文献情報
文献番号
199900152A
報告書区分
総括
研究課題名
老化および老年病の長期縦断疫学研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
下方 浩史(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 納 光弘(鹿児島大学医学部教授)
- 岸田典子(広島女子大学生活科学部教授)
- 葛谷雅文(名古屋大学医学部講師)
- 鈴木隆雄(東京都老人総合研究所疫学研究 部長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
41,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は日本人の老化像を詳細な縦断的疫学調査によって明らかにし、老化および老年病に関する危険因子を解明して、高齢者の心身の健康を守り、老年病を予防する方法を見いだすことである。高齢化が急速に進む日本の社会において、高齢者の健康を増進させ、疾病を予防し、老化の進行を少しでも遅らせて、医療費を低減させることは急務である。
研究方法
(1)長寿医療研究センター老化縦断研究(NILS-LSA):基幹施設での地域住民を対象とした老化の学際的縦断調査である。調査対象者は、当センター周辺の愛知県大府市および知多郡東浦町の40歳から79歳までの地域住民からの無作為抽出者である。調査内容資料の郵送後、参加希望者に調査内容に関する説明会を実施し、文章による同意(インフォームド・コンセント)の得られた者を対象者とした。対象は40、50、60、70代男女同数とし2年ごとに調査を行っている。2年間で計2400人の調査を目標としている。長寿医療研究センターの施設内で、頭部MRI、末梢骨定量的CT(pQCT)および二重X線吸収装置(DXA)の4スキャンでの骨量評価、老化・老年病関連DNA検査、包括的心理調査、運動調査、写真記録を併用した栄養調査などを2000名をこえる対象者の全員に2年に一度ずつ、毎日6ないし7名を朝9時から夕方5時まで業務として行っている。
(2)高齢者における栄養および食習慣の多施設共同比較研究:広島市近郊在住者で募集した、40歳~79歳の健康な男女のボランティア128名を対象に性・年代の違いが栄養素等の摂取や食生活に及ぼす影響について検討した。栄養調査はNILS-LSAと同じ内容の食事調査票および食物摂取頻度調査票を用い、また写真撮影を併用して行った。
(3)正常高齢者における神経所見の縦断的研究:1991年度より実施している鹿児島県K町在宅高齢者(60歳以上)健診受診者を対象に、痴呆スケールの経年変化を調べ、神経学的所見、食生活、生活習慣などの要因との関連について検討した。神経内科専門医による神経学的診察と、既往歴、生活習慣に関する問診、食生活を含む栄養調査を実施し、痴呆スケールとしては、Mini Menta1 Sca1e Examination (MMSE)を用いた。MMSEの変化と各因子との関連を多変量解析にて検討した。
(4)日本人の血清脂質の縦断的研究:1989年から1998年の10年間にドッグ検診を受け、既に高脂血症と診断され投薬を受けている者を除いた者(男性50,056名、女性30,275名)を対象に、測定項目:血清総コレステロール、トリグリセライド、HDL-C、LDL-Cの10年間の縦断的変動を検討した。
(5)生活機能・主観的健康度の加齢変化に関する縦断的検討:秋田県N村在住の65歳以上の村民のうち、会場招待型健康診査を受診するための移動能力を有している者(748名:男性300名、女性448名)を追跡対象者とした。主観的健康度、基本的日常生活動作、手段的日常生活動作について、2年ごと6年間の加齢変化について横断的および縦断的に検討した。
