障害児等に対する水中運動を活用したリハビリテーション・プログラムの開発及び評価に関する実践的研究

文献情報

文献番号
199900270A
報告書区分
総括
研究課題名
障害児等に対する水中運動を活用したリハビリテーション・プログラムの開発及び評価に関する実践的研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小野寺 昇(川崎医療福祉大学 健康体育学科長)
研究分担者(所属機関)
  • 末光 茂(社会福祉法人旭川荘医療福祉センター所長)
  • 中島 洋子(社会福祉法人旭川荘自閉症幼児通所訓練部バンビの家所長)
  • 宮地 元彦(川崎医療福祉大学 健康体育学科講師)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
障害の改善によって日常生活のQOLは、まさに向上する。その手段として水は、古くから活用されてきた。水の物理的特性である浮力は、とりわけ有効であり身体機能の改善だけでなく自閉症児の療育手段のひとつとされてきた。今回、運動分野の中でも特に水中運動に的を絞った背景には自閉症児が姿勢保持やバランスの確保に不得意であることがあげられる。水中は、浮力と水圧の助けを得ることができるので姿勢やバランスを確保しやすく、有効な運動療育の手段と考えられたからである。そこで過去の研究における障害児・者を対象とした水泳指導(訓練)および水を使った指導等に関する文献の収集及び重症児施設での水泳指導に関する実態調査を行い、その知見を障害児等のリハビリテーション・プログラムとして提供し、提供したプログラムに対していかなる適応変化を示したのかを日常生活も含めて評価することによってより効果的なプログラムへと改良を重ね、さらにプログラムを定期的にしかも継続して実践展開し、障害の改善に寄与することを本研究の目的とした。研究目的を達成するために4つの課題を設定した。
1、重症心身障害者等障害改善における水中運動の効果に関する文献的研究と実態調査
2、自閉症幼児の運動発達と水泳療育 
3、障害者のリハビリテーションとしての水中運動プログラムの開発と実践
4、障害者の呼吸循環機能に及ぼす水中運動の効果の評価方法
これらの成果に基づき水を活用したリハビリテーション・プログラムの実践による障害の改善及び効果を明らかにした。
研究方法
【1、重症心身障害者等障害改善における水中運動の効果に関するの文献研究と実態調査】
医学中央雑誌やMedlineによる文献検索および先行研究者への直接アプローチによってこの領域の文献を収集、整理した。合わせて水中運動を実施している重症心身障害児施設でのプール開放事業の実態と効果を調査した。
【2、自閉症幼児の運動発達と水泳療育】ムーブメント教育プログラムアセスメント (MEPA)を水泳療育の対象者の特性を把握するために自閉症圏の障害を持つ幼児13人を対象にMEPAと自由場面での観察および聞き取り調査を行い、運動発達に関する実態の評価とその特徴について検討した。対象は、自閉症幼児13人(男児9人・女児4人)であった。生活年齢は、4.3~6.6歳であり、IQは34~83であった。
【3、障害者のリハビリテーションとしての水中運動プログラムの開発】
2つの範疇のリハビリテーション・プログラムを開発した。1つめは、自閉症児の発育段階に適応した運動課題を達成できるような項目を多く含み、特に姿勢バランスの改善に重点を置いたリハビリテーション・プログラムとした。プログラムの効果を評価するために実践教室を川崎医療福祉大学の温水プールにて月2回(第2、4土曜日)のペースで開催した。実践教室における自閉症児の行動記録観察及び保護者のアンケート調査をおこなった。2つめは、身体障害者に対するリハビリテーション・プログラムであり、身体機能の改善、特に関節可動域と筋力の改善に重点を置いたプログラムとした。鷲羽スイミングクラブ温水プールおよび武蔵野エイトスイミングクラブ温水プールにて実施した。
【4、障害者の呼吸循環機能に及ぼす水中運動の効果】
