介護保険制度下における介護サービスの質の評価に関する研究

文献情報

文献番号
199900168A
報告書区分
総括
研究課題名
介護保険制度下における介護サービスの質の評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
筒井 孝子(国立公衆衛生院 併任:国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小山秀夫(国立医療・病院管理研究所)
  • 中嶋和夫(岡山県立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、平成11年度から3ヶ年の継続研究を予定しており、研究の最終的な目的としては、介護サービスの質を評価するための機関であるJPRO(Japan Peer Review Organization)の設立の要件としての介護サービスの質に関する評価指標の検討を行なうことである。
このため、平成11年度の中間報告書における第1の目的は、介護サービスの質に関する評価指標を作成する際の資料として、医学や看護などの関連領域における文献データベースを用いての文献の収集を行ない、検討委員会を開催し、評価指標に関するこれまでの先行研究について考察することである。
第2の目的は、施設や在宅で生活する要介護高齢者に対して、介護保険実施前の介護サービスの提供状況についてのデータを収集することである。
第3の目的は、収集された高齢者のデータがどのような地域特性を持っているのかを検討するために、全国の市町村の地域特性を代表する分類である「地域分類」の考え方を新たに開発し、全国の市町村の地域特性を表す指標を作成することである。
第4の目的は、介護サービスの提供による「成果指標」を介護サービスの質の評価とできるように高齢者の要介護度別の典型例を簡易に測定できるモデルを抽出するための方法論に関しての検討することである。
研究方法
平成11年度の研究目的である「介護サービスの質」の評価に関する文献研究を行なうために、Nursing and Allied Health,Health planning and Administration,MEDLINE等のデータベースを利用し、国内外の介護関連業務に関する質について研究した文献を収集した。
次に、要介護度分布からみたわが国の要介護高齢者の地域特性を把握するために、平成7年度の国勢調査から、男女別65歳以上人口及び世帯数の種類別65歳以上親族のいる一般世帯数についての市町村別のデータベースを作成した。このデータベースを利用し、平成10年度に厚生省が全国の市町村で行われた「高齢者介護サービス体制整備支援事業」で、一次判定および学識経験者らによる認定審査会による二次判定を受けた高齢者175,129名の要介護認定で集められた高齢者の身体状況、精神状況などの状態像の情報をマージしたデータファイルを作成した。
また、介護保険制度実施前後の介護サービス提供内容とその量を比較する指標を構築する資料作成のために、地域分類を勘案した施設や在宅で生活する介護を要する高齢者6,595名分の身体状況、精神的状況、使用している福祉用具の種類や数、提供されている具体的な介護内容の情報を収集した。
さらに本年度、収集された6595名の高齢者の中から要介護度別の典型例を抽出するためのモデルを構築するために、現に介護サービスを受けている175,129名をデータとし、高齢者の状態像を「認知障害」「ADL」「問題行動」の側面から把握した。そして認知障害、ADL、問題行動については下記の25項目で評価することと考え、共分散構造方程式を用いたモデル開発のための解析を行った。
<倫理面での配慮>
研究対象者となる高齢者については、本人等の同意を得ると共に人権擁護上の配慮を行い、氏名や個別データ等プライバシーについては厳重に注意する。調査集計について、個人名については一切関係なく行ない、個人名が明らかにならないように調査票の作成は、複数の人間がチェックをすることとする。調査票並びにその結果は、秘密保持のための厳密な管理運営を行なう。調査の実施にあたっては、対象に十分な説明と同意を得る。なお、本研究は、国立医療・病院管理研究所の「人間を対象とする生物医学的研究に関する倫理委員会規定」第1条の「生物医学的研究」に該当しないものである。
結果と考察