(倫理面への配慮)本研究は、長寿医療研究センターでの基幹研究に関しては、国立中部病院における倫理委員会での研究実施の承認を受けた上で実施し、全員からインフォームドコンセントを得ている。人間ドック受診者に関しては、個人名や住所など識別データをファイルにしないなど個人のデータの秘密保護に関して十分に配慮し、研究を実施している。また分担研究でのフィールド調査では個々の研究者がその責任において、それぞれのフィールドで、自由意志での参加、個人の秘密の保護など被験者に対して十分な説明を行い、文書での合意を得た上で、倫理面での配慮を行って調査を実施している。
(2)高齢者における栄養および食習慣の多施設共同比較研究:広島市近郊在住者で募集した、40歳~79歳の健康な男女のボランティア128名を対象に性・年代の違いが栄養素等の摂取や食生活に及ぼす影響について検討した。栄養調査はNILS-LSAと同じ内容の食事調査票および食物摂取頻度調査票を用い、また写真撮影を併用して行った。
(3)正常高齢者における神経所見の縦断的研究:1991年度より実施している鹿児島県K町在宅高齢者(60歳以上)健診受診者を対象に、痴呆スケールの経年変化を調べ、神経学的所見、食生活、生活習慣などの要因との関連について検討した。神経内科専門医による神経学的診察と、既往歴、生活習慣に関する問診、食生活を含む栄養調査を実施し、痴呆スケールとしては、Mini Menta1 Sca1e Examination (MMSE)を用いた。MMSEの変化と各因子との関連を多変量解析にて検討した。
(4)日本人の血清脂質の縦断的研究:1989年から1998年の10年間にドッグ検診を受け、既に高脂血症と診断され投薬を受けている者を除いた者(男性50,056名、女性30,275名)を対象に、測定項目:血清総コレステロール、トリグリセライド、HDL-C、LDL-Cの10年間の縦断的変動を検討した。
(5)生活機能・主観的健康度の加齢変化に関する縦断的検討:秋田県N村在住の65歳以上の村民のうち、会場招待型健康診査を受診するための移動能力を有している者(748名:男性300名、女性448名)を追跡対象者とした。主観的健康度、基本的日常生活動作、手段的日常生活動作について、2年ごと6年間の加齢変化について横断的および縦断的に検討した。
(倫理面への配慮)本研究は、長寿医療研究センターでの基幹研究に関しては、国立中部病院における倫理委員会での研究実施の承認を受けた上で実施し、全員からインフォームドコンセントを得ている。人間ドック受診者に関しては、個人名や住所など識別データをファイルにしないなど個人のデータの秘密保護に関して十分に配慮し、研究を実施している。また分担研究でのフィールド調査では個々の研究者がその責任において、それぞれのフィールドで、自由意志での参加、個人の秘密の保護など被験者に対して十分な説明を行い、文書での合意を得た上で、倫理面での配慮を行って調査を実施している。
結果と考察
(1)長寿医療研究センター老化縦断研究(NILS-LSA):平成11年12月末までに合計1926名の検査を終了した。平成11年度中には約2400名のコホートを完成させる。調査で得られた千項目以上の各種検査の性別年齢別標準値は、老化の基礎データとしてモノグラフの形で報告するとともに、英文でインターネットを介して全世界に向けて公開した(http://www.nils.go.jp/nils/organ/ep-e/monograph.htm)。また、今年度までに得られたデータによる解析結果をまとめて、疫学研究の英文専門誌Journal of EpidemiologyにNILS-LSAの特集号を組み、方法論および概要を紹介するとともに医学、心理、栄養、運動、身体組成の各分野で、老化とその要因に関連する13本の論文としてまとめた。
(2)高齢者における栄養および食習慣の多施設共同比較研究:1日当たり栄養素等平均摂取量は、男では、エネルギー、たんぱく質、脂質、リン、ビタミンA効力・B1、ナイアシン、ビタミンK、B6のそれが40歳代に高いものの、他の年代に高い栄養素もあったが、女では、ほとんどの栄養素等が60歳代に高かった。1日当たり食品群平均摂取量は、穀類・芋類では男60歳代、女70歳代に、油脂類・獣鳥鯨肉類では、男女ともに40歳代に、豆類・魚介類・藻類では男70歳代、女60歳代に、卵類・乳類では男70歳代、女40歳代に、野菜類・果実類では男女ともに60歳代に高かった。1日当たりの食事のメニュー数および食品数は、男女ともに60歳代に多かった。
