健康づくりの長寿に及ぼす影響に関する研究(コホート研究)(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900240A
報告書区分
総括
研究課題名
健康づくりの長寿に及ぼす影響に関する研究(コホート研究)(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
丹羽 滋郎(あいち健康の森健康科学総合センター)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤昌弘(愛知県衛生部保健予防課)
  • 久繁哲徳(徳島大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
4,050,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、生活習慣に着目し、行政施策の1つである保健サービスの提供が、住民の保健行動や生活習慣の改善にどのように影響を及ぼし、健康寿命の延長にどのくらい寄与できるのかについて、追跡調査により分析することを目的とする。併せて、調査対象者の医療費ならびに調査対象者の居住する市町の行政施策にかかる事業費から費用対効果分析を行い、市町における行政施策としての保健サービスの優先順位を検討する上での一助とする。
研究方法
本研究は、愛知県の健康づくり施策の拠点として整備された「あいち健康プラザ」の所在地である大府市と東浦町(以下、モデル地域と略す)とこの2市町と類似した人口構成である豊明市と幸田町(以下、対照地域と略す)を対象地区としている。ここに平成4年に居住し、国民健康保険に加入する40歳以上の者を対象に平成5年度に第1回目のアンケート調査を実施した。このアンケート調査に同意の得られた14,919名を本研究の対象者として追跡調査を行っている。本調査は、生活の質を含めた健康状態、生活習慣、運動習慣、行政が提供する保健サービスの利用状況についてアンケート調査を平成7年度、平成10年度の計3回実施しているため、この3回のアンケート結果について経年変化を比較検討した。また、対象者のうち、死亡者については、死亡小票から死因調査を行うとともに、生前のアンケート結果について現存者との比較検討を行った。さらに、対象者が居住する4市町の健康づくり事業費および老人保健事業費、事業内容について把握をし、アンケート結果から得られた経年変化との比較検討を行った。加えて、対象者の年間医療費についても把握をし、健康寿命の延長(生命の質、量)に関連する要因分析を行った。
結果と考察
生活習慣の経年変化を把握するため、過去3回実施したアンケート調査結果について、すべてのアンケートに回答している6,608名(モデル地域4,154名、対照地域2,454名)の経年変化を男女別年代別にコホート分析したところ、どの年代においてもモデル地域では「健康教育・健康相談を利用している」者が有意に多く、3回目のアンケート時点ではモデル地域の保健行動が対照地域に比較し有意によい結果が得られた。一方、69歳以下の年代では、モデル地域、対照地域の両地域とも「人間ドックを受診する」「各種健康教室を利用している」者が第1回目アンケート時よりも第3回目アンケート時で有意に多く、男女とも同様の結果を得ている。このことは、各市町の行政施策として実施される健康教育や健康相談への参加者数が4市町ともここ数年大きな伸びを示していること、基本健康診査や各種がん検診への受診者数は4市町間に大きな差異が認められなかったことによる影響と考えられる。しかし、モデル地域において、わずかではあるが、保健行動や生活習慣に経年変化がみられてきていることから、長期にわたる継続した行政施策によるサービス提供の効果と考えられる。また、モデル地域においては、愛知県の健康づくりの拠点である「あいち健康プラザ」が稼働し始めたことによる波及効果で、健康づくり関係のイベントに参画する住民が増加していることが推定される。さらに、市町村が企画する各種運動教室への参加者数は、モデル地域、対照地域ともにここ数年大きな伸びを示している。また、アンケート調査の結果からも「定期的にスポーツをする」者が増加していることが確認されている。実際に、このような教室は、平日の夜間や土曜日、日曜日の開催設定が多いため、住民が利用しやすい状況にあるものと推測される。
さらに、今回、医療費の増減と既往歴、生活習慣、保健行動などとの関連も検討したが、その結果は追跡期間が短期間であるため、さらに、長期間にわたって追跡を行うことが必要であると考える。しかしながら、その短期間で得られた結果としては、医療費の増加要因としては、既往歴、問題解決能力の有無など、減少要因としては健康診査を受診する、喫煙、飲酒の習慣があるなどが推定された。減少要因として推定された喫煙、飲酒については、健康状態が良好であるために可能となる習慣であるため、一般にいわれる健康習慣とは異なった結果が得られたと推測される。
生活習慣の改善は、個人の意志に任された部分であるため、一般には、行政施策が個人の考え方の変容に寄与することはたいへん難しいと考えられている。昨今のようにマスメディアが発達し、そのマスメディアを通じて提供される情報は、行政施策として提供される情報量の比ではないことも事実である。しかし、正確な情報を個人の健康状態にあった形で提供されることが可能となれば、市町の保健事業・健康づくり事業への投資効果が、地域全体の健康状態を良い方向に向かわせていることが推測された。
結論
生活習慣を改善することは難しいといわれている中で健康寿命の延長を目指してさまざまな行政施策がそれぞれの地域で構築されているが、限られた予算の中で保健医療サービスを効果的・効率的に提供することはたいへん難しい。しかし、今回の研究では、地域ぐるみで生活習慣の改善に積極的に取り組める環境を整備し、保健行動を促すような行政施策を構築することにより、個々人の行動変容が期待できることが示唆された。また、継続した健康づくりへの事業展開は、ゆるやかな影響ではあるが、生活の質を良い方向へ向かわせることが確認できた。今後も追跡を継続することにより、今回得られたことがらを検証できるものと考える。

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