本年度は、まず、介護サービスの質を評価するための指標作成のために、医学、看護、社会福祉、医療経済学等の関連領域における文献データベースを用いて文献の収集を行ない、先行研究に関する文献検討を行なった。収集された文献は、多岐にわたったが質の評価に関する論文は、主にアメリカ合衆国の内容が多かった。とりわけアメリカ看護婦協会は、急性期ケア場面における看護の質指標(nursing quality indicators)を明確にすることで看護ケア(nursing care)と患者成果(patient outcome)との関連性について探るプロジェクトの企画立案を、Lewin-VHI社に委嘱しており(American Nurses Association, 19958))、この調査研究では、21の指標がDonabetianの3構成要素に対応して、7つの構造指標、8つの過程指標、6つの成果指標と分類された。構造指標は、全看護職員に占める正看護職の比率、正看護職の質、患者あたりの総看護職数、患者あたりに提供される看護ケア総時間数、看護職員の継続度、正看護職の超過勤務時間数、看護職員の受傷率、の7項目であった。過程指標は、看護職員の仕事への満足度、患者ケアに必要なアセスメントと介入、疼痛管理、皮膚統合性維持、患者教育、退院計画、患者の身体安全保証、予定外の患者ニーズへの対応、の8項目からなっていた。成果指標としては、死亡率、入院日数、事故、合併症、看護ケアに対する患者や家族の満足度、退院計画の適正度、の6項目が抽出されている。
この結果をもとにアメリカ看護婦協会は全国規模の質評価に関する調査研究を展開することとし、そのガイドラインが作成されている。(American Nurses Association, 1996; Kany, 1997; Redmond, Riggleman, Sorrell & Zerull, 1999; Swearengen, 1997)。
わが国でも1995年6月、日本看護協会によって『看護業務基準』が作成され、質の検討が行われているが、残念ながら一般に運用される状況については、至っていないことが明らかとなった。
第2に、介護保険制度実施前後の介護サービスの提供内容やその量の変化に着目し、この差が高齢者にどのような変化をするかを「質の指標」検討するため、要介護度別の高齢者の典型例を抽出するためのモデルについて、約17万人の高齢者の状態像の情報をベースとして、共分散構造解析によって明らかにした。また、このモデルを適用するために全国から介護サービスをすでに受けている高齢者群の身体状況や知的状況、受けている具体的な介護内容、福祉用具の使用状況などを調査した。
第3に、調査対象となる高齢者の地域特性別の介護サービスの充足度を今後の継続研究で勘案するために、国勢調査のデータとのマージを行ない分析を行なった結果、「地域分類」という新たな指標を創った。
以上の結果からは、「介護サービスの質」を評価する方法については、諸外国でもほとんどなされておらず、近接領域の看護学の分野で多くの取り組みがなされ、関心が高い領域であることが明らかになった。この理由は、マネジドケアによって医療サービスが経済的な評価をされることが要請されたことが大きく、このことが、質の研究の推進に大きな役割を果たしたといえることがわかった。
また、介護サービスの質の評価を行なうためには、提供されている高齢者の状態像を評価することが必要であり、とくに要介護度別の高齢者の典型例を抽出することが重要であったが、この状態像を数量化し、高齢者の介護状態に関する因子構造モデルを構築し、その結果、「簡易介護状態測定尺度」を開発できたことは、今後の継続研究にきわめて重要であると考えられる。
結論
本研究は、3ヶ年を予定しており、初年度の研究成果としては、諸外国の介護サービスの質の評価方法に関する体系的な文献研究ができたことがあげられる。また、介護保険制度実施前後の介護サービスの量および質の変化について、サービスを購入する高齢者の側から検討するための方法として、新たな高齢者の評価方法を開発したことは重要である。
介護サービスの量や質を担保するための評価システムの構築は、介護保険制度の安定のためには、最も重要であると考えられる。しかし、先進国で行われている医療サービスに関連するような評価関連の指標やその方法を介護サービスへそのまま適用することは困難であることから、本研究で開発された「簡易介護状態測定尺度」の利用や、今後の継続研究の成果は、対人サービスの評価手法として大いに期待されるものとなると考えられる。

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