(3)正常高齢者における神経所見の縦断的研究:1991年から98年までの健診受診者1316人(のべ2、373人)のうち2回以上受診した例は、600名(男性199名・女性401名)であった。5年後のMMSE悪化と関連があった要因は、握力、振動覚、ADLであった。
(4)日本人の血清脂質の縦断的研究:89年と98年の横断的調査ではTC、LDL-C、TG値は男女とも壮年期で98年に有意に高値を示した。一方HDL-Cは男性では壮年期で98年に有意に低下し、女性で逆に有意に増加していた。10歳ごとの年齢群で10年間の血清脂質年次推移(連続横断)の検討では89年から98年にかけての時代効果は明らかでなかった。10年間の縦断的観察に基づいた出生年度別の50歳時の血清脂質推定値では女性のTG以外全ての血清脂質で出生コホートによる有意差が認められた。出生年度別の10年間の血清脂質年間変化を検討すると、男女ともTC、LDL-Cは青壮年期で毎年有意に増加し、TGは男女とも青壮年期で増加するが、老年期にかけては逆に有意に減少した。 HDL-Cは男性ですべての出生年度で低下し、女性では逆に1940年代から1960年代までに生まれたコホートで増加したが、1930年以前のコホートでは逆に有意に低下した。10年間の縦断的検討により男女とも65歳ぐらいまでは加齢とともにTC、LDL-C、TGは増加し、HDL-Cは男性では加齢ともに減少し、女性では55歳ぐらいまで増加し、以後減少することが明らかになった。
(5)生活機能・主観的健康度の加齢変化に関する縦断的検討:横断的解析と縦断的解析に共通して加齢効果が認められた生活機能は、BADL(男性のみ)、IADL(男女とも)、社会的役割(男女とも)であった。また、二つの解析において、ともに加齢効果が認められなかったのは主観的健康度(女性)であった。
老化および老年病の研究には縦断的方法が不可欠であるが、その実施は難しい。縦断的疫学はその調査が継続的かつ信頼性の高いものであることが必要であり、施設での詳細な検討には人材・設備・経費が莫大なものとなるため、国家的プロジェクトとして進められなければならない。また、老化の縦断疫学研究は、さまざまな側面からの検討が必要であり、多くの研究者が共同して推進して行かねばならない。本年度は、基幹施設での地域住民への包括的で詳細な疫学的調査研究を中心に、全国の研究者とともに様々なコホートでの老化の縦断的研究を進めた。NILS-LSAでは、医学、身体組成、運動、心理、栄養など広範囲な分野での1000項目以上の老化関連要因の調査をおこなっており、平成11年度にはベースラインのデータ収集が終了した。この膨大な調査結果の一部をモノグラフという形で発表し、インターネット上に公開した。NILS-LSAで実施できない詳細な神経学的所見の加齢変動や大規模な集団での検討で初めて証明できる出生コホート効果の検討などについても、班研究の中でそれぞれに成果が得られた。基幹施設での広範で詳細な加齢要因の調査研究に加え、全国の研究者とともに共同での老化縦断研究を実施していくことで、日本人における老化に関連するの諸問題を明らかにし、その解決、予防を目指す研究が、さらに進んでいくものと期待される。
(2)高齢者における栄養および食習慣の多施設共同比較研究:1日当たり栄養素等平均摂取量は、男では、エネルギー、たんぱく質、脂質、リン、ビタミンA効力・B1、ナイアシン、ビタミンK、B6のそれが40歳代に高いものの、他の年代に高い栄養素もあったが、女では、ほとんどの栄養素等が60歳代に高かった。1日当たり食品群平均摂取量は、穀類・芋類では男60歳代、女70歳代に、油脂類・獣鳥鯨肉類では、男女ともに40歳代に、豆類・魚介類・藻類では男70歳代、女60歳代に、卵類・乳類では男70歳代、女40歳代に、野菜類・果実類では男女ともに60歳代に高かった。1日当たりの食事のメニュー数および食品数は、男女ともに60歳代に多かった。