(中枢循環機能の評価法〉呼吸循環機能に及ぼす運動プログラムの効果を評価するために最もよく用いられる指標は最大あるいは最高酸素摂取量で、それらは、心臓の機能に規定されるといわれている。心臓や大血管の形態を超音波診断装置を用いて無侵襲に測定することで、最高酸素摂取量を推定した。〈末梢循環機能の評価法〉脈波を一次微分した波形は血流の速度を反映していると考えられるので一次微分脈波と超音波ドップラー血流計で測定したとう骨動脈血流速波形との関係を定量した。同時に血管系を電気回路を用いてシュミレーションし、動脈の弾性の変化が脈波と末梢血管動態に与える影響を把握した。
結果と考察
【1、重症心身障害者等障害改善における水中運動の効果に関するの文献研究と実態調査】
障害児・者を対象とした水中運動に関する実践研究に関する多専門領域からの著書・文献を障害領域別に整理し、効果判定の関する体系化にまとめ、今後の研究の一助に資することにした。「プール開放事業」の実績とその効果の一部に関する報告は、今後の効果判定項目に生かしうるものと考える。
【2自閉症幼児における水中運動の効果】
MEPAの分析から、姿勢のバランス課題、移動に関する方向転換等の不通過項目が顕著であった。これらの課題解決に水の特性である浮力を活用することで陸上では意識的に取り組みにくいバランスや姿勢に関する運動経験が可能であり、自己の身体を意志どおりに動かすことのできる能力などの運動発達を補う方法として大きな効果をもたらすと考えられた。
【3、障害者のリハビリテーションとしての水中運動プログラムの開発】
自閉症児の実践教室は、小学校が休日となる第2・4土曜日とした。現在も継続して実践中である。保護者と自閉症児がいっしょになってプログラムに参加した。ほとんどの保護者は、土曜日なので父親が参加した。ビデオにおける行動記録観察から対象者が温水プールでのプログラムに慣れるに従って行動に破綻が少なくなり、同時にプログラムの流れを理解するに従ってバランス保持能力の向上が明らかになった。さらに、保護者へのアンケート調査結果から実践教室後の日常生活に安定感が感じるれることも明らかになった。子供たちは、実践教室をとても楽しみにしていることも明らかになり、プログラムの提供と実践の継続が大きな成果を生むことを示唆するものと考えられた。身体障害者に対するプログラム(鷲羽シミングクラブで実施)では、自立歩行できなかった対象者が、週2ー3回の実施によって開始2ヶ月後には、介助水中歩行が可能となった。12ヶ月後には、介助なしで約1000mの水中歩行が可能となり、同時に下肢、上肢筋力の改善と歩行時の関節可動域の改善がみられた。現在5名のプログラムが進行中である。武蔵野エイトスミングククラブにおけるプログラムでは、機能的な改善に先立ち、実践によって社会的な要因が充実し、このことが機能回復に大きく影響を及ぼした。身体障害者における水中運動プログラムの実践が大きな成果をあげることを示すものと考えられた。
【4、障害者の呼吸循環機能に及ぼす水中運動の効果】
最高酸素摂取量と左心室拡張末期容積との間に有意な正の相関を観察した。また、指尖速度脈波派形と上腕動脈血流速度派形の波高比との間に有意な相関を観察した。これらの事実は、運動負荷を要しない無侵襲な方法で中枢循環機能と末梢循環機能を評価できることを示唆するものであり、障害児・者の簡便な呼吸循環機能の評価に資っするものと考えられた。
結論
障害児・者に対する水中運動のリハビリテーション・プログラムに関わる文献調査、実態調査、運動課題の整理、陸上運動との比較、プログラムの開発と実践等の一連の研究によって、水の物理的特性の活用が障害者児・者の障害を改善し、日常生活におけるQOLの向上に貢献することが示唆された。障害児.者に対する水中運動はその成果が著明になるまでには長い時間を有するが、プログラムの実践を継続することによって具体的な事例の成果に結び付けたい。特に自閉症児の水中運動プログラムでは、臨床的な評価に資っする実践を重ね、障害児者が安全に水中運動を実践できる施設や補助用具、指導体制等の整備に寄与できるよう取り組むものとする。

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