遺伝子組換え食品の腸内分解性・アレルゲン性の評価に関する研究

文献情報

文献番号
199900086A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子組換え食品の腸内分解性・アレルゲン性の評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
豊田 正武(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 澤田純一(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 手島玲子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
28,031,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界的に遺伝子組換え技術を利用して開発された農作物の実用化が進んでいるが、導入された組換え蛋白質が、動物体内で、容易に分解されるか否かの検討をすることは、導入蛋白質が、アレルギー誘起性を持つか否かを検討するうえでの重要な判断基準となる。今回の実験では、(1)すでに大豆に組み込まれている除草剤耐性EPSPS蛋白質(5-enolpyruvyl-shikimate-3-phosphate synthase蛋白質)の免疫化学的測定法の確立並びに、人工胃液及び人工腸液を用いる分解性の検討を行い、EPSPSの動物体内での分解性の予測をするための実験条件を検討すること、(2) 実験動物での腸内分解性を評価する第一歩として、より長期に(亜急性毒性試験の期間)CP4-EPSPSが導入された遺伝子組換え(GM)大豆混餌飼料を動物に摂取させた場合の免疫系への影響について検討を行うために、アレルギー高感受性B10Aマウス及びBNラットに、GM大豆(ラウンドアップレデイー大豆)30%を含む混餌飼料を15週間摂取させ、主要免疫系組織への影響、抗体産生への影響について調べ、同等の栄養成分を有する近親の非組換え(NGM)大豆を摂取した動物との比較を行うこと、(3) 胃腸での分解を免れたEPSPSが、IgE抗体を産生する可能性を解析する目的で、IgE抗体産生を最も強く引き起こし得るアジュバントを用い、CP4-EPSPSをBALB/cマウスに腹腔感作し、IgE抗体の産生の有無を調べること、及び加熱処理及び酵素処理に対する感受性を調べることを目的に検討を行った。
研究方法
1)大腸菌によるCP4-EPSPSの発現 -- 遺伝子組換え大豆から、CP4-EPSPS遺伝子のPCR増幅を行い、pGET-T Easy Vectorに組み込んで、大腸菌JM109株の中で増殖させた。次いで、EPSPS遺伝子を、発現ベクターpET23b(+)に組み込み、大腸菌BL21株に導入し、EPSPS蛋白質(分子量48kDa)の発現を確認した。菌を超音波処理で破砕後、上清を回収し、CP4-EPSPS粗抽出物とした。また、得られたCP4-EPSPSのN末側ペプチドの解析を行い、蛋白の同定を行った。 2) CP4-EPSPSの精製並びにウサギ抗CP4-EPSPS ポリクローナル抗体作製--CP4-EPSPS 発現大腸菌破砕液を Mono-Q (5/5) イオン交換カラムを 用いて精製した。精製した CP4-EPSPS を等量の FCA と混合し、ウサギ に4 回投与し、最終投与から 7 日後、全採血を行った。CP4-EPSPS 特異的抗体の測定は CP4-EPSPSを固相抗原とする96 穴プレートを用いて間接ELISA (固相酵素標識免疫測定) 法により行った。 3)BALB/cマウスへのEPSPSの免疫--大腸菌に発現させたCP4-EPSPSを、BALB/cマウスに、10日おきに5回, 5μgまたは、50μg/マウスの用量で1mgのAlumと共に免疫した。最終投与後7日目に全採血を行った。 4)人工腸液による CP4-EPSPS の分解--- (1) 人工腸液の調製およびin vitroでの分解性の確認;USP の定義に基づき、リン酸緩衝液中に10mg/mlの濃度でパンクレアチン (USP grade) を加えた人工腸液を調製した。人工腸液 3 ml 及び精製 CP4-EPSPS溶液を50 μg/ml となるように混和し、37 ℃で反応させ、一定時間後、反応液を回収し、加熱により分解反応を止めた。