更年期調査」は、翻訳の困難、社会的文化的背景の違い、教育程度の格差など種々の問題点に直面したが、日韓の比較について将来の研究の基礎となる一定の成果を得た。「自分には更年期はない」がどの年代にも3割を占めること、身体症状・精神症状とも韓国女性の訴えが多くとくに有職者に顕著であること、ホルモン療法利用者が日本より高く無職者に多いこと、など日本との共通点・相違点が浮かび上がっている。②80代健康高齢女性の調査は本年度初めて立ち上げた研究テーマであるが、生活習慣としてはバランスのよい食生活、精神的要因としてはくよくよしない、などの共通したキーワードが浮かび上がっている。
(3) 戒能班:①総理府が実施したDV調査については、DVの深刻な実態が全国レベルで明らかになったという積極面はあるものの、暴力の発生率の推定が困難であること、DVの特質を考慮した調査設計になっていないことなどの問題点が指摘された。②医療従事者に対する面接調査の結果、いずれの医療機関でも深刻なDV事例が見られるにもかかわらず、DV認識の不足から発見と適切な介入の機会を失している現状は基本的には変わらないこと、しかし、警察の司法解剖にあたる法医学教室や患者の生活全般を視野にいれた業務を展開する医療ソーシャルワーカーでは、DVへの積極的な取り組みが試みられていることがわかった。同時に、医療機関の教育・訓練についての取組先進国であるアメリカのリソースマニュアルを翻訳した。
(4) 村松班:①思春期女子に向けられる男性からの視線調査の結果、両地域ともおよそ5人に1人が街中で年長男性から金銭の提供を前提とした誘いを受けたことがあるなど、「性的商品」として扱われる経験は首都圏の少女に限られないこと、いわゆる「援助交際」は99年に入っても下火になった気配がないことなどが明らかになった。こうした成人男性の視線と行動の背景にあると思われる、90年代のマスメディアによる<女子高生>の性的な記号化現象を探るため、90~98年の大人向け雑誌の関連記事(大宅壮一文庫の雑誌記事検索で「女子高生」「少女売春」「十代の性」と分類される記事)計1089件を分析すると、件数は93-94年と96-98年にきわだって多いこと、少女たち自身の語りという形の<告白・座談会型記事>が93年以降増えていることなどが分かった。②研究期間中のテレビ視聴と食料品の購入との間には直接的な関係はなかったが、特定の食品購買や行動にメディア情報の影響の可能性がうかがわれる結果も得られ、今後方法を改善することにより影響を探る上で有効であると考えられた。
結論
(1) 北村班:既に4000人を超える思春期保健相談員がわが国に存在することは、思春期保健対策の充実と推進に大きく貢献し得るマンパワーが既に備わっているといっても過言ではない。21世紀に向けて、少子高齢化社会を支えるのは、今悩みながら生きている思春期であることを考えると、社会的な取り組みの対象が、もっと思春期に向けられるべきではないだろうか。本研究でまとめたEBMを重視した思春期相談マニュアルは、従来にない画期的な作業を経て作成されたものであり今後の相談事業に大いに役立つものと確信している。
(2) 樋口班:高齢女性の健康は、増大する高齢女性人口、とりわけ21世紀のアジアにとっては重大な意味を持っている。しかも、高齢女性の健康はその入り口である更年期の健康管理が適正に行われたか否かによって大きく影響されることは言うまでもない。そのような意味からは、韓国人女性に対する調査、あるいは更年期を経た高齢女性の健康歴、生活歴を探った今回の研究成果は、わが国の高齢女性の健康づくりを推進していく上で大きな示唆を与えることとなった。
(3) 戒能班:DVについての社会的関心が日本でもようやく高まり、政府を始めとする行政の取り組みにも進展が見られる。社会問題化するにつれて、沈黙を破り婦人相談所や民間のシェルターに援助を求める女性が増えてきた。だが、ニーズに見合う社会的対応が極めて不十分なことが問題であり、早急な対応が必要とされている。具体的な施策の展開が遅れている最大の理由は、DV被害の実態やDV被害が女性や子どもの生活に与える影響の深刻さが認識されていないことにある。今年度の研究を通して、このような現実を明らかにするとともに、DV対策の在り方を探ることができた。
(4) 村松班:マスメディアが女性の性と健康に関する情報をどのように発信しているか、また女性にとってどのような意味を持つかについて研究を進めてきたが、今回明らかにしたように、ほぼ全国一律に提供されるこの種の情報が、成人男性の行動の地域差をなくす一方、それらの情報に間接的に接する少女の状況には調査結果として地域差が見られ、成人男性と思春期女子の認識ギャップに地域差があることも考えられた。また中高年女性がテレビの健康関連番組から影響を浮け易いという現実と合わせて、メディア情報の在り方とその受け止め方について種々提言した。

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