百寿者の多面的検討とその国際比較(総括研究報告)

文献情報

文献番号
199900186A
報告書区分
総括
研究課題名
百寿者の多面的検討とその国際比較(総括研究報告)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
広瀬 信義(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木信(沖縄長寿科学研究センター)
  • 脇田康志(愛知医科大学)
  • 金森雅夫(浜松医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急速な高齢化が進行することにより85歳以上の超高齢者も急増することが予測されている。健康で自立した超高齢期を達成する条件を明らかにする目的でsuccessful agingを達成した百寿者を対象に多面的に調査を行う。これらの調査により様様なパラメーターの関連、特に階層性を明らかにすることが第一の目的である。ついで共通のprotocolを用いてアメリカ、ヨーロッパの百寿者との比較を行い、文化社会的環境の長寿に対する影響を検討する。最後に超高齢者の多面的評価のためのprotocolを簡略化し使い勝手のよい調査表を確立することも本研究の目的のひとつである。
研究方法
国際比較を行い、日本の百寿者調査を行う目的で国際調査グループとに本調査グループを組織した。また共通のprotocolを作成した。調査内容について各施設の倫理委員会に申請した。超高齢者間での差異を検討する目的で掛川地区において90歳の健康調査を行った。沖縄地区での百寿者の余命を調べる目的で各年度での百寿者名簿を検討した。愛知地区における超高齢者の心電図所見を検討する目的で百寿者と超高齢者において、QT時間を測定した。時間とばらつきについて加齢による影響を調べた。東京地区の百寿者栄養状態を調べる目的で、各種栄養指標を測定した。栄養状態の影響を調べる目的でADL、認知機能、血液生化学データを測定した。炎症の評価のために血清CRPを測定した。
結果と考察
国際調査グループとしてジョージア大学Poon教授、ハイデルベルグ大学Martin教授、ルント大学Hagberg教授、ラフボロー大学Morgan教授、IPSEN財団Allard所長が参加して国際百寿者研究会(ICS)が組織された。1999年7月ハイデルベルグにて研究会が開催されprotocolが検討された。これを元に百寿者調査票が確定された。今後の調査を行いながら調査票の改訂を行う予定である。掛川地区では90歳の人30名を対象に健康調査を行った。循環器疾患の危険因子である血圧、コレステロールは男女ともに基準値内であった。糖尿病の指標であるHbA1Cの平均値は男女ともに5.6%以下であった。骨密度については全国平均値とほぼ同等の値を示した。今後同地区の百寿者との対比を行うことにより超高齢者間での差異が明らかになると予想される。また他の地区でも90才調査を行う準備をする。沖縄地区での百寿者の余命を検討した。109才までは年間死亡率は約35%であった。しかし沖縄地区での110才以上は1999年には観察されなかった。このことより110才は人の寿命の限界である可能性が示唆された。全国、全世界では110歳以上もわずかながら観察されており、このsupercentenarianを対象に調査を行うことは今後の検討事項としたい。愛知地区の百寿者を含む超高齢者を対象に心電図QT時間を測定し補正QT間隔、最長および最短QT間隔を求めた。さらにばらつきの指標として最長と最短QT間隔の差をQT dispersionとした。最長および補正QT間隔は年齢と有意の正相関を示した。しかしQT dispersionは年齢と相関を認めなかった。QT dispersionは不整脈、予後との関連が示されている。従来百寿者では心室性期外収縮の頻度が少ないことを報告したが,心筋異常によるQT変異が少ない可能性が示唆された。東京地区の百寿者の栄養状態を調べる目的で栄養指標を検討した。その結果低栄養であることが判明した。栄養状態はADL、認知機能、血液生化学データに影響を与えた。低栄養の原因を調べる目的でまずInsulin-like growth factor-1(IGF-1)を測定した。IGF-1は蛋白同化作用がありさらに加齢に伴い低下することが報告されている。IGF-1は加齢により低下したが、半減期の短い栄養指標(prealbum
in、レチノール結合蛋白)と相関した。このことよりIGF-1は短期の窒素平衡に関与しているが、超高齢期にみられる低栄養の原因か結果かについては今後の検討が必要と考えられた。ついで炎症の影響を調べる目的でCRPを測定した。百寿者ではCRP値は若年群に比較して平均値、中央値ともに有意に高値であった。高CRP群の血清アルブミン値は低CRP群に比較して有意に低値を示した。このことは百寿者の低栄養の原因として炎症反応亢進が関与している可能性が示唆された。また高CRP群では認知機能が低い傾向を認めた。過剰の炎症反応が生体に悪影響を及ぼす可能性があり、炎症反応の抑制が超高齢期のQOL向上に有効である可能性があり今後の検討が必要である。つぎに動脈硬化の危険因子である血清リポ蛋白を検討した。百寿者ではコレステロールが低く、HDL2コレステロールが高い傾向を示した。このprofileは一般に抗動脈硬化的に作用するとされる。コレステロールと関連する因子を調べるとアポ蛋白E2とprealbuminが関連した。HDLコレステロールではアポ蛋白4とアルブミンが関連した。これらのことはリポ蛋白profileに栄養状態が強く影響していることを示唆する。今後リポ蛋白のprofileのみでなく代謝回転の速度の検討も行う必要があると考えられた。
結論
超高齢者の代表である百寿者を対象に、1)百寿者の余命、2)心電図所見、3)栄養状態の影響とそれ影響する因子、4)90才超高齢者の健康調査について報告した。また海外の百寿者との比較検討のための研究組織、protocolについて報告した。今後このprotocolを利用しさらに多面的な検討を行い、長寿、高齢期のQOLなどに関与する因子の解析を試みる。

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