知的障害者における入所施設から地域への移行に関する研究

文献情報

文献番号
199900274A
報告書区分
総括
研究課題名
知的障害者における入所施設から地域への移行に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 勧持(愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 手塚直樹(静岡県立大学短期学部)
  • 小林繁市(伊達市地域生活支援センター)
  • 河野和代(若竹通勤寮)
  • 山田 優(知多地域障害者支援センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
知的障害者が入所施設からグループホーム等の地域の住まいへ移行するための援助状況についての現状を明らかにする。具体的には以下の3点(A.,B.,C.)を明らかにする。A. 入所施設運営団体(法人・事業団等)が入所者を積極的に地域へ移行しグループホーム等の設置、運営に意欲をもてる施設運営および制度のあり方を検討するために入所施設への調査を実施する。B. 知的障害者の本人の視点から地域生活援助の問題を明らかにするために、通勤寮の援助によって地域で生活している人への調査を実施する。C. 入所施設から地域移行への状況を日本とアメリカ合衆国で比較し、国際的な視野から日本の入所施設から地域移行への問題点を明らかにする。
研究方法
研究A:「入所更生施設・入所授産施設 地域生活移行実態調査」全国の入所更生・授産施設を対象とし、入所者の在所年数、移行者数、移行先、グループホーム設置状況、長期入所理由、個別援助計画策定、職場実習、自活訓練、地域支援艦レンジ業の実施等に関する質問紙の郵送調査法で行う。研究B:「通勤寮からの地域移行者に対しての本人調査」。全国の通勤寮利用者、グループホーム利用者、その他の地域在住者に対して、1.生活状況(昼間の活動先、金銭管理、居室、プライヴァシーの確保)2.生活場面での自己決定(生活の場、入居の準備、きまりと決定への参加、暮らしにくい生活状況)3.本人が望む援助(仕事、休日、援助者との関係・希望)4.地域生活の満足度と将来の希望についての質問紙を全国の通勤寮を通じて配布し、回収する。研究C:外国人招へい事業により来日したミネソタ大学地域統合研究所の研究ディレクターであるチャーリー・レーキン氏との共同研究として、文献、資料から入所施設から地域移行への現状と経過について日本とアメリカ合衆国での比較研究を実施する。
結果と考察
研究A:平成11年12月に全国の入所更生・授産施設に調査票を配布し、1475カ所(更生1254、授産221)からの回答を得た(回収率68.1%)。回答を得た全施設の入所者数は、62,855人である。入所者のうち在所年数5年以上の入所者は72%であった。過去1年間の退所者総数は、2017人(1004施設)であり、そのうちの745人(37%)は他の入所施設への施設間移行で、家庭を含めた地域生活への移行者はほぼ半数の978人であった。退所者がいた1004施設のうち、ほぼ半数の472施設は家庭を含めた地域生活への移行者はなく、1人以上の地域生活移行者があった施設は371施設(37%)であった。地域生活に移行した978人の知的障害程度は中軽度者のものが261人(70%)重度89人(24%)であった。退所先が家庭の420人のうち、重度者は138人、入所年数が10年以上30年未満が73人、40歳以上が78人、日中の活動の場がないままに移行した人が144人いた。過去1年間に退所者が1人以上いた1004入所施設のうち、グループホームを運営していた施設は351施設(35%)であった。また、1004カ所のうち、3年以内にはグループホーム設置計画はないと回答した施設が540施設(54%)であった。個別援助計画の内容に関しては、「施設内の処遇目標・計画」の項目を選択した施設が633施設であるのに比較し、「入所者全員の地域生活移行へ向けての計画を作成している」との項目を選択した施設は39施設であった。自活訓練事業の実施状況は、「実施している」と回答した施設が349施設(34.8%)、「行う予定はない」が175施設(17.4%)、「検討中」が438施設(44%)であった。自活訓練を経て移行した入所者は、1人が47施設、2人が31施設、3人以上は142人である。職場実
習は492施設が実施、495施設が実施していないと回答した。これらの結果は現在分析を終了した段階にあり、平成12年度に質問項目のクロス集計等による分析をすすめ、問題点を明らかにし、今後の施策への提言につなげる方向で進められている。研究B:平成11年12月に全国121カ所の通勤寮に、本人記入用の質問紙が送付され、通勤寮職員から通勤寮利用者、グループホーム利用者、その他の地域の住居利用者に質問紙が手渡され、回答後、回収用封筒に入れた状態で通勤寮職員に渡された。98カ所の通勤寮から回答を得た(回収率81%)。回答者は通勤寮利用者1,730人、グループホーム入居者1,562人、その他の地域在住者500人の3群に分けて分析した。1.昼間活動については、7割以上が企業就労である。金銭管理では、給料額を知っていると回答した人が6割を越えているが、貯金額については知らない、と回答した人が3群とも約6割近くを占めた。2.生活場面での自己決定では、決まりと決定への参加について自分たちで決めるが38%から40%であった。遠慮しないで電話で話せる、食事で食べたいものをいえる、おかわりを気兼ねなくできる、と回答した人はそれぞれが57%、63%、76%であった。3.本人が望む援助では、仕事がたのしい、と回答した人はグループホーム利用者62%、その他の地域住居利用者47%であった。仕事のことで困ったとき、あるいは仕事を変わろうと思うときに相談にのってくれる人がいるか、の設問では、61%~64%がいると回答しているが、10%~16%がいないと回答している。援助者との関係では、職員はよく話を聞いてくれるか、の設問で聞いてくれると回答した人が、グループホーム69%、通勤寮54%であった。援助者への希望では、もっとわかりやすく話してほしいが3群とももっとも高く、ついで大人としてみてほしい、もっとたすけてほしいが高かった。4.地域生活の満足度と将来の希望では、今のところで暮らして良かったと思うことの項目では、通勤寮利用者では、みんなで一緒に暮らせること、家族と離れたこと、仕事が見つかったことが高く、グループホーム利用者では自分の部屋ができたこと、みんなで一緒に暮らせることが高く見られた。これらの結果は、本人の視点から見た現在の地域生活援助在り方に今後解決すべき多くの問題があり、来年度入所施設の調査と併せて地域生活援助への施策提言が行われる。研究C:アメリカ合衆国ではすでに施設入所者の地域移行は3,40年前から行われており、それらの先行経験とその研究から学ぶべき点を得るために、第一部では入所施設から地域移行に関しての統計を中心に、第二部では日本が今後入所施設からの地域移行を進める上で問題となる点についてまとめた。第一部の統計に用いた資料は、施設入所者数と地域の小規模住居利用者数の推移、州立施設とグループホームの規模、施設入所者の入退所率・再入所率・退所先、施設入所者の障害程度および年齢であり、第二部でのテーマは、児童の施設退所、入所施設の生活と地域移行後の生活の比較、高齢者の住居と地域参加、問題行動、コストおよび今後の方向である。
結論
施設入所者の地域移行は、欧米先進国では1960年代にノーマライゼーション等の理念によって推進された。我が国では、地域生活援助を重視する理念を掲げているが、実際には入所施設から地域のグループホームやアパートに移行して生活している人の人数は少ない。本研究における「入所更生施設・入所授産施設 地域生活移行実態調査」および「通勤寮からの地域移行者に対しての本人調査」のいずれもが、現在の多くの問題を明らかにしており、今後、入所施設の運営団体が入所者を地域生活に移行することに意欲のもて、かつ地域で生活する本人が安心して生活できる支援体制を構築することが必要である。

公開日・更新日

公開日
2023-08-22
更新日
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