総合的たばこ対策の推進に関する研究

文献情報

文献番号
199900064A
報告書区分
総括
研究課題名
総合的たばこ対策の推進に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
池田 俊也(慶應義塾大学)
研究分担者(所属機関)
  • 大井田隆司(国立公衆衛生院)
  • 後藤純雄(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では、昨年、肺がん死亡が5万人を超えてがん死亡の首位となり、WHOなどの推計ではたばこによる超過死亡が年間9万5000人(総死亡の12%)とされ、また(財)医療経済研究機構の試算では、たばこによる超過医療費は年間1兆2000億円(国民医療費の5%)とされるなど、今後抜本的対策を取らない限り、このような状況は益々深刻化することが予測される。
厚生省の「健康日本21計画」では、当面の目標として2010年までに「喫煙率・消費量の半減」を数値目標とすることが検討されていたが、啓発普及を中心とした従来型の施策のみでは実現は困難である。諸外国の経験では、健康教育の充実、保健医療機関での禁煙支援体制の整備は勿論のこと、消費者への正しい情報の提供(警告表示を含む)、広告・販売促進活動の制限、未成年への販売規制の強化、公共空間での喫煙制限、価格政策(たばこ増税)などの様々な施策を総合的に講じることが、喫煙率や消費量の低減に実効性がある。さらに、最近では国際的にたばこ製品そのものの規制が検討されている。
我が国において多くの制約がある中で、社会環境の変化も考慮しつつ、いかなる施策をどのような時期に展開することが最も効果があるか予測し、さらに、このような施策に関わる健康投資とたばこ税収や生産による便益も考慮した、総合的な経済分析を行うことは、今後の政策展開を効率的に進めるために最も必要なことである。また、当面の重要課題として医療従事者の関与を高め、たばこ対策推進の一翼を担わせることが可能になるとともに、たばこ製品の有害性に関する新たな知見を基に、国民に対する正しい情報の提供が可能になるとともに、製品規制の検討について、国内での議論に資する強力な証拠が得られる。
研究方法
「I. たばこ対策への健康投資とポリシーミックスの評価に関する研究」においては、産業関連分析およびマクロ経済モデルを用いて、たばこ産業の経済効果の計測を行うとともに、インターネットを使った禁煙コミュニティ支援を対象に禁煙プログラムの費用―効果分析を実施した。
「II. 効果的なたばこ対策推進のための医療従事者の役割に関する研究」では、医師会員の喫煙行動及びその関連要因を明らかにし、今後の喫煙防止対策を推進する際の資料として、福井県内全医師会員に対して喫煙に関する調査を実施した。
「III. たばこ製品における有害成分の発生に関する研究」では、中国産、ネパール産、日本産及び米国産のタバコの8銘柄を定量型自動喫煙装置を用いて燃焼させ、それらの主流煙及び副流煙中の粒子状及びガス状成分を石英繊維フィルター及びポリウレタンフォームで捕集し、それらの抽出物質中に含まれるダイオキシン類を高分解能GC/MSを用いて分析した。
結果と考察
Iでは、産業関連表の投入産出モデルの推計により、たばこ製造業の影響力係数が0.70であり、他の産業に比べて他産業への間接影響が小さいことが示唆された。また、エコノメイトモデルによる経済状況の予測の結果、たばこ製造業の最終消費が全く無くなる場合/半減する場合のいずれにおいてもGDPの減少額は全体の額に比べると非常に小さいこと、間接税の減少を政府最終消費支出で埋め合わせる場合が最もGDPに影響を与えるであろうことが明らかになった。さらに,電子メールや電子ニュースを活用した集団的な禁煙指導である「禁煙マラソン」の分析では、参加者による発言録から、3つの問題設定に沿って、いくつかの特徴を発見・解釈した。また、「自主的禁煙」を対照とした場合の「禁煙マラソン」の増分費用/効果比は、他の禁煙介入と同様にきわめて費用対効果にすぐれたプログラムであり、経済的効率性の観点からも積極的に導入すべき保健プログラムであることが示唆された。
IIでは、回収率は91%であり、医師の喫煙率は男性28%、女性8%で一般住民より低かった。調査時50歳代以下の医師における喫煙率は20歳代時に、60歳以上は30歳代に最も高く、以後、徐々に低下していく傾向があり、また医療機関を経営する医師の方が勤務医より喫煙率は高かった。将来、我が国の医師の喫煙率はさらに低下するものと予測された。
IIIでは、すべての主流煙及び副流煙試料にダイオキシン類(PCDD類及びPCDF類)が含まれること、及びネパール産のタバコ2銘柄の主流煙及び副流煙は他のタバコの銘柄よりも高い総ダイオキシン類濃度及び総毒性換算濃度を示すことなどが認められた。また、中国産と日本産のタバコ煙中のダイオキシン類はタバコの葉に残留した農薬系のダイオキシン類の影響が高いことが示唆され、ネパール産のタバコ煙の試料についてはタバコ燃焼由来のダイオキシン類の影響が高いことが示唆された。
結論
たばこ対策の効果を総合的かつ経済面から評価するとともに、効果的なたばこ対策推進のための医療従事者の役割ならびにたばこ製品の有害性に関する新たな知見を得ることができた。

公開日・更新日

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