(3)正常高齢者における神経所見の縦断的研究:1991年から98年までの健診受診者1316人(のべ2、373人)のうち2回以上受診した例は、600名(男性199名・女性401名)であった。5年後のMMSE悪化と関連があった要因は、握力、振動覚、ADLであった。
(4)日本人の血清脂質の縦断的研究:89年と98年の横断的調査ではTC、LDL-C、TG値は男女とも壮年期で98年に有意に高値を示した。一方HDL-Cは男性では壮年期で98年に有意に低下し、女性で逆に有意に増加していた。10歳ごとの年齢群で10年間の血清脂質年次推移(連続横断)の検討では89年から98年にかけての時代効果は明らかでなかった。10年間の縦断的観察に基づいた出生年度別の50歳時の血清脂質推定値では女性のTG以外全ての血清脂質で出生コホートによる有意差が認められた。出生年度別の10年間の血清脂質年間変化を検討すると、男女ともTC、LDL-Cは青壮年期で毎年有意に増加し、TGは男女とも青壮年期で増加するが、老年期にかけては逆に有意に減少した。 HDL-Cは男性ですべての出生年度で低下し、女性では逆に1940年代から1960年代までに生まれたコホートで増加したが、1930年以前のコホートでは逆に有意に低下した。10年間の縦断的検討により男女とも65歳ぐらいまでは加齢とともにTC、LDL-C、TGは増加し、HDL-Cは男性では加齢ともに減少し、女性では55歳ぐらいまで増加し、以後減少することが明らかになった。
(5)生活機能・主観的健康度の加齢変化に関する縦断的検討:横断的解析と縦断的解析に共通して加齢効果が認められた生活機能は、BADL(男性のみ)、IADL(男女とも)、社会的役割(男女とも)であった。また、二つの解析において、ともに加齢効果が認められなかったのは主観的健康度(女性)であった。
老化および老年病の研究には縦断的方法が不可欠であるが、その実施は難しい。縦断的疫学はその調査が継続的かつ信頼性の高いものであることが必要であり、施設での詳細な検討には人材・設備・経費が莫大なものとなるため、国家的プロジェクトとして進められなければならない。また、老化の縦断疫学研究は、さまざまな側面からの検討が必要であり、多くの研究者が共同して推進して行かねばならない。本年度は、基幹施設での地域住民への包括的で詳細な疫学的調査研究を中心に、全国の研究者とともに様々なコホートでの老化の縦断的研究を進めた。NILS-LSAでは、医学、身体組成、運動、心理、栄養など広範囲な分野での1000項目以上の老化関連要因の調査をおこなっており、平成11年度にはベースラインのデータ収集が終了した。この膨大な調査結果の一部をモノグラフという形で発表し、インターネット上に公開した。NILS-LSAで実施できない詳細な神経学的所見の加齢変動や大規模な集団での検討で初めて証明できる出生コホート効果の検討などについても、班研究の中でそれぞれに成果が得られた。基幹施設での広範で詳細な加齢要因の調査研究に加え、全国の研究者とともに共同での老化縦断研究を実施していくことで、日本人における老化に関連するの諸問題を明らかにし、その解決、予防を目指す研究が、さらに進んでいくものと期待される。
結論
老化や老年病の成因を疫学的に解明しその予防を進めていくために、医学・心理学・運動生理学・形態学・栄養学などの広い分野にわたっての学際的かつ詳細な縦断的調査研究を行うことを目的にした長期縦断研究は膨大な費用と時間を要するため、日本ではほとんど行われていなかった。本年度は、基幹施設である長寿医療研究センターでの地域住民への詳細な疫学的調査に基づく縦断研究では、その調査結果の一部をモノグラフという形で発表するとともにインターネット上でも公開した。各班員はそれぞれのコホートで縦断的個別研究を行い、日本人における老化縦断研究をすすめた。
公開日・更新日
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更新日
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