SDS-PAGE後ウェスタンブロットし、抗 CP4-EPSPS ウサギ血清との反応性の経時変化から、分解性を解析した。(2)人工胃液による CP4-EPSPS の分解の検討---USP の定義に基づき、塩酸酸性条件下、3.2mg/mlのペプシンを加え、人工胃液を調製した。人工胃液3 mL 及び 精製 CP4-EPSPS溶液50μg/mlとなるように混和し、37 ℃で反応させた後、一定時間後に反応液を回収し、中和により分解反応を止め、SDS-PAGE を行い、前項で述べたと同じ方法で、ウサギ抗EPSPS抗体との反応性の程度から、EPSPSの分解の経時変
化を解析した。 5) GM,NGM大豆のマウス、ラットへの混餌投与実験--除草剤耐性遺伝子(CP4-EPSPS)が組み込まれたGM大豆及びNGM大豆は、 米国オハイオ州産のものを用い、100℃, 30分の加熱処理後、30%粉末飼料を作成した。 それぞれ7週令のB10Aマウス雌及びBNラット雌に自由摂取させた。飼料摂取量、体重測定は、1週間ごとに行った。15週目に解剖し、血液採取後、血清を分取し、大豆抽出物に対する血清中IgE,IgG抗体価を、間接ELISA 法で測定すると共に、肝臓、脾臓重量の測定並びに、主な免疫組織について、病理組織学的解析を行った。マウス、ラットそれぞれ1群5 匹で、3群15匹を用いて実験を行った。 GM, NGM大豆投与群に加え、大豆粉末飼料のcontrolとして、通常の固形飼料を摂取する群を1群設けた。
結果と考察
1)EPSPSの人工胃液及び人工腸液による分解---CP4-EPSPSは、人工胃液中で、30秒以内に、人工腸液中で、60分以内にほぼ完全に分解されることが確認され、特に、人工胃液中での分解が非常に早いことから、食物アレルゲンとして働く可能性が極めて低いことが示された。2)GM,NGM大豆混餌投与によるマウス、 ラットへの免疫系への影響--- GM, NGM混餌飼料を摂取させたマウス、ラットとも両群の体重及び餌の摂取量に有意差はみられなかった。15週投与後の肝臓、脾臓重量において、両群に差は見られず、肝臓、脾臓、胸腺、腸管膜リンパ節、パイエル板、各臓器の病理組織像において、構成される細胞成分や構造における異常は認められず、また、小腸粘膜上皮のクリプトやゴブレット細胞の出現の頻度に異常は認められなかった. このことにより、今回の実験では、GM大豆摂取による免疫系組織への影響は観察されなかった。また、大豆抽出物に対するIgE,IgG抗体価ともGM, NGM大豆摂取群で差がみられなかった。従って、遺伝子組み換え大豆投与群の方が、アレルギー増強活性を持つという現象は、観察されなかった。3)EPSPSに対するIgE抗体作製--- EPSPSをAlumと共に腹腔内投与した場合、IgE抗体産生に関しては、抗体価の上昇の程度は低く、50程度であった。一方、IgG1抗体については10,000程度の比較的高い抗体価が得られた。このことより、EPSPS蛋白質のIgE産生能としては、極めて低い部類に属するものと思われた。また抗原の加熱処理及び酵素処理により、抗原特異的IgE抗体との反応性の低下がみられた.
結論
すでに大豆に組み込まれている除草剤耐性EPSPS蛋白質の免疫化学的測定法の確立並びに、人工胃液及び人工腸液を用いる分解性の検討を行い、EPSPSの動物体内での分解性の予測をするための実験条件を検討したところ、EPSPSは、人工胃液により30秒以内、人工腸液で60分以内にほぼ完全に分解されることが判明した。 次いで、CP4-EPSPSの組み込まれた遺伝子組換え(GM)大豆混餌飼料のマウス及びラットでの15週投与を行ったが、各種主要免疫組織像に異常は認められず、大豆抽出物に対するIgE,IgG抗体価も、遺伝子非組換え大豆(NGM)投与群との間で有意差が認められず、GM投与によるアレルギー増強活性は認められなかった。 胃腸での分解を免れたEPSPSが、IgE抗体を産生する可能性を解析する目的で、EPSPSを腹腔内にAlumと共に免疫し、IgE抗体産生が引き起こされるかどうかについて検討を行ったが、IgE抗体産生の程度は低く、EPSPSの経口摂取によるIgE抗体産生の可能性は極めて低いことが確認された。

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