後期高齢期における家族・経済・保健行動のダイナミックス(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900232A
報告書区分
総括
研究課題名
後期高齢期における家族・経済・保健行動のダイナミックス(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 弘子(東京大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
後期高齢者はその絶対数とともに高齢者に占める割合の面でも増加することが予想されている。後期高齢者の中には、身体的自立度が低く、経済的にも家族からの援助が必要な人がいる一方で、身体的・経済的に自立し、社会貢献を積極的に行っている人も少なくないなど、後期高齢者層の内部では身体面、経済面、生活行動面において多様性や格差が存在している。さらに、それぞれの側面における多様性や格差は相互に関連しあっており、一つの側面における格差が他の側面における格差を生み出すなど、循環的な構造になっている可能性がある。本研究では、後期高齢者層における格差や多様性の実態と、それが引き起こされた要因を、経済的基盤、私的・公的な支援、健康・保健行動、社会貢献活動(プロダクティヴな活動)のダイナミックな関係を視野に納めて解明する。また、個人的要因に加え、地域の環境的要因にも着目することによって、地域のどのような特性が、後期高齢者の健康や活動に影響を与えるのかを解明する。これらの取り組みにより、後期高齢者のもつ多様な能力や資源を生かした施策への手がかりを提供することが可能になる。
研究方法
上記の課題を検討するため、本研究は、1987年より継承してきた長期縦断研究のパネルを基盤とした全国調査と、東京都内の特定の地域に限定した地域調査の2つを実施する。プロジェクト2年目の1999年度は、既存の縦断調査データの解析を進める一方で、追跡対象者と新規対象者2000人に対する5回目の全国調査を実施した。全国調査は、1999年10月に、専門の調査員が対象者の自宅を訪問して面接調査を行った。対象者本人が重い病気などの理由で回答不能であり、今後も回答できる見込みのない場合は、その人をよく知る家族等が代行調査票に回答した。この調査で一時的な病気や不在などの理由で回答できなかった人について、同年12月に再度訪問し、面接調査を実施した。二次調査を加えた場合の回収率は、70歳以上の追跡対象者では、本人完了で73%、代行完了を加えると87%、新規対象者ではそれぞれ71%、82%であった。
結果と考察
1)既存の縦断調査データを分析し、後期高齢者の特徴を、身体的資源(疾患の有無、日常生活動作で測定)、心理的資源(自尊感情、コントロール感)、社会的資源(情緒的・手段的支援の受領可能性)の保有状況と、それらが精神健康に与える効果の点から前期高齢者との比較によって検討した。その結果、後期高齢者は前期高齢者と比べて身体的資源が乏しく、このことが後期高齢者の精神健康度の低さと関連していた。しかし、身体的、心理的、社会的資源が精神健康に与える影響は、後期と前期高齢者の間で大きな違いはなかった。2)1999年度に実施した全国調査データを横断的に分析し、高齢者の経済状態が健康やプロダクティヴな活動(家事、家庭外の奉仕活動、友人・近隣への支援など無償労働を含む)と関連があることが明らかになった。つまり、収入が低い高齢者ほど、有病率や障害保有率が高く、また、プロダクティヴな活動の頻度も少なかった。経済、健康、そしてプロダクティヴな活動の因果関係や、それらの変数を媒介する要因については、次年度さらに全国調査データの分析を進める中で明らかにしていく。3)全国調査データを用いて遺産相続と介護期待の関係について分析した結果、遺産を相続させる相手としては長男が最も多いが、長男に遺産を相続させる人は、それ以外を選択した人に比べ、長男に介護を期待する割合が高かった。この結果は、経済的に苦しい子に与えるというような利他的な動機よりも、自分の面倒をみてくれる子供に与えるという利己的動機が優勢であることを示唆している。
結論
本研究が基盤とする既存の縦断
調査データを分析した結果、前期高齢者と比較した場合の後期高齢者の特徴が明らかになった。また、新たに実施した全国調査の横断的分析の結果、高齢者の経済状態が健康やプロダクティヴな活動の頻度に有意な効果を持っていること、長男に遺産を相続させる人が多いが、これらの人は長男に介護を期待する割合も高く、面倒をみてくれる子供に与えるという利己的動機が存在することが示唆された。次年度は、初回調査(1987)からの追跡対象者についての縦断的な分析も行うことにより、家族、経済そして健康・保健行動の相互の因果関係について明らかにしていく。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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